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三枚目のやり直し 7 ☆
しおりを挟む「ハルト、話があるんだ」
「なあに? ハウゼン兄様」
いつもと変わらぬ恋人笑顔。その隣りにいる不協和音さえなくば、ハウゼンにとって至福な時間だった。
「二人で話したい。少し出ないか?」
「駄目だ」
強請るように頼んだハウゼンの言葉を、ハルトでない別の誰かが一蹴する。
ハルトと同室になったライルだ。
体調不良を理由に最愛がしばらく戻ってこず、公爵家を訪ねてみても会わせられないと門前払い。
焦燥が募る中、次の週末が明けて寮に戻ってきたハウゼンは、部屋からハルトの物がなくなっているのに度肝を抜かれた。
慌てて寮監に確認してみれば、ハルトは体調不良が長引いていて万一のために、家族であるライルと同室になったと説明される。
……なんでっ?
説明されても理解出来ない、したくないハウゼンは、ハルトを探して駆け回った。そこでようやくハルトとライルの部屋を知り、こうして訪れたのだ。
なのに、相変わらず小生意気な弟が邪魔をしようとする。
「お前の決めることじゃない。……ハルト? さ、俺と行こう?」
耳慣れたハウゼンの命令。それに無意識に従い、じり……っと歩を進めようとしたハルトをライルの叫びが止める。
「ハルトっ! 俺の言うことがきけないのかっ?!」
びくっと肩を奮わせ、ハルトは静かにライルを振り返った。
「ライル……?」
「そう。俺だ。大丈夫。俺がいる。ハウゼンなんかよりも、ずっと優しくしてやるからな」
その秘密めいたやり取りを耳にして、ハウゼンは眼の前が真っ赤に染まった。
……なんだ、今のはっ?!
「ここは俺達の部屋だ。出ていけ」
カタカタと震えだしたハルトを後ろに庇い、ライルは手荒に扉を閉める。無情にも閉じられた扉を凝視しながら、ハウゼンは呆然と立ち尽くしていた。
「大丈夫か? 兄さん」
「……大丈夫。ハウゼンの声を耳にしたら…… ぼう…っとして」
……重症だな。
ハルトにかけられた洗脳。
そうでなくてはいけないと思い込まされた隷属性。輪姦されるのに恐怖し怯えながらも、それが日常であったため、無くなると不安や焦燥が募る。
与えてくれる人間を求め、安堵したいという本能。ハウゼンのよって、そうであるべきと刻みつけられた洗脳がハルトを苦しめていた。
そこに家族の安否や領地の平穏が複雑にからまり、生半可な言葉や労りは逆効果。
だから、ライルは兄を抱いた。
ハウゼンが怖い、戻りたいと泣きじゃくるハルトを押えつけ、嗚咽が吐息に変わるまで口づけてやった。
何を対価にしなくても良い。飴をもらうために蹂躙を耐えなくても良いのだと。ライルはハルトの心と身体に教え込む。
『俺が守るから…… 気持ち悦い? ハルト』
『んぅ……、でも……っ、ひゃっ?』
ぬちゃぬちゃと口づけながら、ライルは布越しにハルトのモノを撫でた。緩急つけて撫で回してやると、ハルトの声が甘く震える。
淫らに慣らされた兄の身体は、ライルの指に貪欲に応え始めた。
娼館には男娼も大勢いる。そういった色事に没頭した時期もあり、ライルの愛撫は巧みだった。
『気持ち悦いことだけしてあげるよ? 輪姦される必要はない。俺はハルトを可愛がりたい……』
『けど……、んんんっ?』
べろりと這わされたライルの舌がハルトの首筋を舐め上げる。ときおり吸い付き、ときおり咬み、その柔らかな肌に花びらを散らした。
『ハウゼンなんて忘れろ…… 俺のことだけ考えて。ほら、こんなに悦んでる。ハルトはいやらしい子だね?』
あっ、あ…っと仰け反り、這い上る愉悦を堪えるハルト。それを高みに追い詰め、ライルは甘く甘く囁いてやる。
『いやらしいハルトが俺は好きだよ? 泣いてるハルトも…… ふだん、お固くて恥ずかしがり屋な兄さんの乱れる姿は堪らないね』
『ライル…… ライル…… ライ……ルぅぅっ!!』
はあはあと熱い吐息を漏らしていたハルトが、固く眼を閉じて身体を強張らせた。涙を零し真っ赤に染まる兄の嬌態。
『く…っ、あっ! ……あっ! んんんんーっ!!』
軽く前屈みにになってライルに抱きつきながら、ハルトは大きく痙攣しライルの手の中に果てた。
淫猥にほくそ笑み、ライルは熱く蕩けて脈打つハルトのモノの先端を執拗に撫で回す。びくっ、びくっと震え、喘ぐ様が堪らない。
……やっば。ハウゼンの気持ちが分かるわぁ。兄さん色っぽ過ぎる。
挿れたい衝動を死物狂いで抑え込み、ライルはハルトを溶かすことだけに集中した。
『あひっ、ふぅ…ぅんっ、……あ、駄目、ライルぅぅ』
散々余韻を刺激しまくり、ライルはハウゼンの洗脳を上書きしていく。
『そう、俺だ。兄さんを気持ち悦くしてるのは、俺。いつでもしてやるよ? 毎日でも良い。他は全て忘れて?』
狂喜の宴の伴わない快楽。
これに慣らそうと、ライルは事あるごとにハルトを愛し、昂らせた。甘く、優しく、これ以上ないくらい丁寧に念入りに。
一週間それを続けた結果、ハルトは目に見えて落ち着きを取り戻す。正しく愛し、愛されることを思い出して、身体がライルを覚えていった。
そして最後の日。完全にハウゼンを上書きすべく、ライルは兄を貫く。
元々華奢で細かったハルトは、三つ差があるとはいえ発育の良いライルと体格差がほぼない。
いつも通りトロトロに蕩けた身体の内部を探って、ライルはハルトを追い詰める。ぬちぬち出入りする指に翻弄され、泣きじゃくる兄がすこぶる可愛い。
『はひ……っ! あっ? だめっ、そこぉぉっ!』
『うん、気持ち悦いね? もっとして欲しいね?』
『ちが…っ! ああっ! あっ、あっ! ~~~っっ!!』
否定は求め。
箱入りで色事に免疫のないハルトと違い、平民経験の長かったライルは、爛れた遊びに慣れていた。お子様なハルトをみだして喘がせるなどお手の物。
ハルトもハルトで、ハウゼンやその仲間による拷問のような行為しか知らなかったため、じわじわ染められる甘やかな愛撫に溺れた。
『……息がっ、……はひゃっ、胸が締め付けられるようで苦しいぃぃっ! なにこれぇ……っ』
興奮しているのだと。ライルの愛撫が堪らなく嬉しくて幸せなのだと。ハルトは理解していない。
今まで求めることしか許されなかったハルトに、ライルは与えることだけをした。
望まなくてもしてやる。受け止め切れないくらい与えてやると、ハルトが望まなければ与えられなかったモノを、ライルは望む前に叩きつけてやった。
ぬぷ…っとハルトの中に己の猛りを捩じ込みながら、ライルも息を荒らげ、至福に酔いしれる。自分で昂らせた兄の柔肉がキツく絡みつき、ライルを恍惚とさせた。
『ふ…うぅぅ、兄さんの中、すげぇ気持ち悦いぃぃ。……あげるよ、いくらでも。兄さんも気持ち悦い? 嬉しいね? 幸せ?』
ゆっくり味わうように腹の奥を掻き回され、こんこんと湧き出す愉悦の波が止まらない。こんな幸せな睦みは初めてだと答えようとしたハルトは、その感情に軽く驚いた。
……幸せ?
ハルトの朦朧な思考が泥濘み、満たされていく。
ハウゼンの行為と違う、深い満足感。
ハウゼンとの時は、大勢に嬲られたのが怖くて怖くて、優しくしてくれる彼に抱きしめて欲しくて、淫らなことをねだった。
彼の望み通りにすれば、優しくしてもらえるから。抱きしめて欲しい、口づけて欲しい、挿れて欲しいと口にした。
そうしないとハウゼンは与えてくれない。怖くて堪らなかったハルトは、安心したくて彼の望むように振る舞った。
狂喜の宴の恐怖に怯え、子供みたいに優しいハウゼンにすがりついた。
……あれ? 僕って?
あれが気持ち悦かったのだろうか? 彼に抱きしめられ、甘やかされ、心底安堵はしたが。
……今のように震えるほどの快感を得た覚えはない。こんなに熱く、ぐずぐすに溶かされるような心地好さを感じたことは一度もなかった。
……そっか。これが…… 幸せ?
一ミリの不安もなく、身を委ねるだけで良い。そもそも不安だからと愛し合うのが変だ。その不安を容赦なくハルトに叩きつけているのは、ハウゼンなのだから。
……根本から間違ってたんだ。
ようやく洗脳の解け始めたハルトは、弟の底なしな溺愛に溺れていく。
「あんな、あっさりハウゼンに従おうとして…… 兄さんの身体に、また教えてあげないとね。俺がどれだけハルトを愛しているのか」
「いやっ! ごめんっ! あれは条件反射みたいなもんなんだよっ!」
……それが、不味いって言ってんの。
「上書きだ。来い」
「ちょ……っ、その…… やっぱり良くないよ、兄弟なのに……」
快楽に酔わせたら素直なハルトだが、素面の時はライルにされることを酷く恥ずかしがる。まあ、そんな恥じらいは、男の劣情を煽る燃料でしかないのだが。
「何言ってんだ。血縁でヤるのが良くないってのは生まれる子供の血が濁るからだよ。子どもの出来ない俺等には関係ないじゃん」
「え……? あ、そうか。……そうなの?」
……倫理的に非常によろしくないのも間違いではないよ? ハルト。簡単に黙くらかされるな。
そう脳内で突っ込みつつ、今日もじっくりと兄を上書きしていく弟である。
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