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43 すれ違いの結末
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「まさか学園のあの園芸員が大魔術師だったなんて俺は今でも信じられないんだけど」
先頭を歩くイーライの背をまじまじと見ながら、リーヴァイは少し前にいるジャスパーの背中を突付いていた。
「あれでもちゃんとした魔術師だ。現にここまで来られたじゃないか」
「それとこれとは別な訳よ。単純に脳が追いついていない訳よ」
王都に緑色熊が複数の地で目撃されてから数時間。民の安全を優先し、王都に残る部隊とオーウェン領に向かう部隊が編成された。そしてオーウェン領で起こっている事態の緊急性により、取り急ぎ数人をこの地へ送る為にイーライが魔術でオーウェン領と空間を繋げたのだった。その代わりに学園にある温室も園芸室から自室へと繋がる道も全てが消えていた。
「こういう事態に直面すると、魔術師ってのは俺達よりもずっと凄いんだなって思い知らされるよな」
リーヴァイにしては珍しく弱音を吐いた瞬間、大きな音と共に地面が揺れた。
「なんだ、地震か!?」
するとイーライは揺れを物ともせずに先に見えた洞窟の中へ走って行ってしまった。
「イーライ殿! 一人では危険だ!」
大魔術師を前にして危険というのもおかしな話だが、ジャスパーも揺れが収まった瞬間に走り出していた。
洞窟内に入っても揺れが細かく起きている。そして奥の広い空洞に出た瞬間、ジャスパーは声を張り上げた。
「メリベルッ!」
天井から大きな岩が落ちていくる。腕を伸ばしたが届く訳がない。目を瞑る事もそれ以上動く事も出来なかった。
パラパラと小石が振り、大岩が落ちてくる。落ちて……こない。大岩は宙で止まっていた。
「クソッ、早く避けろ馬鹿者!」
メリベルは我に返ったように大岩の下から避けた瞬間、イーライは放っていた土魔術を解いた。地面からせり上がっていた土が一瞬にして砕け散る。周囲には土煙が上がり、しばらくの間無いも見えなくなってしまった。
「先生? それに、もしかしてジャスパー様も?」
メリベルは周囲の空気を払うように目を細めた。顔を見なくても分かる。この魔術は先生だし、ジャスパーの声も間違いなく聞こえていた。
「俺もいますよ、メリベル様」
「リーヴァイ様ですか!? なんで皆ここにいるんです」
「そんなのお前が誘拐されたからに決まって……」
その瞬間、先生の言葉を追い越してジャスパーに抱き締められていた。
「良かった、無事で良かったッ」
「……申し訳ありません、私」
その瞬間、後ろから唸り声が上がった。
「なんだあれは」
「クレイシーさんです。魔素に取り込まれてしまって」
それ以上は言葉にならない。見上げると、ジャスパーが頷き返してくれた。
「ここを出よう。いつ崩落してもおかしくない」
「駄目だ駄目だ! お前の魔廻全てをあの御方に捧げるのだ!」
ギチっと髪の毛を掴まれた瞬間、ジャスパーは剣を抜いた。剣が振られダリアが腕を引っ込める。つうっと細い血の線が流れていく。そして鋭い視線でジャスパーを睨み付けた。
「クレイシー様の悲しみはお前達には分かるまい。家族からもお前達からも切り離されたあの方の悲しみがッ」
「……確かにクレイシーの悲しみは俺には分からない。俺達はずっとソル神を信仰してきたし、愛する人はずっと俺だけを見ていてくれたから」
そう言って視線が落ちてくる。目が合いとっさに逸してしまったが、抱き締めてくる腕の強さは増していた。
「おい! さっさと洞窟を出るぞ!」
先に進んでいたイーライとリーヴァイが叫んでいる。ジャスパーは切っ先をタウやダリアに向けた。
「お前達もここから出るんだ。逃げる事もここで死ぬ事も許さない」
「絵を、絵を外さなくては」
タウが壁に掛けている絵を外そうとした瞬間、リーヴァイがタウを捕まえると片腕で持ち上げた。
「絵なんていいからすぐにここを出るぞ!」
イーライは土魔術を使うと植物の蔦をダリアと魔素に染まっているクレイシーに伸ばした。ダリアは捕まったが、何故か蔦はクレイシーの手前で止まってしまった。そして再び地面が大きく揺れた。
「メリベルもう行くぞ!」
「でもクレイシーさんが……」
その瞬間、ジャスパーはメリベルを片手で抱き抱えた。
「待って下さい! クレイシーさんを置いていけません!」
叫んでも背中を叩いてもジャスパーが止まってくれる事はない。後ろから先生の姿も見える。その瞬間、奥で大岩が幾つも落ちる音がした。
「姉さん! 姉さんが、姉さんが埋もれてしまったッ。お前のせいだ! お前のせいだぞ!」
その瞬間、タウはリーヴァイの胸ぐらを勢いよく掴んだ。もちろん体格の違いからリーヴァイが押し負ける事はない。それでもタウは何度も全力で押しながら服を乱暴に振っていた。少し離れた場所では蔦に絡まったままのダリアが茫然自失で立ち尽くしている。ただ崩れた洞窟を見つめたまま、全く動こうとしない。メリベルは誰にも声を掛けられないままジャスパーの腕から降りた。
「怪我はないか?」
優しい声が振ってくるが返事が出来ない。するとジャスパーはそっと肩を支えるように抱き締めてきた。
「俺を恨んでくれても構わない。俺は救いたい者を選んだんだ」
「……恨んだりなんかしません。助けて下さりありがとうございます」
タウの泣き声が響いている。リーヴァイは乱暴にタウを払う事もなく、そっと腕を離した。タウはそのまま地面に蹲るようにして更に声を上げて泣いた。
「オーウェン辺境伯の屋敷に滞在をして王都からの応援が来るのを待つ事になる。それまでこの者達は監禁だ」
「クレイシーさんの捜索は……」
その瞬間、イーライはダリアを捕らえていた蔦を短くして引いた。
「こらこら、逃げようとしたって無駄だからな」
ダリアは蔦に引っ張られてその場に膝を突くと、自由にならない腕で体を支える事も出来ずにそのまま顔から地面にぶつかった。肩が震えている。メリベルは堪らずにジャスパーの胸に顔を埋めた。
「ここにいても仕方ないからオーウェン辺境伯の屋敷に戻ろう。それに急いで魔術師を派遣し、この周辺を浄化しなくては」
誰もが重い気持ちのままジャスパー達が乗ってきた馬を繋いでいる場所まで歩き出した時だった。
瓦礫に埋もれた洞窟から一気に黒い物が吹き上がる。周囲には粉々に砕け散った石が飛び散り、目の前の視界はジャスパーによって塞がれた。
「ジャスパー様どけて下さい! ジャスパー様!」
すぐ近くでゴトゴトと石が地面に落ちる大きな音がしている。そして最悪な事に、ゴンッという音がすぐ上でした。小さな呻き声と共にジャスパーが少し重くなる。
「……ジャスパー様?」
恐る恐る頬に手を伸ばすと、ヌルっとした温かい物が垂れてくる。ポタポタと額に、頬に当たるそれを指で触れた。
ーー血。
「少し掠っただけだ」
「でも、でも……」
ジャスパーは無造作に血を拭うと覆い被さったまま優しく微笑んだ。そして立ち上がると叫んだ。
「全員無事か!?」
とっさにイーライが防護魔術を放っていたらしい。そのお陰で大きい岩は粉々に砕けていたようだった。
「これ結構大変だから早く逃げてくれるか?」
イーライは頬を引き攣らせながら言った。黒い物は大量の魔素。ここには魔廻を持っていないジャスパーとリーヴァイもいる。イーライの防護魔術が解けたら間違いなく死んでしまう。メリベルはジャスパーの腕の中から無理やりに出ると、イーライの元に走った。
「馬鹿か! 戻るな! 逃げろ!」
「それから先生はどうするんですか! まさか一人で死ぬ気ですか!?」
「なんで僕が死ぬんだよ! お前らがいると邪魔なの! 一人の方が動きやすいんだよ!」
「嘘です! 先生だってもう限界のはずでしょう? 見れば分かります、フラフラじゃないですか」
さっきジャスパーはオーウェン辺境伯の屋敷と言った。とすればここは王都からかなり離れた場所という事になる。こんなに早く王都からジャスパー達が来られる訳がないのだから、きっとイーライが無理をしたに違いなかった。
しかし吹き出した魔素は次第に縮小していき、やがて人型を取り始めていった。
「クレイシー様? クレイシー様ですか!?」
いつの間にかダリアを捕らえていた蔦は消えており、ダリアは防護魔術の外へと出てしまった。それだけイーライがこの防護魔術を発動するだけで手一杯という事なのだろう。声で制止する事は出来てもダリアを止める事は出来なかった。
人型はどんどん姿が明確になっていく。その瞬間、目の前に広がる防護魔術がグニャリと歪んだ。とっさに横を見ると先生の様子がおかしい。震えているのか、泣いているのか、そんな顔をしていた。
「先生しっかりして下さい!」
「……ルナ様」
「え?」
「あれはルナ様だ」
先頭を歩くイーライの背をまじまじと見ながら、リーヴァイは少し前にいるジャスパーの背中を突付いていた。
「あれでもちゃんとした魔術師だ。現にここまで来られたじゃないか」
「それとこれとは別な訳よ。単純に脳が追いついていない訳よ」
王都に緑色熊が複数の地で目撃されてから数時間。民の安全を優先し、王都に残る部隊とオーウェン領に向かう部隊が編成された。そしてオーウェン領で起こっている事態の緊急性により、取り急ぎ数人をこの地へ送る為にイーライが魔術でオーウェン領と空間を繋げたのだった。その代わりに学園にある温室も園芸室から自室へと繋がる道も全てが消えていた。
「こういう事態に直面すると、魔術師ってのは俺達よりもずっと凄いんだなって思い知らされるよな」
リーヴァイにしては珍しく弱音を吐いた瞬間、大きな音と共に地面が揺れた。
「なんだ、地震か!?」
するとイーライは揺れを物ともせずに先に見えた洞窟の中へ走って行ってしまった。
「イーライ殿! 一人では危険だ!」
大魔術師を前にして危険というのもおかしな話だが、ジャスパーも揺れが収まった瞬間に走り出していた。
洞窟内に入っても揺れが細かく起きている。そして奥の広い空洞に出た瞬間、ジャスパーは声を張り上げた。
「メリベルッ!」
天井から大きな岩が落ちていくる。腕を伸ばしたが届く訳がない。目を瞑る事もそれ以上動く事も出来なかった。
パラパラと小石が振り、大岩が落ちてくる。落ちて……こない。大岩は宙で止まっていた。
「クソッ、早く避けろ馬鹿者!」
メリベルは我に返ったように大岩の下から避けた瞬間、イーライは放っていた土魔術を解いた。地面からせり上がっていた土が一瞬にして砕け散る。周囲には土煙が上がり、しばらくの間無いも見えなくなってしまった。
「先生? それに、もしかしてジャスパー様も?」
メリベルは周囲の空気を払うように目を細めた。顔を見なくても分かる。この魔術は先生だし、ジャスパーの声も間違いなく聞こえていた。
「俺もいますよ、メリベル様」
「リーヴァイ様ですか!? なんで皆ここにいるんです」
「そんなのお前が誘拐されたからに決まって……」
その瞬間、先生の言葉を追い越してジャスパーに抱き締められていた。
「良かった、無事で良かったッ」
「……申し訳ありません、私」
その瞬間、後ろから唸り声が上がった。
「なんだあれは」
「クレイシーさんです。魔素に取り込まれてしまって」
それ以上は言葉にならない。見上げると、ジャスパーが頷き返してくれた。
「ここを出よう。いつ崩落してもおかしくない」
「駄目だ駄目だ! お前の魔廻全てをあの御方に捧げるのだ!」
ギチっと髪の毛を掴まれた瞬間、ジャスパーは剣を抜いた。剣が振られダリアが腕を引っ込める。つうっと細い血の線が流れていく。そして鋭い視線でジャスパーを睨み付けた。
「クレイシー様の悲しみはお前達には分かるまい。家族からもお前達からも切り離されたあの方の悲しみがッ」
「……確かにクレイシーの悲しみは俺には分からない。俺達はずっとソル神を信仰してきたし、愛する人はずっと俺だけを見ていてくれたから」
そう言って視線が落ちてくる。目が合いとっさに逸してしまったが、抱き締めてくる腕の強さは増していた。
「おい! さっさと洞窟を出るぞ!」
先に進んでいたイーライとリーヴァイが叫んでいる。ジャスパーは切っ先をタウやダリアに向けた。
「お前達もここから出るんだ。逃げる事もここで死ぬ事も許さない」
「絵を、絵を外さなくては」
タウが壁に掛けている絵を外そうとした瞬間、リーヴァイがタウを捕まえると片腕で持ち上げた。
「絵なんていいからすぐにここを出るぞ!」
イーライは土魔術を使うと植物の蔦をダリアと魔素に染まっているクレイシーに伸ばした。ダリアは捕まったが、何故か蔦はクレイシーの手前で止まってしまった。そして再び地面が大きく揺れた。
「メリベルもう行くぞ!」
「でもクレイシーさんが……」
その瞬間、ジャスパーはメリベルを片手で抱き抱えた。
「待って下さい! クレイシーさんを置いていけません!」
叫んでも背中を叩いてもジャスパーが止まってくれる事はない。後ろから先生の姿も見える。その瞬間、奥で大岩が幾つも落ちる音がした。
「姉さん! 姉さんが、姉さんが埋もれてしまったッ。お前のせいだ! お前のせいだぞ!」
その瞬間、タウはリーヴァイの胸ぐらを勢いよく掴んだ。もちろん体格の違いからリーヴァイが押し負ける事はない。それでもタウは何度も全力で押しながら服を乱暴に振っていた。少し離れた場所では蔦に絡まったままのダリアが茫然自失で立ち尽くしている。ただ崩れた洞窟を見つめたまま、全く動こうとしない。メリベルは誰にも声を掛けられないままジャスパーの腕から降りた。
「怪我はないか?」
優しい声が振ってくるが返事が出来ない。するとジャスパーはそっと肩を支えるように抱き締めてきた。
「俺を恨んでくれても構わない。俺は救いたい者を選んだんだ」
「……恨んだりなんかしません。助けて下さりありがとうございます」
タウの泣き声が響いている。リーヴァイは乱暴にタウを払う事もなく、そっと腕を離した。タウはそのまま地面に蹲るようにして更に声を上げて泣いた。
「オーウェン辺境伯の屋敷に滞在をして王都からの応援が来るのを待つ事になる。それまでこの者達は監禁だ」
「クレイシーさんの捜索は……」
その瞬間、イーライはダリアを捕らえていた蔦を短くして引いた。
「こらこら、逃げようとしたって無駄だからな」
ダリアは蔦に引っ張られてその場に膝を突くと、自由にならない腕で体を支える事も出来ずにそのまま顔から地面にぶつかった。肩が震えている。メリベルは堪らずにジャスパーの胸に顔を埋めた。
「ここにいても仕方ないからオーウェン辺境伯の屋敷に戻ろう。それに急いで魔術師を派遣し、この周辺を浄化しなくては」
誰もが重い気持ちのままジャスパー達が乗ってきた馬を繋いでいる場所まで歩き出した時だった。
瓦礫に埋もれた洞窟から一気に黒い物が吹き上がる。周囲には粉々に砕け散った石が飛び散り、目の前の視界はジャスパーによって塞がれた。
「ジャスパー様どけて下さい! ジャスパー様!」
すぐ近くでゴトゴトと石が地面に落ちる大きな音がしている。そして最悪な事に、ゴンッという音がすぐ上でした。小さな呻き声と共にジャスパーが少し重くなる。
「……ジャスパー様?」
恐る恐る頬に手を伸ばすと、ヌルっとした温かい物が垂れてくる。ポタポタと額に、頬に当たるそれを指で触れた。
ーー血。
「少し掠っただけだ」
「でも、でも……」
ジャスパーは無造作に血を拭うと覆い被さったまま優しく微笑んだ。そして立ち上がると叫んだ。
「全員無事か!?」
とっさにイーライが防護魔術を放っていたらしい。そのお陰で大きい岩は粉々に砕けていたようだった。
「これ結構大変だから早く逃げてくれるか?」
イーライは頬を引き攣らせながら言った。黒い物は大量の魔素。ここには魔廻を持っていないジャスパーとリーヴァイもいる。イーライの防護魔術が解けたら間違いなく死んでしまう。メリベルはジャスパーの腕の中から無理やりに出ると、イーライの元に走った。
「馬鹿か! 戻るな! 逃げろ!」
「それから先生はどうするんですか! まさか一人で死ぬ気ですか!?」
「なんで僕が死ぬんだよ! お前らがいると邪魔なの! 一人の方が動きやすいんだよ!」
「嘘です! 先生だってもう限界のはずでしょう? 見れば分かります、フラフラじゃないですか」
さっきジャスパーはオーウェン辺境伯の屋敷と言った。とすればここは王都からかなり離れた場所という事になる。こんなに早く王都からジャスパー達が来られる訳がないのだから、きっとイーライが無理をしたに違いなかった。
しかし吹き出した魔素は次第に縮小していき、やがて人型を取り始めていった。
「クレイシー様? クレイシー様ですか!?」
いつの間にかダリアを捕らえていた蔦は消えており、ダリアは防護魔術の外へと出てしまった。それだけイーライがこの防護魔術を発動するだけで手一杯という事なのだろう。声で制止する事は出来てもダリアを止める事は出来なかった。
人型はどんどん姿が明確になっていく。その瞬間、目の前に広がる防護魔術がグニャリと歪んだ。とっさに横を見ると先生の様子がおかしい。震えているのか、泣いているのか、そんな顔をしていた。
「先生しっかりして下さい!」
「……ルナ様」
「え?」
「あれはルナ様だ」
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