隠された第四皇女

山田ランチ

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6 そしてあの日へ

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 ふと窓から黄色い花が見え、引き寄せられるようにこの場所を訪れ出した頃、先客がいたのは始めての事だった。
 リナは一度は戻りかけた足を再びミモザの木に向かって進めると、木の近くになっていた女性は驚いた表情で振り返ってきた。
 互いに何も言わずに見つめ合っていると、振り返った女性はふわりとした優しい顔で微笑んできた。

「凄く素敵でしょう? ここまで大きくなるなんて思いもしませんでした」

 そう誇らしげにミモザの木を見上げた女性は、深呼吸するように目を閉じた。

「あなたが植えたんですか?」
「はい。私と幼馴染の三人で。ここは秘密の遊び場だったのですよ」
「そうとは知らずに申し訳ありませんでした! 以後立ち寄らないように致します」

 すると女性は心底驚いたように目を見開いた。

「なぜ? 沢山の人達に愛でられた方がきっとこの花も喜ぶはずです。それでなくてもここにほとんど人は来ないんですよ」
「確かに寂しい場所かもしれません」
「だから遊び場になったとも言えるのですけれどね」

 大人の女性なのに、どこか少女らしさを纏ったその女性は嬉しそうに微笑んだ。

「ね? だからこれからもここに来てくれますか?」
「私で良ければぜひ。あの、私は……」

 名乗りかけた所で女性は指を口の前に持っていき、シッと指を立てた。

「止めておきましょう。ここではただの友人として話しがしたいのです。それでは駄目でしょうか」
「友人……」
「私ったら申し訳ありません。始めてお会いしたのに友人だなんて」
「いえ! 私もそうなれたら嬉しいです」

 リナはそう言ってはみたものの、ローザ以外の女性と親しくなった事が無い事に気がついた。

「でも友人とは何をするんでしょうか」

 すると目の前の女性もしかめっ面になり、考え込んでしまった。

「そうですね、幼馴染とはこの辺りを駆け回ったり食堂にお菓子をこっそり取りに行ったりしましたが、女性とではそうもいかないでしょうし、第一もう許されない年ですから……」

 本気で考え込む姿に思わず笑ってしまうと、向こうも釣られて笑い出した。

「それならたまにここで女同士お話をするというのはどうでしょう? お茶会にしてしまうと気楽にお会い出来なくなってしまうので、好きなお菓子を包んでこっそり持ち寄るのです。いかがですか?」

 リナは元々魔女の能力が高い分、力が安定せずに身体が弱かったという事もあり、こんな風に同年代の友人と過ごした記憶はない。だからこそ叶う叶わないに関わらず、約束をするという事自体が嬉しかった。

「ジェニー! こんな所にいたのか! 早く戻って来るんだ!」

 後ろから聞こえた声にびくりとすると、赤い髪の男性が思い切り睨み付けてきていた。

「アレウス、私もう少しここに……」

 しかしアレウスと呼ばれた男性はジェニーの腕を思い切り掴むと、そのまま引き摺るように連れて行ってしまう。ジェニーと会ったのはそれが最初で最後だった。
その後、ローザの働きであの女性はジェニー・フックス公爵夫人だという事は調べが付いていた。そしてジェニーは出産後、体を壊し亡くなったと聞いたのは随分経ってからだった。




「リナ様? もしやあの場所に行かれるのですか?」

 ローザはリナの行く先を察して、不安そうに足を止めた。

「もうあの御方がお亡くなりになられて随分経つのよ。ずっと行けずにいたけれど、そろそろあの美しいミモザが恋しくなったわ」

 ジェニーの墓はあのミモザの木の元に建てられたと聞いていた。その墓を建てたのがフックス公爵ではなく、自分の夫のルシャードだと聞いた時は正直驚きはしなかった。皇宮のはずれにある塔に近づくに連れ、小さな少年の背中が視界に入る。たった一人で佇むまだ小さな背に赤い髪の少年。リナは居ても経ってもいられずに、その少年の背に声を掛けていた。
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