【完結】異世界の記憶を思い出した幼馴染で自称（大）聖女の姉が「魔王退治に行く！」と言い出しました。

第１話

『おバカな王子と彼を捨てた令嬢の物語』


ずいぶんと昔のお話です。

今はアンサルドと呼ばれている街の近くに、かつてアンサルディという小さなお城がありました。

あの、緑の蔦に覆われた古いお城です。

そこには１人の王子様が住んでいました。

王子は、やることなすことトンチンカンで、執事もメイドも、王子に仕える騎士たちでさえ「おバカな王子」と呼んでいました。

本人の、目の前で言っているのだから、陰口ではないですよね？

ですが、王子にもたった一つだけいいところがありました。

それは、王子の婚約者である令嬢を、深く深く愛しており、とても大事にしていたところです。

ただ、やることなすことトンチンカンなので、婚約者の令嬢も困っていたのですが。

そんなある日のこと。

父親に相談した令嬢は、ついに婚約破棄を申し出たのです。

そのまま、隣国の王子のもとへ嫁いでしまいました。

隣国の王子はとても立派な人物だったので、幸せに暮らしたそうです。

けれど、アンサルディの王子はおバカなので、婚約破棄の意味がわからず、いつまでもいつまでも大好きな令嬢を待っていました。

いつしか、執事やメイド、それに騎士たちがいなくなっても、いつまでもいつまでも待っていました。

たった１人になっても。

国が滅びるまで、待っていました。

だから、緑の蔦に覆われたアンサルディの古城には、もう誰も住んでいないのです。