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3 グレンツェの男達
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「もっと引け! 思い切り引けーーッ!」
激しい雨と風が吹き荒れる中、幾つもの激しい足音と怒声が一帯に響いていた。その音に混じり馬の悲痛な嘶きが恐ろしさを増幅していく。明朝から降り続いた雨は夜になっても止まず、緩んでいた山道は小さな地滑りを起こし、前方を走っていた馬車は片方の車輪を踏み外して、今まさに急な斜面を落下しようとしていた。
御者は馬車が傾いた反動で放り出されてしまい助ける間もなかった。兵士達は車体にロープを引っ掛けて引くもぬかるんだ地面は足を取り、濡れた手も滑って力を入れる事が出来なくなっている。馬車の中にいた者達は、なんとか兵士達が車体を引いている間に脱出出来ていたが、馬は車体の重みに引かれながらなんとか道に戻ろうと足掻いていた。激しい馬の動きで馬車が大きく軋みながら揺れている。馬を繋いでいるベルトをなんとか切ろうと苦戦していた兵士はドンッと横に突き飛ばされ、その代わりに体格の良い男が一瞬にして馬の顎から頭に掛けて剣を突き入れた。馬は悲鳴とも言えない奇声を上げて体をバタつかせ、そのまま巨体は後ろに倒れていく。馬車は滑るようにしてあっという間に斜面を滑り落ちていった。
雨の音に混じって下で馬車が砕けた音がする。横に押し弾かれた兵士は倒れたまま固まっていると、後方から白い甲冑に身を包んだ兵士達が現れた。
「グラオザーム様、助け出した侍女達の他の馬車への振り分けが終了しました。ですが馬車で夜を明かすのは困難かと」
「ったく、そんな報告は俺にすんなよ。後ろの仕切りたがりやにでも聞いてこい」
白い甲冑を着た兵士の内の一人が後ろで待つ馬車へと走って行く。それと入れ替えに一際大きな白い軍馬に乗った男が近づいてきた。グラオザームは少しずれていたマントを被り直し、小さく舌打ちをした。
「おら何してんだ! モタモタすんな! ここら一帯はでけえ熊が出んだぞ! 餌になりたくなきゃ進めッ!」
「グラオザーム、一部の兵達が怯えている。今回我々は随行者なのだからあまり勝手な真似はするな。お前のやり方は敵を作りかねない。今さっき殺した馬は王城の馬だぞ」
「馬車はもう使えないから落としたんだ。分かってんのか? ここらは大熊の生息地なんだよ。お前だって熊の恐ろしさは身に沁みてんだろ?」
「馬車は貴重な財産なんだ。お前は王の財産を奪ったも同然なのだ」
「え? 何だって? 雨で聞こえねぇよ!」
後方の馬車がゆっくりと近づいてくる。それが会話の終了を意味したのか、白い軍馬に乗った男はグラオザームの胸元を思い切り引き寄せた。大きなグラオザームの体が簡単に馬上から浮き上がる。白い軍馬の男は顔を近づけると、頬にある大きな傷が引き攣るように痙攣した。
「後で説明させるからそのつもりでいろ」
「分かった! 分かったから離せよ!」
グラオザームの巨体は、投げられるようにして馬上に戻った。
グラオザームが先に進んだ後、後ろに到着した馬車の窓が少しだけ開かれる。そこには髪交じりの髪と髭を整えた男が楽しそうに口元を緩めていた。
「あれは初めての遠出ではしゃいでいるようだな」
「いえ、あれはおそらく遠出が原因ではなく……」
「なんだ? 戦いにしか興味がないと思っていたが、もしや王都なんぞに興味があったのか? そういえばムーティヒお前も王都に行きたがっていたな。わしが気づいていないとでも思ったか? 酒も女も賭博も、金の使い道はグレンツェとは全く違うだろう。羽目を外しすぎなければお前も楽しんで来い」
「いえ俺は別に結構です。妻と子がおりますので」
「なんだつまらん奴だな。本当にわしの子か?」
冗談混じりに言いながらも冗談に聞こえないのが、グレンツェ男爵の怖い所だった。
「父上、女性も乗っておられるのですからもう窓をお閉め下さい。雨が吹き込んでおります」
「まさか私のような人質の事まで考えて下さるなんて、次期男爵様はとてもお優しいようですね」
ムーティヒはその言葉には何も答えず馬の足を早めた。
「もしかして恥ずかしがりやなんでしょうか?」
クスクスと笑う声は、たった今外で起こった事には気がついていないように優雅なものだった。
「さすがに余裕ですな。でもそれは本心か、はたまた強がりか。この雨では次に同じ目に遭うのはこの馬車かもしれません。その時我々が敵国の姫を助けるとでもお思いですかな? 事故、として陛下に報告するかもしれませんぞ」
馬車の中で一瞬にして殺気が漏れ出た侍女を尻目で見ながら、グレンツェ男爵は楽しそうに腕を組んで窓の外に視線を向けた。
「まあそんな事はありえませんがね。我々が護衛に就いているのですから、あなたは何があっても王都に行けます。例え我が子のどちらかが崖の下に落ちてしまったとしてもね」
馬車の中で口元だけレースの飾りを付けて表情を隠していた女は、窓の外に視線を移しながら小さく言った。
「私の国で雨は竜の恵みなので吉兆なのです。きっと私達は無事に王都に着き、歓迎される事でしょう」
真夜中に門が激しく叩かれた音は、雨音に掻き消される事なく家中に響き渡っていった。ローゼも寝間着の上にローブを纏うと急いで玄関の見える階段まで走っていく。見下ろすとすでに屋敷の中には明かりが灯され、人々が集まった玄関前は騒然としていた。
同じ様に急いで出てきたのだろう、ローブを羽織った養父がマントを被った男達達と話をしている。そして一瞬その内の一人がちらりと視線を上げた。さすがに二階は薄暗くこちらも相手の顔までは見えない。それでも何故か動悸が激しくし、無意識に手すりを掴む手に力が入っていた。その時、後ろから強く引かれた。
「お母様?」
「いいからすぐに部屋に戻りなさい」
「ですがお客様でしたらお父様だけではお大変でしょうし……」
「ドナー達がいるでしょう。自分の格好を忘れているようだけれど、女性がそんな姿を夫でもない男性に見せるものではないわよ。あの人達は心配しなくてもすぐに出て行くわ」
指摘されてすぐにローブの前を手繰り寄せた。視線を騒がしい階段下と義母を見比べると、部屋へ戻るべく暗い廊下へと足を踏み出した。
「グレンツェ家の一行が予定より早く到着しただけよ」
とっさに振り見た義母は薄闇のせいか顔が強張って見える。そして僅かに震えているようにも見えた。
「次にお会いするのは誰かの葬儀の時くらいだと思っていたのだけれどね。あなたもそうでしょう?」
言葉が出て来ない。グレンツェ家出身の女達にしか共感し得ない感情が確かにある。一瞬義母と見つめ合った後、廊下の奥から声が聞こえてきた。
「母様と姉様? 一体何があったんです? うるさくて目が覚めてしまいました」
「何でもないわ。さぁまだ夜明け前よ、休みましょう」
目を擦りながら出てきたブリッツに二人で駆け寄ると、ブリッツごと押し込むように部屋へと入って行った。
ブリッツは母親と姉がそばにいて嬉しいのか、笑いながらすぐに眠りについたようだった。ランプはブリッツの為に点けない。だからだろうか、義母と二人という空間に緊張感すら覚えていた。かといって今部屋で一人になりたくはない。到底眠れる訳もなく、じっと黙ってクッションを抱き寄せた。
「平気だと思っていたのよ。ヒルシュ家にきてもう二十五年経つんだもの。それにブリッツも産んだ。ちゃんと科せられた役目は果たした。それなのに……」
シーツを握り締めた義母の手が震えている。シーツを引っ張られブリッツが起きるのではないかと思ったが、もうすっかり夢の中に入ってしまっているようだった。
「グレンツェ男爵はどのようなお方ですか」
「どのようなって、まだ小さかったとはいえ覚えていないの?」
「私はほとんどグレンツェ男爵と会話をした記憶がないんです。今でも覚えているのは一つだけで、これからはヒルシュ家の子供になり役に立つようにと言われました。その後の……」
続きは言葉にする事が出来なかった。特に何を言われた訳ではない。ただ話が終わった後、言われた意味が分からず部屋に残っていた時に向けられた視線。その視線が全てを物語っていたように思う。明確な言葉を向けられた訳ではない為、その意味を聞く事も責める事も出来ないが、視線から感じた拒絶は今でもローゼを苦しめているのだった。
「ローゼ? 大丈夫?」
「真夜中に飛び起きたので少し疲れただけです」
「少しでも体を休めておきなさい。あなたの顔色が悪かったらヒルシュ家が無理をさせていると疑われてしまうじゃないの」
口ではそう言いながらも毛布を引き寄せてくれる義母の手を握った。
「グレンツェ男爵がどんな方は教えて頂けませんか? きっとこのままでは眠れないんです、お願いしますお母様」
「……兄はグレンツェ家を象徴するような人だったわ。だから父のお気に入りだったの。私は五人兄妹だったけれど、男児は兄のみ。母は一番下の妹を産んですぐに亡くなったから、私が四人の妹達の面倒を見てきたのよ。それでも妹達は年頃になるとあっという間に色々な所で嫁がされてしまったわ」
「兄妹のお話は聞いた事がありませんでした」
「子供の耳に入る事じゃないわね。グレンツェ家の家臣に下賜された妹もいたし、他の貴族の所に嫁いだ子もいた。皆父に言われるままだった。そんな時、兄は一言も言わずただじっと父のそばにいたのよ。父親に逆らわず、誰よりも優れた武力の才能を持ち、グレンツェ領の兵力を拡大していったの」
ローゼは逆に毛布を義母に掛けると握っていた手に力を込めた。
「なぜお母様が一番最後に嫁がれたのですか?」
それは聞いてはいけない言葉だったようで、義母は苦しそうに呟いた。
「きっと私が一番出来が悪かったからよ」
意味が分からなかった。義母は特に目立つ容姿ではなかったが整った顔出ちをしているし、器量もよい。社交界に出ても他のご婦人方と良い関係を築き、どこからどう見ても模範のような貴族夫人だった。
「お母様……」
その時、廊下から近づいてくる足音がして思わず義母と身を寄せた時だった。
「こんな所にいたのか。二人共部屋にいないから心配したよ」
入ってきた義父に体の力が抜けていく。養父はすぐさま義母を抱き締めると宥めるように優しく撫でていた。
「グレンツェ家の皆さんはもう行ったよ。ここに来る途中で馬車が一台駄目になってしまったらしくてね。我が家の馬車をお貸し、すぐに王城に向かったんだ」
「この屋敷に滞在するのではなかったですか?」
「滞在するにはするが、今日はお客様もご一緒のようでね。その御方はどうしても王城にお連れしなければならなかったみたいなんだ。うちに滞在するのは祝賀会が終わってからだろうね」
「この雨で馬車が駄目になってしまうなんて、災難でしたね」
力が抜け、ヨロヨロと立ち上がると急に手が握られた。
「ローゼ、お母様と一緒に領地に向かうかい? 明日出発すればまだ間に合うだろう。私が言うのもなんだが、無理してグレンツェ家の者達に会う必要なんてないんだよ。遠縁だからどこかで会う事もあるだろうが、私はお前達に無理をさせる気はないからね」
「そうしたら祝賀会には誰が参加するんですか?」
苦笑いを浮かべるだけの義父に冷静さが戻っていく。深呼吸すると握られていた手をしっかりと握り返した。
「ブリッツが成人するまではしっかりとお役目を果たさせて頂きます」
ローゼは頭を下げると部屋を出て行った。
「お役目か。確かあの子がここに来た時も最初に言った言葉がそれだったね。小さな女の子が役目を果たす為に知らない家に一人来たと承知しているなんて、正直驚いたのを覚えているよ」
「それがグレンツェ家なのです。女を道具としてしか見ていないのですから」
「私も前グレンツェ男爵には一度しか会った事がないから分からないが、今の当主には何度か会っているけれど、本当にそんな男だろうか」
「辺境の地は王都よりもずっと廃れた風習が残っているのです。男は強さがあればよく、女は男児を産めなくては価値を失ってしまうのです」
翌朝、ローゼは騎士団の宿舎に向かっていた。不本意ながらも睡眠時間を削り、遅くまで例の本の内容を纏めたノートを依頼者に渡す為だった。
案の定入り口に着くなり好奇の視線に晒される事になったローゼは、すぐに立ち去りたい一心で早口のまま言った。
「ヒルシュ伯爵家のローゼ・ヒルシュと申します。マルモア団長に頼まれ物がありお持ち致しました」
呼び止めた騎士はポカンと口を開けたままローゼをじっと見てきた。
「あの、お取次ぎ頂けませんか?」
しかし騎士は固まっている。そして宿舎とは別に訓練場の方で歓声が上がった。
「あの! マルモア団長どちらにいらしゃいますか?」
「は、はい! 団長でしたら今は訓練場にいるかと思います。ですが今は特別訓練中ですので、お渡しするだけでよければお預かりしましょうか?」
手には例の小説の内容を纏めたノート。一瞬この騎士に渡してしまおうかと過ぎったが、中を見ないとは言い切れない。それにもし見られたら小説の恋愛要素が詰まった内容をマルモア団長に渡したと、変な噂が広まってしまうかもしれない。それだけは阻止しなくてはならなかった。
「別に直接渡せなんて言われてないのに」
小さく呟くもローゼは騎士に微笑むと、くるりと背を向けた。
「訓練場へ向かってみますので結構です。お気遣いありがとうございました」
恥ずかしそうにする騎士に頭を下げると、何度か行った事のある訓練場へと向かう。訓練場は近づくに連れ、騎士達の熱気に包まれていた。激しい打ち合いが続いているのか、騎士達の一喜一憂した声や剣のぶつかり合う音が響いている。その中には賭け事をしている者達もいるようで、“俺の勝ちだ”“早く出せよ”などの声が飛び交っている。ローゼは誰かに声を掛けても無駄と判断し、開いている隙間をようやく見つけると、そこからそっと覗き込んだ。そして見えた姿にローゼはとっさに声を出していた。
「アレンッ!」
訓練場には二人の騎士が打ち合っている。その内の一人はアレンだった。アレンは相手に押され、剣で受け止めるのが精一杯のようでどんどん後退していっている。そして滑ったのか押し負けたのか後ろ足が滑り、後ろに倒れた。上から振り下ろされた切っ先はアレンの頬を掠めて地面に突き刺さる。周囲からは今までにない程の歓声が沸き上がっていた。
「そこまで! 勝者は……」
声が遠くでしている。ぐるりと回り込むようにして下に向かって進むと、たった今まで激しい打ち合いが行わえていた場所に降りて行った。
「マルモア団長、只今お時間宜しいですか?」
息を切らせながら現れたローゼを見るなり、ユストゥスは驚いたように目を見開いた。
「こんな所まで何をしに来たんだ。危ないだろ!」
「私だって来たくはありませんでした。でもあなたがご依頼された事でしょう?」
問答無用でノートをユストゥスの胸に押し付けた。
「もう完成したのか?」
「ですからお渡ししているのです。そんな事よりもこれは何事ですか? 騎士団はいつもこんな賭け事のような訓練をしているのですか?」
ローゼの言葉にユストゥスが周囲を見渡した。純粋に勝負の行方を見守っていた者達がいた事は分かっているが、そういう場には必ずと言っていい程賭け事をする者達もいる。そしてやはり今この場でもいたようで、ローゼの声を聞いた瞬間、そろりと気配を消していく者が数人いた。
「お約束は果たしましたのでこれで失礼致します。もう行っても構いませんよね?」
「あぁ構わない。では礼の品を送ろう。何がいい?」
「結構です。ところで、そこに倒れている者はどうなるのでしょうか?」
アレンが起き上がれずにいるのは珍しい。いつもは訓練をつける立場にいるアレンが起き上がる事も出来ない程に伸されてしまうなんて、正直夢でも見ているような気分だった。
「問題ないさ。大きな怪我をしている訳でもないし、直に起き上がるだろう」
「手当をしても?」
「あなたがか?」
「はい、いけませんか?」
「構わんが」
「それでは救護室をお借りしますね。アレン卿! 起きて下さい!」
ローゼが声を掛けると、アレンは驚いた表情で半身を上げた。
「ローゼ……?」
気がついたと同時に周囲を見渡している。そして小さく息を吐いた。
「ブリッツは来ていないわよ。だからあなたがこてんぱんに伸された所なんて見ていないわ。良かったわね?」
手を貸しながら耳打ちすると、アレンはバツ悪そうな顔を誤魔化すようにして歩き出した。
「団長すみません、すぐに戻ります」
「気にせずに治療に専念しろ。お前はあれを相手に良くやった」
するとアレンは声を詰まらせた気がしたが、気が付かない振りをした。
訓練場では大喝采を浴びたアレンの対戦相手が次の相手を探すように集まった騎士達を煽っている。背中しか見えなかったが、ユストゥスにも引けを取らない程の大きな男で、髪の色が自分と同じだと気が付いた時には、何故か拒否反応が出たかのように身震いをした。
「ユストゥス様、あんな軟弱な奴が第三部隊の隊長だなんて甘くないですか?」
「お前が異常なだけだ、グラオザーム。それにあれは此度の戦争でもかなり良い戦い振りだったんだぞ。見覚えはないか?」
「さあね、俺は強い奴しか目に留まらないもんで。ほら誰もやりたがらないみたいだからユストゥス様が相手して下さいよ」
「ははッ、祝賀会が終わったら幾らでも相手になってやろう」
「幾らでもは言い過ぎです。溜まっているお仕事は何も騎士団の物だけではないのですからね」
ユストゥスの後ろでこめかみに血管を浮き出させながら、ヴィントは急かすようにユストゥスを見ていた。
「そろそろ王城へ向かって下さい。例のお方との顔合わせがございます」
「分かった、分かったから引っ張るな」
「そう言えばお前は髪色以外全く姉に似ていないんだな」
グラオザームは何を言われているのか分からないのか、怪訝そうに眉を上げた。
「気づいていなかったのか? お前が伸した第三部隊の隊長を連れて行ったのがお前の姉だぞ。今はヒルシュ家の籍に入っているんだったな」
その瞬間、グラオザームが風のように階段を駆け上がっていく。周囲にいた騎士でぶつかった者達は問答無用で押し負け、突き飛ばされていた。
「どうしたんだ急に」
ユストゥスは呆れたように剣を持ったまま固まっているグラオザームを追いかけ、肩を叩いた。
「……なんで姉が弱い騎士の面倒を見るんです?」
「俺も詳しい事は知らんが、何か縁があるんじゃないのか? アレンの後見人はヒルシュ伯爵だそうだしな」
「それって、姉ちゃんはあの騎士と結婚するって事ですか?」
ユストゥスは呆れたようにヴィントから上着を受け取ると、立ち尽くしているグラオザームを追い抜いて行く。
「姉なんだから自分で聞いてみたらどうだ?」
追い抜き様に言われた言葉にグラオザームは剣を投げ捨てた。剣は砂の地面に突き刺さってからゆっくりと倒れていった。
激しい雨と風が吹き荒れる中、幾つもの激しい足音と怒声が一帯に響いていた。その音に混じり馬の悲痛な嘶きが恐ろしさを増幅していく。明朝から降り続いた雨は夜になっても止まず、緩んでいた山道は小さな地滑りを起こし、前方を走っていた馬車は片方の車輪を踏み外して、今まさに急な斜面を落下しようとしていた。
御者は馬車が傾いた反動で放り出されてしまい助ける間もなかった。兵士達は車体にロープを引っ掛けて引くもぬかるんだ地面は足を取り、濡れた手も滑って力を入れる事が出来なくなっている。馬車の中にいた者達は、なんとか兵士達が車体を引いている間に脱出出来ていたが、馬は車体の重みに引かれながらなんとか道に戻ろうと足掻いていた。激しい馬の動きで馬車が大きく軋みながら揺れている。馬を繋いでいるベルトをなんとか切ろうと苦戦していた兵士はドンッと横に突き飛ばされ、その代わりに体格の良い男が一瞬にして馬の顎から頭に掛けて剣を突き入れた。馬は悲鳴とも言えない奇声を上げて体をバタつかせ、そのまま巨体は後ろに倒れていく。馬車は滑るようにしてあっという間に斜面を滑り落ちていった。
雨の音に混じって下で馬車が砕けた音がする。横に押し弾かれた兵士は倒れたまま固まっていると、後方から白い甲冑に身を包んだ兵士達が現れた。
「グラオザーム様、助け出した侍女達の他の馬車への振り分けが終了しました。ですが馬車で夜を明かすのは困難かと」
「ったく、そんな報告は俺にすんなよ。後ろの仕切りたがりやにでも聞いてこい」
白い甲冑を着た兵士の内の一人が後ろで待つ馬車へと走って行く。それと入れ替えに一際大きな白い軍馬に乗った男が近づいてきた。グラオザームは少しずれていたマントを被り直し、小さく舌打ちをした。
「おら何してんだ! モタモタすんな! ここら一帯はでけえ熊が出んだぞ! 餌になりたくなきゃ進めッ!」
「グラオザーム、一部の兵達が怯えている。今回我々は随行者なのだからあまり勝手な真似はするな。お前のやり方は敵を作りかねない。今さっき殺した馬は王城の馬だぞ」
「馬車はもう使えないから落としたんだ。分かってんのか? ここらは大熊の生息地なんだよ。お前だって熊の恐ろしさは身に沁みてんだろ?」
「馬車は貴重な財産なんだ。お前は王の財産を奪ったも同然なのだ」
「え? 何だって? 雨で聞こえねぇよ!」
後方の馬車がゆっくりと近づいてくる。それが会話の終了を意味したのか、白い軍馬に乗った男はグラオザームの胸元を思い切り引き寄せた。大きなグラオザームの体が簡単に馬上から浮き上がる。白い軍馬の男は顔を近づけると、頬にある大きな傷が引き攣るように痙攣した。
「後で説明させるからそのつもりでいろ」
「分かった! 分かったから離せよ!」
グラオザームの巨体は、投げられるようにして馬上に戻った。
グラオザームが先に進んだ後、後ろに到着した馬車の窓が少しだけ開かれる。そこには髪交じりの髪と髭を整えた男が楽しそうに口元を緩めていた。
「あれは初めての遠出ではしゃいでいるようだな」
「いえ、あれはおそらく遠出が原因ではなく……」
「なんだ? 戦いにしか興味がないと思っていたが、もしや王都なんぞに興味があったのか? そういえばムーティヒお前も王都に行きたがっていたな。わしが気づいていないとでも思ったか? 酒も女も賭博も、金の使い道はグレンツェとは全く違うだろう。羽目を外しすぎなければお前も楽しんで来い」
「いえ俺は別に結構です。妻と子がおりますので」
「なんだつまらん奴だな。本当にわしの子か?」
冗談混じりに言いながらも冗談に聞こえないのが、グレンツェ男爵の怖い所だった。
「父上、女性も乗っておられるのですからもう窓をお閉め下さい。雨が吹き込んでおります」
「まさか私のような人質の事まで考えて下さるなんて、次期男爵様はとてもお優しいようですね」
ムーティヒはその言葉には何も答えず馬の足を早めた。
「もしかして恥ずかしがりやなんでしょうか?」
クスクスと笑う声は、たった今外で起こった事には気がついていないように優雅なものだった。
「さすがに余裕ですな。でもそれは本心か、はたまた強がりか。この雨では次に同じ目に遭うのはこの馬車かもしれません。その時我々が敵国の姫を助けるとでもお思いですかな? 事故、として陛下に報告するかもしれませんぞ」
馬車の中で一瞬にして殺気が漏れ出た侍女を尻目で見ながら、グレンツェ男爵は楽しそうに腕を組んで窓の外に視線を向けた。
「まあそんな事はありえませんがね。我々が護衛に就いているのですから、あなたは何があっても王都に行けます。例え我が子のどちらかが崖の下に落ちてしまったとしてもね」
馬車の中で口元だけレースの飾りを付けて表情を隠していた女は、窓の外に視線を移しながら小さく言った。
「私の国で雨は竜の恵みなので吉兆なのです。きっと私達は無事に王都に着き、歓迎される事でしょう」
真夜中に門が激しく叩かれた音は、雨音に掻き消される事なく家中に響き渡っていった。ローゼも寝間着の上にローブを纏うと急いで玄関の見える階段まで走っていく。見下ろすとすでに屋敷の中には明かりが灯され、人々が集まった玄関前は騒然としていた。
同じ様に急いで出てきたのだろう、ローブを羽織った養父がマントを被った男達達と話をしている。そして一瞬その内の一人がちらりと視線を上げた。さすがに二階は薄暗くこちらも相手の顔までは見えない。それでも何故か動悸が激しくし、無意識に手すりを掴む手に力が入っていた。その時、後ろから強く引かれた。
「お母様?」
「いいからすぐに部屋に戻りなさい」
「ですがお客様でしたらお父様だけではお大変でしょうし……」
「ドナー達がいるでしょう。自分の格好を忘れているようだけれど、女性がそんな姿を夫でもない男性に見せるものではないわよ。あの人達は心配しなくてもすぐに出て行くわ」
指摘されてすぐにローブの前を手繰り寄せた。視線を騒がしい階段下と義母を見比べると、部屋へ戻るべく暗い廊下へと足を踏み出した。
「グレンツェ家の一行が予定より早く到着しただけよ」
とっさに振り見た義母は薄闇のせいか顔が強張って見える。そして僅かに震えているようにも見えた。
「次にお会いするのは誰かの葬儀の時くらいだと思っていたのだけれどね。あなたもそうでしょう?」
言葉が出て来ない。グレンツェ家出身の女達にしか共感し得ない感情が確かにある。一瞬義母と見つめ合った後、廊下の奥から声が聞こえてきた。
「母様と姉様? 一体何があったんです? うるさくて目が覚めてしまいました」
「何でもないわ。さぁまだ夜明け前よ、休みましょう」
目を擦りながら出てきたブリッツに二人で駆け寄ると、ブリッツごと押し込むように部屋へと入って行った。
ブリッツは母親と姉がそばにいて嬉しいのか、笑いながらすぐに眠りについたようだった。ランプはブリッツの為に点けない。だからだろうか、義母と二人という空間に緊張感すら覚えていた。かといって今部屋で一人になりたくはない。到底眠れる訳もなく、じっと黙ってクッションを抱き寄せた。
「平気だと思っていたのよ。ヒルシュ家にきてもう二十五年経つんだもの。それにブリッツも産んだ。ちゃんと科せられた役目は果たした。それなのに……」
シーツを握り締めた義母の手が震えている。シーツを引っ張られブリッツが起きるのではないかと思ったが、もうすっかり夢の中に入ってしまっているようだった。
「グレンツェ男爵はどのようなお方ですか」
「どのようなって、まだ小さかったとはいえ覚えていないの?」
「私はほとんどグレンツェ男爵と会話をした記憶がないんです。今でも覚えているのは一つだけで、これからはヒルシュ家の子供になり役に立つようにと言われました。その後の……」
続きは言葉にする事が出来なかった。特に何を言われた訳ではない。ただ話が終わった後、言われた意味が分からず部屋に残っていた時に向けられた視線。その視線が全てを物語っていたように思う。明確な言葉を向けられた訳ではない為、その意味を聞く事も責める事も出来ないが、視線から感じた拒絶は今でもローゼを苦しめているのだった。
「ローゼ? 大丈夫?」
「真夜中に飛び起きたので少し疲れただけです」
「少しでも体を休めておきなさい。あなたの顔色が悪かったらヒルシュ家が無理をさせていると疑われてしまうじゃないの」
口ではそう言いながらも毛布を引き寄せてくれる義母の手を握った。
「グレンツェ男爵がどんな方は教えて頂けませんか? きっとこのままでは眠れないんです、お願いしますお母様」
「……兄はグレンツェ家を象徴するような人だったわ。だから父のお気に入りだったの。私は五人兄妹だったけれど、男児は兄のみ。母は一番下の妹を産んですぐに亡くなったから、私が四人の妹達の面倒を見てきたのよ。それでも妹達は年頃になるとあっという間に色々な所で嫁がされてしまったわ」
「兄妹のお話は聞いた事がありませんでした」
「子供の耳に入る事じゃないわね。グレンツェ家の家臣に下賜された妹もいたし、他の貴族の所に嫁いだ子もいた。皆父に言われるままだった。そんな時、兄は一言も言わずただじっと父のそばにいたのよ。父親に逆らわず、誰よりも優れた武力の才能を持ち、グレンツェ領の兵力を拡大していったの」
ローゼは逆に毛布を義母に掛けると握っていた手に力を込めた。
「なぜお母様が一番最後に嫁がれたのですか?」
それは聞いてはいけない言葉だったようで、義母は苦しそうに呟いた。
「きっと私が一番出来が悪かったからよ」
意味が分からなかった。義母は特に目立つ容姿ではなかったが整った顔出ちをしているし、器量もよい。社交界に出ても他のご婦人方と良い関係を築き、どこからどう見ても模範のような貴族夫人だった。
「お母様……」
その時、廊下から近づいてくる足音がして思わず義母と身を寄せた時だった。
「こんな所にいたのか。二人共部屋にいないから心配したよ」
入ってきた義父に体の力が抜けていく。養父はすぐさま義母を抱き締めると宥めるように優しく撫でていた。
「グレンツェ家の皆さんはもう行ったよ。ここに来る途中で馬車が一台駄目になってしまったらしくてね。我が家の馬車をお貸し、すぐに王城に向かったんだ」
「この屋敷に滞在するのではなかったですか?」
「滞在するにはするが、今日はお客様もご一緒のようでね。その御方はどうしても王城にお連れしなければならなかったみたいなんだ。うちに滞在するのは祝賀会が終わってからだろうね」
「この雨で馬車が駄目になってしまうなんて、災難でしたね」
力が抜け、ヨロヨロと立ち上がると急に手が握られた。
「ローゼ、お母様と一緒に領地に向かうかい? 明日出発すればまだ間に合うだろう。私が言うのもなんだが、無理してグレンツェ家の者達に会う必要なんてないんだよ。遠縁だからどこかで会う事もあるだろうが、私はお前達に無理をさせる気はないからね」
「そうしたら祝賀会には誰が参加するんですか?」
苦笑いを浮かべるだけの義父に冷静さが戻っていく。深呼吸すると握られていた手をしっかりと握り返した。
「ブリッツが成人するまではしっかりとお役目を果たさせて頂きます」
ローゼは頭を下げると部屋を出て行った。
「お役目か。確かあの子がここに来た時も最初に言った言葉がそれだったね。小さな女の子が役目を果たす為に知らない家に一人来たと承知しているなんて、正直驚いたのを覚えているよ」
「それがグレンツェ家なのです。女を道具としてしか見ていないのですから」
「私も前グレンツェ男爵には一度しか会った事がないから分からないが、今の当主には何度か会っているけれど、本当にそんな男だろうか」
「辺境の地は王都よりもずっと廃れた風習が残っているのです。男は強さがあればよく、女は男児を産めなくては価値を失ってしまうのです」
翌朝、ローゼは騎士団の宿舎に向かっていた。不本意ながらも睡眠時間を削り、遅くまで例の本の内容を纏めたノートを依頼者に渡す為だった。
案の定入り口に着くなり好奇の視線に晒される事になったローゼは、すぐに立ち去りたい一心で早口のまま言った。
「ヒルシュ伯爵家のローゼ・ヒルシュと申します。マルモア団長に頼まれ物がありお持ち致しました」
呼び止めた騎士はポカンと口を開けたままローゼをじっと見てきた。
「あの、お取次ぎ頂けませんか?」
しかし騎士は固まっている。そして宿舎とは別に訓練場の方で歓声が上がった。
「あの! マルモア団長どちらにいらしゃいますか?」
「は、はい! 団長でしたら今は訓練場にいるかと思います。ですが今は特別訓練中ですので、お渡しするだけでよければお預かりしましょうか?」
手には例の小説の内容を纏めたノート。一瞬この騎士に渡してしまおうかと過ぎったが、中を見ないとは言い切れない。それにもし見られたら小説の恋愛要素が詰まった内容をマルモア団長に渡したと、変な噂が広まってしまうかもしれない。それだけは阻止しなくてはならなかった。
「別に直接渡せなんて言われてないのに」
小さく呟くもローゼは騎士に微笑むと、くるりと背を向けた。
「訓練場へ向かってみますので結構です。お気遣いありがとうございました」
恥ずかしそうにする騎士に頭を下げると、何度か行った事のある訓練場へと向かう。訓練場は近づくに連れ、騎士達の熱気に包まれていた。激しい打ち合いが続いているのか、騎士達の一喜一憂した声や剣のぶつかり合う音が響いている。その中には賭け事をしている者達もいるようで、“俺の勝ちだ”“早く出せよ”などの声が飛び交っている。ローゼは誰かに声を掛けても無駄と判断し、開いている隙間をようやく見つけると、そこからそっと覗き込んだ。そして見えた姿にローゼはとっさに声を出していた。
「アレンッ!」
訓練場には二人の騎士が打ち合っている。その内の一人はアレンだった。アレンは相手に押され、剣で受け止めるのが精一杯のようでどんどん後退していっている。そして滑ったのか押し負けたのか後ろ足が滑り、後ろに倒れた。上から振り下ろされた切っ先はアレンの頬を掠めて地面に突き刺さる。周囲からは今までにない程の歓声が沸き上がっていた。
「そこまで! 勝者は……」
声が遠くでしている。ぐるりと回り込むようにして下に向かって進むと、たった今まで激しい打ち合いが行わえていた場所に降りて行った。
「マルモア団長、只今お時間宜しいですか?」
息を切らせながら現れたローゼを見るなり、ユストゥスは驚いたように目を見開いた。
「こんな所まで何をしに来たんだ。危ないだろ!」
「私だって来たくはありませんでした。でもあなたがご依頼された事でしょう?」
問答無用でノートをユストゥスの胸に押し付けた。
「もう完成したのか?」
「ですからお渡ししているのです。そんな事よりもこれは何事ですか? 騎士団はいつもこんな賭け事のような訓練をしているのですか?」
ローゼの言葉にユストゥスが周囲を見渡した。純粋に勝負の行方を見守っていた者達がいた事は分かっているが、そういう場には必ずと言っていい程賭け事をする者達もいる。そしてやはり今この場でもいたようで、ローゼの声を聞いた瞬間、そろりと気配を消していく者が数人いた。
「お約束は果たしましたのでこれで失礼致します。もう行っても構いませんよね?」
「あぁ構わない。では礼の品を送ろう。何がいい?」
「結構です。ところで、そこに倒れている者はどうなるのでしょうか?」
アレンが起き上がれずにいるのは珍しい。いつもは訓練をつける立場にいるアレンが起き上がる事も出来ない程に伸されてしまうなんて、正直夢でも見ているような気分だった。
「問題ないさ。大きな怪我をしている訳でもないし、直に起き上がるだろう」
「手当をしても?」
「あなたがか?」
「はい、いけませんか?」
「構わんが」
「それでは救護室をお借りしますね。アレン卿! 起きて下さい!」
ローゼが声を掛けると、アレンは驚いた表情で半身を上げた。
「ローゼ……?」
気がついたと同時に周囲を見渡している。そして小さく息を吐いた。
「ブリッツは来ていないわよ。だからあなたがこてんぱんに伸された所なんて見ていないわ。良かったわね?」
手を貸しながら耳打ちすると、アレンはバツ悪そうな顔を誤魔化すようにして歩き出した。
「団長すみません、すぐに戻ります」
「気にせずに治療に専念しろ。お前はあれを相手に良くやった」
するとアレンは声を詰まらせた気がしたが、気が付かない振りをした。
訓練場では大喝采を浴びたアレンの対戦相手が次の相手を探すように集まった騎士達を煽っている。背中しか見えなかったが、ユストゥスにも引けを取らない程の大きな男で、髪の色が自分と同じだと気が付いた時には、何故か拒否反応が出たかのように身震いをした。
「ユストゥス様、あんな軟弱な奴が第三部隊の隊長だなんて甘くないですか?」
「お前が異常なだけだ、グラオザーム。それにあれは此度の戦争でもかなり良い戦い振りだったんだぞ。見覚えはないか?」
「さあね、俺は強い奴しか目に留まらないもんで。ほら誰もやりたがらないみたいだからユストゥス様が相手して下さいよ」
「ははッ、祝賀会が終わったら幾らでも相手になってやろう」
「幾らでもは言い過ぎです。溜まっているお仕事は何も騎士団の物だけではないのですからね」
ユストゥスの後ろでこめかみに血管を浮き出させながら、ヴィントは急かすようにユストゥスを見ていた。
「そろそろ王城へ向かって下さい。例のお方との顔合わせがございます」
「分かった、分かったから引っ張るな」
「そう言えばお前は髪色以外全く姉に似ていないんだな」
グラオザームは何を言われているのか分からないのか、怪訝そうに眉を上げた。
「気づいていなかったのか? お前が伸した第三部隊の隊長を連れて行ったのがお前の姉だぞ。今はヒルシュ家の籍に入っているんだったな」
その瞬間、グラオザームが風のように階段を駆け上がっていく。周囲にいた騎士でぶつかった者達は問答無用で押し負け、突き飛ばされていた。
「どうしたんだ急に」
ユストゥスは呆れたように剣を持ったまま固まっているグラオザームを追いかけ、肩を叩いた。
「……なんで姉が弱い騎士の面倒を見るんです?」
「俺も詳しい事は知らんが、何か縁があるんじゃないのか? アレンの後見人はヒルシュ伯爵だそうだしな」
「それって、姉ちゃんはあの騎士と結婚するって事ですか?」
ユストゥスは呆れたようにヴィントから上着を受け取ると、立ち尽くしているグラオザームを追い抜いて行く。
「姉なんだから自分で聞いてみたらどうだ?」
追い抜き様に言われた言葉にグラオザームは剣を投げ捨てた。剣は砂の地面に突き刺さってからゆっくりと倒れていった。
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