上 下
31 / 33

 教会との遭遇 4

しおりを挟む

「なんと……っ?」

 ……こうなると思った。

 二匹の赤子が女の子だと知った途端、教皇の眼の色が変わる。

「陛下に頼まれておりまして…… その、赤子が女子なら、是非とも王家の妃にと……」

「断るっ」

 千里の即断。

 思わず眼を丸くして、そろりと視線をラウル達に移動した教皇は、そこにも千里と似たような顔をする父親らを見つけた。

 取り付く島もないとは地球の言葉。

 それに類似した焦燥に煽られ、教皇は恥も外聞もなく机から身体を乗り出す。

「ぜひっ! ぜひ、王太子の花嫁にぃぃーっ!!」

「ふざけんなっ、まだ零歳だっ!! そういうことは、あと十五年してから本人達に頼めぇぇーっ!!」

 さっくり振り払う母親。

「やらん。うちの娘は俺の嫁にする」

「俺もだ。気が合うな、ショーン」

 ほくそ笑む二人の眼に輝く昏い光。獣性に偏ったケダモノの見せる執着。

 ……それ、最悪の事態なんですけどぉぉーっ!!

 過去に払拭したはずの過ちが、また起こる恐怖。それに絶望した教皇の前で、獣性に支配されかかったラウル達は、可愛い我が子にキスをする。

「……可愛ええのう。父ちゃんと番おうな。ずっと愛してやるから」

「……他に渡せるか。これは、俺の命だ」

 ちゅっ、ちゅと娘達にキスの雨を降らせる父親ーズ。……が、それを制する者が現れた。

「正気に戻れーっ! 遺伝子的なことは理解してんだよねっ? 親子で番うとかやったら、血が濁るよーっ!!」

 すぱこーんっと親バカーズの後頭を引っ叩いて、正気に戻したのは千里だった。ふんすっと仁王立ちする、その勇姿。
 彼女の下にあるならば、間違いは起こるまい。実際、獣性に取り込まれかかっていた父親ーズも気まずげにそっぽを向いていた。

 ……ああ、女神。

 思わず、ぶわりと涙の浮かぶ教皇様。

「貴女がここにおられる奇跡に感謝を……っ!」

 突然、跪かれ、拝まれ、何が何やら分からない千里である。



「非常に残念ですが…… そうですね、娘御の自由意思に任せましょう」

 しょんぼり項垂れた穴熊は不憫だったが、ここでキッパリしておかないと子供らの将来が危ぶまれた。
 権力者に奪われ、働かされる未来は潰しておきたい千里。
 そして詳しく聞いてみれば、王太子はもう十七歳だというではないか。十五を成人とするオウチなら立派な大人だ。零歳と番わすとか、冗談もほどほどに言えと千里は怒鳴った。

「仰ることは重々承知しております。でも、上流階級では珍しくもない歳の差なんですよ」

 そこで千里も、はたっと我に返る。

 ここは、魔法や錬金術などがあるため発達した文明に見えもするが、実は反対。
 魔法と拳の世界で、武器を持つものは半人前と揶揄されるのが常識なのだ。つまり、どちらかと言えば中世に近い世界観。
 そこに渡り人の持ち込んだ知識が混ざり、妙にチグハグな文明だった。
 だから上流階級とはガチ貴族。王族を筆頭とした御歴々の集まりで、領地や騎士団があり、国境線の攻防など、現在進行系で戦争をやったりもする世界なのである。
 騎士団は軍隊と同じ。国防を担う組織だ。各領地にも私兵がおり、有事の際には集まって戦う。
 その下に憲兵などの小規模単位な組織。自警団もこれに含まれ、街の安全や犯罪抑止に努力している。要は警察の役割だ。
 他にもハンターと呼ばれる者達もいる。これはギルドに所属して依頼を請け負ったり、自発的な狩りで獲物を仕留めたりと仕事の範囲は多岐にわたる。

 ヒューがこの職業なので、よく話は聞いていた。

 冒険者みたいなモノだが、そういう何でも屋的な曖昧さはなく、超実力主義。どちらかといえば地球の狩人や賞金稼ぎに近い職業だった。実際、賞金首もいるし、そういったのを狙うのもハンターの仕事である。

 ちなみにラウルも昔はハンターをやっていたらしい。しかしある時、引き取ったばかりなショーンを連れて二人は狩りに出かけ、そこでショーンが怪我を負った。
 大した怪我ではなかったのだが、ひどく驚き狼狽した兄貴ーズは、どちらかがハンターを辞めてショーンと街に住むことにし、ラウルが商人に転向したのだとか。

『今でこそ商人らしく温厚になったけどさあ? 前の兄貴は凄かったぜ? その一睨みで街の猛者が蜘蛛の子を散らすくらいにな』

 ……想像もつかない。

 色々あったのだろう。それらを乗り越えて、三人は家族になったのだ。ラウルが仕事で遠出する時はショーンも連れて行ってしまうため、ヒューも専属護衛としてついて行く。

 そんな遠征で千里は彼らに出会ったのだ。

 千里の脳裏にそぞろ浮かぶ数々の思い出。黒歴史も多々あるが、総じて楽しい暮らしだった。

 ここは、そういう世界。武器や防具の類は嫌悪され、肉体のぶつかり合いのみで戦う肉食獣の巣窟。戦争も同じ。切った張ったの肉弾戦中心なため、負傷者はともかく、死者はあまり出ない。
 平和な戦だと千里は思う。戦争に平和というのもおかしいが。
 ボタン一つで終わってしまう地球の方が、なぜか野蛮に感じる謎。

 そんな異世界には、古式ゆかしいしきたりが幾つも蔓延っている。政略結婚もその一つだろう。

 ……理解はする。理解は出来るけど、納得出来なあぁぁーいっ!! 娘等が成人した時、王太子とやらは三十過ぎだよね? 日本なら淫行だよっ?!

 う~~~っと頭を抱える千里を柔らかく見つめ、教皇は、この幸せがいつまでも続いて欲しいと心から願った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂

朝井染両
BL
お久しぶりです! ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。 こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。 合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。 ご飯食べます。

狐に嫁入り~種付け陵辱♡山神の里~

トマトふぁ之助
BL
昔々、山に逃げ込んだ青年が山神の里に迷い込み……。人外×青年、時代物オメガバースBL。

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

オークなんかにメス墜ちさせられるわけがない!

空倉改称
BL
 異世界転生した少年、茂宮ミノル。彼は目覚めてみると、オークの腕の中にいた。そして群れのリーダーだったオークに、無理やりながらに性行為へと発展する。  しかしやはりと言うべきか、ミノルがオークに敵うはずがなく。ミノルはメス墜ちしてしまった。そしてオークの中でも名器という噂が広まり、なんやかんやでミノルは彼らの中でも立場が上になっていく。  そしてある日、リーダーのオークがミノルに結婚を申し入れた。しかしそれをキッカケに、オークの中でミノルの奪い合いが始まってしまい……。 (のんびりペースで更新してます、すみません(汗))

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

処理中です...