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 本能との遭遇 3

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「箱孔、一発銀貨5枚だよっ! さあ、抜いていきなっ!」

 バナナの叩き売りを彷彿とさせる威勢の良さ。猫系らしい獣人が叩く箱は木の箱で、いくつもの尻が並んでいる。
 それぞれ可愛らしい尻尾がついていて、何系の獣人かすぐに分かるようなっていた。たぶん、正座して上半身を前に倒したような状態。脹脛と腿の間に棒状のクッションが挟まれており、そのお尻を突き上げる形に固定されている。
 腰から上は箱の中で見えない。腰も足首にもベルトが回され、完全に拘束済みのようだ。
 あり得ない物を見る目で凝視する千里に気づき、ヒューが説明してくれる。

「ありゃあ箱孔っつってな。妻を連れていない、あるいは、まだ妻を持たない獣人用の公衆便所だよ」

「公衆便所……」

 地球にも忌まわしい意味でそういう言葉をつかうことがあった。だがそれは、こんな白昼堂々と行う大らかなものではなかったはずだ。
 呆然とする千里を余所に、ヒューは説明を続ける。

 いわく、兄弟を持てなかった草食系や雑食系は庇護者がいない。そういった首輪なしな獣人を引き取り、働かせているのが娼館。そこから箱孔嬢を借り受け、営業するのが箱孔屋。
 娼館は庇護を与える代わりに、不特定多数の客を取らせて娼婦に卵を産ませる。歳がいって娼婦や箱孔嬢をやらせられなくなった獣人は、その卵孵化の仕事につかせ、子供達を育成しているのだとか。

「前に言っただろ? 獣人らの卵は専任が面倒見ているって。それが引退した娼婦や箱孔嬢だ」

 卵も、子供の少ない寒村などに高く売れるため、娼館や箱孔屋はいつも繁盛しているらしい。

 お国…… いや、世界が変われば……かなぁ?

 複雑な面持ちの千里。

「あれがあるから草食系らも生きていけるんだよ。兄弟を持てなかった草食系の末路は悲惨だからな」

「え?」

「……愛情も持てない相手に容赦する獣人はいねえ。分かるだろ? ただの獲物と認定された生き物は、使い潰されて終わる。それこそボロボロにな。産ませるだけ卵を産ませて、あとはポイよ」

 あ~…… 分からなくはない。

 理解出来てしまうだけに千里は忌々しげな顔をする。

 弱肉強食の食物連鎖。その中で、首輪なしと呼ばれる庇護者のいない獣人のヒエラルキーは最底辺なのだろう。そういった人間を、強者がどのように扱うかは、地球の歴史の中にも書き記されていた。
 ここは異世界だ。少し散見しただけでも不条理極まりない常識が蔓延るオウチ。

 なんて世界に落とされてしまったのかと、ついつい達観する千里の視界で、一人の獣人が箱孔を買っていた。
 ヒューよりも大きな熊系獣人。その一物も大きく、金を払った箱孔をいやらしく見つめている。

「はいよ、ちょい待ってねぇ」

 金を受け取った箱孔屋が何かを取り出し、それを無造作に突き出した尻に突っ込む。すると微かな呻き声と共に、何かが箱孔嬢の足元に垂れ始めた。

「……薬使うのか。まあ、しゃーなしだな。熊系相手にするには必要か」

「薬?」

 小説や漫画よろしく、媚薬的なものだろうか。

 疑問顔な千里を一瞥し、ヒューは肩を竦める。

「筋弛緩剤。まともに挿れられたら裂けちまうからな。あとは、中のスライムを刺激する精でも混ざってんじゃないか? ほら、トロトロな粘液がだだ漏れなってんし。孔も緩みきってるみたいだぜ?」

 ……想像の斜め上だった。

 筋弛緩剤っ?! そこまでしてやらせんのっ?!

 箱孔嬢はただの商品だ。客のニーズに合わせるのも必要だろう。ラウル達に拾われねば、自分にもあり得た未来。彼等のように優しい獣人は滅多にいないのだと、目の前の光景が物語っている。
 そこまで考えて、千里は軽く眼を見開いた。

「あれ…… 筋弛緩剤とか使えば、アタシの喉でもヤれるんじゃ?」

「妻に薬を使うバカはいねぇよ。興奮剤ならともかくな」

 ……それこそ媚薬的な?

 思わず眼を据わらせた千里の耳に、低い唸り声が聞こえる。

 雄叫びをあげて腰を突き動かす熊獣人。その横でも別な獣人が箱孔嬢を買っていた。
 どちゅばちゅと幾つもの淫らな水音が辺りに響くが、誰も気にしていない。ヒューの言った通り、公衆便所と同じなのだろう。もよおして軽く引っ掛ける程度のお手軽性欲発散。
 キャラバンでだって、みんな毎夜のごとく妻と絡まり、外でもいたしていた。こんな明るい内、野外だろうと、彼等に羞恥はないに違いない。
 箱孔嬢とて庇護を受けるために働いているのだ。そのあとのアフターケアもあるなら、ここは地球の常識で語って良い場所ではなかった。
 
 ……危うく勘違いするところだったわね。そういう世界なのだもの。庇護者を失うより箱孔嬢をやった方が幸せなのかもしれない。

 ヒューの説明どおりなら、庇護者のいない草食系などは昼夜問わず精を注がれ、卵を産まされ、それこそ本当に瀕死になるまで使い倒されるらしい。
 卵を産めなくなるというのはオウチの隠語で、死を意味していた。つまり、死ぬまで拷問のような日々が続く。
 それと比べたら、箱孔嬢の方が万倍マシだろうと千里も思った。
 
 次々と獣人らを受け入れている箱孔嬢達。

 一人終わる度に孔を洗浄され、新たに突っ込まれる、まさに肉孔。
 虫かごのように隙間だらけで大きな梁型を深々と捩じ込み、その広げられた孔から滴る大量の白濁液。それが全て溢れ落ちると、その空洞に濡れたブラシのような物を入れて、箱孔屋が中を綺麗にする。

 ……え? あんなに出るの? 一回しただけよね? どう見ても、牛乳瓶一本分はあったわよ? えーっ?

  獣人の吐精の量に驚く千里。その視界の中で、一仕事終えたような顔の箱孔屋が声をかけ、次の客がニヤニヤしながら洗浄済な箱孔を貫いた。
 ガタガタ箱を揺らすほど突き上げられ、箱孔嬢の足先がビクビク痙攣している。時には、ぐぐっと内側に指を反らせ、拘束された尻も激しく震えたりと、客や周りの眼を愉しませていた。
 くぐもった呻きしか聞こえないあたり、口枷でもかまされているのだろうか。思わず顔をしかめる千里だが、やにわ横にいたヒューが動き出す。

「俺も軽く抜いておくかな」

「えっ?!」

 その言葉を聞き、千里は、ばっと後ろのショーンを振り返る。ショーンは特に動揺した風でもなく、呑気にお茶を飲んでいた。

「やるなら口にしてよね。変な孔に突っ込んだモノなんて俺に使わせないからな」

「了解。割高だけど、そっちにしとくわ」

 ええええっ?! 妻の前でいたすのっ?! それで良いのか、ショーンっ!!

 見学しとけとヒューに連れられ、千里は突き出された箱孔嬢の尻と反対側に引きずられていく。

 いやああぁぁーっ!! 見学なんて、したくないぃぃーーっ!!

 心の中だけで絶叫する千里の前で、ヒューが箱孔屋に金貨を差し出した。

「口、借りるわ」

「おおおお、豪気なお客様だっ! どの子にするねっ?!」

 ほくほく顔で金貨を受け取り、箱孔屋が鍵を手にする。少し考えてから、ヒューは一番若いお勧めな子をと箱孔屋に頼んだ。
 良い笑顔で箱孔屋は頷き、一番右側の箱の左右に仕切りを立て、その箱にかけられた鍵を開けた。
 すると箱の左右上がパタンと開き、中から兎系の獣人が現れる。如何にも弱々しそうな顔の幼い獣人。千里の想像どおり口枷を咥え、座った状態のままうつ伏せにされていたらしい。箱孔嬢の両手首も、ベルトで括られていた。
 
「こいつがウチで一番若い箱孔嬢だ。さ、思う存分可愛がっておくれ。首輪なしを哀れと思うならね」

 そう言いつつ、箱孔屋は兎獣人の口に開口器をはめ、その顎下と頭を専用器具らしい物で固定する。限界まで広げられた口の歯が開口器にあたり、カチカチ音をさせていた。
 今にも泣き出しそうなほど烟る箱孔嬢の眼。いや、実際、泣いていたのだろう。その顎の下には、生乾きな水玉模様が幾つもこびりついていて、顔も真っ赤に泣き腫らしている。
 こんな商売に身を落としても未だに泣けるとは。よっぽど純真なのか、はたまた逆に、されることで随喜の涙を流す淫乱か。ヒューの眼が獰猛に輝く。

 ……どちらにせよ愉しみだ。はやくその蕩けた肉を堪能してぇ。

 艶めかしい獲物に背筋をゾクゾクさせ、ヒューは前を寛げると、猛り狂う一物を取り出した。巨大な御立派様を前にして、怯える箱孔嬢。
 うつ伏せで顔を上げただけの状態が、口から喉まで一直線な途を作っている。そのように計算し、拘束したのだろう。ヒューが舌舐めずりするのが千里の目の端に見えた。
 箱孔屋も興味津々の面持ちで眺めている。金貨一枚のお客様だ。お尻の二倍。それだけ払う客は滅多にいないに違いない。
 ごくりと喉を鳴らしながら、ヒューはポケットから小さな瓶を取り出し、己の一物に振りかけた。黄金色でとろみのある液体。それを先端から棹の中ほどまで垂らし、彼は己の一物を箱孔嬢に咥えさせる。
 ……と、恐怖一色だった箱孔嬢の眼が軽く見開いた。

「おやまあ。お優しいことだ。旦那も酔狂だねぇ?」

「抜かせ。愉しむ余録だよ」

 そう言うと、ヒューはゆっくり腰を動かす。丁寧に丁寧に箱孔嬢の口に己を含ませ、その熱い口内を愉しんだ。必死に舌を絡めて、夢中で舐め回す箱孔嬢。その頭を優しく撫でてやり、ヒューはしだいに深く腰を突き動かす。

「怖くないからな? 上手に出来たら、もっと舐めさせてやるよ?」

 ヒューが垂らしたのは媚薬入りの蜂蜜。身体をリラックスさせ、性的遊戯に積極的になる薬だ。さらに蜂蜜は高価な甘味。唾液と入り混じり、ぬるぬる、べしょべしょになった一物は、さしたる抵抗もなく箱孔嬢の中へと呑み込まれていった。
 しかし、その熱さと狭さにヒューは驚く。みちみちと軋みながら拡がる肉襞。その肉の激しい抵抗が、まだ喉が未開通なのだと彼に知らしめた。

 これは………

 急に複雑な顔をするヒューに首を傾げ、千里は、新たなオウチの常識を知る。
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