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第23話
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僕は最後の力を振り絞って階段から飛び降りると、魔法陣にも似た光明神ルクスベルの聖印の上で、王子を待ち構えた。
そして、王子が聖印の上に乗った瞬間、僕だけが聖印から飛び出した。
隠れていた姉さんが、聖印に魔力を走らせる。
「光明神ルクスベル――。
光差す天界の主にして、安らかなる魂の守護者よ――。
異界の転生者にして聖女のクラスを与えら れし、ユースフィアが請い願う――。
死者の理を外れし、哀れなる者――。
アンサルディのベルディナット王子の闇を剥がし――。
あなたの御許たる天界の門へ迎え入れんことを――」
大広間全体が白銀の光で満たされた。
『アグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアゴエットォアアアアア!』
耳をつんざく悲鳴と共に、黒衣の王子の全身から漆黒の稲妻が、いくつもの筋となってほとばしった。
バシッ! という青い閃光が走り、壁や床を破壊していく。
さらに、古城全体が揺れ始めた。
「なにこれぇぇ!?」
「ひょっとして、このお城自体が王子のゴーストの影響下にあるってこと!?」
「どういうこと!?」
「地縛霊って言ったでしょ! 王子はアンサルディの城に取り憑く形で、現世に留まっているのよ。だから、いわばこのお城自体が、今の王子の血であり肉であり体なのよ!」
「ああ、だから他のモンスターが城にいないんだ!」
姉さんの聖女としての魔力は、間違いなく強いのだけど、王子の250年に渡る執念や妄執、そういった想いもまた、桁外れの呪いとなってこの地、この場所、この城に根づき宿っているのだ。
黒衣の王子は、正面から聖なる力に抵抗し続ける。
――ドドンッ!
ついに、天井の一部が崩落した。
「こりゃ、先にぺしゃんこになるのはわたしの方かも……。トール、わたしは最後まで浄化を見届けるから、あなたは――」
「姉さん何言ってんのさ!? 姉さんが残るなら僕もここに残る。今更置いてきぼりなんてゴメンだよ!」
「本当に死ぬかもしれないのよ!? わたしは聖女で上級クラスだけど、トールはそうじゃないでしょ!」
「いいから、僕は姉さんのそばにずっといるから! 僕らは最後まで一緒だよ!」
ユフィ姉さんが目を丸くする。
「……はあ、まったくもう、トールったらお姉ちゃんのこと大好きなんだから」
「なぁぁ! 違わないけど違うんだって! ちゃんと事情というかあるんだって!」
姉さんはわかったわかったという満足げな表情で(全然わかってないよ!?)、黒衣の王子を睨みつけた。
「ベルディナット王子、あんたはどうしてそこまで浄化されたくないの? この聖なる輝きに身を任せれば、魔界ではなく天界のルクスベルの御許へ行けるのよ? やっと安らかな死が訪れるのよ?」
『アアアア、い、嫌だ、ワタシは彼女を待つのだ。待ち続けなければいけないんだアアアアア』
「王子がしゃべった!」
「ようやく会話できるほどに正気を取り戻してきたわね」
「でも、彼女ってあの令嬢のことだよね。彼女は隣国に嫁いだって――」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッ!』
「王子! もうこれ以上令嬢を待っても来ないんだよ! 来るわけがないんだ! 嫁いだだけじゃない、あれから250年も経ってるんだから!」
そして、王子が聖印の上に乗った瞬間、僕だけが聖印から飛び出した。
隠れていた姉さんが、聖印に魔力を走らせる。
「光明神ルクスベル――。
光差す天界の主にして、安らかなる魂の守護者よ――。
異界の転生者にして聖女のクラスを与えら れし、ユースフィアが請い願う――。
死者の理を外れし、哀れなる者――。
アンサルディのベルディナット王子の闇を剥がし――。
あなたの御許たる天界の門へ迎え入れんことを――」
大広間全体が白銀の光で満たされた。
『アグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアゴエットォアアアアア!』
耳をつんざく悲鳴と共に、黒衣の王子の全身から漆黒の稲妻が、いくつもの筋となってほとばしった。
バシッ! という青い閃光が走り、壁や床を破壊していく。
さらに、古城全体が揺れ始めた。
「なにこれぇぇ!?」
「ひょっとして、このお城自体が王子のゴーストの影響下にあるってこと!?」
「どういうこと!?」
「地縛霊って言ったでしょ! 王子はアンサルディの城に取り憑く形で、現世に留まっているのよ。だから、いわばこのお城自体が、今の王子の血であり肉であり体なのよ!」
「ああ、だから他のモンスターが城にいないんだ!」
姉さんの聖女としての魔力は、間違いなく強いのだけど、王子の250年に渡る執念や妄執、そういった想いもまた、桁外れの呪いとなってこの地、この場所、この城に根づき宿っているのだ。
黒衣の王子は、正面から聖なる力に抵抗し続ける。
――ドドンッ!
ついに、天井の一部が崩落した。
「こりゃ、先にぺしゃんこになるのはわたしの方かも……。トール、わたしは最後まで浄化を見届けるから、あなたは――」
「姉さん何言ってんのさ!? 姉さんが残るなら僕もここに残る。今更置いてきぼりなんてゴメンだよ!」
「本当に死ぬかもしれないのよ!? わたしは聖女で上級クラスだけど、トールはそうじゃないでしょ!」
「いいから、僕は姉さんのそばにずっといるから! 僕らは最後まで一緒だよ!」
ユフィ姉さんが目を丸くする。
「……はあ、まったくもう、トールったらお姉ちゃんのこと大好きなんだから」
「なぁぁ! 違わないけど違うんだって! ちゃんと事情というかあるんだって!」
姉さんはわかったわかったという満足げな表情で(全然わかってないよ!?)、黒衣の王子を睨みつけた。
「ベルディナット王子、あんたはどうしてそこまで浄化されたくないの? この聖なる輝きに身を任せれば、魔界ではなく天界のルクスベルの御許へ行けるのよ? やっと安らかな死が訪れるのよ?」
『アアアア、い、嫌だ、ワタシは彼女を待つのだ。待ち続けなければいけないんだアアアアア』
「王子がしゃべった!」
「ようやく会話できるほどに正気を取り戻してきたわね」
「でも、彼女ってあの令嬢のことだよね。彼女は隣国に嫁いだって――」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッ!』
「王子! もうこれ以上令嬢を待っても来ないんだよ! 来るわけがないんだ! 嫁いだだけじゃない、あれから250年も経ってるんだから!」
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