仔犬拾いました 〜だから、何でも言えってのっ!〜

一 千之助

文字の大きさ
上 下
7 / 24

 絆されました

しおりを挟む

「豪さん、仕事? 海外?」

「ああ、まあな。一緒に来るか?」

 週末以外はごく普通に暮らす二人。

 風月の努力によって浮いた生活費に眼を見張り、豪は少年の給金を上げた。



『こんなにっ?』

 驚く仔犬が微笑ましい。

『月に三十万円近く浮いたんだぞ? たった十万で、そんなに喜ぶなよ』

 クリーニング代や各種使い捨てアイテムの削減。さらには業者に依頼していた清掃すら風月が請け負ってくれ、毎日の食事も作ってくれている。
 月額三十万円以上かかっていた自宅の維持費が丸っと浮いたのだ。

 ……主婦労働を金銭に換算すると二十万以上とかいうが、あながちデタラメでもないよなあ。

 身を以て知った豪は、いそいそと風月の手作り弁当を鞄にしまい、毎日出勤する。
 そんな穏やかな日々が続いた後にやってくる週末。それが近づくにつれ、風月はあからさまにソワソワしだした。
 金曜の夜か、土曜の夜。買われた少年は、必ず豪に遊ばれなければならないからだ。
 すでに何回もされているが、次々と新たなことを仕込まれるので、慣れることも出来ず、最後には泣かされてしまう仔犬様。

 ある日は性感マッサージ。ある日はフェラチオ。またある日はアナル拡張と、段々行為が深みを増している。
 遊ばれてる感も半端ないため、それに対する罪悪感も薄いのが幸いだった。

 どんなに虚飾したって、売春は売春。豪の言う通りである。

 買い手が豪だったから良いが、これが見も知らぬ男性だったらと思うと、今になって冷や汗ダラダラな風月。
 あんなことをされて受け入れられるわけはない。豪の行為は、どちらかといえばプレイ中心の遊び感覚で、酷いことをされたりもするが、我慢出来る程度。
 こうしたら、ああなるとか、こうすれば良いとか、好奇心満載な思春期の知りたいことを事細かに教えてくれた。
 言うことを聞かないとお仕置きだと言い、ぱん、ぱん、尻を叩いたり、寸止めで焦らしまくって虐めたり。
 かなり彼も愉しんでいるように見えるので、風月としては買われている気があまりしない。

 そして、最終的にいつも風月の口で果てる豪。

 お尻を弄りまくるくせに、挿れてこない彼が、風月には不思議だった。
 一生懸命舐めたり吸ったりする仔犬の口で果てるたびに、上手くなったなと褒めてくれる豪が風月はとても好きだった。
 過去の両親が少年を褒めてくれたように。今の風月を褒めてくれるのは豪だけだ。

 ……もっと褒めて欲しい。豪に好かれたい。挿れてくれないかな。そしたら、豪さんが気持ち悦くなれるよう、もっともっと頑張るのに……
 ……待ってよ。これじゃあまるで、豪さんに挿れられたいみたいじゃないか、僕。

 かーっと顔を赤らめ、風月は学校に行く。

 気づいて良さげな感情に気づきもせず、徐々に絆されていく仔犬様。豪の思い通り、風月は彼に酷く依存していった。

 そして真面目に授業を受けながら、少年は、これからのことを考える。

 ……このまま、いつまでもお世話になるわけにもいかないよなあ。いずれ自立するとして、その借金も豪さんの厚意で棒引きされたようなモノだし。
 ……少しでも自分のお金で返さないと悪いよなあ。

 ケダモノの目論見を知らない仔犬は、コツコツとお金を貯める。銀行振込の御給金には全く手を付けていないので、かなり貯まっていた。
 週末にもらうお金も貯めている。このままいけば、高校卒業前に全額返せるだろう。
 家政婦の仕事で年二百万くらい。+週末のお遊びで年二百万以上。

 ……でも、返したら今まで通りに暮らせなくなる。豪さんにとって、僕はただの子供だ。借金があるから繋いでいるだけで…… それがなかったら…… 
 ……だけど、豪さんは僕を事務所に雇っても良いって言ってたし? 頼み込んだら、このまま家政婦もやらせてくれるんじゃないかな? 夜の相手もするからって…… お願いしてみようか?

 幼い思考で、風月が悶々と将来を考えていた頃。



「ああ、客が飛んだ? 連帯保証人がいるだろう。そっちに行け」

 不機嫌顔で仕事をバリバリこなし、部下をこき使う豪がいた。
 各仕事を前倒しし、次々と片付けていく豪に、部下らが悲鳴をあげる。
 
「落合社長っ! 飛ばしすぎじゃないでふかっ?!」

「噛むな、わざとらしい。半年先と二年先に休暇をもらう。各一週間は休むつもりだから、今のうちに仕事を調整しておけ」
 
 般若のごとく鬼気迫る様相で仕事を捌く豪。

 そんなことも知らず、風月は学校帰りにデパートへ寄った。
 高級品の並ぶ品の良い佇まい。
 子供には敷居の高い店だ。最初は二の足を踏んだものだが、今はもう慣れた。
 豪と共に何度も訪れ、彼は、自分の好きなお酒や食べ物を注文し、風月に覚えさせる。

『ネットに並ぶのは定番ばかりだからな。こうした掘り出し物は、直接店に足を運ばないと手に入らない。覚えておけよ?』

 普段の食生活はなおざりで、風月が来るまでめちゃくちゃだったくせに、こういう嗜好品には目がないらしい。
 子供のようにはしゃいで買い物をする豪が可愛く見えて、風月は思わず目を細めるが、その支払い代金の伝票を見て、細めていた目が飛び出した。

 ……うっわ。こんな金額を、さらりと使えるなんて。つくづくお金持ちなんだなあ、豪さん。

 豪と自分の間に隔たれた壁を感じ、何となく俯いた、あの日。



「そう。これと…… こっちも下さい。豪さんが好きそうだ。あと、肴になるオードブルの詰め合わせを……」

 慣れた仕草で注文する少年。

 少年が豪の連れだと知る店員は、学生服の風月にも礼儀正しく、豪のみならず風月の好みそうなモノも出してくれた。

「こちらなど如何ですか? この間、試食した時、美味しそうにしておられましたよね?」

 好々爺な初老の男性が出したのは、某有名メーカーのチョコレート。一粒五百円前後が相場で、板チョコ一枚千円もする老舗だ。
 これを試食させる太っ腹さにもビックリしたが、さらに、風月の好みを覚えてくれていたことに倍驚く。

「あ……、いや、僕のは……」

「落合様から申し付けられております。貴方の好きそうな物も購入しておきたいと」

 ふわりと風が舞うような笑顔で微笑む店員。その目は、孫を見るような温かさに満ちている。
 良い雇い主ですねと、暗に物語る店員の眼差し。
 だがそれを、風月は素直に喜べなかった。むしろ、隔てられた深い溝を豪に感じてしまう。住んでる世界が違いすぎた。

 ……自分と違う世界の住人な彼の側にいるためには、どうしたら良いのだろう。

 悶々と帰宅する風月の後ろからつけてくる誰か。その誰かに気づきもせず、少年は電車に乗ろうと高架下の狭いトンネルに入った。
 その薄暗い路地で、突然肩を掴まれた風月は驚き、何事かと振り返る。

「君等は……」

 そこに居たのは見知ったクラスメイト。ちょっと悪い噂の多い三人組だ。
 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、彼らは卑な笑みを浮かべて風月を見据える。
 
「お前、今、あのデパートから出てきたよな? 超高級デパートじゃん。何買ったんだよ」

 あ……っとばかりに風月は狼狽えた。

 豪が少年の過去を隠すために転校を勧め、誰も知らない学校へと転校した風月は、クラスでも浮いていた。

 中途半端な時期だ。あまり周りと親しくはない。たった半年の中学生生活だし、風月自身も高校に行くまでの腰掛けとしか思っておらず、親しい友達がいなくても何とも思わなかった。

 それが風月を悪目立ちさせるとも知らずに。

 一人でも平気で学校に通う少年。特に媚びた様子も慌てる雰囲気もなく、ただ淡々と日々を過し、余裕すら感じるその雰囲気は、周りから好奇の目を向けられていた。
 何者だろう? 親や家のことも全く分からないし、喋らない。水を向けてみても、困ったかのような笑顔で微笑むだけで、要領を得ない。
 そんな不可思議な空気をまとい、静かに佇む少年を苛つく眼差しで見ていた三人組。お高くとまりやがってと。

 そんな三人が大きな繁華街で遊んでいたところ、見慣れた学生服が横切り、三人は眼を見張った。
 あの転校生ではないか……と。

 ……面白え。こんな繁華街に何の用か知らないが、小遣いくらいは巻き上げられるだろう。

 そうほくそ笑み、彼らは風月の後をつけたのだ。

 そして少年の入っていった建物に彼らは絶句する。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...