17 / 32
16.これが運命なら
しおりを挟む
「すぐに行くから二人にして頂戴」
誰かが部屋を出ていく音に目が覚める。朦朧とする頭を抑えながら目を開けると、そこは見覚えのある部屋だった。
「目が覚めたみたいね」
目の前にいたのは第二側妃のリナ。見覚えのある寝室に気が付いた瞬間、飛び起きようとしてとっさに頭を抑えた。
「頭が痛むの?」
「……襲われて、知らない男達に……」
大して驚かないリナの様子にとっさに身を引いていた。
「まさかあなたの仕業ですか?」
するとリナは少し考えてから頷いた。
「誓ってあなたに怪我をさせる気はなかったのよ。怖がらせてしまったのならごめんなさい」
「どうしてこんな事をするんです? そんなに私がお嫌いですか? こんな事をしなくてもオーティス殿下達とはもう関わりません! ただ今はどうしてもお願いがあってあの屋敷に行ったんです。そうじゃなければ屋敷に行ったりなどしませんでした」
「オーティスに聞いたわ。あの子達はフェッチが視えるんですってね。陛下のご命令もあってあの屋敷から連れ戻したのよ」
「陛下の、ご命令?」
嫌な汗がどんどん溢れてくる。一体どこまで知っていてどこまでが偽りなのか。ウィノラは無意識に手足に力を入れていた。
「私にはもう一人娘がいるのは知っているわよね」
「死産だった、第四皇女様の事でしょうか」
リナの目に涙が溜まり始めている。
「私は子を産んですぐ皇女だと分かると、ローザに連れ出させたの」
次の言葉を待つが震えが止まらない。聞きたくないと叫んでしまいたかった。
「魔女の家であるヒュー娼館に。それが……」
「止めて!」
頭が重たい。目眩がしてその場に蹲った。
「ウィノラ! 大丈夫?」
伸ばされた手を払うと、驚いているリナと目が合った。
「聞きたくありません! もう家に帰ります」
「でもあそこもいずれ見つかってしまうわ。ヒュー娼館の女性が第一師団に捕まったと報告を受けているの。いずれ拷問が始まれば自分が魔女だと認めるわよ。そうすればヒュー娼館への追及は逃れられなくなる」
「だから私だけここへ連れて来たんですか?」
返事はない。ウィノラは責める視線でリナを見た。
「皇帝陛下はあなたが魔女だとご存知なんですね?」
するとリナは小さく頷いた。
「矛盾していませんか? なぜ魔女を匿いながら魔女を弾圧するのです?」
「陛下にもお考えがあっての事よ」
「もしヒュー娼館の者達が捕らえられるとしたら、その時は私も一緒です」
「やはり無理やりにでも連れて来て正解だったわ」
ぞっとして寒気がする。リナの視線は恐ろしい程に冷えていた。
「ローザ、ウィノラを決してこの部屋から出さないように」
「かしこまりました」
「ローザさん! お願いです、家に返して下さい!」
扉の向こうのローザに声を掛けるも、返事は一切返って来なかった。
「まさかこうしてリナ様にお会い出来るとは思いもしませんでした。お元気そうで何よりです」
「ずっと面会のお申し出を下さっていたのに申し訳ありませんでした。ライナー様は更に立派になられましたね」
後宮の温室でお茶を口にしたリナの頬には赤みが差し、体調が回復しているように見えた。三年前に体調を崩してからというものめっきり人前に姿を表さなくなったが、今目の前にいるリナはライナーが出会った頃のように儚さを纏いながらも優しい少女のような美しい姿のままだった
「色々お見舞いの品を持って来たので後で召し上がって下さい。どれも身体に良いお茶や果物、それに健康面を考えたお菓子を作らせましたから、いくら食べても大丈夫ですよ」
「ふふ、ライナー様は本当にいつも私には甘いのですね」
ライナーは早口で話してしまった事に口籠ると、頬をポリポリと掻いた。
「何か良い事でもあったのですか? ご体調が回復されたからかもしれませんがとても笑顔が多いように思います」
「ふふ、そうね。ありましたよ、とっても良い事。子供達が揃ったんです」
「ああ、エデル殿下が療養から戻られたのですか?」
「随分と良くなりました。でもオーティスが付き切りで面倒を見てくれているおかげで私の出る幕はないのですけれど」
微笑ましそうに話すリナとは対象的に、ライナーはオーティスの名を聞いた瞬間眉を寄せた。
「差し出がましい事かもしれませんが、オーティス殿下の事でお話があります」
「オーティスの事で? 何でしょう」
「高級娼婦の支援者になられたと耳にしました。それは事実でしょうか」
「事実です。若いのだから興味本位で娼婦にのめり込むのは仕方のない事です。でもそれも一時の事でした。今はもうご心配には及びませんよ」
「それはオーティス殿下と娼婦との関係が終わったという事でしょうか?」
「……こんな事、ライナー様にしか話さないのですよ」
ライナーは無意識に深入りしていた事を申し訳なく思いながら、小さく咳払いをした。
「もちろん口外は致しませんからご安心下さい」
「私からも一ついいでしょうか?」
リナはカップを置くと、穏やかな表情でライナーに微笑みかけた。
「先日陛下が出された魔女の捕縛命令ですが、フックス公爵家はどこまで関与しているのですか? フックス公爵が此度の責任者だと聞きましたが第一師団も動いているようですね」
「何故そんな事を気にされるのです?」
「だって怖いじゃありませんか。まだ体調が優れない日もあるので、心配事は出来るだけ減らしたいのです」
「父は宰相の任務として動いているのでフックス公爵家としては何も関与はしておりません。現に公爵家の私兵は動いておりませんからご安心下さい。それでもご心配でしたら騎士団に話をして護衛をお付けしましょうか?」
「ライナー様にそこまでして頂いては陛下に叱られてしまいます」
「すみません。勝手な事を申しました」
「お気遣いはとても嬉しかったです。それではそろそろ休ませてもらいますね。たまにはこうしてお茶をしましょう。もう少し暖かくなったら一緒にお散歩もいいですね、昔みたいに」
「リナ様のご体調がよろしければまたあの庭に行きましょう。手入れをしてるので、もう少ししたら綺麗なミモザの花が咲くと思いますよ」
「懐かしいですね。それじゃあミモザの下でピクニックをしましょうか」
ライナーは頷きながら席を立つと、リナをエスコートしてローザに引き渡した。
「それではまたお目に掛かります」
「そういえば、第五皇女様との婚約の日が決定したとか。おめでとうございます」
するとここに来て初めてライナーの表情が曇った。
「はい、申し訳ございません」
「謝る事なんてありませんよ。第三皇女様のご不幸もありましたし、元はと言えば私のせいで妙な噂が付き纏ってしまいずっと申し訳ないと思っていたのです」
「リナ様が謝るような事は何一つありません。ですからどうかお気になさらないで下さい。私はこうしてまたお会い出来るだけで嬉しく思っているんです」
リナは微笑むとその場を後にした。
「ロタリオ、屋敷に戻るぞ。どうやらオーティス殿下は高級娼婦の支援者を降りたらしい」
「え? もしかして後釜を狙っていたりします?」
するとぽかりと拳がロタリオの頭に降ってきた。
「イテッ! もしかして図星ですか? 娼館なんて今は関わらない方がいいですって。ヒュー娼館程の大きな所は貴族の顧客の反対もあって今はまだ免れていますが、それも時間の問題だって噂が……」
「また噂か。バラードの所に行って本当にオーティス殿下とあの娘が切れたのかを確認してこい」
「クラウゼ伯爵様の所にならご自分で行かれた方がいいのでは……」
ロタリオは言いかけてライナーの視線にごくりと息を飲んだ。
「行きます、今すぐに行って参ります! リナ様とお会い出来たからご機嫌かと思ったんだけどなぁ」
ブツブツと言いながらロタリオは足早に後宮を出て行った。
ライナーは不意に上着の胸ポケットに入っている物に気が付き、とっさにリナの消えた廊下を振り見た。もうとっくにリナは私室に戻っているはず。それでも本当はこれを渡すのが目的で今日は面会をしたのだった。
「久しぶりにお会い出来た事ですっかり忘れてしまったな」
ライナーはらしくない自分に呆れながら、リナの部屋の方へと足を向けた。
扉を叩きかけて、中から聞こえてくる声にライナーはふと手を止めた。
「ウィノラ様はほとんどお食事をされておりません」
「……あの子の好きな物は何かしら」
「そうお気に病まないでくださいませ。女性の料理人に相談してみましょう」
――ウィノラ? あの娘の名前じゃ……。
「もうお時間ですから向かいませんと……」
こちらに向かって来る声にライナーはとっさに扉から離れていた。
「陛下をこの部屋に呼ぶ訳にはいかないから、定期的にこちらからお顔を拝見しに行かないとならないわね」
「陛下もきっとお喜びになられるでしょう」
二人の声が離れていく。その瞬間、ガチャリと鍵が掛けられた音が聞こえた。
――何か隠しているのか?
ライナーは二人がいなくなった扉を叩いてみた。しかしもちろん返事はない。気のせいだったと部屋を離れようとした時だった。ゴトリと何かが倒れたような音がして再び扉を叩いてきた。すると今度はまた何かが倒れたような音が聞こえた。さっきローザが鍵を掛けていたから、もちろんこの扉は開かない。それにこれ以上第二側妃の部屋の前にいては、あらぬ疑いを掛けられてしまう。ライナーは仕方なく庭に回ると、庭から窓を見上げてみた。第二側妃の部屋は二階にある。しかし二階のバルコニーまで登るにしても目立ち過ぎてしまう。その時、カーテンの向こう側に人影が映った気がした。
「誰かいるのか?」
ライナーは胸元に入れていた指輪小瓶をハンカチで包むと、二階のバルコニーに向けて投げ入れた。
「君、すまないがその梯子を貸してくれないか? 大事な物を鳥が持って行ってしまったんだ」
突然声を掛けられた庭師はライナーを見るなり真っ青になりながら、自分が取りに行くと慌て始めてしまった。
「自分で取りに行くよ。それに君の仕事の邪魔をするのは忍びないからね」
ライナーは恐縮しながら梯子を渡してきた庭師に向かって言った。
「第二側妃様のバルコニーに落ちたように見えたんだが、あそこに巣でもあるんだろうか?」
「軒下に巣を作る鳥もいますからあるかもしれません」
「君は博識だな。それじゃあご迷惑にならないようにさっと行って取ってくるとしよう」
「お部屋からお伺いすれば宜しいのではありませんか? いや、あの、バルコニーに上がられたらお部屋の中の方が驚かれるのではないかと思いまして」
「部屋の中に誰かいるのか?」
すると庭師は驚いたように頷いた。
「時折人影がありますよ。……って、私は誓って覗いていた訳ではございません!」
「分かっているさ。それではその綺麗なお方を驚かさないように行って来ようか」
ライナーは庭師の肩を叩いてから堂々とバルコニーに梯子を掛けて登って行った。
扉は二度叩かれたがそれ以降音がする事はなかった。ウィノラは部屋にあった花瓶やランプを床に落としてみたが、聞こえたかは分からない。とにかく手を拘束している紐と口に巻いてある布さえ外せれば、助けを呼ぶ事も出来るのにと思うとじんわりと涙が溢れてきた。
拘束自体は痛いものではない。ローザは気遣うように腕を結び、口に布を巻いてきた。一度バルコニーに出た日から、二人が居ない時はこうして逃げられないように拘束されてしまうようになってしまった。逃げる気がなければ監禁はしないと言っていたがそんな言葉は信じられない。その時、物音がしてバルコニーを振り見た。
――人影だわ。
しかし窓には厚いレースのカーテンがありよく見えない。ウィノラは窓に肩を押し付けると、肩でカーテンを押し退けた。
そこに立っていたのは、驚いたような表情を浮かべたライナー・フックスだった。ライナーはすぐに我に返り、身振り手振りで鍵を開けるように言ってくる。それでも拘束された手では上手く力が入らず動かす事が出来ない。ウィノラはとっさに周囲を見渡すと、自分がさっき倒したランプに目が留まった。ランプの先端の飾りが丁度鍵と窓の隙間に入りそうで、ランプを掴むとその薄く伸びた部分を鍵の下に差し込み、上に押し上げた。しかし見えない後ろ向きでは上手く上がらず途中で外れてしまう。ウィノラは何度か試みて、四回目にして鍵が上がった感覚があった。その瞬間、窓が開きライナーが飛び込んできた。顔を顰めたまま腕と口の拘束を解いてくれる。その瞬間、肩を掴まれていた。
「君は一体何をしたんだ?!」
「何もしていません!」
食い気味で答えた途端、目から流したくもない涙が溢れてくる。とにかく見つけてもらえた安堵と、ライナーの第一声がなぜだが胸に突き刺さり、自分でも信じられない程に身体が震えていた。その瞬間、扉が開きバタバタという足音と共に誰かが入って来る。とっさにライナーに引き寄せられ、無造作に開けられた寝室の扉の先には、息を切らしたオーティスが立っていた。そしてなぜかライナーと抱き合うようになっているウィノラを見て何かを言い掛け、廊下の方に目をやった。
「もうすぐ母上が戻って来ますがのままバルコニーから降りられますか?」
「梯子を掛けてあるのでそれは大丈夫ですが……」
見下ろしてくるライナーと目が合い、とっさに顔を逸らしてしまう。
「ウィノラ、梯子を降りて逃げて下さい」
「オーティス殿下はどうなるんですか?!」
「元々ウィノラを逃がすつもりでここへ来たんです。先客が居たようですが」
スッとライナーとオーティスの視線が絡み合う。しかしオーティスはそのまま押し出すようにウィノラの背中を押してきた。
「しばらく身を隠せる場所はありませんか? ヒュー娼館に戻れば母上の追手がすぐに見つけ出すでしょう。アデリータも第二側妃の要請を断る事は出来ないはずです」
「それならクラウゼ伯爵にお願いしてみます。デルマ姉さんもクラウゼ伯爵の所に行っているかもしれないですし」
「クラウゼ伯爵は駄目です。ヒュー娼館とは近過ぎるお方ですから」
「待ってくれ、なぜ君はリナ様に捕らわれていたんだ?」
ライナーは揺れる瞳でオーティスとウィノラを見比べた。
「陛下がお出しになられたご命令のせいでウィノラ達は追われそうなのですよ。ウィノラだけじゃありません、今や帝都中の女性達が怯えているのです」
「それは疑いのある者が捕らえられているだけで……」
オーティスは冷えた視線でライナーを見た。
「そもそも魔女とそうでない者はどうやって見分けるのです? そんな曖昧なもので、今この時も多くの女性が捕らえられているのですよ」
「正直見分け方など考えもしませんでした。それなら私の所で預かるのはどうでしょう」
「フックス公爵は陛下のご命令に従っているのですよね? あなたもそうでないと言えますか?」
その言葉にライナーと目が合う。ライナーの事はよく知らない。それでも見ず知らずの自分を三回も助けてくれたのも間違いなくライナー・フックスだけだった。
「お願いしてもいいですか?」
「ウィノラ!」
「大丈夫ですよ殿下。きっと問題ありませんから」
何故だか分からないが、ライナーは信頼出来るという思ってしまう。オーティスは呆れながらも諦めたようだった。
「オーティス殿下も気を付けて下さいね」
不意に袖に触れると、逆に指先をぎゅっと握りしめられた。冷たく汗ばんでいる指先から緊張が伝わってくる。もし本当に死産とされた皇女が自分だったなら、オーティスもエデルも実の弟という事になる。血が繋がっていると思って改めて見るオーティスは急に甘えている子供のように見えてしまい、心配になってその指を握り返した。
「ウィノラを宜しくお願いします。準備が出来たら迎えに行きます」
廊下の先から話し声が聞こえ出す。ライナーがぐいっと腰を掴んできた。
「梯子を抑えているから、ゆっくり下を見ずに降りて行くんだ」
「分かりました……」
梯子は思っているよりも華奢で足を掛ける度に揺れる。震えてしまう手足を懸命に動かしながら終わりが見えない中、懸命に足を動かしていくと、唐突につま先が地面に着いて梯子の終わりを告げた。
続いてライナーが梯子を足早で降りてくる。上を見ると、オーティスが離れていくのが目に入った。
「またすぐに会える」
そう小さく呟かれた。
二人で梯子を下りきると、ライナーは恐る恐る近づいてきた庭師に胸元から金貨を三枚と梯子を渡した。庭師は恐縮したようにブンブンと首を振って梯子だけを受け取って後退った。
「私はただ梯子をお貸ししただけですからそんなもの頂けません!」
そう言いながらしっかりとウィノラを見つめる瞳を遮るようにライナーが前に出た。
「君が仕事を進められる時間を奪ってしまった対価だ。それと君は何も見ていない、いいな?」
ライナーが何を言おうとしているかは分かる。庭師はちらりとこちらに視線を向けかけ、とっさに下を向いた。金貨が両手の塞がっている庭師の胸ポケットに押し込まれると庭師は更に深々と頭を下げた。
「行くぞ。こっちだ」
ライナーは皇宮の正門ではなく、人気のない裏の方へと歩き出してしまった。
「あの、ライナー様どちらに」
ライナーの歩く速さはウィノラよりもずっと早く、付いていくのがやっとだった。人気がないと言っても使用人は歩いているし、見回りの兵士達ともすれ違っている。不安をごまかすように前を進む広い背中だけを見つめて足を動かした。
「我が家の馬車だと悪目立ちしてしまうだろうから、ここから馬を借りて行くぞ」
ライナーが向かっていた場所は厩だった。横に広い厩は見ているだけ圧巻で、迷いなく入っていくライナーに続くと、その中には何十頭もの馬が利口そうな大きな瞳でこちらを見てきていた。
「ここは騎士団専用なんだ。反対側には軍団用の厩があるが、軍団用の馬達はよく戦場に赴いているからか少々気が荒いのが欠点だな。そもそもそういう気質の馬達を集めたとも言えるのかもしれないが……」
そう言いながら馬を物色していき、そして一頭の前で止まった。
「ライナー様お久し振りですね」
親しいのか一人の騎士が声を掛けてくる。こちらを見たが詮索する事もせず、ライナーの前にいた馬の首辺りを撫でた。
「一頭借りたいんだ」
「構いませんよ。その子になさいますか? 最近調教が終わったばかりですが穏やかな性格でよく言う事を聞きますよ」
調教師だったらしい騎士は、愛想のいい笑みを浮かべながら白と灰色の毛が混じった馬を見た。
「そうだな。利口そうな良い眼をしている。名前は?」
「イヴという名の女の子です」
「そうか。イヴ、二人乗せてもらうが宜しくな」
イヴは大きな瞳でライナーを見た後、鼻の上を撫でてもらいご満悦のようだった。
イヴに乗せて貰った結果、ウィノラは身動き一つ取れない程に固まってしまった。ライナーの前で馬に跨がり、その左右をライナーに挟まれるようにすっぽりと収まってしまう。そしてそれからが早かった。
騎士団達が利用する裏門を出たのも束の間、その後のライナーの手綱さばきと初めての馬上で、ウィノラはせめて舌を噛まないようにじっと大人しくしているしか出来なかった。
誰かが部屋を出ていく音に目が覚める。朦朧とする頭を抑えながら目を開けると、そこは見覚えのある部屋だった。
「目が覚めたみたいね」
目の前にいたのは第二側妃のリナ。見覚えのある寝室に気が付いた瞬間、飛び起きようとしてとっさに頭を抑えた。
「頭が痛むの?」
「……襲われて、知らない男達に……」
大して驚かないリナの様子にとっさに身を引いていた。
「まさかあなたの仕業ですか?」
するとリナは少し考えてから頷いた。
「誓ってあなたに怪我をさせる気はなかったのよ。怖がらせてしまったのならごめんなさい」
「どうしてこんな事をするんです? そんなに私がお嫌いですか? こんな事をしなくてもオーティス殿下達とはもう関わりません! ただ今はどうしてもお願いがあってあの屋敷に行ったんです。そうじゃなければ屋敷に行ったりなどしませんでした」
「オーティスに聞いたわ。あの子達はフェッチが視えるんですってね。陛下のご命令もあってあの屋敷から連れ戻したのよ」
「陛下の、ご命令?」
嫌な汗がどんどん溢れてくる。一体どこまで知っていてどこまでが偽りなのか。ウィノラは無意識に手足に力を入れていた。
「私にはもう一人娘がいるのは知っているわよね」
「死産だった、第四皇女様の事でしょうか」
リナの目に涙が溜まり始めている。
「私は子を産んですぐ皇女だと分かると、ローザに連れ出させたの」
次の言葉を待つが震えが止まらない。聞きたくないと叫んでしまいたかった。
「魔女の家であるヒュー娼館に。それが……」
「止めて!」
頭が重たい。目眩がしてその場に蹲った。
「ウィノラ! 大丈夫?」
伸ばされた手を払うと、驚いているリナと目が合った。
「聞きたくありません! もう家に帰ります」
「でもあそこもいずれ見つかってしまうわ。ヒュー娼館の女性が第一師団に捕まったと報告を受けているの。いずれ拷問が始まれば自分が魔女だと認めるわよ。そうすればヒュー娼館への追及は逃れられなくなる」
「だから私だけここへ連れて来たんですか?」
返事はない。ウィノラは責める視線でリナを見た。
「皇帝陛下はあなたが魔女だとご存知なんですね?」
するとリナは小さく頷いた。
「矛盾していませんか? なぜ魔女を匿いながら魔女を弾圧するのです?」
「陛下にもお考えがあっての事よ」
「もしヒュー娼館の者達が捕らえられるとしたら、その時は私も一緒です」
「やはり無理やりにでも連れて来て正解だったわ」
ぞっとして寒気がする。リナの視線は恐ろしい程に冷えていた。
「ローザ、ウィノラを決してこの部屋から出さないように」
「かしこまりました」
「ローザさん! お願いです、家に返して下さい!」
扉の向こうのローザに声を掛けるも、返事は一切返って来なかった。
「まさかこうしてリナ様にお会い出来るとは思いもしませんでした。お元気そうで何よりです」
「ずっと面会のお申し出を下さっていたのに申し訳ありませんでした。ライナー様は更に立派になられましたね」
後宮の温室でお茶を口にしたリナの頬には赤みが差し、体調が回復しているように見えた。三年前に体調を崩してからというものめっきり人前に姿を表さなくなったが、今目の前にいるリナはライナーが出会った頃のように儚さを纏いながらも優しい少女のような美しい姿のままだった
「色々お見舞いの品を持って来たので後で召し上がって下さい。どれも身体に良いお茶や果物、それに健康面を考えたお菓子を作らせましたから、いくら食べても大丈夫ですよ」
「ふふ、ライナー様は本当にいつも私には甘いのですね」
ライナーは早口で話してしまった事に口籠ると、頬をポリポリと掻いた。
「何か良い事でもあったのですか? ご体調が回復されたからかもしれませんがとても笑顔が多いように思います」
「ふふ、そうね。ありましたよ、とっても良い事。子供達が揃ったんです」
「ああ、エデル殿下が療養から戻られたのですか?」
「随分と良くなりました。でもオーティスが付き切りで面倒を見てくれているおかげで私の出る幕はないのですけれど」
微笑ましそうに話すリナとは対象的に、ライナーはオーティスの名を聞いた瞬間眉を寄せた。
「差し出がましい事かもしれませんが、オーティス殿下の事でお話があります」
「オーティスの事で? 何でしょう」
「高級娼婦の支援者になられたと耳にしました。それは事実でしょうか」
「事実です。若いのだから興味本位で娼婦にのめり込むのは仕方のない事です。でもそれも一時の事でした。今はもうご心配には及びませんよ」
「それはオーティス殿下と娼婦との関係が終わったという事でしょうか?」
「……こんな事、ライナー様にしか話さないのですよ」
ライナーは無意識に深入りしていた事を申し訳なく思いながら、小さく咳払いをした。
「もちろん口外は致しませんからご安心下さい」
「私からも一ついいでしょうか?」
リナはカップを置くと、穏やかな表情でライナーに微笑みかけた。
「先日陛下が出された魔女の捕縛命令ですが、フックス公爵家はどこまで関与しているのですか? フックス公爵が此度の責任者だと聞きましたが第一師団も動いているようですね」
「何故そんな事を気にされるのです?」
「だって怖いじゃありませんか。まだ体調が優れない日もあるので、心配事は出来るだけ減らしたいのです」
「父は宰相の任務として動いているのでフックス公爵家としては何も関与はしておりません。現に公爵家の私兵は動いておりませんからご安心下さい。それでもご心配でしたら騎士団に話をして護衛をお付けしましょうか?」
「ライナー様にそこまでして頂いては陛下に叱られてしまいます」
「すみません。勝手な事を申しました」
「お気遣いはとても嬉しかったです。それではそろそろ休ませてもらいますね。たまにはこうしてお茶をしましょう。もう少し暖かくなったら一緒にお散歩もいいですね、昔みたいに」
「リナ様のご体調がよろしければまたあの庭に行きましょう。手入れをしてるので、もう少ししたら綺麗なミモザの花が咲くと思いますよ」
「懐かしいですね。それじゃあミモザの下でピクニックをしましょうか」
ライナーは頷きながら席を立つと、リナをエスコートしてローザに引き渡した。
「それではまたお目に掛かります」
「そういえば、第五皇女様との婚約の日が決定したとか。おめでとうございます」
するとここに来て初めてライナーの表情が曇った。
「はい、申し訳ございません」
「謝る事なんてありませんよ。第三皇女様のご不幸もありましたし、元はと言えば私のせいで妙な噂が付き纏ってしまいずっと申し訳ないと思っていたのです」
「リナ様が謝るような事は何一つありません。ですからどうかお気になさらないで下さい。私はこうしてまたお会い出来るだけで嬉しく思っているんです」
リナは微笑むとその場を後にした。
「ロタリオ、屋敷に戻るぞ。どうやらオーティス殿下は高級娼婦の支援者を降りたらしい」
「え? もしかして後釜を狙っていたりします?」
するとぽかりと拳がロタリオの頭に降ってきた。
「イテッ! もしかして図星ですか? 娼館なんて今は関わらない方がいいですって。ヒュー娼館程の大きな所は貴族の顧客の反対もあって今はまだ免れていますが、それも時間の問題だって噂が……」
「また噂か。バラードの所に行って本当にオーティス殿下とあの娘が切れたのかを確認してこい」
「クラウゼ伯爵様の所にならご自分で行かれた方がいいのでは……」
ロタリオは言いかけてライナーの視線にごくりと息を飲んだ。
「行きます、今すぐに行って参ります! リナ様とお会い出来たからご機嫌かと思ったんだけどなぁ」
ブツブツと言いながらロタリオは足早に後宮を出て行った。
ライナーは不意に上着の胸ポケットに入っている物に気が付き、とっさにリナの消えた廊下を振り見た。もうとっくにリナは私室に戻っているはず。それでも本当はこれを渡すのが目的で今日は面会をしたのだった。
「久しぶりにお会い出来た事ですっかり忘れてしまったな」
ライナーはらしくない自分に呆れながら、リナの部屋の方へと足を向けた。
扉を叩きかけて、中から聞こえてくる声にライナーはふと手を止めた。
「ウィノラ様はほとんどお食事をされておりません」
「……あの子の好きな物は何かしら」
「そうお気に病まないでくださいませ。女性の料理人に相談してみましょう」
――ウィノラ? あの娘の名前じゃ……。
「もうお時間ですから向かいませんと……」
こちらに向かって来る声にライナーはとっさに扉から離れていた。
「陛下をこの部屋に呼ぶ訳にはいかないから、定期的にこちらからお顔を拝見しに行かないとならないわね」
「陛下もきっとお喜びになられるでしょう」
二人の声が離れていく。その瞬間、ガチャリと鍵が掛けられた音が聞こえた。
――何か隠しているのか?
ライナーは二人がいなくなった扉を叩いてみた。しかしもちろん返事はない。気のせいだったと部屋を離れようとした時だった。ゴトリと何かが倒れたような音がして再び扉を叩いてきた。すると今度はまた何かが倒れたような音が聞こえた。さっきローザが鍵を掛けていたから、もちろんこの扉は開かない。それにこれ以上第二側妃の部屋の前にいては、あらぬ疑いを掛けられてしまう。ライナーは仕方なく庭に回ると、庭から窓を見上げてみた。第二側妃の部屋は二階にある。しかし二階のバルコニーまで登るにしても目立ち過ぎてしまう。その時、カーテンの向こう側に人影が映った気がした。
「誰かいるのか?」
ライナーは胸元に入れていた指輪小瓶をハンカチで包むと、二階のバルコニーに向けて投げ入れた。
「君、すまないがその梯子を貸してくれないか? 大事な物を鳥が持って行ってしまったんだ」
突然声を掛けられた庭師はライナーを見るなり真っ青になりながら、自分が取りに行くと慌て始めてしまった。
「自分で取りに行くよ。それに君の仕事の邪魔をするのは忍びないからね」
ライナーは恐縮しながら梯子を渡してきた庭師に向かって言った。
「第二側妃様のバルコニーに落ちたように見えたんだが、あそこに巣でもあるんだろうか?」
「軒下に巣を作る鳥もいますからあるかもしれません」
「君は博識だな。それじゃあご迷惑にならないようにさっと行って取ってくるとしよう」
「お部屋からお伺いすれば宜しいのではありませんか? いや、あの、バルコニーに上がられたらお部屋の中の方が驚かれるのではないかと思いまして」
「部屋の中に誰かいるのか?」
すると庭師は驚いたように頷いた。
「時折人影がありますよ。……って、私は誓って覗いていた訳ではございません!」
「分かっているさ。それではその綺麗なお方を驚かさないように行って来ようか」
ライナーは庭師の肩を叩いてから堂々とバルコニーに梯子を掛けて登って行った。
扉は二度叩かれたがそれ以降音がする事はなかった。ウィノラは部屋にあった花瓶やランプを床に落としてみたが、聞こえたかは分からない。とにかく手を拘束している紐と口に巻いてある布さえ外せれば、助けを呼ぶ事も出来るのにと思うとじんわりと涙が溢れてきた。
拘束自体は痛いものではない。ローザは気遣うように腕を結び、口に布を巻いてきた。一度バルコニーに出た日から、二人が居ない時はこうして逃げられないように拘束されてしまうようになってしまった。逃げる気がなければ監禁はしないと言っていたがそんな言葉は信じられない。その時、物音がしてバルコニーを振り見た。
――人影だわ。
しかし窓には厚いレースのカーテンがありよく見えない。ウィノラは窓に肩を押し付けると、肩でカーテンを押し退けた。
そこに立っていたのは、驚いたような表情を浮かべたライナー・フックスだった。ライナーはすぐに我に返り、身振り手振りで鍵を開けるように言ってくる。それでも拘束された手では上手く力が入らず動かす事が出来ない。ウィノラはとっさに周囲を見渡すと、自分がさっき倒したランプに目が留まった。ランプの先端の飾りが丁度鍵と窓の隙間に入りそうで、ランプを掴むとその薄く伸びた部分を鍵の下に差し込み、上に押し上げた。しかし見えない後ろ向きでは上手く上がらず途中で外れてしまう。ウィノラは何度か試みて、四回目にして鍵が上がった感覚があった。その瞬間、窓が開きライナーが飛び込んできた。顔を顰めたまま腕と口の拘束を解いてくれる。その瞬間、肩を掴まれていた。
「君は一体何をしたんだ?!」
「何もしていません!」
食い気味で答えた途端、目から流したくもない涙が溢れてくる。とにかく見つけてもらえた安堵と、ライナーの第一声がなぜだが胸に突き刺さり、自分でも信じられない程に身体が震えていた。その瞬間、扉が開きバタバタという足音と共に誰かが入って来る。とっさにライナーに引き寄せられ、無造作に開けられた寝室の扉の先には、息を切らしたオーティスが立っていた。そしてなぜかライナーと抱き合うようになっているウィノラを見て何かを言い掛け、廊下の方に目をやった。
「もうすぐ母上が戻って来ますがのままバルコニーから降りられますか?」
「梯子を掛けてあるのでそれは大丈夫ですが……」
見下ろしてくるライナーと目が合い、とっさに顔を逸らしてしまう。
「ウィノラ、梯子を降りて逃げて下さい」
「オーティス殿下はどうなるんですか?!」
「元々ウィノラを逃がすつもりでここへ来たんです。先客が居たようですが」
スッとライナーとオーティスの視線が絡み合う。しかしオーティスはそのまま押し出すようにウィノラの背中を押してきた。
「しばらく身を隠せる場所はありませんか? ヒュー娼館に戻れば母上の追手がすぐに見つけ出すでしょう。アデリータも第二側妃の要請を断る事は出来ないはずです」
「それならクラウゼ伯爵にお願いしてみます。デルマ姉さんもクラウゼ伯爵の所に行っているかもしれないですし」
「クラウゼ伯爵は駄目です。ヒュー娼館とは近過ぎるお方ですから」
「待ってくれ、なぜ君はリナ様に捕らわれていたんだ?」
ライナーは揺れる瞳でオーティスとウィノラを見比べた。
「陛下がお出しになられたご命令のせいでウィノラ達は追われそうなのですよ。ウィノラだけじゃありません、今や帝都中の女性達が怯えているのです」
「それは疑いのある者が捕らえられているだけで……」
オーティスは冷えた視線でライナーを見た。
「そもそも魔女とそうでない者はどうやって見分けるのです? そんな曖昧なもので、今この時も多くの女性が捕らえられているのですよ」
「正直見分け方など考えもしませんでした。それなら私の所で預かるのはどうでしょう」
「フックス公爵は陛下のご命令に従っているのですよね? あなたもそうでないと言えますか?」
その言葉にライナーと目が合う。ライナーの事はよく知らない。それでも見ず知らずの自分を三回も助けてくれたのも間違いなくライナー・フックスだけだった。
「お願いしてもいいですか?」
「ウィノラ!」
「大丈夫ですよ殿下。きっと問題ありませんから」
何故だか分からないが、ライナーは信頼出来るという思ってしまう。オーティスは呆れながらも諦めたようだった。
「オーティス殿下も気を付けて下さいね」
不意に袖に触れると、逆に指先をぎゅっと握りしめられた。冷たく汗ばんでいる指先から緊張が伝わってくる。もし本当に死産とされた皇女が自分だったなら、オーティスもエデルも実の弟という事になる。血が繋がっていると思って改めて見るオーティスは急に甘えている子供のように見えてしまい、心配になってその指を握り返した。
「ウィノラを宜しくお願いします。準備が出来たら迎えに行きます」
廊下の先から話し声が聞こえ出す。ライナーがぐいっと腰を掴んできた。
「梯子を抑えているから、ゆっくり下を見ずに降りて行くんだ」
「分かりました……」
梯子は思っているよりも華奢で足を掛ける度に揺れる。震えてしまう手足を懸命に動かしながら終わりが見えない中、懸命に足を動かしていくと、唐突につま先が地面に着いて梯子の終わりを告げた。
続いてライナーが梯子を足早で降りてくる。上を見ると、オーティスが離れていくのが目に入った。
「またすぐに会える」
そう小さく呟かれた。
二人で梯子を下りきると、ライナーは恐る恐る近づいてきた庭師に胸元から金貨を三枚と梯子を渡した。庭師は恐縮したようにブンブンと首を振って梯子だけを受け取って後退った。
「私はただ梯子をお貸ししただけですからそんなもの頂けません!」
そう言いながらしっかりとウィノラを見つめる瞳を遮るようにライナーが前に出た。
「君が仕事を進められる時間を奪ってしまった対価だ。それと君は何も見ていない、いいな?」
ライナーが何を言おうとしているかは分かる。庭師はちらりとこちらに視線を向けかけ、とっさに下を向いた。金貨が両手の塞がっている庭師の胸ポケットに押し込まれると庭師は更に深々と頭を下げた。
「行くぞ。こっちだ」
ライナーは皇宮の正門ではなく、人気のない裏の方へと歩き出してしまった。
「あの、ライナー様どちらに」
ライナーの歩く速さはウィノラよりもずっと早く、付いていくのがやっとだった。人気がないと言っても使用人は歩いているし、見回りの兵士達ともすれ違っている。不安をごまかすように前を進む広い背中だけを見つめて足を動かした。
「我が家の馬車だと悪目立ちしてしまうだろうから、ここから馬を借りて行くぞ」
ライナーが向かっていた場所は厩だった。横に広い厩は見ているだけ圧巻で、迷いなく入っていくライナーに続くと、その中には何十頭もの馬が利口そうな大きな瞳でこちらを見てきていた。
「ここは騎士団専用なんだ。反対側には軍団用の厩があるが、軍団用の馬達はよく戦場に赴いているからか少々気が荒いのが欠点だな。そもそもそういう気質の馬達を集めたとも言えるのかもしれないが……」
そう言いながら馬を物色していき、そして一頭の前で止まった。
「ライナー様お久し振りですね」
親しいのか一人の騎士が声を掛けてくる。こちらを見たが詮索する事もせず、ライナーの前にいた馬の首辺りを撫でた。
「一頭借りたいんだ」
「構いませんよ。その子になさいますか? 最近調教が終わったばかりですが穏やかな性格でよく言う事を聞きますよ」
調教師だったらしい騎士は、愛想のいい笑みを浮かべながら白と灰色の毛が混じった馬を見た。
「そうだな。利口そうな良い眼をしている。名前は?」
「イヴという名の女の子です」
「そうか。イヴ、二人乗せてもらうが宜しくな」
イヴは大きな瞳でライナーを見た後、鼻の上を撫でてもらいご満悦のようだった。
イヴに乗せて貰った結果、ウィノラは身動き一つ取れない程に固まってしまった。ライナーの前で馬に跨がり、その左右をライナーに挟まれるようにすっぽりと収まってしまう。そしてそれからが早かった。
騎士団達が利用する裏門を出たのも束の間、その後のライナーの手綱さばきと初めての馬上で、ウィノラはせめて舌を噛まないようにじっと大人しくしているしか出来なかった。
37
あなたにおすすめの小説
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる