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#17 美術準備室

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 振り向き、目に映ったのは……。

「アーリン様……!?」

「そちらの部屋に何の用があるのかしら?」

「あっ それは……」

「やめておいた方がいいわよ、そんな汚らしい部屋」

「……えっ?」

(汚らしい部屋……?)

 アーリン様は周りに誰もいないことを確認すると、小声で話した。

「ここは浮気現場よ」

「!?」

(そ……それは……)

「あなた、エミリー様と一緒にいるわよね。ちょっと今から話せるかしら?」

「……はい……」

 アーリン様に連れられ、隣の美術準備室に入った。
 私の胸はざわついていた。

(もしかして、アーリン様もアルザ様の浮気をご存じで……!?)

 予想は完全に的中した。

「ちょっとこちらへ来てくださる?」

 言われるがまま、例の部屋側の壁際へ行く。
 アーリン様が壁際に置かれてある壺を横にずらすと、壁に細長い縦長の小さな穴があった。

「覗いてみてくださる?」

 覗くと、少し見えにくいものの、例の部屋を見ることができた。

「えっ!!」

「この部屋で探し物をしていた際に、隣の部屋から声が聞こえたのよ。何かしら?と思って壁に近づいたら偶然この穴を見つけたの。覗いてみたらあらビックリよ。アルザ様が美術部の先輩とキスしているんだもの」

「!!!」

「アルザ様がエミリー様と親しいのはみんな周知のことでしょ? 婚約はしていないようだけど、その内するだろうって噂されていたし」

「……そう……ですね……」

「今はマークス様といい感じみたいだけど。ちゃんと見る目はあったみたいね。別にわたくしはエミリー様のことは知らないから、彼女がどうなろうと興味はなかったけど、マークス様の意中の相手だものね。見る目を持っていてもらわないと困るわ」

「えっ!? えっ……えっ……」

 色んなことに驚き、『えっ』しか言葉が出なかった。
 他の語彙はどこへ行ってしまったのやら。

「何をそんなに驚いているの?」

「あっ えと……」

 何より一番驚いたのは、アーリン様がエミリーとマークス様の関係性に気づいていて、かつ受け入れているということだ。

「あなたが何に驚いていようがわたくしには関係ないけど。とにかく隣の部屋に入らない方がいい理由はわかったわね?」

「はい……」

「あの部屋に何か用事があったのかしら? ひょっとしてあなた、物でも置いているの? 嫌だわ、ガラクタ置き場に加担しないでちょうだい」

「いえっ 何も置いておりませんわ! その……」

 私はエミリーのことをアーリン様に相談した。
 なぜかはわからないが、そうするべきだと直感したのだ。


「そんなの、さっさと浮気現場を見せちゃえばいいのよ」

 アーリン様はあっさりとそう言った。

「わたくしに任せていただけるかしら」

「……?」


 数日後、中休みにアーリン様に呼び出された。
 アーリン様はエミリーに美術準備室の穴から浮気現場を見せたらしい。
 美術部の先輩が部活を抜け出すタイミングをよく知っていたため、予め山を張り、簡単にエミリーに見せることができたそう。

 急展開に動揺しつつ、一番気になることを尋ねた。

「エ……エミリーの様子はっ……どうでしたか……?」

「彼女は強いわよ。ショックは受けたみたいだけど、あの目は真っすぐに前を向いていたわ。彼女なら絶対に大丈夫よ。マークス様が選んだお方なんだから当然よ」

 アーリン様の言い方に、なんだかとても心が救われる気持ちになった。

「アーリン様……本当に……本当にありがとうございました……!」

「いいわよお礼なんて。それより、あなた婚約したんだってね。よかったじゃない」

「! ありがとうございます……」

「待ち遠しいでしょ」

「えっ?」

「早く結婚生活を送りたいんじゃないの?」

「あっ……! はい! それはもう……今すぐにでも……」

「ふふ。いい顔するじゃない。わかるわ。わたくしも卒業が待ち遠しいもの。早くキス以上のことがしたいわ……」

「……えぇっ!?」

 自分でも驚くほど大きな声を出してしまい、アーリン様も目をきょとんとさせた。
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