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54・怖い夢
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ブラインド レディは、その町のホテルに入る。
観光地でもない町の人口は 二万人。大きなホテルがなく、小さなホテルしかなかった。
受付に行くと、なぜか 十二歳の少女が受付をしていた。
「最上級の部屋をお願い」
ブラインド レディが告げると、少女は 笑顔で対応する。
「かしこまりました。きれいなお姉さん」
おしゃまな感じのする少女だった。
そこに ホテルオーナーの母親が現れる。
「こら、ホテルで遊ぶのは止めなさいと言ったでしょう」
どうやら 少女は、ごっこ遊びをしていただけのようだ。
「弟と一緒に居なさい」
「はーい」
少女がホテルを出て行くと、母親が謝る。
「すみません、お客さま」
「いいのよ」
そしてブラインド レディはチェックインして、部屋に。
部屋に入ると、二人は 過去に似たような事例がないかを調べた。
そして それは、すぐに突き止めることができた。
ブラインド レディは説明する。
「過去の事例を見てみると、三十年周期で、この県で同じ奇病が蔓延しているわね。
五十人以上の子供が肺炎で亡くなり、そして ぷっつりと蔓延は途絶える。
この県の風土病の疑いがあるけれど、症例が少なく、ただの肺炎と見分けが付かないため、ネットが普及して情報交換がスムーズになるまで問題視されなかった。
しかし 検死しても 特別な病原体の発見はなし。
明らかに 能力者の仕業ね」
メイドは質問する。
「この能力者はどういった力でしょうか?」
「生命力を吸収する力でしょう。
子供を狙っているのは、子供の方が大人に比べて生命力が強いから。
栄養を摂取するように、生命力を摂取する」
「さしずめ、生命喰らい」
メイドは問題点を指摘する。
「でも、子供を狙うとなると、誰をターゲットにするかわかりません。異能力者が誰なのかもわからない。
狙いを絞ることができません。これでは どうすればいいのか……」
ブラインド レディは白杖で、地図上に 発病した子供の住所にチェックをつけた。
「子供は それぞれ六軒の家で発症。
その中心にあるのは、病院よ」
「つまり、病院の中に犯人はいると」
「その可能性は高い」
「病院の医者か看護師、もしくは患者。一体 誰が?」
メイドは不意に怪しい老婆の事を思い出す。
「お嬢さま。患者の子供たちを見ながら、奇妙な言葉を呟いていた、高齢者の女性を憶えていますか。
もしかしたら、あの女性が犯人なのかも」
「確かに 怪しいとは思うけれど、それだけで始末するわけにはいかないわ。確信がないと」
「では、これから調べに行きませんか」
ブラインド レディはしばらくの沈黙の後、答える。
「他に手がかりがないことだし、行ってみて損はないわね」
その夜 二人は 病院に入った。
入り口のところで、モリモト医師が病院を出て行くところだった。
院長が見送りをしている。
「こんな時だ。休めるときに、しっかり休んでおいてくれ」
「わかりました、院長。今日 ぐっすり眠ったら、また患者の治療に専念します」
そして 彼は車で去って行った。
それを 見届けると、ブラインド レディは病院に入り、老婆の病室へと向かう。
ベッドライトだけがついている病室で、老婆はブツブツと呟いていた。
「子どもたちだけは、ぜひ生かしておいて、我らの人間の究極の先祖である、母なるヒドラと父なるダゴンの元に、還っていかねばならん。
イア、イア、クトゥルフ・フタグンン。フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン」
メイドは 能力者が何かの呪文を唱えているのだと思った。
そして今、能力を使い、子供の命の奪おうとしている。
「お嬢さま、早くしないと また子供が」
しかし、ブラインド レディは嘆息した。
「外れね」
「え?」
その時、老婆がこちらを向いた。
「おや、どちらさんだい。ナースコールは押してないよ。普段は押しても中々 来ないくせに、消灯時間にだけはきっちり来るんだね。
まったく。わかったよ、本を読むのは止めて、さっさと寝ることにするよ」
老婆は手にしていた本。
二十世紀の怪奇小説というタイトルの文庫本を、ベッドの脇のテーブルに置くと、ベッドライトを消した。
ブラインド レディとメイドはそっとその場を立ち去った。
病院を出て、メイドは脱力する。
「小説を読んでいただけだったのですか」
「そういうことよ。さすがに、そんな わかりやすいことをするわけがないわね」
ホテルに戻ると、オーナーが住んでいる ホテルの隣のマンションで、少女と母親が 少し騒いでいた。
「どうしたのでしょうか?」
「聞いてみましょう」
母親が荷物を車に詰め込み、娘が心配そうな顔をしている。
「どうされました?」
メイドが聞いてみると、ホテルオーナーは答える。
「実は 息子が肺炎になってしまって、入院することになったのです。
大丈夫です、お客様。ホテルは従業員が 通常どおり 運営いたしますので」
すると、娘が母にすがる。
「お母さん、私も連れてって」
「だめよ。感染するかもしれないから」
「でも」
ブラインド レディが 少女の肩にそっと手を置き、彼女を止める。
「お母さんを困らせてはいけないわ」
少女は諭されて 引き下がった。
「ありがとうございます」
母親は感謝を告げると、急いで病院へ向かった。
メイドはそれを見送って、ブラインド レディに耳打ちする。
「一連の事件と同じだと思います」
「私も同感よ」
ブラインド レディは少女に聞いてみることにした。
「良ければ、詳しく事情を話して貰えないかしら」
「うん……」
「昨日、私が窓をちゃんと閉めなかったせいで、弟が風邪を引いたの」
「窓を閉めなかったの?」
「怖い夢を見て。あんな夢、気にしなければ良かったのに」
「どんな夢を見たのかしら」
「窓から黒い人影が入ってくる夢。でも、ここは二階だから そんなこと起きるわけがないと思って、悪い夢を見てるんだと思ったの。
だから、布団をかぶって眠ったの。
あの時、ちゃんと起きて 窓を確認すれば、窓が開いていることに気付いたのに。
私のせいで 弟が病気になっちゃった」
ブラインド レディは自分を責める少女に告げる。
「あなたのせいではないわ」
観光地でもない町の人口は 二万人。大きなホテルがなく、小さなホテルしかなかった。
受付に行くと、なぜか 十二歳の少女が受付をしていた。
「最上級の部屋をお願い」
ブラインド レディが告げると、少女は 笑顔で対応する。
「かしこまりました。きれいなお姉さん」
おしゃまな感じのする少女だった。
そこに ホテルオーナーの母親が現れる。
「こら、ホテルで遊ぶのは止めなさいと言ったでしょう」
どうやら 少女は、ごっこ遊びをしていただけのようだ。
「弟と一緒に居なさい」
「はーい」
少女がホテルを出て行くと、母親が謝る。
「すみません、お客さま」
「いいのよ」
そしてブラインド レディはチェックインして、部屋に。
部屋に入ると、二人は 過去に似たような事例がないかを調べた。
そして それは、すぐに突き止めることができた。
ブラインド レディは説明する。
「過去の事例を見てみると、三十年周期で、この県で同じ奇病が蔓延しているわね。
五十人以上の子供が肺炎で亡くなり、そして ぷっつりと蔓延は途絶える。
この県の風土病の疑いがあるけれど、症例が少なく、ただの肺炎と見分けが付かないため、ネットが普及して情報交換がスムーズになるまで問題視されなかった。
しかし 検死しても 特別な病原体の発見はなし。
明らかに 能力者の仕業ね」
メイドは質問する。
「この能力者はどういった力でしょうか?」
「生命力を吸収する力でしょう。
子供を狙っているのは、子供の方が大人に比べて生命力が強いから。
栄養を摂取するように、生命力を摂取する」
「さしずめ、生命喰らい」
メイドは問題点を指摘する。
「でも、子供を狙うとなると、誰をターゲットにするかわかりません。異能力者が誰なのかもわからない。
狙いを絞ることができません。これでは どうすればいいのか……」
ブラインド レディは白杖で、地図上に 発病した子供の住所にチェックをつけた。
「子供は それぞれ六軒の家で発症。
その中心にあるのは、病院よ」
「つまり、病院の中に犯人はいると」
「その可能性は高い」
「病院の医者か看護師、もしくは患者。一体 誰が?」
メイドは不意に怪しい老婆の事を思い出す。
「お嬢さま。患者の子供たちを見ながら、奇妙な言葉を呟いていた、高齢者の女性を憶えていますか。
もしかしたら、あの女性が犯人なのかも」
「確かに 怪しいとは思うけれど、それだけで始末するわけにはいかないわ。確信がないと」
「では、これから調べに行きませんか」
ブラインド レディはしばらくの沈黙の後、答える。
「他に手がかりがないことだし、行ってみて損はないわね」
その夜 二人は 病院に入った。
入り口のところで、モリモト医師が病院を出て行くところだった。
院長が見送りをしている。
「こんな時だ。休めるときに、しっかり休んでおいてくれ」
「わかりました、院長。今日 ぐっすり眠ったら、また患者の治療に専念します」
そして 彼は車で去って行った。
それを 見届けると、ブラインド レディは病院に入り、老婆の病室へと向かう。
ベッドライトだけがついている病室で、老婆はブツブツと呟いていた。
「子どもたちだけは、ぜひ生かしておいて、我らの人間の究極の先祖である、母なるヒドラと父なるダゴンの元に、還っていかねばならん。
イア、イア、クトゥルフ・フタグンン。フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン」
メイドは 能力者が何かの呪文を唱えているのだと思った。
そして今、能力を使い、子供の命の奪おうとしている。
「お嬢さま、早くしないと また子供が」
しかし、ブラインド レディは嘆息した。
「外れね」
「え?」
その時、老婆がこちらを向いた。
「おや、どちらさんだい。ナースコールは押してないよ。普段は押しても中々 来ないくせに、消灯時間にだけはきっちり来るんだね。
まったく。わかったよ、本を読むのは止めて、さっさと寝ることにするよ」
老婆は手にしていた本。
二十世紀の怪奇小説というタイトルの文庫本を、ベッドの脇のテーブルに置くと、ベッドライトを消した。
ブラインド レディとメイドはそっとその場を立ち去った。
病院を出て、メイドは脱力する。
「小説を読んでいただけだったのですか」
「そういうことよ。さすがに、そんな わかりやすいことをするわけがないわね」
ホテルに戻ると、オーナーが住んでいる ホテルの隣のマンションで、少女と母親が 少し騒いでいた。
「どうしたのでしょうか?」
「聞いてみましょう」
母親が荷物を車に詰め込み、娘が心配そうな顔をしている。
「どうされました?」
メイドが聞いてみると、ホテルオーナーは答える。
「実は 息子が肺炎になってしまって、入院することになったのです。
大丈夫です、お客様。ホテルは従業員が 通常どおり 運営いたしますので」
すると、娘が母にすがる。
「お母さん、私も連れてって」
「だめよ。感染するかもしれないから」
「でも」
ブラインド レディが 少女の肩にそっと手を置き、彼女を止める。
「お母さんを困らせてはいけないわ」
少女は諭されて 引き下がった。
「ありがとうございます」
母親は感謝を告げると、急いで病院へ向かった。
メイドはそれを見送って、ブラインド レディに耳打ちする。
「一連の事件と同じだと思います」
「私も同感よ」
ブラインド レディは少女に聞いてみることにした。
「良ければ、詳しく事情を話して貰えないかしら」
「うん……」
「昨日、私が窓をちゃんと閉めなかったせいで、弟が風邪を引いたの」
「窓を閉めなかったの?」
「怖い夢を見て。あんな夢、気にしなければ良かったのに」
「どんな夢を見たのかしら」
「窓から黒い人影が入ってくる夢。でも、ここは二階だから そんなこと起きるわけがないと思って、悪い夢を見てるんだと思ったの。
だから、布団をかぶって眠ったの。
あの時、ちゃんと起きて 窓を確認すれば、窓が開いていることに気付いたのに。
私のせいで 弟が病気になっちゃった」
ブラインド レディは自分を責める少女に告げる。
「あなたのせいではないわ」
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