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第八話 その名はアーサー(5)
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港町を襲う、海風。
湿った空気はべったりと張り付き、潮の香りで人を包むこむ。
「当時、この海を越えて大陸に逃げてしまおうかと考えたことがある」
四人がアーサーの後を追って店を出ると、彼は背を向けたまま語り始めた。
「しかし、アイルランドに渡ったところで、さらにまたアングロサクソンが攻めてこないとも限らないしな」
「アイルランドのやつらも守ってやろうと思って戦ったわけよ」
腕組みしながら遠い目で語るアーサーの背中には切なさと寂しさが入り混じっている。
「さあ、遊んでやるよ、小僧共」
アーサーが振り向きながら言うやいなや、その顔に刃物が2、3飛んできた。ライラである。しかし、アーサーが難なく避けた。
「ふんっ」
体勢が崩れたところにエドウィンが剣を打ち下ろした。
「おっと」
アーサーはエドウィンの懐に潜ると、剣を握っている手首を掴み、その勢いのままに投げ飛ばした。
ガキィイン。
ペンダが音もなく背後に忍び寄り、アーサーの背に剣を突きたてるも、アーサーはエドウィンから奪った剣で弾いた。瞬時に間合いを詰められ、ペンダは腹を蹴り飛ばされた。
「ドゥール!」
一瞬にして、大気中の水分がカドワロンの手に集まると、アーサーへ塊となって飛んで行った。
「リッド」
アーサーが唱えると、水塊は炎に包まれ瞬時に蒸発した。
「そんな、この湿気の中で火炎魔術だなんてっ、しかもこんな短時間にっ」
カドワロンが喚いた。
遠距離攻撃から一気に近接攻撃で畳み掛けている間に魔術構築。四人の完璧な連携は簡単にアーサーによって破られた。
「お前ら、出会って間もないのに、きっちりと連携がとれてるじゃないか」
エドウィンの剣を肩に担ぎながら、アーサーが言った。
「もっとバラバラかと思ったが、感心感心」
「くっ、貴様の目的はなんなんだっ」
エドウィンが体を起こしながら吼えた。
「だから、この大先輩がアドバイスしてやるって言ってんだろ、指導しに来たんだよ、お前らのことをよ」
「百年以上前の英雄が指導して下さるとは有難いもんだな」
「ああ、おれっちもやりたくて来たわけじゃねえがな」
ライラの軽口に多少イラつきながらもアーサーが答えた。
「エドウィン、どうやら危害を加えるつもりはないようです」
カドワロンが進言すると、エドウィンは黙って頷いた。
そしてアーサーに導かれ、四人は町を出た。月明かりだけをたよりに夜の林を進むことになったのである。
湿った空気はべったりと張り付き、潮の香りで人を包むこむ。
「当時、この海を越えて大陸に逃げてしまおうかと考えたことがある」
四人がアーサーの後を追って店を出ると、彼は背を向けたまま語り始めた。
「しかし、アイルランドに渡ったところで、さらにまたアングロサクソンが攻めてこないとも限らないしな」
「アイルランドのやつらも守ってやろうと思って戦ったわけよ」
腕組みしながら遠い目で語るアーサーの背中には切なさと寂しさが入り混じっている。
「さあ、遊んでやるよ、小僧共」
アーサーが振り向きながら言うやいなや、その顔に刃物が2、3飛んできた。ライラである。しかし、アーサーが難なく避けた。
「ふんっ」
体勢が崩れたところにエドウィンが剣を打ち下ろした。
「おっと」
アーサーはエドウィンの懐に潜ると、剣を握っている手首を掴み、その勢いのままに投げ飛ばした。
ガキィイン。
ペンダが音もなく背後に忍び寄り、アーサーの背に剣を突きたてるも、アーサーはエドウィンから奪った剣で弾いた。瞬時に間合いを詰められ、ペンダは腹を蹴り飛ばされた。
「ドゥール!」
一瞬にして、大気中の水分がカドワロンの手に集まると、アーサーへ塊となって飛んで行った。
「リッド」
アーサーが唱えると、水塊は炎に包まれ瞬時に蒸発した。
「そんな、この湿気の中で火炎魔術だなんてっ、しかもこんな短時間にっ」
カドワロンが喚いた。
遠距離攻撃から一気に近接攻撃で畳み掛けている間に魔術構築。四人の完璧な連携は簡単にアーサーによって破られた。
「お前ら、出会って間もないのに、きっちりと連携がとれてるじゃないか」
エドウィンの剣を肩に担ぎながら、アーサーが言った。
「もっとバラバラかと思ったが、感心感心」
「くっ、貴様の目的はなんなんだっ」
エドウィンが体を起こしながら吼えた。
「だから、この大先輩がアドバイスしてやるって言ってんだろ、指導しに来たんだよ、お前らのことをよ」
「百年以上前の英雄が指導して下さるとは有難いもんだな」
「ああ、おれっちもやりたくて来たわけじゃねえがな」
ライラの軽口に多少イラつきながらもアーサーが答えた。
「エドウィン、どうやら危害を加えるつもりはないようです」
カドワロンが進言すると、エドウィンは黙って頷いた。
そしてアーサーに導かれ、四人は町を出た。月明かりだけをたよりに夜の林を進むことになったのである。
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