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23 消えた結界
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「殿下がまだ戻らない? まさかエーリカと夜を共にする気じゃないだろうな!」
深夜に執務室を訪れたフランツィスは、クラウスの予定を聞くなり走るように歩き出していた。
「フランツィス様いけません! 殿下より誰も近付けないよう仰せつかっております」
「そんな命令は聞けない! こっちは妹の身に危険が迫っているんだ!」
紫の離宮の門前で控えていた門番は、勝手に門を開けようとするフランツィスの前に身を挺して立った。顔面蒼白になりながらフランツィスの前に立つ門番は格子を握り締めた。
フランツィスは普段は温厚だが、一部ではとある噂が付き纏っていた。家門に邪魔な者は人知れずに排除するという噂が流れているいわくつきのアインホルン侯爵家の嫡男。少し前に侍女として働いていた子爵令嬢が城から忽然と姿を消した。そしてすぐ、金融業で成り上がったその子爵家も突然幾つもの不良債権が出て、没落も時間の問題と囁かれ始めていた。金融業なのだからリスクはあるだろうが、あまりに突然降って湧いたような不幸に、アインホルン家が関与しているのではとまことしやかに囁かれていた。子爵家が取引をしていた中にはアインホルン家の遠縁にあたる者が営む商家も含まれていたらしく、厳しい取り立てがあると街で噂になり始めていた頃の騒ぎだった。
門番は喉を鳴らすと、瞳を逸らせずに後ろ手に格子を握り締める手に力を込める。目を逸らしたら最後、喉に噛みつかれる気がした。
「どうしても退かないのか」
冷えた声は夜風に攫われ囁きのように耳に届いた。
「殿下のご命令です。命に代えても退けません」
「そうか。家族はいるか?」
「妻と息子、両親がおります」
「さぞ悲しむだろうな」
門番は言葉にならない言葉で口を戦慄かせた時、後ろから足音が聞こえてきた。
「お兄様? どうかなさいましたか?」
するとフランツィスは先程までの獰猛さを押し隠し、目を細めて微笑んだ。エーリカは門番に向かって門を開けるよう合図を送った。
「クラウス様は夕食の後すぐに、お疲れのご様子でソファで眠ってしまいました。しばらくお待ちしていましたが起きる気配がございませんでしたので毛布を掛けて参りました。様子を見て頂いても構いませんが、お声をかけるのはしばらくお待ち頂けますか?」
門番はフランツィスから逃れるように徐々に門の内側へと入っていく。
「もう少ししたら殿下の迎えが来ると思いますのでお伝えしておきます。殿下は今どちらに?」
フランツィスの鋭い視線が門番に向く。
「応接間のソファにいらっしゃいます。寝入ってしまっているので、あのご様子ですと朝まで起きないかもしれませんね」
門番は同じ髪色の兄妹に深く頭を下げると、紫の離宮へと走っていった。
「あの人どうしたのかしら。随分お顔が引き攣っていたみたいだわ」
「そんな事よりお前は大丈夫なのか?」
びくりとして顔を上げると、探るように動く視線から、怪しまれない為に敢えて真っ直ぐに見つめた。
――もしかしてどこか乱れている?
「何が?」
「せっかくの二人きりの時間だったのに、こともあろうか殿下は寝入ってしまったんだろう? 本当に大馬鹿野郎だな」
「お兄様ったら不敬よ! クラウス様の事をそんな風に言わないで。それよりもお兄様はどうしてここに?」
「それは、殿下とお前が……殿下に急ぎの書類があってだな」
もごもごと言い淀む姿を思わず笑みが溢れた。
「心配しなくても何もないわよ。今思えばお兄様もお父様達に負けず劣らずの過保護だったのよね」
よく考えれば、家族の中で誰よりも会いに来たのはこの兄だった。二つしか違わないものだから素直になれず、幼い兄が照れ隠しに厳しい言葉をかけてきたのだと今なら分かる。それもこれで最後なのだと思うと少し寂しい気がした。ついてくる兄に向かい少し意地悪を言ってみる。
「それで用はもういいの?」
「目覚めたらで構わない。まさかいくら私でもお疲れの殿下を叩き起こす訳にはいかないからな」
そのままずっと付いてくる兄に、とうとう足を止めた。
「どこまでついて来る気?」
「部屋の前まで送るよ。深夜の廊下で勘違いした身の程知らずな魔術師に部屋へ連れ込まれでもしたら、辺りが血の海になるしな」
エーリカは苛立ちと共に声を上げた。
「モフ! モフ来て頂戴!」
足の後ろから腰を超える程の高さのモフがのそりと現れた。
「いつの間にそんなに大きくなったの?」
『お前が魔力を一杯くれるからな。おっと大丈夫、あの最中はちゃんと廊下で大人しくしていたぞ』
「モフ!!」
モフの背は叩いてもびくともしない。顔は可愛らしいが体はもう背中に乗れる程に大きかった。言葉を失ったフランツィスは呆然としたままモフを見たまま固まっていた。
「お兄様は初めてだったかしら。私にはこの子がいるから送ってくれなくても大丈夫よ」
兄が無類のモフモフ好きなのは実は昔から知っている。昔はよく髪を触られた後照れ隠しに引っ張られたりしていたが、実は隠れて野生のウサギや猫、それに木の上にいるリスに手を伸ばしているのを見た事がある。今も無意識には手を伸ばしかけていた。
「いや、私は別に」
「そうなの。なら行きましょうか、モフちゃん」
わざとらしくフワフワの頭を撫でると背中を向けた。兄が自らモフを触らせてくれなどと言う訳がない。むしろ意地になって言わないはず。これ以上追ってきてほしくなくてモフを呼び出したのだった。
「オルフェンはなんて?」
『明日魔力の核を取り出すってさ』
「そしたらその後すぐに婚約破棄の書類に署名をしなくちゃね」
『あの王子はまだ何も知らないんだろう? 大丈夫なのか?』
「その逆よ。きっとお喜びになるわ。でも私はその姿を見たくはないの」
『俺に色恋は分からないが、そんなもんかねぇ』
今更になって後悔が襲ってくる。目を覚ましたらクラウスは今夜の事をどう思うだろう。一瞬媚薬を使おうとも考えたが、最初で最後くらいは媚薬など使わずにクラウスと触れ合ってみたかった。まだ下腹部には違和感とずきりした痛みが残っている。強烈な思い出にはなったが、先程の事を思い出すと嬉しさと同じくらいに胸が痛んだ。
クラウスもやはり男なのだ。好いている女がいるのにこの身を抱いた。この事を知ったらミラはどう思うだろう。側室でもいいと考えているくらいなのだから、もしかしたらクラウスが他の誰かを抱いてもいいと思っているのかもしれない。そこまで寛容な愛。
「でも私はそんな中途半端な愛はいらないもの」
意地が半分、寂しさ半分で呟いた。
クラウスは瞼に光が注ぎ、眩しさに目を開けた。見慣れない天井に家具。頭を振ってから飛び起きた。毛布が床に落ちて服を確認するとシャツは釦が胸まで閉められ、ジャケットはソファの背もたれに掛けてある。そしてスラックスもきっちりと履いていた。昨日の情事の後の痕跡は何もない。おそらくエーリカが清めてくれたのだろう。
それでも昨晩の最後に見た光景を思い出していた。瞼を閉じる瞬間にエーリカが手をかざしたように見えたが、あれはもしかしたら魔術をかけたのだろうか。こうしてはいられずジャケットを引っ掴むと扉を押し開けた。途端、使用人とぶつかりそうになる。手には水差しを持っていた。
「ようやくお目覚めでしたか。本当にぐっすりと眠られたようでお顔色が宜しいですね」
「エーリカが戻ったのはいつだ? さっきか?」
すると使用人は少し顔を引き攣らせて言った。
「夜更でございます」
「夜更だと?」
「そろそろお声を掛けようと思っていた所でした。さすがにお昼前ですので」
「そんな時間なのか!」
クラウスは口を抑え込んだ。
――いくらなんでも寝過ぎだ。
疲れていたとはいえ、体質的にいつも四時間程度寝たらそれ以上続けて寝る事は出来ない。万が一エーリカを抱いた充足感でぐっすり眠ってしまったというならありえるが、エーリカが服を着せてくれ、体を清めている間、自分が一切の記憶もなく寝入るとは思えなかった。
「すぐに魔術師の山に行く」
本当に寝入ったにしろ、魔術を使われたにしろ、エーリカに謝罪をしなくてはならない。エーリカは純潔だった。間違いなく誰にも抱かれてはいなかった。それなのに自分の欲望を優先して自分勝手に抱いてしまった。しかもソファで。それなのにエーリカは幸せだと微笑んでくれた。今すぐに会いたい、会って抱き締めたい。もう意地を張らずにただ愛しているから側にいて欲しいと告げたい。ジャケットを着ながら玄関を出たその時、頭上で大きな閃光が走った。目を背けてしばらく光を遮る。そして空を見上げ、言葉を失った。
「そんな、結界が……!」
隣りで使用人がこの世の終わりのような声を上げている。幾重にも架かっていた光の膜が一枚ずつ剥がれていくように薄くなっていく。そして現れたのは、初めて城の上に姿を現した青い空だった。
深夜に執務室を訪れたフランツィスは、クラウスの予定を聞くなり走るように歩き出していた。
「フランツィス様いけません! 殿下より誰も近付けないよう仰せつかっております」
「そんな命令は聞けない! こっちは妹の身に危険が迫っているんだ!」
紫の離宮の門前で控えていた門番は、勝手に門を開けようとするフランツィスの前に身を挺して立った。顔面蒼白になりながらフランツィスの前に立つ門番は格子を握り締めた。
フランツィスは普段は温厚だが、一部ではとある噂が付き纏っていた。家門に邪魔な者は人知れずに排除するという噂が流れているいわくつきのアインホルン侯爵家の嫡男。少し前に侍女として働いていた子爵令嬢が城から忽然と姿を消した。そしてすぐ、金融業で成り上がったその子爵家も突然幾つもの不良債権が出て、没落も時間の問題と囁かれ始めていた。金融業なのだからリスクはあるだろうが、あまりに突然降って湧いたような不幸に、アインホルン家が関与しているのではとまことしやかに囁かれていた。子爵家が取引をしていた中にはアインホルン家の遠縁にあたる者が営む商家も含まれていたらしく、厳しい取り立てがあると街で噂になり始めていた頃の騒ぎだった。
門番は喉を鳴らすと、瞳を逸らせずに後ろ手に格子を握り締める手に力を込める。目を逸らしたら最後、喉に噛みつかれる気がした。
「どうしても退かないのか」
冷えた声は夜風に攫われ囁きのように耳に届いた。
「殿下のご命令です。命に代えても退けません」
「そうか。家族はいるか?」
「妻と息子、両親がおります」
「さぞ悲しむだろうな」
門番は言葉にならない言葉で口を戦慄かせた時、後ろから足音が聞こえてきた。
「お兄様? どうかなさいましたか?」
するとフランツィスは先程までの獰猛さを押し隠し、目を細めて微笑んだ。エーリカは門番に向かって門を開けるよう合図を送った。
「クラウス様は夕食の後すぐに、お疲れのご様子でソファで眠ってしまいました。しばらくお待ちしていましたが起きる気配がございませんでしたので毛布を掛けて参りました。様子を見て頂いても構いませんが、お声をかけるのはしばらくお待ち頂けますか?」
門番はフランツィスから逃れるように徐々に門の内側へと入っていく。
「もう少ししたら殿下の迎えが来ると思いますのでお伝えしておきます。殿下は今どちらに?」
フランツィスの鋭い視線が門番に向く。
「応接間のソファにいらっしゃいます。寝入ってしまっているので、あのご様子ですと朝まで起きないかもしれませんね」
門番は同じ髪色の兄妹に深く頭を下げると、紫の離宮へと走っていった。
「あの人どうしたのかしら。随分お顔が引き攣っていたみたいだわ」
「そんな事よりお前は大丈夫なのか?」
びくりとして顔を上げると、探るように動く視線から、怪しまれない為に敢えて真っ直ぐに見つめた。
――もしかしてどこか乱れている?
「何が?」
「せっかくの二人きりの時間だったのに、こともあろうか殿下は寝入ってしまったんだろう? 本当に大馬鹿野郎だな」
「お兄様ったら不敬よ! クラウス様の事をそんな風に言わないで。それよりもお兄様はどうしてここに?」
「それは、殿下とお前が……殿下に急ぎの書類があってだな」
もごもごと言い淀む姿を思わず笑みが溢れた。
「心配しなくても何もないわよ。今思えばお兄様もお父様達に負けず劣らずの過保護だったのよね」
よく考えれば、家族の中で誰よりも会いに来たのはこの兄だった。二つしか違わないものだから素直になれず、幼い兄が照れ隠しに厳しい言葉をかけてきたのだと今なら分かる。それもこれで最後なのだと思うと少し寂しい気がした。ついてくる兄に向かい少し意地悪を言ってみる。
「それで用はもういいの?」
「目覚めたらで構わない。まさかいくら私でもお疲れの殿下を叩き起こす訳にはいかないからな」
そのままずっと付いてくる兄に、とうとう足を止めた。
「どこまでついて来る気?」
「部屋の前まで送るよ。深夜の廊下で勘違いした身の程知らずな魔術師に部屋へ連れ込まれでもしたら、辺りが血の海になるしな」
エーリカは苛立ちと共に声を上げた。
「モフ! モフ来て頂戴!」
足の後ろから腰を超える程の高さのモフがのそりと現れた。
「いつの間にそんなに大きくなったの?」
『お前が魔力を一杯くれるからな。おっと大丈夫、あの最中はちゃんと廊下で大人しくしていたぞ』
「モフ!!」
モフの背は叩いてもびくともしない。顔は可愛らしいが体はもう背中に乗れる程に大きかった。言葉を失ったフランツィスは呆然としたままモフを見たまま固まっていた。
「お兄様は初めてだったかしら。私にはこの子がいるから送ってくれなくても大丈夫よ」
兄が無類のモフモフ好きなのは実は昔から知っている。昔はよく髪を触られた後照れ隠しに引っ張られたりしていたが、実は隠れて野生のウサギや猫、それに木の上にいるリスに手を伸ばしているのを見た事がある。今も無意識には手を伸ばしかけていた。
「いや、私は別に」
「そうなの。なら行きましょうか、モフちゃん」
わざとらしくフワフワの頭を撫でると背中を向けた。兄が自らモフを触らせてくれなどと言う訳がない。むしろ意地になって言わないはず。これ以上追ってきてほしくなくてモフを呼び出したのだった。
「オルフェンはなんて?」
『明日魔力の核を取り出すってさ』
「そしたらその後すぐに婚約破棄の書類に署名をしなくちゃね」
『あの王子はまだ何も知らないんだろう? 大丈夫なのか?』
「その逆よ。きっとお喜びになるわ。でも私はその姿を見たくはないの」
『俺に色恋は分からないが、そんなもんかねぇ』
今更になって後悔が襲ってくる。目を覚ましたらクラウスは今夜の事をどう思うだろう。一瞬媚薬を使おうとも考えたが、最初で最後くらいは媚薬など使わずにクラウスと触れ合ってみたかった。まだ下腹部には違和感とずきりした痛みが残っている。強烈な思い出にはなったが、先程の事を思い出すと嬉しさと同じくらいに胸が痛んだ。
クラウスもやはり男なのだ。好いている女がいるのにこの身を抱いた。この事を知ったらミラはどう思うだろう。側室でもいいと考えているくらいなのだから、もしかしたらクラウスが他の誰かを抱いてもいいと思っているのかもしれない。そこまで寛容な愛。
「でも私はそんな中途半端な愛はいらないもの」
意地が半分、寂しさ半分で呟いた。
クラウスは瞼に光が注ぎ、眩しさに目を開けた。見慣れない天井に家具。頭を振ってから飛び起きた。毛布が床に落ちて服を確認するとシャツは釦が胸まで閉められ、ジャケットはソファの背もたれに掛けてある。そしてスラックスもきっちりと履いていた。昨日の情事の後の痕跡は何もない。おそらくエーリカが清めてくれたのだろう。
それでも昨晩の最後に見た光景を思い出していた。瞼を閉じる瞬間にエーリカが手をかざしたように見えたが、あれはもしかしたら魔術をかけたのだろうか。こうしてはいられずジャケットを引っ掴むと扉を押し開けた。途端、使用人とぶつかりそうになる。手には水差しを持っていた。
「ようやくお目覚めでしたか。本当にぐっすりと眠られたようでお顔色が宜しいですね」
「エーリカが戻ったのはいつだ? さっきか?」
すると使用人は少し顔を引き攣らせて言った。
「夜更でございます」
「夜更だと?」
「そろそろお声を掛けようと思っていた所でした。さすがにお昼前ですので」
「そんな時間なのか!」
クラウスは口を抑え込んだ。
――いくらなんでも寝過ぎだ。
疲れていたとはいえ、体質的にいつも四時間程度寝たらそれ以上続けて寝る事は出来ない。万が一エーリカを抱いた充足感でぐっすり眠ってしまったというならありえるが、エーリカが服を着せてくれ、体を清めている間、自分が一切の記憶もなく寝入るとは思えなかった。
「すぐに魔術師の山に行く」
本当に寝入ったにしろ、魔術を使われたにしろ、エーリカに謝罪をしなくてはならない。エーリカは純潔だった。間違いなく誰にも抱かれてはいなかった。それなのに自分の欲望を優先して自分勝手に抱いてしまった。しかもソファで。それなのにエーリカは幸せだと微笑んでくれた。今すぐに会いたい、会って抱き締めたい。もう意地を張らずにただ愛しているから側にいて欲しいと告げたい。ジャケットを着ながら玄関を出たその時、頭上で大きな閃光が走った。目を背けてしばらく光を遮る。そして空を見上げ、言葉を失った。
「そんな、結界が……!」
隣りで使用人がこの世の終わりのような声を上げている。幾重にも架かっていた光の膜が一枚ずつ剥がれていくように薄くなっていく。そして現れたのは、初めて城の上に姿を現した青い空だった。
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