共の蓮にて酔い咲う

あのにめっと

文字の大きさ
上 下
12 / 15
本編

12 ※

しおりを挟む
 とにかくこのようにして初夜は済んだのだが、肝心の蓮華の拡張の方は結局進まなかった。毎回振り出しに戻ってしまい、どんなに理性が受け入れようとしても心身は頑なに侵入者を追い出そうとし、快楽への怯えは消えず、進む前に力尽きてしまう。
「僕はこのままでもいいですよ。どちらがどちらに入れなくてはいけないわけではないんですから」と縁也は慰めてくれるが、そう言われると蓮華の心は縁也に中を満たしてもらわなければ嫌だと泣き出すのである。いざ入れようとすれば指でもあんなに拒むのに、難儀なものである。
 とはいえ焦っても進まないものは進まない。時間が解決するのを待つしかない。あるいは何かきっかけがなければ無理なのだろう。そう思って蓮華も一旦諦め、最近は縁也を抱くことが増えていた。結局のところ2人とも気持ちよくてプレイ欲も満たされるのでメリットしかないのである。
 この前など挿入して動かないまま全身を愛撫していたらそれだけで縁也のメスイキが止まらなくなって心配になってしまうほどだった。αなのでさすがにそうそう射精出来なくなることはないだろうが、いざ蓮華を抱く段になって中折れするのではないか、と少し危機感を抱いてしまった。縁也もそうだったのか、前を触るようねだってくることが増えた。
 最初のような事故も今のところ起きていない。縁也の首は今や首輪Collarで覆われていた。銀色に冷たく光るそれは蓮華の宣言した通り縁也の首についた噛み跡を隠すため少し幅広なのだが、どうせだからと縁也の意向でいくつもの蓮の花の彫刻で埋め尽くされた。完成品を見て「縁也にとって俺って菩薩か何かなのか?」と蓮華が内心思ってしまった程である。
 縁也はこの首輪をいたく大事にしており、外す際は毎回丁寧に磨いている。そしてプレイの最中蓮華が暴走しそうになった時はそれを戒めるように首輪が光り、その度に蓮華は我に返るのである。
 乱れる縁也を見ているとたまに自分も挿入無しでいいからそんな風に乱されたいと思うことがないではないが、それすら縁也に覆いかぶさられただけでパニックになってしまうのでやはり無理だった。

 そんな中、悪夢は突然やってきた。逃げ切ったと思っていたのに、現実のものとして蓮華の前に現れた。
「ああ、探していたんだよ、僕の蓮華」
 蓮華の方へ歩いてくるのはあの男のはずなのに、どうしてかそれが理解出来ない。分かるのはどす黒いねじ曲がった化け物が、自分を今度こそ喰らおうとしているということだけ。そしてあれを生み出してしまったのは自分自身ということだけ。小さく耳鳴りがして、呼吸が浅くなるのを感じる。恐怖で微動だにできない。
「本当に探したんだ。君はとっくにあの会社を辞めていたし、家からも引っ越していただろう?でも君があの忌々しい仕事そのものを辞められるわけがない。そう思って各地のDom派遣サービス会社のサイトに行って、そこに登録されているDomを一人一人見ていったんだ。そうしたら、ようやく見つかった。『レン』なんて名前を変えても、写真が君そのものだったからね。そこまでするとは思わなかったかい?」
 猫撫で声で語られるおぞましい言葉の半分も耳に入らない。膝が震えて、その場に崩れ落ちそうになる。
 その時、蓮華の肩に誰かが触れて、蓮華の前に進み出る。
「帰ってください。神原さんはもう、『あなたの蓮華』ではない」
 縁也だった。そうだ、自分は縁也といつものように自分の家に行こうとしていて、それで。
「僕の蓮華に何をしている!」
 その声で我に返った。そこにいたのは、化け物などではなくただの男だった。縁也の存在に今気づいたようで、血走らせた目で縁也の胸ぐらを掴んで、拳を振り上げていた。
 あの目は何をするか分からない。縁也が危ない。そう思ったら体が動いていた。
「あんたこそ、俺のSubに何してんだよ、このクソ野郎!」
 逃げ出したい悪夢のはずだった。それなのに気づいたら蓮華は縁也を守るように割り込むと、信じられないくらいの力で男の手を縁也から剥がし、思い切り殴り飛ばしていた。めき、と嫌な音がした。男からではなく、自分の手から。
「俺はまだしも、こいつに手を出すな!」
 グレアが制御出来ないのを感じながらもがく。縁也が咄嗟に引き剥がさなければ蓮華は男に馬乗りになって殴り続けていただろう。男は殴られた場所を押さえ、強すぎるグレアにのたうち回っていた。遠くからサイレンが近づいてくるのが聞こえて、ようやく蓮華は意識を飛ばした。

 気がつくと蓮華は病院のベッドに寝ていた。気づかなかったが目撃者は何人かいたらしく、彼らが通報してくれたらしい。あのグレアの中で暴れる蓮華を抑えていた縁也はその後またドロップしかけたそうで、蓮華はそれが申し訳なかった。
「ごめん、怖い思いさせたな」
「僕はもう元気になったからいいんですよ。むしろ蓮華さんのおかげで助かりました。それより蓮華さんの方が大変でしょう。1日以上寝込んでましたから。手の骨も折れてますし」
 そう、蓮華は骨折していて、寝ている間に手術もしたらしい。しばらく入院である。あの時は全く気にならなかったのに、固定されているはずの手がちょっと身動ぎしただけでかなり痛い。ディフェンスってやっぱりすごいな、と他人事のように思ってしまった。
  ふと、あの男は大丈夫だろうかと思って、そのことに驚いた。心配する余裕が出来るほどに、あの男への恐怖は薄れていた。逃げ続けることは蓮華を守っていたが、それが逆に恐怖を増大させていたのかもしれない。
「あいつにもいいパートナーが出来たらいいんだけどな。俺以外で」
「裁判の方が先ですけどね。…大丈夫ですか?」
 縁也が心配そうに覗き込んでくる。裁判が始まれば、恐らくは蓮華も証人として参加する必要が出てくる。顔を合わせないことも出来るが、それでもあの男の気配を感じる場所に行く。それを案じているのだろう。
「いや、お前が着いてきてくれるなら大丈夫。…っていうか、なんか怖いのもだいぶマシになったし。これで俺の手の骨が折れてなきゃな」
 お前とセックスできたかもしれないのに、と口の動きだけで言うと縁也が顔を赤らめた。
「ちょっと、振れ幅が激しくないですか?」
「いや、今ならほんと何も怖くない気がする」
「それはハイになってるだけですよ、ほら、そろそろご飯を食べましょう」
 ご飯と聞いてお腹がぐうと鳴った。それに微笑みながら、縁也が食事を持ってくる。
「わあおかゆだ」
「寝ている間絶食していたわけですからね。骨折を早く治すためにも早くちゃんとした料理を食べられるようになりましょうね」
「うん、もちろん食べさせてくれるんだよな?」
「仰せのままに」
 嬉しそうに縁也がお粥を冷まして口元まで持ってくる。それを蓮華はぱくりと食べた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それでも僕は君がいい

Q.➽
BL
底辺屑Dom×高スペ王子様系Sub 低スペックで暗くて底意地の悪いDomに何故か惚れきってる高スペック美形Sub男子の、とっても短い話。 王子様系Subにちょっかいかけてる高位Domもいます。 ※前中後編の予定でしたが、後編が長くなったので4話に変更しました。 ◇大野 悠蘭(ゆらん) 19/大学生 Sub 王子様系美形男子、178cm 秋穂の声に惹かれて目で追う内にすっかり沼。LOVELOVEあいしてる。 ◇林田 秋穂(あきほ)19/大学生 Dom 陰キャ系三白眼地味男子 170cm いじめられっ子だった過去を持つ。 その為、性格がねじ曲がってしまっている。何故かDomとして覚醒したものの、悠蘭が自分のような底辺Domを選んだ事に未だ疑心暗鬼。 ◇水城 颯馬(そうま)19/大学生 Dom 王様系ハイスペ御曹司 188cm どっからどう見ても高位Dom 一目惚れした悠蘭が秋穂に虐げられているように見えて不愉快。どうにか俺のSubになってくれないだろうか。 ※連休明けのリハビリに書いておりますのですぐ終わります。 ※ダイナミクスの割合いはさじ加減です。 ※DomSubユニバース初心者なので暖かい目で見守っていただければ…。 激しいエロスはございませんので電車の中でもご安心。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

わるいこ

やなぎ怜
BL
Ωの譲(ゆずる)は両親亡きあと、ふたりの友人だったと言うα性のカメラマン・冬司(とうじ)と暮らしている。冬司のことは好きだが、彼の重荷にはなりたくない。そんな譲の思いと反比例するように冬司は彼を溺愛し、過剰なスキンシップをやめようとしない。それが異常なものだと徐々に気づき始めた譲は冬司から離れて行くことをおぼろげに考えるのだが……。 ※オメガバース。 ※性的表現あり。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

アルファな主人とオメガの従者

すの
BL
アルファで御曹司の楓(かえで)とその従者でオメガの類(るい)がイチャラブする話。 類はオメガであることを隠して、楓に仕えていたが、ある時初めての発情期が訪れてしまい…? 完璧執着アルファと無防備オメガの見たいところを詰め込みました。ほぼエロです! いいね、ブクマとても励みになります。ありがとうございます。

処理中です...