The アフターゲーム 〜色映ゆる恋〜

一 千之助

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 〜発端〜

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 ☆ある物語の続編です。これだけでも十分読めます。独立してます。

 でも、設定をそちらから持ってきているので、気になる方はチラ見してみてください。《the ミリオネア》です。こちらとは系統が違うので、お気をつけを。


 ~発端~

「..........だぁなぁ。まあ真っ黒だよね」

 雅裕はハックしていたパソコンの接続を切る。

 予想はしていた。

 ここは日本に名だたる有名企業。そこのバイトに雇われた少年は、真っ暗なガラス窓に映る己の姿に目を凝らした。
 中肉中背の凡庸な高校生。降って湧いた幸運が重なり、彼はこの会社に勤めていた。

 少年の名前は髙橋雅裕。その界隈ではちょいと名の売れたプログラマーである。
 年齢的な事もあり派手にやってはいなかったが、その筋からスカウトが来る程度には認められていた。

 そんなおり、彼の両親が事故で亡くなった。

 泥酔した男による信号無視。止まっていた両親の車にトラックが突っ込んできたという大惨事。
 僅か十七歳の雅裕と、十八歳の姉、夏子だけが遺され、姉は大学進学を諦めて働くと言い出した。



「まさちゃんは大学まで卒業してね? おねいちゃん頑張るから」

 すでに働ける年齢の姉弟だ。親族らからの援助も望めない。そんな甘えは許されない。
 うちは安アパート暮らしで貯蓄もあまり無く、生命保険にも入ってはいなかった。
 相手は死亡。天涯孤独な男性だったらしく、慰謝料を払えるような資産もない。
 その男性の勤めていた会社が、トラックを団体保険に入れていたので、多少の賠償金は払われたが、そんなものは焼け石に水。

 ないない尽くしで煩悶する雅裕の前に、一人の男性が現れた。

 前述のように雅裕のプログラマーとしての能力は、知る人ぞ知るものである。

 それを知る男性は、少年をスカウトに来たのだ。

「我が社に就職を約束してくれるなら、今の君らを援助しよう。むろん、出世払いだよ? ちゃんと借用書も書くし、返済計画もたてるからね?」

 柔らかな笑みでハキハキと宣う男性は柏木と名乗った。
 柔らかな茶髪は地毛らしい。酷く儚げな笑みのよく似合う男性。陽だまりみたいにはんなりした彼に、姉の夏子は好感を持ったようだ。
 施しではないとの柏木の説明で雅裕も安堵する。ちゃんとした契約だ。なにも後ろめたくない援助。

 聞いたところによると、柏木は結構な優良企業の経営者で、新たに起こす事業の一部に雅裕を組み込みたいらしい。
 これから仕事を探さねばならなかった夏子にも割りの良いバイトをあてがってくれるし、進学もさせてくれるとか。
 とてつもない好条件だ。雅裕は一も二もなく飛び付いた。

 そして、バイトで仕事を回すうちに少年は気づいたのだ。この会社と柏木の裏の顔に。

 優良企業を気取る彼の会社は、実はかなり危ない橋を渡るブラック企業だった。
 いや、ブラックだと思うのは雅裕だけ。なぜか雅裕に対する待遇は良い。
 他の社員らは当たり前のように朝から日付が変わるまで働き、仕事以外では言葉も交わさず寮に帰宅する。
 会社の敷地内にある社員寮も静かなもので、どんちゃん騒ぎをしているところなど見た事もない。

 ……まるで機械みたいだ。なんつー規則正しい社畜生活。

 大きなマンションの社員寮。これも謎だった。寮費や食費全て会社持ち。馬車馬のごとく働かせるためだけの福利厚生なのかもしれない。ブラック様々なのか? と雅裕は訝しむ。
 そして社員の給与は月給で一律二十万。仕事量にも役職にも関係なく二十万。

 ……なんだこれ? めちゃくちゃだろう?

 少年の心に生まれた小さな疑問は傾斜を転がり、みるみる大きな雪玉となって、柏木と会社の裏の顔を看破した。



「人身売買に..... 殺人?」

 雅裕の手により開かれた裏のファイルは、人間に値段をつけた帳簿。
 さらには誰それを殺めたことで得た報酬など、黒々としたおぞましい事実が記載されている。

「女子七歳..... 五千万っ? こっちは男子十二歳、三千五百万って。.....ん?」

 記載された文章の端々に見られる文字。

「ユートピア.....? 楽園?」

 真っ黒な内容に不釣り合いの名前。

 そして雅裕は確認したかった事実を突き止めた。

「..........髙橋夫婦の殺害、二千万」

 ……両親は殺されていた。

 依頼主は某大企業。雅裕がスカウトを受けたが一蹴した会社である。たぶん経済的に雅裕を追い詰め、雇うつもりだったのだろう。

 それを柏木の会社が裏で請け負った。ただそれだけ。

 両親の仇な会社が手を伸ばしてくる前に柏木に雇われたのは幸いだった。絶対に仇の会社で働きたくはない。
 そして雅裕は複雑そうな顔でパソコンの蓋を閉じる。

「教唆と実行。どっちが罪が重いのかなぁ.....」

「どっちだろうね?」

 ふいに誰かの声が聞こえ、雅裕は思わず飛び上がった。まさか独り言に答えが返ってくるなどと誰が思うだろう。
 慌てて振り返った雅裕の眼に映ったのは柏木。彼は気だるげにシャツを寛げて壁に凭れかかっていた。

「人が仮眠しているところにやってくるのだもの。何かと思ったよ」

 柏木が指差した場所には大きなソファー。どうやらそこで彼が仮眠していたところに雅裕がやってきたらしい。

「.....で? どうする?」

 妖しげに眼を光らせ、柏木はゆっくりと雅裕に近寄ってきた。
 その顔は何時もの優しい顔なのに、深く昏い眼窟の光が、どろりと陰惨に揺らめいている。

「既に君は借財でがんじがらめだ。大学を卒業したら返済が始まる。足掻いても逃げられないよ?」

 クスクスと嗤う異質な雰囲気。夏子が憧れている今までの好青年は何処へやら。

「.....どうでも良いです」

 蛇に睨まれた蛙のように凍りついた雅裕だが、無様に声を震わせながらも答えた。

「どうでも良い?」

 繰り返す柏木に、雅裕は小さく頷く。

 このバカな会社が両親の殺害を依頼した以上、柏木らはビジネスとして請け負っただろう。

 ならば、どうしたって両親の死は避けられない。

 なるべくしてなった結果である。

 淡々と雅裕は語った。

「そんなの恨みようもないじゃないですか。父さん達を殺したのは、バカ会社だ。貴方達じゃない」

「面白い意見だね。.....まあ、その通りなんだけど」

 すうっと愉快そうに眼を細め、柏木は雅裕を見下ろす。
 まだ成長期の雅裕と完成された男性の柏木では頭一つ分以上身長差があった。

「それで? 君は不味いところに踏み込んでしまったわけだが。このままにはしておけないんだけどね?」

 ニタリと口角を上げる柏木。

「信じてはもらえないかもしれませんが..........。僕は貴方に感謝してます」

「うん?」

「貴方が雇ってくれたおかげで、あのバカな会社に捕まることもなかったし、姉さんも進学出来た。生活も安定してるし..... 本当にありがとうございます」

 頭を下げる雅裕に、柏木は眼を見開いた。

 理屈では柏木らに雅裕の両親を殺す動機はない。しかし、金のために彼らを殺したのは間違いなく柏木達だ。

 なのに、恨みはないと?

 なんとまあ、理性的な少年なのか。

 柏木は仄かな笑みをはく。

 彼は依頼を受けた時、怠りなく調査もした。その依頼の理由も。
 その理由が目の前の少年の才能なのだと知り、掠め取ってやろうとの悪戯心から援助を申し出ただけだった。仕事柄、使える人材は幾らでも欲しい。
 事実、少年はよく働いてくれている。.....ここの裏側に疑いを持ち、暴くほどに。

「ふぅ..... 困ったね。その言葉を信じてあげたいけど、事が事だからねぇ?」

「.....どうしたら?」

「そうだねぇ。後ろ向いて?」

 素直に後ろを向いた雅裕を、柏木が背後から抱き締める。

「えっ?」

「あの角見て? 天井の」

 狼狽えながら顔を上げた雅裕の眼に、配置されている監視カメラが映った。この自社ビルは、いたるとこにカメラがある。
 生き物のように動く無機質な機械。それがじっと雅裕を見ていた。

「うん、良く映ってるね。ほら」

 柏木が出したのはスマホ。そこには柏木に抱き締められた雅裕が映る。

「じゃ、アレを見ていてね? 視線を外さないで」

 そう言うと、柏木は雅裕の前を緩めて手を忍ばせた。ねっとりと肌を舐め回すように動く指先が雅裕の敏感な部分を滑っていく。

「ひあっ?! なっ、なにをっ?!」

「保険として君の恥ずかしい姿を貰おうと思って。良いよね?」

 鼓膜を擽るように囁かれ、雅裕の耳が真っ赤に染まった。

「初心だねぇ? なに? 人に触られるの初めて?」

 クスクスと嗤いながら、柏木は雅裕の耳を嘗める。
 ねぶるように舌先を抉じ入れ、ぴちゃぴちゃと淫猥な水音が雅裕の思考を溶かしていった。

「うっ.....ぁっ! 止め.....っ!」

 身悶えて逃げようとする雅裕を片手で抱き込み、柏木はパソコンを立ち上げると、キーボードを弾き、ある映像を出した。

 そこにいる人物を確認して、雅裕は眼を見開く。

 ……姉さんっ?!

 画面の中には仕事をする姉の姿。まだバイト中だったようだ。防犯カメラを通して盗み見られているなどと、夏子は思いもすまい。

「今日ね、残業を頼んでいたんだ。うちのセキュリティはしっかりしているから、女性が一人で残業していても問題はない。.....でも、犯罪や事故ってのはどこでも起きうるよねぇ?」

 残忍に歪む柏木の笑み。

「ど.....すれっ.....ば.....っ?」

 あまりの恐怖に雅裕はガタガタと震え出した。仕事をする夏子の部屋の前に屈強な男達が現れたのだ。

 静かに佇む男達。

 雅裕の両親殺害を請け負う柏木の会社。そんな物騒な会社に現れた怪しげな男達が、夏子に対して何を目論んでいるかはお察しだろう。

「やめてくださいっ! 何する気ですかっ?!」

「そうだねぇ。君が抵抗するなら、彼女の恥ずかしい姿をもらおうかなと」

 ざーっと血の気が下がり、顔面蒼白な雅裕。

 己の好奇心が姉に飛び火する。愚かな自分のために。

「彼等はソレ専門でね。たっぷりと可愛がってイカせてくれるから大丈夫だよ? 前も後ろもグチャグチャにして、ソレなしではいられない雌犬にしてくれるから♪」

 さも愉しそうな柏木が見つめる画面の中で、男達の手がドアノブに伸びる。

 途端に、雅裕の口から絶叫が迸った。

「僕がっ! 僕がされますからぁぁーーっっ!!」

「そう? でも嫌そうに抵抗してたじゃない? 私は抵抗されるのは好きじゃないんだよね? 彼等と違って」

「しませんっ! 大人しくしますっ!!」

 カチカチと歯の根を震わす雅裕を満足そうに眺め、柏木は何かをキーボードに打ち込んだ。

 すると画面の男達が消えていく。

「そんなにおねだりされたら仕方ないねぇ。私にいやらしい事されたいんだ? うんと辱しめて欲しいの?」

「.....欲しい.....です」

「ちゃんと口にして? 僕のいやらしい身体を辱しめてくださいって♪」

 雅裕を再び抱き締め、柏木はそっとキスをした。
 ガタガタ震える雅裕は喉が凍りつき言葉も紡げない。
 それに苦笑し、柏木は机に腰かけると雅裕を膝に抱え上げた。

「私は素直じゃない子は嫌いなんだ。今から気持ち悦いことだけをしてあげるから、私に聞かれたら気持ち悦いと口にすること。分かった?」

「はい.....」

 こうして姉を人質に脅迫された雅裕の、長い奴隷生活が始まった。
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