賽は指から零れ落ち

あのにめっと

文字の大きさ
上 下
3 / 11

3

しおりを挟む
 数年の月日が経った。もう河原が釈放されてしばらく経つ。僕は焦らず、ただし迅速に計画を進めることにした。
 発情ヒート誘発剤は案外すぐに手に入った。当然変装して遠いところに行って買ってきたけどね。僕が売り手のことを通報しなければ、売り手も僕のことを喋らない、という暗黙の了解があるみたいだった。手に入れた誘発剤は一般的な風邪薬のような見た目で、一目見ただけでは怪しくは見えないだろう。うわあ、違法薬物が僕の手の中にある…!

 そして今、僕はとある路地を、至って普通を装いながら歩いている。リサーチはとっくに済ませていた。釈放されてから彼はなんとか仕事にありついたようで、この時間は彼が帰宅する頃。そしてもうすぐ人通りのほとんどないこの道を通る。この日のために結構前にこの近くに引越した。誘発剤は飲んできたし、そろそろ体が暑くなってきた。
 きた。河原の姿を目に捉えた瞬間、緊張で鼓動が激しくなる。それが発情を促進させて、フェロモンが溢れるのを感じる。理性を総動員してたった今発情したかのようにくずおれながら、それを瞬時に僕の体に纏わせて、その後一直線に河原に飛ばして絡めとった。
 スローモーションのように感じた。河原がこちらを見て、目を見開いて、辺りを見回して、こっちに走ってくる。逮捕された当時よりは少しやつれているが、間違いなく河原だ。というか暇さえあればネットで拾ってきた写真を眺めていたから間違えようがない。
「大丈夫ですか!?」
 発情ラットしているだろうにあくまで紳士的にこちらを助け起こしながら、スマホなのか抑制剤なのかズボンのポケットを探る河原を押しとどめる。
「あなたを見た瞬間、発情が起きたんです。この意味、分かるでしょう…?」
 それを聞いた河原は何故か苦虫を噛み潰したような顔をして低く唸ると、僕を抱き上げた。わあ、お姫様抱っこだ。
「僕の家が近くにあるので、そこに行きましょう。それまで我慢していてください」
 それは助かる。正直もう僕の家まで案内する理性は残ってない。
 河原の自宅に着いた瞬間、僕は制御していたフェロモンを解放して、ついでに頭のネジも吹っ飛ばした。

 そういうわけだから、どうやって河原とつがいになったかほとんど覚えてない。気がついたら発情が終わっていて、僕のうなじには噛み跡がついていた。偽装とはいえ「運命の番」なんだから、もうちょっとこう、情緒が欲しいよね。発情誘発剤強すぎじゃない?
 その後とりあえず僕らは連絡先を交換した。うわあ、河原の連絡先が僕の手の中に…あれ、このくだり前にやった?
 もちろんお互いの素性も性別も明かした。僕は彼の性別年齢その他諸々は知っていたけど、初対面のふりをしなきゃいけないからね。ちなみに運命の番はあくまでαとΩの間の話で、必ずしも片方がSubならもう片方がDomであるとは限らない。ロール性が噛み合わないとプレイ欲は他で解消しなくちゃいけないとか少し面倒なことになる。だから僕がDomだと言うと河原は安堵と緊張の混じった顔になった。まあDomにも色々いるからね。ごめんね、僕危ないタイプのDomなんだよね。
「生活に困ってるなら僕が君を養おう。…そういうわけで、君を飼うけどいいよね?」
 そう僕が悪そうな顔で言った時の彼の顔は忘れられない。だけど出来れば写真に撮りたかったなあ~!絶望に叩き落とされるこの顔がずっと見たかったんだよ!αSubの、っていうか河原の!

 とはいえ河原は意外にもあっさりOKを出してくれた。なんでも顔が割れてるからプレイバーは軒並み門前払いされるんだって。僕くらいしかプレイしてくれるDomがいないらしい。よく見たら確かに隈もある。可哀想だけど正直都合はいいし、本当に仕方なく渋々といった感じの河原の表情に興奮する。
 このままプレイといきたかったが、残念なことにここは河原の家で道具グッズがない。有無を言わさず河原の家は引き払わせて、僕の家に拉致…じゃなくて監禁…でもなくて、引き取って養うことにした。ついでに別姓だけど籍も入れたし、Claimもした。念入りに囲い込まないとね!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...