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話し合いました
しおりを挟む「……何か可怪しいか?」
「かなり……?」
不思議顔な豪の説明によれば、アメリカでは身体の相性を重視する傾向が強く、誰もが気になる相手とお付き合いをする時に肉体関係を持つのが普通なのだそうだ。
むしろ肉食と呼んで差し支えないくらい。男女共に、そういったことに貪欲で忌避感はないらしい。
「性の不一致はダントツな離婚理由のトップだからな。結婚前に多くと試して、より良い相手を選ぶ。ヘテロでも当たり前なことだぞ?」
……御国変わればかなあ。そのバイタリティーは見習いたい。別の方向で。
そこに来て己がバイ・セクシャルだと自覚した豪は、それこそ入れ食い状態。東洋人の見かけも手伝いモテモテだった彼は、興味本位なアレコレを経て、ディープな世界にのめり込んだ。
豪にも、そういうお年頃があったのだ。
そして、その感覚のまま日本に帰国。あとはお察しだ。長くアメリカに留学出来るほど実家も金持ちな彼は、今の仕事を軌道に乗せるまでの間も、はっちゃけた性意識のまま人生を送ってきた。それこそ真剣に飽きる程に。
かいつまんで聞いただけでもお腹いっぱいで胸焼けしそうな風月。根本から違いすぎる倫理観に、どう説明したものかと頭を捻る。
何でも知っていると思っていた大人は、決定的に日本人としての情緒が欠落していたのだ。
「あ~…… 日本人がそういったことに慎ましく内向的なのは知ってるよね?」
「知識としてはな。だが、昔の話だろう? 今はパパ活とかいって、派手な売りも横行してるじゃないか。性犯罪も日常的だ。ニュースだけを見ていたら、アメリカと変わらないぞ?」
……ううむ、確かに?
「……の割に、売春とか、すごく怒ってたじゃない? そういうのこそ、アメリカのが盛んなんじゃないの?」
「だからこそだ。そういうことを気軽にやる奴の七割は碌な目に合わない。死人が出るのもざらだし、薬漬けにされたり、廃人同様の無惨な暮らしをしているのも少なくないんだ。可愛い風月がそんなことになったらと思うと、ぞっとするよ」
……こっちも斜め上だった。そうか、アメリカだと、そういう認識なんだ。心配のベクトルも違ってたのか。
今になって、なぜあれほど豪が激怒したのか。本当の理由を、風月は初めて知った気がする。
「あのね、豪さん? そういうのは、ホントに極々一部だと思うよ? 大抵の日本人は昔と変わらないから」
「……そうなのか? でも、俺に言い寄る奴らも多かったぞ? 少し流し目を送れば、ホイホイついて来てたし?」
「まあ、多少はね? でもそれは多分、豪さんが格好良かったからだよ。普通の人は、恋する相手は一人で十分だし、決まった相手がいたらそれを裏切ることを善しとは思わないよ?」
「……そう……か? 風月も?」
「もちろん。アメリカ人だって同じでしょ? パートナーが見つかるまでは奔放でも、一人に決めたら浮気はしないんじゃない?」
「表向きはな……」
うっそり眼を細めて、辛辣な笑みを浮かべる豪。
これは藪蛇になりかねないと、風月は話を変えた。
「少なくとも僕はそうだね。複数を相手にするような体力も気力もないよ。僕は豪さん一人で十分だし。なにより結婚するんじゃん? 生涯を共にするって誓うのに、余所見なんてしないよ?」
軽く眼を見開き、豪は風月をそっと抱きしめる。
「……信じるぞ? もし、嘘ついたら繋ぐからな? 部屋に閉じ込めて、一歩も出さないからな?」
……ホントにやるんだろうなあ。この人なら。
「良いよ、繫がれたげるよ」
百万人の戯言より、たった一人の言葉の重み。さっくり頷く仔犬の真剣な眼差しに押され、豪は不覚にも泣きたくなった。その瞳は、出逢った頃と変わらない。
……これを信じぬ道理もないか。俺とは違うんだよな、風月は。なのに……
「……繋ぎてぇ。疑ってるわけじゃないけど、お前を他の野郎どもに見せたくねぇな。繋いで良いか?」
「気分的には良いって言ってあげたいけど、勘弁して? 僕、まだ世間と関わっていたいし?」
「…………………………………」
……そこで黙んなっ!!
「高校生活も残ってるし、大学にも行かせてくれるんでしょ? 子供みたいだよ? 豪さん。そういうのも可愛いから許しちゃうけどさ」
随分と物騒な子供だが、あの大人の貫禄に満ち満ちていた豪の拗ねた姿は、途方もなく可愛いと、風月は素直に思った。
「可愛い……?」
「うん」
「そうか…… なんか小っ恥ずかしいな。馬鹿なことばかり言って、すまん」
……そういう赤面も好き。すごく好き。
頬に朱を走らせて切なげな豪の顔は、息を呑むほど艶めかしい。凄絶な大人の色気に当てられ、風月の顔も盛大に赤らんだ。
慌てて彼の胸に顔を埋めて隠す風月だが、相変わらず耳まで真っ赤な赤面は隠せない。
そんな初心な最愛を抱きしめ、豪は至福に酔いしれる。
「風月? 顔見せて?」
「……やだ」
「キスしたい。顔あげて?」
「……駄目」
「ケチだなあ……」
ふふっと笑う豪の甘い声が風月の鼓膜を舐め回す。それに背筋をゾクゾクさせ、さらに仔犬は顔を俯ける。
「好きだよ?」
「うん……」
「信じて?」
「分かったって…… ひゃっ?!」
耳元で熱く囁く豪。その唇が、いきなり風月の耳朶を食んだ。
「顔見たいなあ?」
「ヤダってば……っ! うひゃっ!」
身体を固くして豪の胸に張り付く風月の耳に、彼の尖った舌先が差し込まれる。
ぴちゃぴちゃと濡れた音が耳を通して脳内に伝わり、風月の思考を侵して乱反射した。
「強情だな? どこまで我慢出来るか試してみようか?」
………ひいぃぃーーーーっ!! 人が変わってないっ?! めちゃくちゃエロいんですがぁぁーっ!!
いつものオラオラではない豪。馬鹿丁寧な囁きや悪戯は、週末のような激しさもないのに、やたらと風月を昂らせた。
身を固くして震える仔犬は、うなじまで桜色に染まり、こちらもやたらと豪の情欲を煽っている。
……エロい反応しやがって。試してんのか? 俺の忍耐を試してるんだなっ?
つ……っと指をうなじに伝わせ、そこを何度も揉むように愛撫すると、風月の身体が大きく震えた。
「ここ、真っ赤だぞ? ……エロイな? ん?」
……どっちがあぁぁーっ! 喋んな、もうっ!! 脳味噌が溶けるっ!!
「噛んでやろうか? みんなに見えるように、くっきりと…… ああ、それより舐め回してキツく口づけようか? 綺麗な跡を残してやるよ? いくつもさ…… なあ? されたい?」
ぐっと頭を押さえて懐深く抱き込まれた風月は、その首筋に感じる熱い吐息に驚いた。
……え? マジで? 待て待て待てーっ!
「待って、待ってーっ!」
「ん? どうした?」
押さえつけていた手が外され、噛みつかれまいと慌てて仰け反る風月の細い顎を豪が掴む。
至近距離から見つめる漆黒の瞳。その情欲に潤んだ生々しい目は鼻先が触れ合うほど近い。
「キスしても良いか?」
首筋を掴んだまま、顎を上向かせる御主人様の甘やかな言葉に、眼を泳がせて狼狽える風月。
……それってさせなかったら首に跡を残すほど噛みつくってことだよねっ? ど、ど、どうしよっ?
二択に見える一択を突きつけられ、てれてれ眼を動かす仔犬。その姿に身震いするほどの劣情に煽られ、豪は、ちう…っと軽く口づけた。
ちゅ、ちゅっと繰り返されるバードキス。
貪られるような深い口づけしか知らない風月は、その甘いキスに身体が熱くなるのを止められない。
「舌、出して?」
唇を舐めたり噛んだりしながら、豪が蕩けた声で囁いた。その悪戯な脚が風月の脚の間に入り込み、さすさすと股間を撫でる。
……はひっ? 舌ぁ……? ちょ、それより、脚っ! 脚でさすんの、やめてっ!
必死に細い脚で挟み込み、豪の脚の動きを止めようとする風月。その無駄な足掻きが可愛くて、さらに抱き込みながら豪は口づけた。
「しないよ? 触るだけ。撫でるだけだから……」
……そういう問題ぃぃっ??
「いつもしてることだろ? なに抵抗してんだ?」
……だって、なんか可怪しい。いつもと違うぅぅっ!
プレイ感覚の性欲を満たす行為でなく、相手を深く求める甘い情交。遊びでない大人の本気の破壊力は桁違い。
愛しさ大爆発な豪の求めに翻弄され、ねっとりと深まっていくキスや愛撫に踊らされ、着衣のままイかされた風月。
……キスだけでぇぇぇーっ?!
はひはひ狼狽える風月は、溺愛という新たな扉を抉じ開けられて涙目だった。
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