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57・無駄遣い
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その夜、ブラインド レディは画廊に侵入した。
企業に連絡して、警備カメラは停止させた。
そして 電子キーをメイドが端末を使ってハッキングし、解除する。
暗がりの中、肖像画を額縁から手早く外して、巻き上げて小さくすると、画廊にきちんと鍵をかけて出ていった。
そして 離れた河原で肖像画を燃やす。
コンビニで購入したライターのオイルを撒き、マッチを放り投げる。
火がついて、音を立てて燃え上がる。
ブラインド レディとメイドは、能力者が異能力を使うことを警戒し、構えていたが、しかし 肖像画はそのまま燃え尽き、灰となった。
しばらく無言で待機していたが、やはり何も起きない。
「……燃え尽きました。なにも起きませんね」
「明日、もう一度 調査してみましょう。担当のトミオカに話を聞いてみる」
次の日の昼頃 画廊に入ると、トミオカ氏が出迎える。
「ようこそおいで下さいました。なにか気になる品でも」
「実は例の肖像画について もう少し詳しく聞きたくて」
ブラインド レディが質問しようとすると、メイドが悲鳴のような声を上げる。
「お嬢さま! 肖像画が!」
「私も匂いで分かった」
そこには、燃やしたはずの肖像画があった。
トミオカ氏が怪訝に訊く。
「この肖像画がどうかされましたか?」
メイドは慌てて答える。
「いえ、その、素晴らしい絵画だと思いまして。昨日と違う時間帯に見ると、その素晴らしさに気付いたというか」
「ああ、そうですか。私にはピンと来ませんが、しかし貴女の感性には触れるものがあったのでしょう。
是非ともオークションでの購入を検討されて下さい」
「はい、お嬢さまと相談します。それで、ちょっと二人で話がしたいので」
「ああ、わかりました。私はこれで。なにかありましたら、お呼び下さい」
トミオカ氏が離れた後、メイドはブラインド レディに囁く。
「どういうことでしょうか? この絵、確かに燃やしたはずですよ」
「わからないわ。少なくとも、燃やしただけではダメだということね。
とにかく、今夜のオークション、出席するわよ。仕方ないけど、お金を出して落札するわ」
ブラインド レディは嘆息する。
「結局 無駄遣いをすることになりそうね」
そして、オーディションに出席したブラインド レディだが、問題の絵画が出品されなかった。
「どういうことでしょうか?」
「トミオカに訊いてみましょう」
オークション終了後、トミオカ氏に話を聞いてみる。
「ああ、申し訳ありません。実はオーナーが、もう売ってしまったんです。
なんでも かなりの値段を付けてきた常連のお客様がいたので、オークションには出品せずに、その方に直接 販売すると」
「絵は今どこに?」
「その方の家に到着していると思いますが」
「住所を教えなさい。その人の命が危ない」
トミオカ氏はさすがに疑念が湧いてきた。
「ちょっと待ってください。貴女たちの本当の目的はなんなのです? 美術品を購入するというのは嘘なのですね。別に目的がある」
「詳しい説明は後でするわ。早くしないと、購入者が殺される」
「殺されるって……」
トミオカ氏は なにを意味不明なことを言っているのだと思ったが、しかしブラインド レディが真剣なのだと知ると、思わず住所を口にしていた。
「行きましょう」
ブラインド レディがメイドと共に行こうとすると、トミオカ氏も付いてきた。
「待ってください。私も行きます。あの肖像画が危険とはどういうことなのか、販売元として確認しておかなければ」
「分かった。リムジンに乗って」
そしてリムジンを走らせた。
購入者の家に到着し、トミオカ氏が家のチャイムを鳴らす。
「夜分遅く すみません。実は購入した商品に関して、問題が判明いたしましたので、至急 確認する必要があります。お手数ですが、上げていただけないでしょうか」
しかし返事はない。
だが家の明かりは付いている。
ブラインド レディが玄関のドアノブを捻ると、鍵はかかっておらず 開いていた。
トミオカ氏はそれを見て、イヤな予感がした。
「失礼ですが、勝手に上がらせていただきます」
トミオカ氏は そう言って上がり、ブラインド レディたちが付いていく。
リビングに入ると、購入した肖像画が壁に掛けられていた。
ソファに購入者が一人で、こちらに背中を向けて座っている。
「あの、お客様。眠っておられるのですか?」
トミオカ氏は恐る恐るその肩に触れると、首がガクンと傾げた。
喉が頸椎に達するほど切り裂かれている。
「うわぁあああー!!」
トミオカ氏は悲鳴を上げる。
そして肖像画を見て悲鳴を止めた。
「なんだよ これ? なんなんだ!?」
その絵が変わっていた。
父親の、左下の娘に向けていた顔が、正面を向いていた。
「そんなはずはない! こんな絵じゃなかったはずだ!」
メイドが警察に連絡した。
トミオカ氏は、販売した絵画が きちんと到着したか、確認 連絡する予定だったが、連絡しても返事がないので、心配して見に行ったと嘘をついた。
その証言もあり、警察は ブラインド レディの社会的地位を知ると、すぐに三人を釈放した。
「それで、結局 どういうことなんですか?」
ホテルでトミオカ氏はブラインド レディに問い詰める。
「具体的な事は、資料を見て貰えれば理解できると思うけれど、簡単に言うと、肖像画の所有者は全員 何者かに殺されているのよ」
「その資料というのを見せてください」
メイドがパソコンを見せる。
一時間ほど、トミオカ氏はその資料を黙読していたが、読み終えた後には、汗でびっしょりとなっていた。
「つまり、肖像画の持ち主を狙った、連続殺人」
「その通りよ」
「警察にこのことは?」
「伝えても信じないでしょうね」
「犯人の手がかりは?」
「ないわ。肖像画を描いた画家も、描かれた家族も死んでいる。容疑者は全員死亡。手がかりはないわ。
それに、今だから白状するけれど、実は昨日、あの絵を盗んだの」
「盗んだ?」
「そうよ。そして 河原で燃やしたわ。でも、次の日には元に戻っていた」
「あの時 驚いていた理由はそれか。持っているだけで 殺される 呪われた絵画。そんなものが現実にあるなんて」
トミオカ氏はしばらく考えて、
「美術界のネットにアクセスすれば、画家と描かれた家族が、どこに埋葬されたのか 分かるかもしれません」
企業に連絡して、警備カメラは停止させた。
そして 電子キーをメイドが端末を使ってハッキングし、解除する。
暗がりの中、肖像画を額縁から手早く外して、巻き上げて小さくすると、画廊にきちんと鍵をかけて出ていった。
そして 離れた河原で肖像画を燃やす。
コンビニで購入したライターのオイルを撒き、マッチを放り投げる。
火がついて、音を立てて燃え上がる。
ブラインド レディとメイドは、能力者が異能力を使うことを警戒し、構えていたが、しかし 肖像画はそのまま燃え尽き、灰となった。
しばらく無言で待機していたが、やはり何も起きない。
「……燃え尽きました。なにも起きませんね」
「明日、もう一度 調査してみましょう。担当のトミオカに話を聞いてみる」
次の日の昼頃 画廊に入ると、トミオカ氏が出迎える。
「ようこそおいで下さいました。なにか気になる品でも」
「実は例の肖像画について もう少し詳しく聞きたくて」
ブラインド レディが質問しようとすると、メイドが悲鳴のような声を上げる。
「お嬢さま! 肖像画が!」
「私も匂いで分かった」
そこには、燃やしたはずの肖像画があった。
トミオカ氏が怪訝に訊く。
「この肖像画がどうかされましたか?」
メイドは慌てて答える。
「いえ、その、素晴らしい絵画だと思いまして。昨日と違う時間帯に見ると、その素晴らしさに気付いたというか」
「ああ、そうですか。私にはピンと来ませんが、しかし貴女の感性には触れるものがあったのでしょう。
是非ともオークションでの購入を検討されて下さい」
「はい、お嬢さまと相談します。それで、ちょっと二人で話がしたいので」
「ああ、わかりました。私はこれで。なにかありましたら、お呼び下さい」
トミオカ氏が離れた後、メイドはブラインド レディに囁く。
「どういうことでしょうか? この絵、確かに燃やしたはずですよ」
「わからないわ。少なくとも、燃やしただけではダメだということね。
とにかく、今夜のオークション、出席するわよ。仕方ないけど、お金を出して落札するわ」
ブラインド レディは嘆息する。
「結局 無駄遣いをすることになりそうね」
そして、オーディションに出席したブラインド レディだが、問題の絵画が出品されなかった。
「どういうことでしょうか?」
「トミオカに訊いてみましょう」
オークション終了後、トミオカ氏に話を聞いてみる。
「ああ、申し訳ありません。実はオーナーが、もう売ってしまったんです。
なんでも かなりの値段を付けてきた常連のお客様がいたので、オークションには出品せずに、その方に直接 販売すると」
「絵は今どこに?」
「その方の家に到着していると思いますが」
「住所を教えなさい。その人の命が危ない」
トミオカ氏はさすがに疑念が湧いてきた。
「ちょっと待ってください。貴女たちの本当の目的はなんなのです? 美術品を購入するというのは嘘なのですね。別に目的がある」
「詳しい説明は後でするわ。早くしないと、購入者が殺される」
「殺されるって……」
トミオカ氏は なにを意味不明なことを言っているのだと思ったが、しかしブラインド レディが真剣なのだと知ると、思わず住所を口にしていた。
「行きましょう」
ブラインド レディがメイドと共に行こうとすると、トミオカ氏も付いてきた。
「待ってください。私も行きます。あの肖像画が危険とはどういうことなのか、販売元として確認しておかなければ」
「分かった。リムジンに乗って」
そしてリムジンを走らせた。
購入者の家に到着し、トミオカ氏が家のチャイムを鳴らす。
「夜分遅く すみません。実は購入した商品に関して、問題が判明いたしましたので、至急 確認する必要があります。お手数ですが、上げていただけないでしょうか」
しかし返事はない。
だが家の明かりは付いている。
ブラインド レディが玄関のドアノブを捻ると、鍵はかかっておらず 開いていた。
トミオカ氏はそれを見て、イヤな予感がした。
「失礼ですが、勝手に上がらせていただきます」
トミオカ氏は そう言って上がり、ブラインド レディたちが付いていく。
リビングに入ると、購入した肖像画が壁に掛けられていた。
ソファに購入者が一人で、こちらに背中を向けて座っている。
「あの、お客様。眠っておられるのですか?」
トミオカ氏は恐る恐るその肩に触れると、首がガクンと傾げた。
喉が頸椎に達するほど切り裂かれている。
「うわぁあああー!!」
トミオカ氏は悲鳴を上げる。
そして肖像画を見て悲鳴を止めた。
「なんだよ これ? なんなんだ!?」
その絵が変わっていた。
父親の、左下の娘に向けていた顔が、正面を向いていた。
「そんなはずはない! こんな絵じゃなかったはずだ!」
メイドが警察に連絡した。
トミオカ氏は、販売した絵画が きちんと到着したか、確認 連絡する予定だったが、連絡しても返事がないので、心配して見に行ったと嘘をついた。
その証言もあり、警察は ブラインド レディの社会的地位を知ると、すぐに三人を釈放した。
「それで、結局 どういうことなんですか?」
ホテルでトミオカ氏はブラインド レディに問い詰める。
「具体的な事は、資料を見て貰えれば理解できると思うけれど、簡単に言うと、肖像画の所有者は全員 何者かに殺されているのよ」
「その資料というのを見せてください」
メイドがパソコンを見せる。
一時間ほど、トミオカ氏はその資料を黙読していたが、読み終えた後には、汗でびっしょりとなっていた。
「つまり、肖像画の持ち主を狙った、連続殺人」
「その通りよ」
「警察にこのことは?」
「伝えても信じないでしょうね」
「犯人の手がかりは?」
「ないわ。肖像画を描いた画家も、描かれた家族も死んでいる。容疑者は全員死亡。手がかりはないわ。
それに、今だから白状するけれど、実は昨日、あの絵を盗んだの」
「盗んだ?」
「そうよ。そして 河原で燃やしたわ。でも、次の日には元に戻っていた」
「あの時 驚いていた理由はそれか。持っているだけで 殺される 呪われた絵画。そんなものが現実にあるなんて」
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