ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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67・微笑み

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 別の町に移動し、空き家を見付けて中に入った。
 ホテルなどは人目がつくので避けた。
「さすがに ここなら追ってはこないだろう」
 執事が目を覚ました。
「お嬢さま、ご無事でしたか」
「あなたも」
 私は二人に聞く。
「それで、私たちと別れた後、どうなったんだ?」
「拳銃は すぐに偽物だと見抜かれたわ。その後は戦闘よ。戦っているうちに、彼とはぐれて、私は隙を突かれて囚われたわ」
「わたくしめも 同じようなものでございます。ただ、お嬢さまを始末しなかったことは理解できますが、なぜ わたくしまで殺さなかったのか?」
「なにか 目的があるのでしょうけれど、今は治療が先ね」
 私はブラインド レディに謝罪する。
「しかし、弾は後二発になってしまった。笑い男を誘き出す罠を仕掛けるチャンスは、あと二回だけ。
 これでは 笑い男と対峙できるかどうか。
 すまない。無駄づかいしてしまって」
「なにを謝っているの? わたしを助けるためでしょう。貴方たちには感謝しているわ。
 それに 貴方たちの命が何よりも大事。貴方たちがいてくれて本当によかった。
 ありがとう、二人とも」


 そして、ブラインド レディは微笑んだ。


 私は思う。
 私はブラインド レディ微笑みを見たかった。
 彼女の笑顔はきっと美しいと、いつも想像していたものだった。
 だが……今の彼女の笑みは醜悪だった。


 私は南部ゼロ式をブラインド レディに向ける。
「なんのつもりなの?」
 と ブラインド レディは聞く。
 そしてメイドも動揺する。
「そうですよ、記者さん。なにをしているんですか、お嬢さまに銃を向けるなんて」
「違う。違うんだよ。
 きみたちは気づいたか。彼女の笑顔を見たことがあるか?
 私は一度もない。彼女の笑顔を見たことは一度もないんだ。
 そうとも……」


 ブラインド レディは 笑わない。


 メイドと執事はブラインド レディから離れた。
 同時に、異能力によって全員 金縛りにあった。
 私は動けない体を堪えながら、彼女の体を乗っ取っている者に問う。
「きさま、笑い男か?」
「そうだよ。僕は今 お嬢さまと一つになったと言えるのかな」
 メイドは叫ぶ。
「黙れ! 汚らわしい!」
「まあ まあ、そんなにカッカしないで。そんなに怒っていると健康に悪いよ。人間は笑顔が一番」
「なぜ、お嬢さまの両親を殺したのです。自分の父親だったのでしょう」
「僕の計画に邪魔だったからさ。ただ それだけのことだよ」
 そして 笑い男は愉悦の笑みを浮かべる。
「君たちも邪魔になるのかな?」
 笑い男の眼に殺意が宿った。
 だが次の瞬間、それが靄がかかったようになる。
 私は理解する。
「お嬢さまか」
 私の金縛りが解けた。
 すぐに 私は 南部ゼロ式を向けた。
 笑い男の意志と、ブラインド レディの意志が拮抗して動かない。
 笑い男が言う。
「僕を殺せば、お嬢さまも死ぬことになるよ」
 その通りだ。
 異能力者を確実に殺す銃は、普通の人間に使えば、弾丸によって死亡する。
 だが……
「すまない、レディ」
 私はブラインド レディの右太腿を撃った。
 彼女の右太腿に電撃が走り倒れる。
 しばらくの痙攣の後、ブラインド レディの表情が普段どおりになった。
「良い考えね。かなり痛いけれど」
 メイドが駆け寄り止血を始めた。
「すぐに フェイスハンドのところへ行きましょう」


 私たちは、ミニクーパーを走らせた。
 私は考える。
「弾は後 一発。笑い男を誘き寄せるチャンスは、あと一発しか残っていない。ここからどうする? それに他の能力者も追ってきているかもしれない。無事にフェイスハンドのところに到着できるか」
 ブラインド レディは私に指示する。
「とにかく、今は 治療することだけを考えましょう。わたしも執事も怪我が酷い。怪我の手当てをしてから、作戦を考えるのよ。そして 必ず……」
 私は青信号の交差点をそのまま走り抜けようとした。
 その瞬間、真横から大型トラックが突っ込んできた。
 激突し、ミニクーパーは横転する。
 な、なんだ?
 確かに信号は青だった。
 私は確かに確認した。
 だが、向こうは構わずに突っ込んできた。
 信号無視か?
 トラックの運転手が下りてきて、我々の状態を見る。
「ど、どうしよう? 居眠りしちまった。まずい、まずいぞ」
 居眠り運転だと。
 トラックの運転手は、トラックの様子を見ると呟く。
「や、やった。ほとんど損傷してない。これなら、ごまかせる」
 そしてトラック運転手は、運転席に戻り、そのまま走り去っていった。
 に、逃げた。
 怪我の浅いメイドが、私をクルマの外に出す。
「記者さん。しっかりしてください。ああ、大変。怪我が酷い」
「わ、私のことより、彼女は? お嬢さまは?」
 メイドは次にブラインド レディを車の外に出した。
「そ、そんな。お嬢さま……お嬢さま! 死んではいけません! お嬢さま! お嬢さまーっ!!」
 彼女は呼吸をしていなかった。


 ブラインド レディは死んでいた。


 一章・終

 二章へ続く……


 二章 予告。
「これが最後になるわ。だから、貴方には伝えておきたい。
 私と笑い男の始まりの物語を」
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