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理不尽との遭遇
しおりを挟む「スライムとって……?」
うんうんと何でもないような表情のラウル。なんでもこの世界の人間は、歩くようになると体内にスライムを飼うらしい。そのスライムが排泄物を処理してくれるため、用を足す必要がない。
さらにはスライムが持つコピー能力を利用して子供をなす。胤を注がれたスライムは、受胎すると体内に子宮のような形に寄生して巣食い、母体から栄養を吸い取って胎児を育てる。
ある程度育ったところで卵殻化し、母体と切り離され生まれてくるのだとか。
……うわあ。異世界不思議現象か。
自身が分裂して増えるスライムはその核が卵子の役目を果たし、受け入れた生き物の遺伝子のみを受け継いだコピーを作るというわけだ。
それで男同士でも子供が作れる。自身のクローンでしかないが。
「全ての卵は専任が管理して孵化させる。だから俺らに親はいない。というか、分からない。どの卵が誰の胤かなんてな。産まれた子供は部族全体で育てるから。そんな中にも情が生まれ、気の合った同士で兄弟となり家を持つ。それが俺とショーンとヒューだ。だから、もし千里が受け入れてくれるなら、君は我が家の嫁。つまり、俺達の嫁ってこと」
一家の嫁は家族全員のモノ。
千里は唖然とし言葉もない。
詳しく聞けば、彼らの遺伝子はほとんど精子に依存しているようで、卵は何でも良いのだという。そうやって新たな卵子を手に入れ、王侯貴族は己のクローンを量産している。
妻だけでは足りないからだ。一人の女から献上させる卵子は一つと決まっていて、あわよくば女児を得て、王家に嫁がせたい王族や貴族達による卵子争奪戦も凄まじいらしい。
卵子を管理するのは教会。王家が新たな卵子を手に入れると古い方は教会に下げ渡される。教会地下には歴代の卵子が保存され、各貴族家専任を決めていた。おかげで教会は異常な権威を持つ。
貴族家の一家に一卵子。
似たような言葉は地球にもあるが、種類が違いすぎると、千里は苦笑いした。
……えっぐ。身分の低い者に出来た女性の卵子を奪い取るわけね。王侯貴族とやらが。しかも魔法で保存、増殖って…… 理屈は分からなくもないけど、ヤバい世界だ。
千里のこめかみにタラリと流れる冷や汗。
でもまあ、それで理解したわ。男が多いから近親的なタブーを無意識に回避してるんだね。献上される新たな卵子がリセットしてる。うん。けどスライムか……… ここではモンスター的な扱いでなく、寄生? 共生かな? そういう位置づけなのね。
下世話な想像を脳裏に浮かべ、千里は無言で焚き火を見つめる。
そんな彼女を、ラウルも無言で見下ろしていた。
……驚いた風ではあるが、理解してなさげではない。面白いな。一見、普通の平民に見えるが、なかなかに賢そうだ。育てば一端の嫁になろう。
王家や教会に取り上げられなくばだが。それまで隠して育てるしかないようだ。子をなせば、教会とて力尽くは出来まい。
未だ叫びまくるショーンと、それに説教をかますヒュー。彼等は千里を子供だと思っていた。体長二メートル越えが当たり前な獣人だ。その半分ちょいしかない彼女が成人しているなどと、誰も思わない。
そして話は最初に戻る。
「……十八? え?」
「十八って…… とっくに子供の一人や二人、いる歳じゃないか」
「ひょっとして、千里の故郷には夫君や子供がおられるのか? オウチの神は母御を奪ってしまったのか?」
明後日な方向に話が進み、千里は慌ててストップをかけた。
「アタシの世界じゃ、十八あたりで一人前。二十歳で成人。その後に結婚とかするからっ! まだ夫はいませんっ!!」
えええーっ?! ……と揃う驚愕の三重奏。
「成人が二十歳っ?! こっちじゃ、十五だぞ?」
「それから結婚って…… 完全に嫁き遅れじゃないか、もったいないっ! 卵子は若ければ若いほど良い子供を育めるんだよ?」
「ああ、でも、チイは小さいし……… そういう種族かもしれん。身体が出来上がるのに時間が必要とか? 君は月の物はあるのかい? ないなら、まだ子供だよ?」
どうやら、この世界の生態系は地球と酷似しているようだ。見知った動物の姿形な彼等を見れば、そう思える。
それぞれ勝手な思考がだだ漏れの三人。しかもデリカシー皆無。千里の想像取り、スライム関連は別として、生殖的な概念にも大きな違いはないようである。
「月の物って……… アンタ達ねぇ……」
口角を引きつらせながら強張った笑顔で見上げる千里。だが、その小さな肩をラウルがポンポンと叩いた。
「君は賢そうだし分かると思う。身体が成熟しないうちは、無体なことをしてはいけないのだよ? そんなことをしたら、子供な身体が壊れてしまうからね?」
「そうそう。沢山食べさせてやるから大きくなりな。幸い俺達の稼ぎは良い。滋養のあるものを食わせてやるよ」
「大丈夫、すぐに大きくなるって。あと二年で成人だろ? その頃には月の物も来て、胸や尻も膨らむから安心しな」
とても千里を思いやってくれているのが分かる言葉の数々。強靭そうな彼らから見たら、人間の千里は、きっと生まれたての赤子のようなものなのだろう。
ありがたい。ありがたくはあるのだが……
ショーンの軽口が呼び水となり、千里は怒りを爆発させる。
「胸やお尻が薄くて悪かったわねーっ!! 月の物なんか、とうに来てるわよっ!! これがアタシの世界の標準サイズな大人の身体ですぅーっだっ!!」
……半分嘘である。
千里は高校の同級生と比べても小さい。身長百五十もないのがコンプレックス。その分、肉に厚みがあったらまだ良かったのだが、そちらも少なくスレンダーボディ。……といえば聞こえは良いが、ただの寸胴。
太りたいわけではないけど、せめて胸がCカップくらいあれば、ここまで卑屈にならぬものを。……と、人知れず歯ぎしりする乙女心。
しかし、ここは異世界オウチ。事態は斜め上半捻りを見せた。
「月の物がある……? ならもう成人じゃないか?」
「だあなぁ? 十八なら立派な成人だよな?」
「うわあ、それじゃあ伴侶の契りを交わして、教会に申し立てと卵子の献上しないとねぇっ!」
「……え?」
話がどんどん飛躍していく。さっきまで止めてくれていたはずのヒューやラウルも、なぜか今はウンウンと頷いていた。
ええええーーーーっ?!
予想出来たはずの展開を理解しないお間抜けな異世界人。こうして頭お花畑の獣人らに連れられ、千里のお嫁様ライフが始まった。
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