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#1 幼き日のわがまま
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「ユア、気を付けてね。決して奥の方へ入って行かないこと。これだけは守るのよ」
「はい、お母様。わかっております」
ユアはいつものように母に行ってきますの挨拶をすると、小走りで裏山へと足を進めた。さっそく可愛い植物を眺め、愛でる。小さなお花がとっても可愛らしい。
「うふふ。綺麗な黄色……」
彼女は一日の中で自然とたわむれる時間が一番好きであり、できればこの先もずっと自然と触れ合いながら生きていきたいと願っている。しかし彼女は上流貴族のお嬢様だ。こうして自由に過ごせるのもあと少しの間だけ。半年後には顔も名前も知らない殿方と結婚することが決まっている。
顔も名前も知らないということは、もちろん一度も顔を合わせたことがないということだ。なぜこんな奇妙なことが起きているのか。きっかけは彼女が6歳の誕生日を迎えた時のこと……。
「ユアはね、16歳になったら結婚することが決まっているのよ。あなたには生まれた時から婚約者がいるの」
母の口から出た言葉に、6歳の誕生日を迎えたばかりのユアは大きな衝撃を受けた。理解も納得もできず、あまりのショックに体調を崩した。彼女は幼い頃からいわゆる風習が苦手で、自由が好きだった。この頃には薄々と、自分の人生にはたくさんの縛りがあることに気づき始めていたこともあり、余程ショックだったのだ。
ユアが体調を崩したことで、数日後に予定されていた顔合わせが延期になった。延期になったということは、元気になったらその方と会わなければいけないわけで……。
ベッドで横になりながら、ユアは婚約者がどんな人かを想像した。熱が下がっていなかったせいか、楽しい想像はできなかった。
(お母様もお父様も、お相手の方はとても素敵な方だとおっしゃっていたけれど、私が素敵と感じるかはわからないわ……)
(目つきの怖い人だったらどうしよう……いじわるな人だったらどうしよう……怖い……怖い……!)
悪い方向にばかり想像が膨らんでいく。どうにかして婚約者との顔合わせを回避させようと、具合の悪い中でも頑張って頭を働かせていた彼女の元へ母がやってきた。
「ユア……大丈夫? 何か食べたいものある?」
「……食べたいもの……は要らないので……婚約者様と会いたくないです……」
「……そんなに会いたくないの? とっても素敵なお方なのに……」
「嫌です…………自由がいいです。まだお顔もお名前も知りたくありません。考えたくないのです……怖くて悲しくて……頭痛が治らないのです……」
とっくに頭痛はおさまっていたが、この時のユアはどうしても婚約者に会いたくなかったのだ。元気がなく悲しそうな彼女の表情に、見かねた父と母が婚約者の両親と話し合った結果、ユアが16歳になったら顔合わせをするということになった。つまり、結婚するその時まで婚約者に会わなくていいことになったのだ。それを知ったユアは、あっという間に元気を取り戻した。
それから年を重ねた彼女は、自分がとんでもないわがままを聞き入れてもらったことを自覚した。幼かったから仕方がないようにも思えるが、冷静になると、自分の行いがいかに非常識で無礼極まりないことかがわかり、彼女はとても後悔した。
(お相手の方になんて失礼な態度を取ってしまったのでしょう……本当に私ったら……なんということを…………)
父も母も、ユアが体調を崩さないようにと気を使い、あれ以来彼女の前で結婚の話をすることは一度もなかった。彼女も彼女で、今更「もう顔合わせできる状態でございます」と言えるはずもなく、気づけばあと半年で16歳だ。
「はぁ~~~~~…………」
ユアは大きなため息を吐くと上を向き、綺麗な青空に願った。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様。
今の今まで一度もご挨拶しておらず、誠に申し訳ございません。
半年後にお会いした際、どうかお優しいお顔で、お優しいお心で接していただけますよう、心より深くお願い申し上げます……。
「はい、お母様。わかっております」
ユアはいつものように母に行ってきますの挨拶をすると、小走りで裏山へと足を進めた。さっそく可愛い植物を眺め、愛でる。小さなお花がとっても可愛らしい。
「うふふ。綺麗な黄色……」
彼女は一日の中で自然とたわむれる時間が一番好きであり、できればこの先もずっと自然と触れ合いながら生きていきたいと願っている。しかし彼女は上流貴族のお嬢様だ。こうして自由に過ごせるのもあと少しの間だけ。半年後には顔も名前も知らない殿方と結婚することが決まっている。
顔も名前も知らないということは、もちろん一度も顔を合わせたことがないということだ。なぜこんな奇妙なことが起きているのか。きっかけは彼女が6歳の誕生日を迎えた時のこと……。
「ユアはね、16歳になったら結婚することが決まっているのよ。あなたには生まれた時から婚約者がいるの」
母の口から出た言葉に、6歳の誕生日を迎えたばかりのユアは大きな衝撃を受けた。理解も納得もできず、あまりのショックに体調を崩した。彼女は幼い頃からいわゆる風習が苦手で、自由が好きだった。この頃には薄々と、自分の人生にはたくさんの縛りがあることに気づき始めていたこともあり、余程ショックだったのだ。
ユアが体調を崩したことで、数日後に予定されていた顔合わせが延期になった。延期になったということは、元気になったらその方と会わなければいけないわけで……。
ベッドで横になりながら、ユアは婚約者がどんな人かを想像した。熱が下がっていなかったせいか、楽しい想像はできなかった。
(お母様もお父様も、お相手の方はとても素敵な方だとおっしゃっていたけれど、私が素敵と感じるかはわからないわ……)
(目つきの怖い人だったらどうしよう……いじわるな人だったらどうしよう……怖い……怖い……!)
悪い方向にばかり想像が膨らんでいく。どうにかして婚約者との顔合わせを回避させようと、具合の悪い中でも頑張って頭を働かせていた彼女の元へ母がやってきた。
「ユア……大丈夫? 何か食べたいものある?」
「……食べたいもの……は要らないので……婚約者様と会いたくないです……」
「……そんなに会いたくないの? とっても素敵なお方なのに……」
「嫌です…………自由がいいです。まだお顔もお名前も知りたくありません。考えたくないのです……怖くて悲しくて……頭痛が治らないのです……」
とっくに頭痛はおさまっていたが、この時のユアはどうしても婚約者に会いたくなかったのだ。元気がなく悲しそうな彼女の表情に、見かねた父と母が婚約者の両親と話し合った結果、ユアが16歳になったら顔合わせをするということになった。つまり、結婚するその時まで婚約者に会わなくていいことになったのだ。それを知ったユアは、あっという間に元気を取り戻した。
それから年を重ねた彼女は、自分がとんでもないわがままを聞き入れてもらったことを自覚した。幼かったから仕方がないようにも思えるが、冷静になると、自分の行いがいかに非常識で無礼極まりないことかがわかり、彼女はとても後悔した。
(お相手の方になんて失礼な態度を取ってしまったのでしょう……本当に私ったら……なんということを…………)
父も母も、ユアが体調を崩さないようにと気を使い、あれ以来彼女の前で結婚の話をすることは一度もなかった。彼女も彼女で、今更「もう顔合わせできる状態でございます」と言えるはずもなく、気づけばあと半年で16歳だ。
「はぁ~~~~~…………」
ユアは大きなため息を吐くと上を向き、綺麗な青空に願った。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様。
今の今まで一度もご挨拶しておらず、誠に申し訳ございません。
半年後にお会いした際、どうかお優しいお顔で、お優しいお心で接していただけますよう、心より深くお願い申し上げます……。
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