The アフターゲーム 〜色映ゆる恋〜

一 千之助

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 〜団欒〜

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「ブギーマンの頼みだから拵えたが。それ、超特注品の首輪だかんなっ! 粗末にすんなよっ!」

 円香の赤。千鶴の黒。七海の橙。

 そして雅裕の青。

 以前は自身で購入した自宅住みだった毅だが、今は引き払い、ユートピアで暮らしている。今回のことで外界に見切りをつけたらしく、前にブギーマンとした、ユートピア専属になるという約束を果たす気になったらしい。
 ビルでの住まいも以前の部屋が新しい拉致被害者に使われるため、最上階のフロアをブギーマンから譲ってもらう。
 毅とブギーマンのみの空間をエレベーターのある中央に作り、その左右にそれぞれの部屋。
 東側が円香らのスペース。西側が雅裕の。どちらも鍵は中央のスペースからしかかけられず、今までと変わらない暮らしだ。

「雅裕は?」

「緊縛で《待て》を覚えさせています。まだ寝台でですが…… そのうち、吊るしても悦ぶように…… 吊るして欲しいとねだるくらい躾けたいですねぇ。ああ、うちのワンコ可愛い」

 パソコンに映る仔犬の姿に、ほうっと溜息をつくブギーマン。

「なんなら俺が仕込んでやるぜ? ガンガン突き上げながら、蝋燭でも垂らしてな」

「やめてくださいっ! それって、パブロフの逆バージョンでしょっ! わたくしのドギーが壊れてしまいますっ!!」

 高ぶらせた身体に激痛を加え、言葉と恐怖で嬲り、出せなくする調教だ。先端を包むよう焼けつかせる蕩けた蝋が鈴口を塞ぎ、出さないことと恐怖が連結し、覚えさせやすい。

 憤慨するブギーマンから感じる溺愛。まっさらから躾けた仔犬が愛しくて堪らないと、その顔が物語っている。
 コレに嫉妬も何も芽生えない毅。ブギーマンの抱く気持ちはよく分かる。千鶴や七海に毅が持つ愛情と同じだ。
 ひんひん腰を振りながら喘ぐ仔犬を眺めるブギーマンに、毅は呆れたような笑みを浮かべて問いかけた。

「他に飼わねぇのかよ。一匹じゃ、ドギーも寂しくねぇか?」

「ん~…… 毅君ではないですが、面倒というか。ドギーは無条件で可愛いといえますが、他はねぇ」

「んじゃ、遊び相手はどうよ? ドギーにさ。まだ童貞らしいぞ? うちの雌犬らみたく、やる方も仕込んでやれよ」

「……天才ですか? あああ、良いですね、それっ!! 新たにドギーの恥じらう姿が見られるかもっ? どちらが良いでしょうね? 雌? 雄? いっそ、両方っ?!」

 すこぶる興奮しつつ、脳内妄想を垂れ流すブギーマン。それを微笑ましく見つめ、毅も新たな性癖の扉を開いた。

「そうだな…… うちの雌犬らにもペットを飼わせるか。退屈しのぎに丁度いいかも。なあ、ブギーマン、まっさらな仔犬の雄を二匹ほど融通できるか?」

「もちろんです。今度、二人で選びにいきましょう」

「十五歳……いや、十二歳くらいが良いかな? まだ精通もない仔犬を、じっくりと弄んでやるか」

「………毅君、それって雌犬にやらせるんですよね? まさか……」

 ぎくぅっと肩を震わせて、そっと眼を逸らす最愛。それを許さず、ソファーに押し付けて問い詰めるブギーマン。

「あなた、ヘテロだったのでは? まあ、孔に雄も雌もないとは思いますけどねぇ?」

 前にも聞いた似たような台詞を思い出して、毅も口を唸らせる。

「お前が教えたんだろうがっ! 雅裕をつかってっ! 違うか?!」

「ぐ……っ!」

 後の祭りとはよく言ったものである。

 見事に返還されたブーメランが頭にブッ刺され、撃沈するブギーマン。
 しかし、新たな性癖に開眼したとはいえ、雄の扱いに不慣れな毅は、結局ブギーマンから手解きを受けることとなる。





「きゃーっ! やだやだやだ、やめてぇーっ!!」

「……煩えだけかと思ったが、妙に可愛い声だな」

「でしょう? 自然飼育で、ごく普通に育てられた子供ですから。ちゃんと自我もあるし、懐かせ甲斐のある仔犬ですよ」

 二人は全裸で縛った子供の足を大きく開かせ、その震える小さな御立派様を撫で回す。まだ、しっかりと皮をかむったままな幼い陰茎。
 双丘の奥が丸見えになるくらい深く膝を曲げさせ、毅は興味津々。固く窄まった蕾をふにふにと撫でられ、羞恥に半狂乱な仔犬様。

「トイレトレーニングと…… あとはイラマ?」

「ふはっ! 先走りすぎですっ! まずは触れられることに慣らさないと。こうして余すところなく優しく撫でて、これが怖いことではないと教えるんです。そして気持ちの悦いことも………」

 ブギーマンがくにくにと乳首を捻り、揉んでやると、泣き喚いていた子供が大きく震えた。
 身動き出来ないため、その刺激がダイレクトに伝わったのだろう。巧みなブギーマンの愛撫により、滑らかな胸が激しく上下しはじめる。

「やだーっ、やあっ! ……ひっ? やだやだ……っ、にゃっ?! あっ! ……ぁっ!」

 伊達に色事師を張ってはいない。丁寧に丁寧に扱かれて、子供の声が小さくなっていった。はふはふと息もあがり、如何にも心地よさそうだ。

「おもしれぇー、俺も、俺も」

 好奇心満載な瞳で、毅は空いた方の乳首を摘み、その先端を掠めるように弾く。

「ふっ? んう、やぁ……っ、ひぃぃんっ」

 夢中で小さな乳首を嬲り、ついでに股間も優しく撫でてやった。

「ひゃうっ! やっ! ひーっ!!」

 同時責に身悶える子供。

「……なんか興奮するな。なんも知らないのに、おっ勃つんだな、これ」

 毅は掌の中で硬くなる小さな陰茎に感動する。そんな毅を愉しそうに見つめ、ブギーマンはある物を差し出した。

「これは?」

「ユートピア特製の媚薬です。一塗りすれば、幼児でも腰を振って佳がります」

「……マジか。そんなもんあったんだな」

 へぇぇ……としげしげ眺め、子供の小さな乳首に薬を塗り込む毅。その耳に口を寄せ、ブギーマンが舐めるように囁いた。

「……あなたにも使ったことがあります。ごめんなさい」

「ひえっ?!」

 切なげに眼をすがめて、ブギーマンは雅裕の調教の裏側を説明する。



「おま……っ! ……はあ。むちゃすんなあ」

「それだけですか?」

 ブギーマンは怒り狂った毅に殴られる覚悟だった。歯の一本も飛んで可怪しくないと。
 だが、思案する風な毅から怒りは感じない。

 ……あ~~、あん時のどうしようもない疼きがソレか。マジでヤバかったもんなぁ。吐き出したくて吐き出したくて、ブギーマンに口や手で出してもらっても足りなくて…… 結局、抱かせるはめになったっけ。

 ちらりと平伏するブギーマンを一瞥し、毅は、はあっと大仰に溜息をつく。
 
「まあ、正直、驚きはしたが。そういう処だろ? ここは」

 思わず顔をあげたブギーマンの眼が、みるみる見開いていく。

「俺も気持ち悦かったし? 新たな性癖の扉を抉じ開けちまったが、その責任は取ってくれるんだろう? お前が」

「ーーーーーっ! もちろんですっ! 死ぬまで御奉仕させていただきますっ!!」

「御褒美の間違いだろ。俺が与えてやってんだ。死ぬまで感謝しろよ、ブギーマン」

 にまっと嗤う毅を抱きしめ、言葉もなくブギーマンは口づけた。イチャイチャと深く貪り合う二人の下で、薬を塗り込まれた仔犬が、息を荒らげて真っ赤に泣き腫らしていたのも御愛嬌。

 苦笑する二人に可愛がられ、媚薬の効果に溺れた仔犬は乳首でイかされる。小さな御立派様が硬くおっ勃ち、ぷしっと可愛らしく初の精通をしたのは余談だ。

「剥けたな。つるつるで可愛いちんぽだな」

 クリクリと鈴口を撫で回して、毅はその感触を愉しむ。

「まだ先端だけですね。完全に剥けるよう、もっとイかせましょうか」

 再び乳首を弄りつつ、毅は小さな一物を。ブギーマンは人差し指をお尻に捩じ込み、奥の前立腺をいたぶりながら媚薬を塗り込む。

「はにゃあっ! らめらめ、らめ……ぇっ、ひゃああぁぁっ!」

 見事なあへ顔を披露して、完全に包皮が剥けるまでイかされた仔犬は、最後の絶頂で気絶した



「おまえら、こんな小さい子になんてことすんだっ!!」

 毛を逆立てるように唸り、雅裕は、えぐえぐ泣きじゃくる仔犬を抱きしめる。

「こわいよぅ、うえぇぇえ……」

「よーし、よし。大丈夫だからなぁ? こんなオジさんたちは放っておいて、あっちでお菓子でもたぺよう、うん」

 キッとブギーマンや毅を睨み、新たな仔犬を連れ去る雅裕。もそもそと朝食を食べながら、毅はブギーマンをチラ見した。
 ……オジさん? と、茫然自失な御主人様。

「……良いのか? ブギーマン」

「……まあ、ドギーのために購入した仔犬ですしね」

 苦笑いするブギーマンだが、毅らや雅裕と暮らすようになって、彼らの生活は穏やかな空気を醸していた。
 身の内にいれた者にはデロ甘な二人だ。彼らの殺伐とした性的衝動は外に向くようになり、家族は愛でられるだけ。しかもその対象が複数に分散したので、行為そのものも緩やかなモノになっていく。



「だぁぁーっ! 子供の前で何すんだっ!!」

「何って…… ナニですが?」

 雅裕は、ブギーマンの購入して子供に貴裕と名付け、それはそれは可愛がった。元々、子供好きなのもあり、生涯をブギーマンに捧げた彼に自身の子は望めない。
 だから、ありったけの愛情を仔犬に注いでいる。

「ご無沙汰だったでしょう? 可愛がってあげますよ?♪」

「そういうのは、子供が寝てからやるのっ! なー? 悪いお父さんだよねー?」

「お父さん……?」

 思わず固まるブギーマン。それでも何とか疑問を口にする。

「……だれが?」

「アンタの他にいないだろっ! 買ってきたからには責任持てよなっ!」

 えええええーーーーーっ?! と、雅裕のフロアでブギーマンが雄叫びをあげていたころ、円香のフロアでも雄叫びが上がっていた。



「子供ぉぉーっ?!」

「うん♪」

 うおおおぉぉーっと全力で腕を天に振り上げ、毅は真っ赤な顔で円香を褒めまくる。

「よくやったっ! 男か? 女か? いっそ両方の双子でも良いなっ!!」

 幸せ一杯で、四人がきゃあきゃあやっている処に、ばんっと扉を開けて飛び込んでくるブギーマン。

「ちょ……っ! 聞いてください、毅君っ! ドギーが、わたくしのことを仔犬に、お父さんだと……っ!」

「ああ? 父ちゃんは俺だ、お前じゃねぇっ!」

「は……?」

 すっとんきょうな顔のブギーマンに、ん? と目を見開いて瞬かせる毅。お互いに意味がわからなくて顔を見合わせた二人は、揃って新米父ちゃんとなる。

 ここから、より穏やかになった家族は、ブギーマンが次の後継者に地位を譲ると同時に、島から忽然と姿を消した。

 どこへ行ったのか探そうと思えば探せただろうが、ユートピアの関係者は、誰も探さなかった。
 そして沈黙を守り、彼らが消えたことは長く秘匿され、数年後に地団駄を踏む西園寺がいたとか、いないとか。

 これもまた、全ては後の祭り。



「お父さん、ご飯だって」

「おう、今行く」

 残りの人生を遊んで暮らせるだけのお金を持つ毅。彼はその半分で島を買い、完璧に自分達の痕跡を消して引きこもる。
 今どき、何だってネットで出来る時代だ。多少の不自由さも、むしろ楽しめる。

 子供が出来たのをきっかけに、彼等は将来を見据えるようになったのだ。それにブギーマンと雅裕や仔犬も巻き込み、少し早いが経営者の交代を勧める。
 それに頷き、愛する者達を得たブギーマンも覚悟を決めた。

「円香の子供をユートピアで育てるわけにはいかないしな」

「同感です。わたくしも、ドギーや貴裕を守りたいです」

「……父親の顔してんな、ブギーマン」

 ユートピアを守ることしか知らなかったブギーマンは、毅を知り、雅裕と出会い、子供を得た。
 片恋から始まった仄かな愛情は、彼の心を大きく揺さぶり、変えたのだ。
 あらゆる親愛に包まれて、不可思議な家族の新たな人生が始まる。

 ある処に、小さな島を買った大富豪が家を建てて暮らしている。そんな噂が小さな港町に漂った。
 子供たちが巣立つまで、そこは、とても賑やかな家だったそうだ。

 後祭りも盛大に終わり、島には子供たちのたてた墓石のみ。

 こうして波乱万丈なゲームは、人知れずフィナーレを迎えたのだった。

 ユートピアに、長く語り継がれる伝説だけを遺して。

              ~了~
  
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