ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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52・逆利用

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 CDショップを出て、メイドはブラインド レディに訊く。
「いったい どういうことでしょうか? 作り話のはずなのに、本当に幽霊が出るなんて」
「以前、蠱毒を使った能力者たちのことを憶えているかしら」
「はい、もちろんです」
「あれは、小さな異能力を集めることによって、大きな異能力を発揮する方法だった。
 それと同じことが、今回 偶然 起きたのだとしたら。
 心霊探偵のサイトを見た者の中に、無自覚の小さな能力者が混じっていた。それも一人ではなく、大勢。
 結果、あの家に 無数の異能力が集まった。そして それは、一つの形となった」
「それが 幽霊の正体。そんなの、倒しようがありませんよ」
「いいえ、あるわ。
 噂が現実になったのなら、逆に その噂を利用すれば良いのよ」


 ブラインド レディは、心霊探偵の二人が泊まっている安宿を突き止め、そこへ行った。
「もうすぐビッグチャンスがくるぞ。あの幽霊屋敷を日本中に教えれば、おれたちは金持ちだ」
「ああ、そしてぼくたちは科学者として最高の賞を貰える」
 ブラインド レディが話しかける。
「楽しそうね」
 マッキーが答える。
「ああ、お姉さんたちか」
 続いてミッチが答えた。
「ちょっと、良い話になりそうでね」
「そう、実は そんなあなたたちにお願いがあるのだけど」
「なんだい?」
「サイトを閉鎖して欲しいの」
「なんだって? そんなの断るに決まってるだろ」
「あのサイトを閲覧すれば、肝試しに来る人間が、日本中から集まってくる。そうなれば犠牲者が増えるわ」
「それは、まあ、そうだけど……」
「それに、いつまでもじゃないわ。私たちが手配した お祓いが済むまでの間よ。
 代わりに新情報を教えるから」
 マッキーが妥協する。
「それなら、まあ 良いかな。でも、その新情報が有力な物じゃないと」
「あの幽霊の元になった父親の死因は、首つりじゃないわ。猟銃による自殺よ。これが死亡報告書」
 メイドが死亡報告書を渡す。
 ブラインド レディは続けて説明した。
「だから あの幽霊は、当時 使用が一般的だった純鉄の弾丸が弱点なのよ」
「そうか。それはどうも。お礼にサイトはしばらく閉鎖するよ」
「ありがとう」
 ブラインド レディはその場を静かに去って行った。
 そして遠くから、心霊探偵の喜ぶ声が、小さく聞こえた。


 一時間後、メイドがサイトを確認すると、ブラインド レディが流した情報が載っていた。
「彼ら食いつきました。これで幽霊に弱点があると、みんなが思い込むことになります」
「では 今日の夜、さっそく行くことにするわよ」


 そして幽霊屋敷に、メイドが猟銃を手に入る。
 盲目の淑女はサポートとなる。
「今回はあなたが頼り。信頼しているわよ」
「お任せ下さい、お嬢さま」
 二人は中に入り、食糧保存庫へ向かう。
「お姉さんたち、何してるの?」
 心霊探偵の二人が廃屋に入ってきた。
「あなたたちこそ、何してるの?」
 マッキーが答える。
「もちろん、幽霊調査に決まってるじゃないか。
 そういう お姉さんたちは、まさか幽霊を退治するつもりなの。お祓いとか言ってたけど、お姉さんたちがそうなの。不動産査定は嘘で」
 その時、メイドは叫んだ。
「伏せて!」
 心霊探偵の二人の後ろに、大男がいた。
「「うわぁあああー!!」」
 メイドは連続して発砲した。
 三発命中したが、大男は怯まない。
「どうして!?」
「ちぃっ」
 ブラインド レディが舌打ちすると、大男に応戦する。
 そのさい、心霊探偵のカメラが、大男の体に命中。
 床に落下して激突し、壊れた。
「ああ! カメラが!」
 メイドが叫ぶ。
「そんなことより逃げて下さい!」


 そして一旦外へ退却。
 心霊探偵の二人は息切れしている。
「ああ、決定的瞬間を捉えたのに、カメラが……」
 ブラインド レディが呆れながら、
「そんなことよりも、どういうことなの? あなたたち、サイトに例の新情報を載せたわよね」
 マッキーが答える。
「載せたけど、なんかサーバーの調子が悪くなって、一時的にメンテナンスすることになったんだ。明後日まで」
「つまり、あの話は広がっていないのね」
「そうだけど、それが重要なの?」
 ブラインド レディは嘆息した。
「こうなれば、しかたないわね」


 ブラインド レディはメイドに指示を出し、リムジンに載せてある、予備ガソリンを廃屋に撒き、火をつけることにした。
 廃屋から炎が上がり、周囲を朱に染める。
「やつは廃屋から出られない。かなり乱暴だけど、大元を絶ったことになるわ。これで 消滅すると良いんだけど。少なくとも肝試しをしようとする者はいなくなる」
「でも、もし消滅することなく、アレが外に出るようになったら、どうすれば?」
「その時は、また 改めて倒す方法を考えましょう」


 それから 次の日、心霊探偵の二人は、町を出る準備をしていた。
 ブラインド レディが最後の挨拶に来ると、二人は上機嫌だった。
「やあ、お姉さん。ぼくたちとは今日でお別れだね。でも、ぼくたちのことはすぐに知ることになるよ」
「なんだかご機嫌ね」
「実はテレビ局から取材の依頼が来てね。今回の事件の心霊特番を組みたいっていうんだ。これで ぼくたちも、大物の仲間入りってわけさ」
「チャンス到来ね」
「チャンス? 違う。才能だよ。当然の成り行きってやつさ」
「うまくいくといいわね」
「じゃあね、お姉さんたち。ぼくたちは もう出発しないと」
 二人は車に荷物を積み終えると、町から出発したのだった。


 しかし、このテレビ局の話は、ブラインド レディの手による者だった。
 テレビ局に手を回して、電話をかけさせたが、心霊特番など嘘だ。
 二人の興味を、あの幽霊屋敷から変えさせる作戦で、二人はまんまと引っ掛かったわけだ。


 そして、ブラインド レディもホテルに帰って、帰り仕度をする。
 メイドが先ほどから くすくすと 笑っていた。
「なにが そんなに可笑しいのかしら?」
「だって あの二人、何も知らずに喜んじゃって。なんだか笑いが収まらないんです。お嬢さまも そう思われませんか?」
 ブラインド レディは左右非対称の奇妙な顔で答えた。


「笑えないわ」


 ブラインド レディは 笑わない。
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