3 / 40
3 恋人の浮気
しおりを挟む
「……リアム様? どちらに?」
まどろみながら顔を上げた女の頬をひと撫ですると、リアムは床に落としていたシャツに袖を通した。女は何も着ていない身体にシーツを引き寄せて隠しながらその背に擦り寄った。リアムはおもむろに腕を伸ばして白金の柔らかく長い髪ごと白く柔らかく細い身体を引き寄せ、額に口づけをする。女は途中まで留められていた釦を外すと、その硬い脇腹に手を差し込んだ。
「リリアンヌ、手を離してくれ。また泊まる訳にはいかないよ」
「なぜです? お父様はお許し下さっております」
するとリアムは先程とは打って変わり苦い顔をした。
「明日には聖女と聖騎士団が帰還するんだ」
細い指がシャツの間を滑るように背中から下がっていく。
「リアム様を騙していた聖女様ですね。名はブリジット様でしたでしょうか」
リアムは返事をする代わりに小さく息を飲んだ。
「お可哀そうなリアム様。まさかあのような嘘を吐かれていたのに出迎えられるのですか?」
「……嘘は関係ない。命を掛けて国を救う旅に出てくれたんだ。聖女をこの国の王太子として迎えるのは当然の公務だ」
「公務ならよいのです。ではその時に告げていただけますよね?」
「何をだ」
優しい声音とは裏腹に背中に回されていた手はどんどん下がり、際どい所を撫でていく。臀部を擦りながら力が加わった。女を見るリアムの目に僅かな力が籠もる。少し離れた身体の隙間から薄いシーツが落ち、ツンと上がった女の乳房が顕になった。
「私はずっとリアム様をお慕いしておりました。子供の頃から王太子妃になる為に教育を受けてきたのです。でも突然現れた聖女様にあなたを奪われてしまいました。何より許せなかったのは、貴方様を深く傷つけた事でございます。私が傷つくのは構いませんでしたが、リアム様の事は許容できませんでした」
抱き着いた胸が押し潰されて盛り上がる。リアムはごくりと喉を鳴らすと、女の顎を持ち上げた。庇護欲を掻き立てられる下がり気味の目で縋るように見上げられれば、理性など飛んでしまいそうだった。
「あなたは優しい人だな。心配しなくても私があの女の元へ戻る事は二度とない。あの時はどうかしていたんだ。きっと国に広まりつつあった邪気に疲弊していた時に現れた聖女に、ありもしない幻想を抱いていたのかもしれない。平民の女よりあなたの方がずっと美しい」
「その言葉を信じてもよいのですか?」
唇が近づき、止まる。
「王太子の言葉が信じられないのか?」
「信じております。それでもこの気持ちは信頼とは関係ないのです」
「気持ちとは?」
「嫉妬ですよ、愛しております。リアム様」
小さく濡れた唇が薄く開いてぴったりと隙間なく唇を塞いでくる。リアムは貪るようにその口内を蹂躙しながら再びシャツを脱ぎ捨てると、寝台に押し倒した。
窓から光が差し込み始める。今度は起きない女の肩に薄い毛布を掛けてやると、静かに部屋を出た。気を効かせて誰もいない広い屋敷の中を足早に出ていく。一晩待たせていた御者の待つ馬車に近づくと一人きりになった馬車の中で深い息を吐いた。座席に沈むと身体から微かに情事の残り香がする。口元を押さえながら目を瞑った。
「どちらにしてももう戻れないな」
走り出した馬車の窓からちらりと今出てきた屋敷を見上げると、二階の窓のカーテンが少しだけ開けられているのが目に入った。
「またうるさく言ってきそうだ」
まどろみながら顔を上げた女の頬をひと撫ですると、リアムは床に落としていたシャツに袖を通した。女は何も着ていない身体にシーツを引き寄せて隠しながらその背に擦り寄った。リアムはおもむろに腕を伸ばして白金の柔らかく長い髪ごと白く柔らかく細い身体を引き寄せ、額に口づけをする。女は途中まで留められていた釦を外すと、その硬い脇腹に手を差し込んだ。
「リリアンヌ、手を離してくれ。また泊まる訳にはいかないよ」
「なぜです? お父様はお許し下さっております」
するとリアムは先程とは打って変わり苦い顔をした。
「明日には聖女と聖騎士団が帰還するんだ」
細い指がシャツの間を滑るように背中から下がっていく。
「リアム様を騙していた聖女様ですね。名はブリジット様でしたでしょうか」
リアムは返事をする代わりに小さく息を飲んだ。
「お可哀そうなリアム様。まさかあのような嘘を吐かれていたのに出迎えられるのですか?」
「……嘘は関係ない。命を掛けて国を救う旅に出てくれたんだ。聖女をこの国の王太子として迎えるのは当然の公務だ」
「公務ならよいのです。ではその時に告げていただけますよね?」
「何をだ」
優しい声音とは裏腹に背中に回されていた手はどんどん下がり、際どい所を撫でていく。臀部を擦りながら力が加わった。女を見るリアムの目に僅かな力が籠もる。少し離れた身体の隙間から薄いシーツが落ち、ツンと上がった女の乳房が顕になった。
「私はずっとリアム様をお慕いしておりました。子供の頃から王太子妃になる為に教育を受けてきたのです。でも突然現れた聖女様にあなたを奪われてしまいました。何より許せなかったのは、貴方様を深く傷つけた事でございます。私が傷つくのは構いませんでしたが、リアム様の事は許容できませんでした」
抱き着いた胸が押し潰されて盛り上がる。リアムはごくりと喉を鳴らすと、女の顎を持ち上げた。庇護欲を掻き立てられる下がり気味の目で縋るように見上げられれば、理性など飛んでしまいそうだった。
「あなたは優しい人だな。心配しなくても私があの女の元へ戻る事は二度とない。あの時はどうかしていたんだ。きっと国に広まりつつあった邪気に疲弊していた時に現れた聖女に、ありもしない幻想を抱いていたのかもしれない。平民の女よりあなたの方がずっと美しい」
「その言葉を信じてもよいのですか?」
唇が近づき、止まる。
「王太子の言葉が信じられないのか?」
「信じております。それでもこの気持ちは信頼とは関係ないのです」
「気持ちとは?」
「嫉妬ですよ、愛しております。リアム様」
小さく濡れた唇が薄く開いてぴったりと隙間なく唇を塞いでくる。リアムは貪るようにその口内を蹂躙しながら再びシャツを脱ぎ捨てると、寝台に押し倒した。
窓から光が差し込み始める。今度は起きない女の肩に薄い毛布を掛けてやると、静かに部屋を出た。気を効かせて誰もいない広い屋敷の中を足早に出ていく。一晩待たせていた御者の待つ馬車に近づくと一人きりになった馬車の中で深い息を吐いた。座席に沈むと身体から微かに情事の残り香がする。口元を押さえながら目を瞑った。
「どちらにしてももう戻れないな」
走り出した馬車の窓からちらりと今出てきた屋敷を見上げると、二階の窓のカーテンが少しだけ開けられているのが目に入った。
「またうるさく言ってきそうだ」
133
お気に入りに追加
783
あなたにおすすめの小説
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる