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ニート生活の終わりを告げる言葉
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大学を中退して早五年。
社会から離れ、自由な生活を手に入れた俺――杉野和哉は、衣食住の整った環境下で食べて遊んで寝るだけの生活を謳歌していた。
辛いことからは逃げ続け、好きなことだけをして生きていく。
面倒くさい人間関係に囚われることもなければ、理不尽な要求を呑むこともない。
まさに俺の理想が叶えられた夢のような世界。
ゲームをしてアニメをみてネットサーフィンをしていれば一日なんてあっという間に終わってしまう。
ニートは退屈だという者もいるが、それはニート適正を持ち合わせていないだけで、娯楽に興じて生きていくことより熱中出来るものなんてない。
俺は今日も、流行りのアクションゲームを楽しんでいる。
やりこみ要素が豊富過ぎて、時間が全然足りていない。
よしっ、やっと落ちた。レア素材のドロップ率低すぎだろ。
夜通しプレイをし、目標を達成した時の充実感に勝るものはない。
現実世界も、努力がきちんと結果に表れるのであれば、少しくらい頑張ってみようと思わなくはなかったのだが……。
嫌な考えが頭に浮かび、自然と深いため息が漏れる。
両手を組み、ぐーーっと伸びをすると、体の緊張がじわじわとほぐれていった。
コップの水を飲みながら辺りを見回すと、カーテンの隙間から日の光が部屋に入ってきているのに気がつく。
明るくなってきたし、そろそろ寝るか。
朝から忙しなく活動する人々を想像すると、今から床に就く自分に特別感を抱く。
ベッドに横たわりタオルケット掛け、ゆっくりと眠りについた。
◇
部屋全体が小刻みに揺れるほどの激しいノック音がした後、自室の扉が開いた。
俺はその振動で目が覚め、体をゆっくりと起こす。
なんだよ、こんな時間に。
重たい瞼を擦り、部屋に入ってきた人物を確認する。
するとそこには、しかめっ面をした親父が堂々と立っていた。
今まで俺に無関心だった親父が、部屋に来るなんて珍しい。
何か用でもあるのか?
長い間会話をしていないので、こちらから話しかけるのは気が引ける。
気まずい空気が流れる中で、先に行動を起こしたのは親父の方だった。
ベッドに向かって投げた茶封筒を指差し、俺に拾えと合図する。
それを手に取り中身を確認すると、一万円札が十枚程入っていた。
小遣い? にしては金額が大きすぎる。
一体、何のための金なのか。思考を巡らせるが答えが導き出せない。
「なに、これ?」
やっとの思いで出した声は驚くほど掠れていた。
恐らく親父の威圧感に当てられたのだろう。
俺は親父を直視出来ず、封筒をいじりながら返答を待った。
すると親父は低く野太い声で俺に言い放つ。
「今月中にこの家から出ていけ。それは手切れ金だ」
……え? 手切れ金?
呆気に取られている俺を捨て置き、親父は部屋をあとにした。
俺は言い伝えられた言葉を咀嚼するので精一杯で事の真相を問いかけることも、跡を追いかけることも出来なかった。
出ていけなんて言われても、行く場所なんてあるわけがない。
今更働く気も起きないし、真面目に働ける気もしない。
何としてでも、ここに居続けるしかないな。
スマホをつけ、今日の日付を確認する。
月が替わるまで、あと三日。
大丈夫だ。なるようになる。
俺は気を紛らわすため、もう一度寝ることにした。
社会から離れ、自由な生活を手に入れた俺――杉野和哉は、衣食住の整った環境下で食べて遊んで寝るだけの生活を謳歌していた。
辛いことからは逃げ続け、好きなことだけをして生きていく。
面倒くさい人間関係に囚われることもなければ、理不尽な要求を呑むこともない。
まさに俺の理想が叶えられた夢のような世界。
ゲームをしてアニメをみてネットサーフィンをしていれば一日なんてあっという間に終わってしまう。
ニートは退屈だという者もいるが、それはニート適正を持ち合わせていないだけで、娯楽に興じて生きていくことより熱中出来るものなんてない。
俺は今日も、流行りのアクションゲームを楽しんでいる。
やりこみ要素が豊富過ぎて、時間が全然足りていない。
よしっ、やっと落ちた。レア素材のドロップ率低すぎだろ。
夜通しプレイをし、目標を達成した時の充実感に勝るものはない。
現実世界も、努力がきちんと結果に表れるのであれば、少しくらい頑張ってみようと思わなくはなかったのだが……。
嫌な考えが頭に浮かび、自然と深いため息が漏れる。
両手を組み、ぐーーっと伸びをすると、体の緊張がじわじわとほぐれていった。
コップの水を飲みながら辺りを見回すと、カーテンの隙間から日の光が部屋に入ってきているのに気がつく。
明るくなってきたし、そろそろ寝るか。
朝から忙しなく活動する人々を想像すると、今から床に就く自分に特別感を抱く。
ベッドに横たわりタオルケット掛け、ゆっくりと眠りについた。
◇
部屋全体が小刻みに揺れるほどの激しいノック音がした後、自室の扉が開いた。
俺はその振動で目が覚め、体をゆっくりと起こす。
なんだよ、こんな時間に。
重たい瞼を擦り、部屋に入ってきた人物を確認する。
するとそこには、しかめっ面をした親父が堂々と立っていた。
今まで俺に無関心だった親父が、部屋に来るなんて珍しい。
何か用でもあるのか?
長い間会話をしていないので、こちらから話しかけるのは気が引ける。
気まずい空気が流れる中で、先に行動を起こしたのは親父の方だった。
ベッドに向かって投げた茶封筒を指差し、俺に拾えと合図する。
それを手に取り中身を確認すると、一万円札が十枚程入っていた。
小遣い? にしては金額が大きすぎる。
一体、何のための金なのか。思考を巡らせるが答えが導き出せない。
「なに、これ?」
やっとの思いで出した声は驚くほど掠れていた。
恐らく親父の威圧感に当てられたのだろう。
俺は親父を直視出来ず、封筒をいじりながら返答を待った。
すると親父は低く野太い声で俺に言い放つ。
「今月中にこの家から出ていけ。それは手切れ金だ」
……え? 手切れ金?
呆気に取られている俺を捨て置き、親父は部屋をあとにした。
俺は言い伝えられた言葉を咀嚼するので精一杯で事の真相を問いかけることも、跡を追いかけることも出来なかった。
出ていけなんて言われても、行く場所なんてあるわけがない。
今更働く気も起きないし、真面目に働ける気もしない。
何としてでも、ここに居続けるしかないな。
スマホをつけ、今日の日付を確認する。
月が替わるまで、あと三日。
大丈夫だ。なるようになる。
俺は気を紛らわすため、もう一度寝ることにした。
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