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第八話 その名はアーサー(3)

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 誰とでもすぐに仲良くなる男。こういう摩訶不思議な人間はいつの時代にもいるもので、たまに大きなことをやらかしてしまう。
 険悪な関係で互いをいがみ合っていた大勢力を結びつけて国家を討ち倒してしまったり、大乱平定の趨勢が決まったにも関わらず僻地に引きこもって皇帝を名乗り乱を延々と引き伸ばしてしまったりと、在野にいると権力者にとって驚異となるような男だ。
 エドウィン一行の前に現われたこの派手な男もおそらくそのような男なのであろう。

「もう食いきれねえ」
 ライラが腹に両手を当てながら背もたれに背中を押し付けた。
 ライラ、そして三人が囲むテーブルには多くの皿が重ねられている。ほとんどはライラの胃袋に納まったが、まだ少なからず料理がテーブルの上に残っている状況だ。

「お前らも食えよ、おれに押し付けやがって、食わねえと宿に戻れないじゃねえか」
 ライラが三人に向かって不満を言ったが、エドウィンは腕を組んで目を瞑り、ペンダはそっぽを向いて右手の爪を見続け、カドワロン笑顔を固定したまま何も言わない。

「ったく、コミュ障どもが、めんどうごとは全部おれに押し付けやがって」
 ライラが普段、心の中で愚痴っていることを言葉に出した。

「さあ、今宵はおれっちの奢りだい、遠慮せずに飲んで食ってくれい」
 店中のテーブルに酒と料理が満たされている。先ほど食って掛かってきた傷の男と話をするうちに、その身の上に涙を流し、かと思えば腹を抱えて笑ううちに余所者としての警戒は打ち解けた。おれの話も聞いてくれと別の客がその男のテーブルに来てから拍車がかかり、店中を巻き込んだ大騒ぎの宴となった。

「帰りづらい雰囲気ですね」
 三人だけに聞こえる声でカドワロンがそう言ったのを察したのか。
「若い旅人さん達、あんたらも食ってくれよ」
 そう言って、宴の主が自ら料理を持ってきたのだ。
 エドウィンとペンダは無愛想だったが、ライラとカドワロンが笑顔で応えた。にっこりとしたまま黙って料理をライラの方に押しやるカドワロンは、ライラが先ほど音を上げるまで、お前が食えと言わんばかりに、笑顔を固めたままであった。
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