ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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61・生きる権利

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 能力者たちを仕留めることも、さらわれたカップルを救出することも、両方 失敗した。
 しかも、女性のほうは能力者になっており、その影響で人格が変異している。
 私がそのことを伝えると、ブラインド レディは断定する。
「そうなると、女性のほうはもう助けることはできない。むしろ 敵よ」
「やはりそうなるか」
 それに他にも問題がある。
「完全に警戒された。ここからどうするか、作戦を考えなければ」
「それに関しては、師匠の残したノートから予想できる。能力者たちは自分たちを狙った物を始末する傾向にある。
 私たちの存在を知ったからには、向こうのほうから私たちを狙ってくる。
 むしろ、警戒しなければならないのは、私たちのほう」
「迎撃作戦を立てると言うことか」
「その通り。まずは企業に連絡して、日中内に武器を届けてもらいましょう」


 そして日没。
 午後 七時三十分。
 県を出る道で、私は愛車のミニクーパーを、路肩に止め、ボンネットを開けて見ていた。
 そこに二台のバイクが止まる。
 女と男の能力者だ。
「アタシたちのことはもういいの? 尻尾を巻いて逃げるわけ?」
 それに私は答える。
「いや、もちろん違うとも。私はただの囮だ」
「なんですって?」
 その瞬間、一本の矢が女の腹に突き刺さった。
 続いて男にも。
 しかし二人は平然とした表情。
「こんなのアタシたちには効かないわよ」
「ああ、そうだろうな。しかし、毒はどうだろう」
「え?」
 その瞬間、二人は痙攣を起こし始め、気を失って倒れた。
 そして道の脇に潜んでいた、ボウガンを持ったメイドと執事が現れ、続いてブラインド レディが現れる。
「やはり まだ生きているわね。猛毒でも、耐性が強靱だから、効果は長続きしない。一時間くらいで毒が抜ける。
 それまでに、残りを罠にかけましょう。
 でも、必要なのは一人。一人いれば充分。だから、男のほうは ここで始末しましょう」
 ブラインド レディは白杖を刀に変えた。


 しばらくして、畜産業廃屋では、能力者たちのリーダーが焦燥していた。
「戻ってくるのが遅い。なにかあったんだ。
 おい、お前たち 準備をしろ。俺達も出撃する」
 そこに、異能力による鋭敏な耳に、自動車の音が聞こえてきた。
「静かに」
 リーダーが指示すると、他は静かになる。
 自動車が止まり、エンジンを空回りさせて、大きな排気音を鳴らす。
 手下の一人が怪訝にリーダーに言う。
「他のチーマーじゃねえのか。あんなやつより、早く探しに行こうぜ」
「いや、匂いを嗅いでみろ。女だ。俺の女の匂いがする。
 くそ、返り討ちにされたんだ。誘い出している。
 おい、バイクに乗れ。すぐに出るぞ。助けるには 誘いに乗るしかない」
 そして 二人の能力者たちに指示を出す。
「お前たちはここに残っていろ。食糧の男を見張っているんだ」
 そして リーダーは追跡に向かった。


 奴らが去った後、私とブラインド レディ、そしてメイドは、廃屋に侵入した。
 執事は女を使って囮だ。
 能力者たちが、牢屋の前にいたが、ボウガンで毒を塗った矢を放ち、無力化させる。
 そして私がピッキングで牢の鍵を開けると、生存していた男性を救出した。
 ブラインド レディは次の指示を出す。
「さあ、私たちも援軍に行くわよ。囮は長続きしない」


 執事はしばらく車を走らせていたが、しかし前方にバイクが三台 立ち塞がっていた。
 迂回して先回りされたのだ。
 執事は車を止めると鉈を手にし、女の能力者を車から出した。
「話をしようじゃないか。この女は人質だ」
「なにが望みだ?」
「銃を渡せ。この女と銃を交換だ」
「この銃がなんなのか知っているんだな。だが 渡した後、俺達に使わないという保証はどこにある?」
「お前たちに使うんじゃない。弾がもったいない。もっと特別な相手に使う予定だ」
 能力者のリーダーは黙考し、しばらくして銃を地面に置いて下がった。
 執事は女を引きずって、銃を取りに足を進める。
 銃に手を伸ばし、手に掴んだその時、
「ちょっと甘いんじゃない」
 女能力者が目を覚ました。
 そして 執事に一撃を入れる。
 そこに能力者たちが一斉に執事に襲いかかった。
「スッホ スッホ スッホ」
 執事は呼吸法によって応戦するが、多勢に無勢。
 形勢不利だった。
 二人の能力者が、執事を両脇からがっちり抑え込み、リーダーは執事が手にしていた鉈を奪い、とどめを刺そうとした。
 リーダーは執事に言う。
「残念だったな」


 その時、二本の矢が両脇の男たちを貫いた。
 毒塗りの矢だ。
 たちまち意識を失い、そこに疾走したブラインド レディが首を刈り取る。
 フリーマンである私とメイドがさらに矢を放ち、男たちを射貫いていった。
 しかし私は後ろを注意していなかった。
「ぐっ」
 リーダー格の男が、いつの間にか背後へ回り、私を羽交い締めした。
「全員 大人しくして武器を捨てろ」
 リーダーの男は憎々しげに言う。
「よくも仲間を殺しやがって。俺達にも生きる権利はあるんだ」


「いいや、そんなものはない」
 執事が南部ゼロ式を発砲した。
 弾は狙い違わずリーダーの額に命中した。
 バチバチと放電が発生し、リーダーは緩慢に俯せに倒れる。
 残った女能力者が叫ぶ。
「リーダー!」
 もう一人残った能力者が彼女を引っ張った。
「逃げよう!」
 二人はバイクに乗って逃走したのだった。


 ホテルに戻った我々に、執事は言う。
「南部ゼロ式は手に入った。
 これで笑い男と対峙することができます」
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