32 / 32
6 そしてあの日へ
しおりを挟む
ふと窓から黄色い花が見え、引き寄せられるようにこの場所を訪れ出した頃、先客がいたのは始めての事だった。
リナは一度は戻りかけた足を再びミモザの木に向かって進めると、木の近くになっていた女性は驚いた表情で振り返ってきた。
互いに何も言わずに見つめ合っていると、振り返った女性はふわりとした優しい顔で微笑んできた。
「凄く素敵でしょう? ここまで大きくなるなんて思いもしませんでした」
そう誇らしげにミモザの木を見上げた女性は、深呼吸するように目を閉じた。
「あなたが植えたんですか?」
「はい。私と幼馴染の三人で。ここは秘密の遊び場だったのですよ」
「そうとは知らずに申し訳ありませんでした! 以後立ち寄らないように致します」
すると女性は心底驚いたように目を見開いた。
「なぜ? 沢山の人達に愛でられた方がきっとこの花も喜ぶはずです。それでなくてもここにほとんど人は来ないんですよ」
「確かに寂しい場所かもしれません」
「だから遊び場になったとも言えるのですけれどね」
大人の女性なのに、どこか少女らしさを纏ったその女性は嬉しそうに微笑んだ。
「ね? だからこれからもここに来てくれますか?」
「私で良ければぜひ。あの、私は……」
名乗りかけた所で女性は指を口の前に持っていき、シッと指を立てた。
「止めておきましょう。ここではただの友人として話しがしたいのです。それでは駄目でしょうか」
「友人……」
「私ったら申し訳ありません。始めてお会いしたのに友人だなんて」
「いえ! 私もそうなれたら嬉しいです」
リナはそう言ってはみたものの、ローザ以外の女性と親しくなった事が無い事に気がついた。
「でも友人とは何をするんでしょうか」
すると目の前の女性もしかめっ面になり、考え込んでしまった。
「そうですね、幼馴染とはこの辺りを駆け回ったり食堂にお菓子をこっそり取りに行ったりしましたが、女性とではそうもいかないでしょうし、第一もう許されない年ですから……」
本気で考え込む姿に思わず笑ってしまうと、向こうも釣られて笑い出した。
「それならたまにここで女同士お話をするというのはどうでしょう? お茶会にしてしまうと気楽にお会い出来なくなってしまうので、好きなお菓子を包んでこっそり持ち寄るのです。いかがですか?」
リナは元々魔女の能力が高い分、力が安定せずに身体が弱かったという事もあり、こんな風に同年代の友人と過ごした記憶はない。だからこそ叶う叶わないに関わらず、約束をするという事自体が嬉しかった。
「ジェニー! こんな所にいたのか! 早く戻って来るんだ!」
後ろから聞こえた声にびくりとすると、赤い髪の男性が思い切り睨み付けてきていた。
「アレウス、私もう少しここに……」
しかしアレウスと呼ばれた男性はジェニーの腕を思い切り掴むと、そのまま引き摺るように連れて行ってしまう。ジェニーと会ったのはそれが最初で最後だった。
その後、ローザの働きであの女性はジェニー・フックス公爵夫人だという事は調べが付いていた。そしてジェニーは出産後、体を壊し亡くなったと聞いたのは随分経ってからだった。
「リナ様? もしやあの場所に行かれるのですか?」
ローザはリナの行く先を察して、不安そうに足を止めた。
「もうあの御方がお亡くなりになられて随分経つのよ。ずっと行けずにいたけれど、そろそろあの美しいミモザが恋しくなったわ」
ジェニーの墓はあのミモザの木の元に建てられたと聞いていた。その墓を建てたのがフックス公爵ではなく、自分の夫のルシャードだと聞いた時は正直驚きはしなかった。皇宮のはずれにある塔に近づくに連れ、小さな少年の背中が視界に入る。たった一人で佇むまだ小さな背に赤い髪の少年。リナは居ても経ってもいられずに、その少年の背に声を掛けていた。
リナは一度は戻りかけた足を再びミモザの木に向かって進めると、木の近くになっていた女性は驚いた表情で振り返ってきた。
互いに何も言わずに見つめ合っていると、振り返った女性はふわりとした優しい顔で微笑んできた。
「凄く素敵でしょう? ここまで大きくなるなんて思いもしませんでした」
そう誇らしげにミモザの木を見上げた女性は、深呼吸するように目を閉じた。
「あなたが植えたんですか?」
「はい。私と幼馴染の三人で。ここは秘密の遊び場だったのですよ」
「そうとは知らずに申し訳ありませんでした! 以後立ち寄らないように致します」
すると女性は心底驚いたように目を見開いた。
「なぜ? 沢山の人達に愛でられた方がきっとこの花も喜ぶはずです。それでなくてもここにほとんど人は来ないんですよ」
「確かに寂しい場所かもしれません」
「だから遊び場になったとも言えるのですけれどね」
大人の女性なのに、どこか少女らしさを纏ったその女性は嬉しそうに微笑んだ。
「ね? だからこれからもここに来てくれますか?」
「私で良ければぜひ。あの、私は……」
名乗りかけた所で女性は指を口の前に持っていき、シッと指を立てた。
「止めておきましょう。ここではただの友人として話しがしたいのです。それでは駄目でしょうか」
「友人……」
「私ったら申し訳ありません。始めてお会いしたのに友人だなんて」
「いえ! 私もそうなれたら嬉しいです」
リナはそう言ってはみたものの、ローザ以外の女性と親しくなった事が無い事に気がついた。
「でも友人とは何をするんでしょうか」
すると目の前の女性もしかめっ面になり、考え込んでしまった。
「そうですね、幼馴染とはこの辺りを駆け回ったり食堂にお菓子をこっそり取りに行ったりしましたが、女性とではそうもいかないでしょうし、第一もう許されない年ですから……」
本気で考え込む姿に思わず笑ってしまうと、向こうも釣られて笑い出した。
「それならたまにここで女同士お話をするというのはどうでしょう? お茶会にしてしまうと気楽にお会い出来なくなってしまうので、好きなお菓子を包んでこっそり持ち寄るのです。いかがですか?」
リナは元々魔女の能力が高い分、力が安定せずに身体が弱かったという事もあり、こんな風に同年代の友人と過ごした記憶はない。だからこそ叶う叶わないに関わらず、約束をするという事自体が嬉しかった。
「ジェニー! こんな所にいたのか! 早く戻って来るんだ!」
後ろから聞こえた声にびくりとすると、赤い髪の男性が思い切り睨み付けてきていた。
「アレウス、私もう少しここに……」
しかしアレウスと呼ばれた男性はジェニーの腕を思い切り掴むと、そのまま引き摺るように連れて行ってしまう。ジェニーと会ったのはそれが最初で最後だった。
その後、ローザの働きであの女性はジェニー・フックス公爵夫人だという事は調べが付いていた。そしてジェニーは出産後、体を壊し亡くなったと聞いたのは随分経ってからだった。
「リナ様? もしやあの場所に行かれるのですか?」
ローザはリナの行く先を察して、不安そうに足を止めた。
「もうあの御方がお亡くなりになられて随分経つのよ。ずっと行けずにいたけれど、そろそろあの美しいミモザが恋しくなったわ」
ジェニーの墓はあのミモザの木の元に建てられたと聞いていた。その墓を建てたのがフックス公爵ではなく、自分の夫のルシャードだと聞いた時は正直驚きはしなかった。皇宮のはずれにある塔に近づくに連れ、小さな少年の背中が視界に入る。たった一人で佇むまだ小さな背に赤い髪の少年。リナは居ても経ってもいられずに、その少年の背に声を掛けていた。
16
お気に入りに追加
319
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

きっと幸せな異世界生活
スノウ
ファンタジー
神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。
そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。
時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。
女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?
毎日12時頃に投稿します。
─────────────────
いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜
蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。
レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい……
精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる