共の蓮にて酔い咲う

あのにめっと

文字の大きさ
上 下
13 / 15
本編

13

しおりを挟む
 それからの日々は飛ぶように過ぎた。仕事関連の諸々の手続きは縁也が全てやってくれていた。蓮華が連絡を入れたら上司に「君はもっと休んだ方がいい」と言われてしまい、ちゃんと有給は消化しているんだけどな、と頭をかいた。
 リハビリは大変だった。筋肉は衰えていたし、骨が繋がったと言われても1度傷ついた箇所に力を込めるのは怖かった。それでも利き手が使えなくなるのは困るので蓮華は必死で努力し、なんとか骨折前のように指を動かせるまでに回復した。
 男はストーカー行為含め容疑を全面的に認めているらしかった。大人しく反省の意を示し、蓮華にも出来ることなら謝りたいと供述しているようだったが蓮華は断った。会うとしたら法廷で、ということになるだろう。
 指が動くようになってから、蓮華は何年も連絡を取っていなかった友人に1人1人電話をかけたりメッセージを送ったりして今までの経緯を伝えた。突然消息を絶ったため忘れられたり嫌われたりしていると思っていたが逆に心配する声がほとんどで、死んだのではないかと思ったと怒られた時には悪いと思いながらも嬉しくて思わず笑いそうになってしまった。
 一番最後に両親に電話した時は久々に聞く懐かしい声にこちらも涙が止まらなくなって、電話を切った後もしばらく蓮華は泣いていた。そんな蓮華を縁也は何も言わずにずっと撫でていた。「ごめん、縁也のこと言いそびれた」と言ったら「これからはいつでも話せるんでしょう?だから大丈夫ですよ」と返されてまた泣いた。

 蓮華の発情期ヒートが近づくと、縁也はつがい休暇を取った。発情期の周辺はΩは原則としてフェロモン抑制剤もフェロモン感知抑制剤も飲んではならない。蓮華は縁也にも休暇の間は発情期が始まる前からそれらを飲まないよう頼んだ。今まで抱えていた恐怖は薄れたものの、ここ数年間の発情期中のあの地獄を思うと今から縁也のフェロモンに慣れておいた方がいいと思った。そのための巣ごもり準備は前もってしておいたので、現在蓮華と縁也は家でいちゃいちゃし放題なのである。
「お前のフェロモンほんといい匂い…すっごく美味しそうなんだよな…」
 首筋に鼻をくっつけてうっとりと縁也のフェロモンを嗅ぐ。まだ発情期に入ってはいないが、頭が沸き立つようだ。
「美味しそうってなんですか」
「そのまんまの意味。食べたくなる」
 首輪Collarに覆われていないうなじについた噛み跡をべろりと舐めると、縁也の体がびくりと跳ねる。
「ちょっと、暴走しないでくださいね。後で泣くのは蓮華さんなんですから」
「分かってる。寝る時に首輪つけるんだから、ちょっとくらいいいだろ」
「…仕方ないですね」
 そう言って縁也は蓮華を抱きしめ、お返しとばかりに蓮華の項に鼻を埋める。Ωの首輪は既に外してあった。
「発情期入ったら、俺のここも噛んでくれるよな?」
「当然です。…もう、怖くないですか?」
「大丈夫だって。あれから散々慣らしてきたじゃん」
 退院してから蓮華の中の拡張作業は再開された。やはり最初は異物感が凄まじかったが、恐怖が薄れた分進みは早かった。もう新家の指が3本は入るようになってきたし、後ろだけで気をやる方法も思い出した。ちなみに例のうさぎのぬいぐるみは戦友として枕元に飾ってある。
「蓮華さんのフェロモンもいい匂いですよ。今はまだ薬を飲まなくても近づかないと分からないくらい微かですけど、とても甘い匂いがします。それにフェロモン自体は強い。こちらこそ理性を失いそうです」
「今から襲ってくれてもいいんだぞ?」
「まだです。まだこうしていたい。それに決めたでしょう?」
「うん」
 蓮華は今回も、発情期に処女を捧げると縁也に約束した。自分でもなぜそんなことにこだわるのだろうと思っていたが、最近になってようやくわかった気がする。きっと自分は、双方理性を失う発情期に処女を差し出せるような、そして発情期まで待てS t a yができるような、そんなαSubと結ばれたかったのだ。
「楽しみにしてる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それでも僕は君がいい

Q.➽
BL
底辺屑Dom×高スペ王子様系Sub 低スペックで暗くて底意地の悪いDomに何故か惚れきってる高スペック美形Sub男子の、とっても短い話。 王子様系Subにちょっかいかけてる高位Domもいます。 ※前中後編の予定でしたが、後編が長くなったので4話に変更しました。 ◇大野 悠蘭(ゆらん) 19/大学生 Sub 王子様系美形男子、178cm 秋穂の声に惹かれて目で追う内にすっかり沼。LOVELOVEあいしてる。 ◇林田 秋穂(あきほ)19/大学生 Dom 陰キャ系三白眼地味男子 170cm いじめられっ子だった過去を持つ。 その為、性格がねじ曲がってしまっている。何故かDomとして覚醒したものの、悠蘭が自分のような底辺Domを選んだ事に未だ疑心暗鬼。 ◇水城 颯馬(そうま)19/大学生 Dom 王様系ハイスペ御曹司 188cm どっからどう見ても高位Dom 一目惚れした悠蘭が秋穂に虐げられているように見えて不愉快。どうにか俺のSubになってくれないだろうか。 ※連休明けのリハビリに書いておりますのですぐ終わります。 ※ダイナミクスの割合いはさじ加減です。 ※DomSubユニバース初心者なので暖かい目で見守っていただければ…。 激しいエロスはございませんので電車の中でもご安心。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

わるいこ

やなぎ怜
BL
Ωの譲(ゆずる)は両親亡きあと、ふたりの友人だったと言うα性のカメラマン・冬司(とうじ)と暮らしている。冬司のことは好きだが、彼の重荷にはなりたくない。そんな譲の思いと反比例するように冬司は彼を溺愛し、過剰なスキンシップをやめようとしない。それが異常なものだと徐々に気づき始めた譲は冬司から離れて行くことをおぼろげに考えるのだが……。 ※オメガバース。 ※性的表現あり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

処理中です...