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第20話

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「――ベルディナット王子?」


 姉さんが声をかけるが、ちっとも振り向こうとしない。
 そもそも声が届いているのだろうか?
 まったくの無関心。


「しょうがないわね。もっと近づくわよ」

「う……うん。わかった」


 恐る恐る近づいていく。


「こ、こら、押すなって!」

「姉さんこそ!」


 そんなことをしているうちに、結局、真後ろまで来てしまった。


「あの~、聞こえてますか?」


 前方に回りこんで、目の前で手を振っても動かない。


「返事がない。ただの屍みたいだけど……死んでる?」

「いや、アンデッドだから死んでるには違いないけど……」


 情報通り、こちらから攻撃しない限りは安全らしい。
 とはいえ、こうも無反応というのは想定外だ。


「これはもう、いよいよイベントアイテムを使うしかないようね」

「イベントアイテムって……」


 なに? と聞こうとしたら姉さんが、コレットさんから渡された、アンサルディの赤のルベライトを取り出した。
 王子の目の前で、思い出の赤い宝石をかざす。



『アァァ……』



 そこで初めて反応があった。
 喉の奥から漏れ出すような声が聞こえてくる。


「あっ……」

「ビンゴね!」


 目玉がギョロリと動いた。
 王子と呼ぶには薹が立ち過ぎている、彫りの深い顔立ちの人物なので、余計に恐怖感が煽られる。
 王子が手を伸ばした。



『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァゴェェエ、ゴエエェェ、ゴエットォアアアアアァァ……』



「な、何を言ってるのよ!?」

「姉さん下がって!」


 アンデッドに触られると、エナジードレインという能力で生命力や精気を吸い取られるらしいのだ。


『ゴハアアアアアアアアアアアアアア……』


 風もないのに黒衣のマントが大きくひるがえる。
 その下は――マント同様、真っ黒い全身タイツをまとったかのような服装だった。
 ゴーストだからか、存在が朧げに揺れて見える。


「落ち着いて、ね、ねっ? まずは話し合いをしましょう!」


『ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ゴエェェ……』


 すると、王子の背後に闇色の穴が開いた。
 まるで魔界にでも通じていそうな穴が、周囲の椅子や瓦礫といったものを、次々に吸いこんでいく。
 僕らも吸いこまれそうになる。



「「ひぃぃ!?」」


「ダメだぁぁ!」

「いったん退却よ!」


 思わず逃げ出してしまう。
 バルコニーから城内に入る。
 廊下を走りながら振り返ると、


「追いかけてくるよ!?」

「ど、どうして追いかけてくるのよぉぉ!?」

「赤のルベライトがあるからだよ! って、ダメ、ダメだって、投げようとしないで!」
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