仔犬拾いました 〜だから、何でも言えってのっ!〜

一 千之助

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 絆されました

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「豪さん、仕事? 海外?」

「ああ、まあな。一緒に来るか?」

 週末以外はごく普通に暮らす二人。

 風月の努力によって浮いた生活費に眼を見張り、豪は少年の給金を上げた。



『こんなにっ?』

 驚く仔犬が微笑ましい。

『月に三十万円近く浮いたんだぞ? たった十万で、そんなに喜ぶなよ』

 クリーニング代や各種使い捨てアイテムの削減。さらには業者に依頼していた清掃すら風月が請け負ってくれ、毎日の食事も作ってくれている。
 月額三十万円以上かかっていた自宅の維持費が丸っと浮いたのだ。

 ……主婦労働を金銭に換算すると二十万以上とかいうが、あながちデタラメでもないよなあ。

 身を以て知った豪は、いそいそと風月の手作り弁当を鞄にしまい、毎日出勤する。
 そんな穏やかな日々が続いた後にやってくる週末。それが近づくにつれ、風月はあからさまにソワソワしだした。
 金曜の夜か、土曜の夜。買われた少年は、必ず豪に遊ばれなければならないからだ。
 すでに何回もされているが、次々と新たなことを仕込まれるので、慣れることも出来ず、最後には泣かされてしまう仔犬様。

 ある日は性感マッサージ。ある日はフェラチオ。またある日はアナル拡張と、段々行為が深みを増している。
 遊ばれてる感も半端ないため、それに対する罪悪感も薄いのが幸いだった。

 どんなに虚飾したって、売春は売春。豪の言う通りである。

 買い手が豪だったから良いが、これが見も知らぬ男性だったらと思うと、今になって冷や汗ダラダラな風月。
 あんなことをされて受け入れられるわけはない。豪の行為は、どちらかといえばプレイ中心の遊び感覚で、酷いことをされたりもするが、我慢出来る程度。
 こうしたら、ああなるとか、こうすれば良いとか、好奇心満載な思春期の知りたいことを事細かに教えてくれた。
 言うことを聞かないとお仕置きだと言い、ぱん、ぱん、尻を叩いたり、寸止めで焦らしまくって虐めたり。
 かなり彼も愉しんでいるように見えるので、風月としては買われている気があまりしない。

 そして、最終的にいつも風月の口で果てる豪。

 お尻を弄りまくるくせに、挿れてこない彼が、風月には不思議だった。
 一生懸命舐めたり吸ったりする仔犬の口で果てるたびに、上手くなったなと褒めてくれる豪が風月はとても好きだった。
 過去の両親が少年を褒めてくれたように。今の風月を褒めてくれるのは豪だけだ。

 ……もっと褒めて欲しい。豪に好かれたい。挿れてくれないかな。そしたら、豪さんが気持ち悦くなれるよう、もっともっと頑張るのに……
 ……待ってよ。これじゃあまるで、豪さんに挿れられたいみたいじゃないか、僕。

 かーっと顔を赤らめ、風月は学校に行く。

 気づいて良さげな感情に気づきもせず、徐々に絆されていく仔犬様。豪の思い通り、風月は彼に酷く依存していった。

 そして真面目に授業を受けながら、少年は、これからのことを考える。

 ……このまま、いつまでもお世話になるわけにもいかないよなあ。いずれ自立するとして、その借金も豪さんの厚意で棒引きされたようなモノだし。
 ……少しでも自分のお金で返さないと悪いよなあ。

 ケダモノの目論見を知らない仔犬は、コツコツとお金を貯める。銀行振込の御給金には全く手を付けていないので、かなり貯まっていた。
 週末にもらうお金も貯めている。このままいけば、高校卒業前に全額返せるだろう。
 家政婦の仕事で年二百万くらい。+週末のお遊びで年二百万以上。

 ……でも、返したら今まで通りに暮らせなくなる。豪さんにとって、僕はただの子供だ。借金があるから繋いでいるだけで…… それがなかったら…… 
 ……だけど、豪さんは僕を事務所に雇っても良いって言ってたし? 頼み込んだら、このまま家政婦もやらせてくれるんじゃないかな? 夜の相手もするからって…… お願いしてみようか?

 幼い思考で、風月が悶々と将来を考えていた頃。



「ああ、客が飛んだ? 連帯保証人がいるだろう。そっちに行け」

 不機嫌顔で仕事をバリバリこなし、部下をこき使う豪がいた。
 各仕事を前倒しし、次々と片付けていく豪に、部下らが悲鳴をあげる。
 
「落合社長っ! 飛ばしすぎじゃないでふかっ?!」

「噛むな、わざとらしい。半年先と二年先に休暇をもらう。各一週間は休むつもりだから、今のうちに仕事を調整しておけ」
 
 般若のごとく鬼気迫る様相で仕事を捌く豪。

 そんなことも知らず、風月は学校帰りにデパートへ寄った。
 高級品の並ぶ品の良い佇まい。
 子供には敷居の高い店だ。最初は二の足を踏んだものだが、今はもう慣れた。
 豪と共に何度も訪れ、彼は、自分の好きなお酒や食べ物を注文し、風月に覚えさせる。

『ネットに並ぶのは定番ばかりだからな。こうした掘り出し物は、直接店に足を運ばないと手に入らない。覚えておけよ?』

 普段の食生活はなおざりで、風月が来るまでめちゃくちゃだったくせに、こういう嗜好品には目がないらしい。
 子供のようにはしゃいで買い物をする豪が可愛く見えて、風月は思わず目を細めるが、その支払い代金の伝票を見て、細めていた目が飛び出した。

 ……うっわ。こんな金額を、さらりと使えるなんて。つくづくお金持ちなんだなあ、豪さん。

 豪と自分の間に隔たれた壁を感じ、何となく俯いた、あの日。



「そう。これと…… こっちも下さい。豪さんが好きそうだ。あと、肴になるオードブルの詰め合わせを……」

 慣れた仕草で注文する少年。

 少年が豪の連れだと知る店員は、学生服の風月にも礼儀正しく、豪のみならず風月の好みそうなモノも出してくれた。

「こちらなど如何ですか? この間、試食した時、美味しそうにしておられましたよね?」

 好々爺な初老の男性が出したのは、某有名メーカーのチョコレート。一粒五百円前後が相場で、板チョコ一枚千円もする老舗だ。
 これを試食させる太っ腹さにもビックリしたが、さらに、風月の好みを覚えてくれていたことに倍驚く。

「あ……、いや、僕のは……」

「落合様から申し付けられております。貴方の好きそうな物も購入しておきたいと」

 ふわりと風が舞うような笑顔で微笑む店員。その目は、孫を見るような温かさに満ちている。
 良い雇い主ですねと、暗に物語る店員の眼差し。
 だがそれを、風月は素直に喜べなかった。むしろ、隔てられた深い溝を豪に感じてしまう。住んでる世界が違いすぎた。

 ……自分と違う世界の住人な彼の側にいるためには、どうしたら良いのだろう。

 悶々と帰宅する風月の後ろからつけてくる誰か。その誰かに気づきもせず、少年は電車に乗ろうと高架下の狭いトンネルに入った。
 その薄暗い路地で、突然肩を掴まれた風月は驚き、何事かと振り返る。

「君等は……」

 そこに居たのは見知ったクラスメイト。ちょっと悪い噂の多い三人組だ。
 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、彼らは卑な笑みを浮かべて風月を見据える。
 
「お前、今、あのデパートから出てきたよな? 超高級デパートじゃん。何買ったんだよ」

 あ……っとばかりに風月は狼狽えた。

 豪が少年の過去を隠すために転校を勧め、誰も知らない学校へと転校した風月は、クラスでも浮いていた。

 中途半端な時期だ。あまり周りと親しくはない。たった半年の中学生生活だし、風月自身も高校に行くまでの腰掛けとしか思っておらず、親しい友達がいなくても何とも思わなかった。

 それが風月を悪目立ちさせるとも知らずに。

 一人でも平気で学校に通う少年。特に媚びた様子も慌てる雰囲気もなく、ただ淡々と日々を過し、余裕すら感じるその雰囲気は、周りから好奇の目を向けられていた。
 何者だろう? 親や家のことも全く分からないし、喋らない。水を向けてみても、困ったかのような笑顔で微笑むだけで、要領を得ない。
 そんな不可思議な空気をまとい、静かに佇む少年を苛つく眼差しで見ていた三人組。お高くとまりやがってと。

 そんな三人が大きな繁華街で遊んでいたところ、見慣れた学生服が横切り、三人は眼を見張った。
 あの転校生ではないか……と。

 ……面白え。こんな繁華街に何の用か知らないが、小遣いくらいは巻き上げられるだろう。

 そうほくそ笑み、彼らは風月の後をつけたのだ。

 そして少年の入っていった建物に彼らは絶句する。
 
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