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第15話
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「『おバカな王子と彼を捨てた令嬢の物語』って……あの?」
「うん。アレでいいと思うわ」
「ただのおとぎ話の類かと思ってたけど、本当にあった出来事だったんだね」
「うん。さっき、その辺の冒険者に聞いてみたら、250年くらい前の出来事みたい。この街に住んでる人なら、みんな知ってるんだって」
「そういえば当事者だもんね、アンサルドの街って」
おバカな王子や令嬢の本名はわからないけれど、街の名前だけは物語に登場する。
「ね、ね、激レアでしょ。わたしたちの初クエストに相応しい依頼だと思わない?」
「もっとこう、初心者向けの、薬草採取みたいなのじゃなくていいの?」
「いいの」
「難易度EXとかなってるけど……」
「特別高いわけじゃなくて、聖女のクラスが必要ってことでしょ。それに、聖女の力っていうのなら、トールもわたしの能力見てるじゃない」
確かに、スラッシュは姉さんの頭の上に乗っているだけで、溢れ出る聖女の魔力で浄化されてしまった。
おそらく、姉さんが意識して聖なる魔力を振るえば、大抵のアンデッドは浄化されてしまうに違いない。
そういった意味でも、
「わたしにこそ相応しい、わたしにしかできない、わたしのためのクエストよね!」
「――と、うちの聖女様はおっしゃっているんですが、どうでしょう?」
クエスト票を片手に、受付嬢にも尋ねてみた。
「そうですね……。古城自体は街から約半日の距離ですし、古城の中で凶悪なモンスターに出会ったという報告はありません。王子のゴーストを見たという噂なら昔からありますが、これといった被害が出たわけでもありませんし……。というか、うちにこんな聖女専用クエストなんてあったでしょうか……?」
受付嬢が首を捻っていると、
『それは、あなたが冒険者協会で働く以前から依頼が出されているクエストだから、かもしれませんね』
突然、背後から穏やかな口調で声をかけられた。
振り返ると、鮮やかな赤い髪に赤い瞳をもつ、
「姉さんと違い、おしとやかそうな女性が立っていた」
「ほぅ~っ、トール、何か言ったかしら?」
「ごめん、本音が漏れ出してた」
「余計にたちが悪いわよ! ――聖女パァァ~~ンチッ!」
「いた! いけど、痛くない。また回復してるしぃぃ!」
「相手に傷跡を残さずダメージを与えるという正義のパンチよ」
「全然、正義じゃない!?」
正にイジメっ子のパンチだ。
姉さんの突然の奇行に、おしとやかな女性もピョコンと跳ねるようにして後ろに下がった。
「うん。アレでいいと思うわ」
「ただのおとぎ話の類かと思ってたけど、本当にあった出来事だったんだね」
「うん。さっき、その辺の冒険者に聞いてみたら、250年くらい前の出来事みたい。この街に住んでる人なら、みんな知ってるんだって」
「そういえば当事者だもんね、アンサルドの街って」
おバカな王子や令嬢の本名はわからないけれど、街の名前だけは物語に登場する。
「ね、ね、激レアでしょ。わたしたちの初クエストに相応しい依頼だと思わない?」
「もっとこう、初心者向けの、薬草採取みたいなのじゃなくていいの?」
「いいの」
「難易度EXとかなってるけど……」
「特別高いわけじゃなくて、聖女のクラスが必要ってことでしょ。それに、聖女の力っていうのなら、トールもわたしの能力見てるじゃない」
確かに、スラッシュは姉さんの頭の上に乗っているだけで、溢れ出る聖女の魔力で浄化されてしまった。
おそらく、姉さんが意識して聖なる魔力を振るえば、大抵のアンデッドは浄化されてしまうに違いない。
そういった意味でも、
「わたしにこそ相応しい、わたしにしかできない、わたしのためのクエストよね!」
「――と、うちの聖女様はおっしゃっているんですが、どうでしょう?」
クエスト票を片手に、受付嬢にも尋ねてみた。
「そうですね……。古城自体は街から約半日の距離ですし、古城の中で凶悪なモンスターに出会ったという報告はありません。王子のゴーストを見たという噂なら昔からありますが、これといった被害が出たわけでもありませんし……。というか、うちにこんな聖女専用クエストなんてあったでしょうか……?」
受付嬢が首を捻っていると、
『それは、あなたが冒険者協会で働く以前から依頼が出されているクエストだから、かもしれませんね』
突然、背後から穏やかな口調で声をかけられた。
振り返ると、鮮やかな赤い髪に赤い瞳をもつ、
「姉さんと違い、おしとやかそうな女性が立っていた」
「ほぅ~っ、トール、何か言ったかしら?」
「ごめん、本音が漏れ出してた」
「余計にたちが悪いわよ! ――聖女パァァ~~ンチッ!」
「いた! いけど、痛くない。また回復してるしぃぃ!」
「相手に傷跡を残さずダメージを与えるという正義のパンチよ」
「全然、正義じゃない!?」
正にイジメっ子のパンチだ。
姉さんの突然の奇行に、おしとやかな女性もピョコンと跳ねるようにして後ろに下がった。
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