ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

文字の大きさ
上 下
59 / 67

59・狩人

しおりを挟む
 とある 地方の小さな町にて。
 夜の喫茶店で、一人の男の老人が、いくつかの新聞の記事を読みながら、ノートにメモをとっていた。
 その様は 熱中していると言っても過言ではなく、喫茶店に流れるジャズ音楽も聴いてはいなかった。
 老人は ふと作業の手を止めると、従業員に向かって一言。
「紅茶のおかわりを」
「はい、かしこまりました」
 女性従業員は、紅茶のおかわりを注ぐ。
 老人はそれを一口すすると、またノートにメモをとる作業に取りかかった。
 若いサラリーマンがその様子を見て、女性従業員に聞く。
「なんかヘンな人だけど、いつもあそこに座ってるよな。どういう人なのか知ってるの?」
「山のほうに住んでいる人ですよ。変わり者だけど、親切でいい人ですよ」
「そう。偏屈じいさんってやつかね」


 そこにガラの悪そうな三人組が喫茶店に入ってきた。
 男が二人に、女が一人。
 三人とも若いが、実際の年齢より老けて見える。
 女性従業員がオーダーを取りに行く。
「ご注文は?」
 女が言った。
「酒」
 女性従業員は困ったように説明する。
「ここは喫茶店ですので、お酒は置いていないんですよ」
「じゃあ、いい」
 三人組は喫茶店を出て行った。
 女性従業員は、あの三人組は何しに来たのだろうと、ポカンとしてしまった。
 そして ふと見ると、老人の姿が消えていた。


 老人は、喫茶店に三人組が入ってきた途端、急いで山の家に戻った。
 そして 慌てて玄関の鍵を開けると、中に入る。
 しかし 家の中には、すでに女の姿があった。
 先程 喫茶店に入ってきたガラの悪い三人組の女だ。
 女はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「逃げるなんて、つれないじゃない」
 緊張が走り、老人は無言で投げナイフを投げた。
 それは狙いを違わず心臓に命中する。
 しかし女は興味なさそうに告げる。
「こんなの効かないわよ」
 老人はその言葉を無視して、奥の書斎へ逃げ込むと、箪笥を倒して簡単なバリケードを作った。
 そして本棚にある金庫のダイヤルを回し始める。
 慌てて一度 失敗してしまった。
 だが、なんとか金庫を空けると、中には適度な大きさの木箱があった。
 木箱の中には、古い回転式拳銃が入っていた。
 老人は急いで弾を込めようとした その時、窓から二人組の男が突入してきた。
 喫茶店に入ってきた残りの二人だ。
 二人の男は中に突入するなり、老人の両腕をつかみ、地面に押し倒す。
「ぐぅううっ」
 とてつもない力で、老人は苦悶の声を上げる。
 そして そこに、女がバリケードを破って入ってきた。
 女は老人が何もできないのを見ると、せせら笑った。
 そして銃を手にし、
「こんなの使ったって意味ないのに」
 女は老人の頬を撫でると、二人の男に言う。
「さあ、食事にしましょう」


 そして 誰もいない山の中で、老人の悲鳴が響き渡った。


 私がこれらの事実を知ったのは、ずいぶん後になってからだった。
 私はこの老人の死の事件を知ったとき、警察は熊の襲撃だと発表した。
 しかし、なぜか空の拳銃の保管箱があったという記述が気になり、私はこの事件を調査してみることにした。


 私は事件現場に到着すると、周囲を窺う。
 人里から離れている一軒家。
 玄関は鍵がかかっていなかったので、わたしは勝手に入った。
 中はずいぶん荒らされている。
 とくに、応接間のドアが破壊され、書斎がメチャクチャだった。
 そして書斎の書き物机の上に、気になった拳銃の箱が置いてあった。
 日本では銃刀法の観点から、拳銃を所持することは難しい。
 それに中は空だが、誰が持ち去ったのか。
 警察は特に疑問視しなかったようだが、なにかありそうだ。
 机の上には、分厚いノートが数冊置かれていた。
 読んでみると、数々の事件の記録と、そして異能力の推理について書かれていた。
 異能力の調査をしている。
 この被害者は、ブラインド レディと同じ、能力者を狩っていたのか。


 私は遺体が発見された場所を調査する。
 遺体があった場所に沿って、チョークで線が引かれていた。
 私はふと、木の床にひっかき傷があるのを見つけた。
 ちょうど右手が置かれていた位置だ。
 なぜか私は気になり、よく観察してみる。
 何かの文字に見えるが、しかし ひっかき傷なのでよくわからない。
 私はメモ用紙を取り出し、一枚ちぎると、ひっかき傷の上に敷き、そして鉛筆で薄くこすってみた。
 ひっかき傷に沿って文字が浮かぶ。
 それは数種類の文字と数字。
 郵便私書箱の番号だ。


 そこに、背後から声をかける者がいた。
「貴方もこの事件に興味があるの」
 私は驚いて後ろを振り向くと、そこには ブラインド レディの姿があった。


 私たちは町に降り、郵便局に立ち寄る。
 ブラインド レディは一人ではなかった。
 彼女を介護するメイド。
 そして、
「お久しぶりですな」
 執事の姿があった。
 私は彼に言う。
「彼女と一緒だと言うことは、笑い男の調査に進展があったということか」
「その通りでございます。そして 今回の事件も、その一つ」
「被害者の自宅からノートを見つけた。異能力についての調査記録だ。
 被害者は能力者を狩っていたんだな」
 これには ブラインド レディが答えた。
「その通りよ。そして 私の師匠の一人でもある。彼からは 能力者について色々と学んだわ。
 彼が亡くなったという記事を知って、駆け付けた。でも、貴方が先に到着していたのだけど」
 私書箱には一通の封筒が入っていた。
 中を空けると、紙が一枚。
 書かれていたのは、
「南部ゼロ式」


 執事が説明した。
「それは日本の伝説的な銃職人、南部麒次郎が作った拳銃です。
 南部麒次郎は、とある男に依頼され、その南部ゼロ式と十三発の弾を作りました。男とは、お嬢さまと同じく、能力者を狩る者です。
 そう、南部ゼロ式とは、能力者を殺すための銃。命中さえすれば、どんな相手でも、必ず殺すことができる。
 お嬢さまが時折 遭遇する、不死としか思えぬようなものであっても。
 そして 笑い男は、その銃を手に入れようとしているのです」
「笑い男が、その南部ゼロ式を手に入れようとしている?
 しかし 笑い男は、能力者を扇動するようなことをしているのだろう。なぜ 能力者を殺すような武器を欲しがる」
「その銃は、単純に能力者を殺すだけではありません。他にも秘密があるようなのです。
 その秘密がなんなのかは、まだ突き止めることはできておりませんが、しかし笑い男は その秘密を知っているようですな。
 そして今、南部ゼロ式は能力者の手に渡った。
 能力者を狩る者が殺されたからには、犯人は能力者以外 有り得ない」
「まずは、それを突き止めなければならないな」
 ブラインド レディが宣言する。
「手がかりは、彼が残したノートよ。それを調べてみましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。 ※この作品は小説家になろうにも掲載されています

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

予言

側溝
SF
いろいろな話を書いていると、何個かは実際に起こってたり、近い未来に起こるんじゃないかと思う時がある。 そんな作者の作品兼予言10遍をここに書き記しておこうと思う。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...