43 / 47
閑話 今日の毅君 〜二回目〜
しおりを挟む「ここは?」
「毅君の部屋です。一応必要そうなモノは揃えましたが、足りなくば注文してください」
そこはプレイルームからホールを抜けたエレベーターでやって来た最上階。
見晴らしのよい展望台のような高い位置にあるフロアの一室である。
「このフロアと下のフロアは、わたくしの住まいです。下のフロアには専属奴隷らが詰めておりますから、安心して使って下さい」
さすが、ここの経営者。豪勢な住まいだ。
「俺を出しても良いのか?」
ブギーマンはクスリと笑い、毅にカードを渡す。
鈍色に輝くカードは、黒に銀を混ぜたような複雑な色を醸し、重厚な重みを持っていた。
カードに刻まれているのは毅の名前。
「あのエレベーターはプレイルームからここまでの直通です。君の網膜とこのカードがないと動きません。動かせるのは、わたくしと君と専属奴隷らのみ」
渡されたカードをしげしげと眺め、毅は子供らしく首を傾げる。
「円香ちゃんがいる限り、君は逃げないじゃないですか。信用してますから♪」
ああ、とばかりに毅はブギーマンに苦笑した。
たしかに。毅が円香を置いて逃げるなんて、選択肢にもなりはしない。
複雑な顔でカードを見る毅を余所に、ブギーマンが何かを鳴らした。
するとどこからかワラワラと人間が現れる。その数、二十人ほど。
黒のパンツとベストに白のシャツ。普通のお仕着せ風だ。
「今日からこのフロアに出入りする毅君です。わたくし同様、良く仕えるように」
「「「「「畏まりました」」」」」
気持ち悪いくらい揃う異口同音。
それぞれ全く似ていない顔立ちなのに、どことなく似通って見えるのは雰囲気のせいだろうか。
まるで感情の見えない独特の雰囲気。強いて言うなら昆虫か爬虫類のような、温度の感じられぬ表情。
「彼等は、わたくしの護衛と側仕えを兼ねた奴隷達です。このフロアの管理と警護を任せてあります。何かあれば気軽に命令してくださいね」
微笑むブギーマンの眼窟奥に灯る冴えた光。それが、目の前の奴隷達に似た、不可思議な冷たさを漂わせいることに毅は気がついた。
だがそれを余所に、ブギーマンは毅にパーカーを着させ、深々とフードを被せる。
「ついでですから、ビルの中を簡単に案内しましょうか」
……ああ、顔隠しか。
毅はユートピアでも有名な奴隷だ。大抵の顧客が少年の顔を知っている。観客として調教に参加できずとも、調教ゲームの配信はユートピア内でもされているのだから。
愉しそうなブギーマンの説明に、思わず苦虫を噛み潰す毅。
……うえ。そうなのかよ、気持ち悪いな。
するりといつもの飄々とした笑顔に戻り、ブギーマンは毅を連れてエレベーターに向かう。このエレベーターは建物の中心に位置し、柱を囲むように五台のエレベーターが四面あった。
ちなみに、最上階への直通エレベーターは中央の柱の中だ。外からは見えない。
広々としたエレベーターに乗り込みつつ、毅はブギーマンの話を聞く。
彼の説明によると、最上階から下三フロアがブギーマン個人の持ち物。その下が展望レストラン。さらにその下二フロアが個人的な愉しみを満喫する個室フロアで、宿泊も可能。
ただし、一日券の有効期限は入場してから十時間と決まっていた。泊まりになると間違いなく時間を超過するので、個室使用料と別に延滞券を購入しなくてはならない。
「三十万は入場券でしかないのでね。各遊技場の見学や軽い飲食しか出来ないんですよ」
……全オプション有料かよ。ぼったくってんな。
そう説明しながら、ブギーマンは個室フロア下の闘技場とやらへ毅を案内した。
そこは、砦のような装飾をされたフロア。重厚な石の内壁に尖った木の杭などが突き刺さり、閃く旗はボロボロで戦場跡のような感想を抱かせる。
そして中央の広間から、八方にぽっかり空いた洞窟のような穴。
それぞれ穴の手前に今日の演目が書かれている。
「少年少女バトルロワイヤル…… 人間同士の戦い? あっちはアナコンダ対人間? ヘビ? てっきり肉食の獣とかをつかって、派手な血祭りやるかと思ってたよ」
「そういうものもありますよ。まあ、時間帯もありますしね。今はソフトな見世物です」
ふうん……と思案する毅は知らない。
少女少女バトルロワイヤルは文字通り生き残りをかけた争いだ。十歳くらいの子供達で最後の一人が決まるまで殺し合う。お客様は誰がその勝者になるか賭けて、見事当てた者には配当金でなく勝者が与えられる。
つまり、何十人に弄ばれても壊れない屈強な生贄を選ぶ見世物。当てたお客様は、このあとの酒池肉林を愉しむ権利が与えられるのだ。
参加した子供達はもちろん純潔。用意された個室で一番高値を賭けた者が初花をいただき、あとは大勢による輪姦だ。
興が乗ってきた客に二本差し、下手をしたら三本差しされ、子供を壊すことが大好物な好き者どもの餌食にされる。
一人で愉しむのと違い、多くの仲間と共有する時間に興奮が堪らないと、ペドフィリアや幼児愛好家な皆様に好評な催しだった。
さらにはアナコンダ対人間。
これは戦いでもなんでもない。ただの給餌である。
逃げ惑う人間を追い詰め、襲うアナコンダ。獲物の身体に己を巻き付き、ギリギリと締め付けて絶命させ、それを頭からゆっくりと呑み込んでいく。
巻き付かれた獲物が泣き叫ぶ。ヘビの締付けで自分の内部が壊れていく激痛と苦悶。メキメキ折られる骨が肺に刺さり、破裂する寸前まで心臓に圧力をかけられ、眼を裏返して血の泡を噴く獲物。その、じわじわと絶命してゆく様が客には堪らない。
阿鼻叫喚で最後を迎える哀れな獲物の一幕を鑑賞するだけの静かな催し。それにも結構な需要がある。人間を捕食する獣達など、滅多にお目にかかれるモノではないからだ。
ユートピアで飼育する獰猛な捕食者達は、餌を与えるだけで金を稼いてくれる優秀なスターだった。
そこまで詳しくは話さないものの、ブギーマンの簡単な説明を毅は聞きつつ、並んで次のフロアへと向かう。
そこは外周をぐるりと囲むレース場。八本のコースがあり、それぞれを区切る透明な板。コースの幅も広く、二人くらいなら並んで走れそうだ。
「レース場か? 真っ当っぽい物もあるんだな」
「んな物あるわけないじゃないですかぁ♪」
……そうか、ないのか。
今回、何度目か分からない乾いた笑みを貼り付ける毅。
そして案の定、ここもはっちゃけた場所だった。
奴隷同士を四つん這いで走らせて勝敗を賭けるなどソフトなモノから、肉食獣に奴隷を追いかけさせて捕食されぬよう逃げ切るレースや、変わったモノでは、馬に跨る男性奴隷のモノを性奴隷な子供達に咥えこませ、射精せずにゴールするという馬鹿げたレースもあった。
呆れ顔な毅に微笑み、ブギーマンも笑う。
「捨てたものではないですよ? 自分を抱きかかえるように固定された少女や少年に、一物を咥え込まれたまま馬で走る奴隷達の苦悶は、なかなかに見物です」
そう。己のエレクトを維持しつつ解放されない、してはいけない我慢を強いられた競馬。しかも小さな子供の隘路でぎゅうぎゅうに締め付けられながらなのだ。奴隷達の悶絶はいかばかりか。
思わず止まったり、雄叫びをあげたり。迫りくる愉悦に溺れて涙目で走る彼らの卑猥な姿は、観客をすこぶる愉しませてくれる。
しかも、咥え込んでいる子供らも刺客だった。
出してはいけない騎手達と別に、子供達は出させるよう命令されている。そうしないと勝敗が決した後の酒池肉林で生贄にされてしまうからだ。
出すか出さないかの真剣勝負が、どの馬上ででも巻き起こる。
騎手の乳首や首筋を舐め回してイカせようとする子供達に御立派様を締め上げられ、阿鼻叫喚な奴隷達。
結果、イカされて射精した騎手と、イカせられなくてゴールされてしまった子供が、賭けを当てた者に生贄として贈られる。
多くの催しは賭けることが出来、当てた者に与えられるのは筆舌に尽くしがたい甘美なひと時。人的資源が無尽蔵なユートピアで、配当金すら支払われないこの仕組みはボロ儲けの一言だった。
そんな裏までは説明せず、ブギーマンは少年に各フロアを案内して最上階に戻ると、二人は地下への直通エレベーターに乗る。
最上階の三フロアと、調教レース用の地下フロアを繋ぐ一本道。このゲームだけはブギーマン本人が参加しなくてはいけないので、直通エレベーターの階に指定しているのだとか。
だが、そこに着いた瞬間、ふと毅はさらに地下へのボタンがあることに気づいた。
「これは? ここが地下一階と二階だろ? さらに三つ階層がないか?」
残るボタンは三つ。それを指先で撫でつつ、毅は上目遣いでブギーマンを見つめた。
身長百九十近いブギーマンは、困った顔で無邪気なお子様を見下ろす。
……世の中、知らないでいた方が良いこともあるんですけどねぇ?
「……言ったでしょう? ここの地下には人間牧場があると。それですよ」
「三フロアも?」
「………好奇心は猫を殺しますよ? ここまででも十分な綱渡りです。それ以上はやめておきなさい」
しかし、この直通エレベーターの構造を見れば分かる。調教ゲームのフロアのために造られたものではない。むしろ、ゲームのフロアは後づけ。この下のフロアへ行くためにこそ造られたエレベーターだろう。
「毒を喰らわば皿までだぜ? ブギーマン」
にっとほくそ笑む毅に降参し、ブギーマンはすぐ下のフロアへエレベーターを動かした。
そこには真の地獄が待ち構えている。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる