ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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49・囮

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 私とメイド、そしてブラインド レディは廃マンションに到着した。
 しかし、そこにはイガラシや笑い男の姿は無い。
 祭壇はそのままだ。
「どうする、今のうちに祭壇を破壊するか?」
「いいえ、それだと笑い男たちに気付かれるおそれがある。このまま隠れて待ち伏せしましょう」
 我々はそれぞれ隠れて、笑い男たちが来るのを待った。
 そして廃マンションにイガラシがやって来た。
 イガラシはマンションに入るなり、我々に言った。
「かくれんぼなんてしてないで出てきたら」
 なんだと!?
 我々は突然 無数の影の存在シャドウ ワンに襲われ拘束された。
 影の存在シャドウ ワンに無理やり後ろ手にされると、イガラシは全員に手錠をかけた。
 ブラインド レディはイガラシに言う。
「罠だったのね」
「そうだ。笑い男は来ない。影の存在シャドウ ワンは戦力として召喚したが、連続殺人は罠にかけるために起こした」
「笑い男は私を殺せと命じたの?」
「いいや、違う。笑い男はお嬢さまを殺すなと命じられた。その理由も教えてくれた。確かに殺さない理由だ。
 それに……」
 イガラシはブラインド レディに顔を近付けると、含み笑いをする。 
「お姉さんも笑い男を殺すつもりはないんだろう」
 ブラインド レディは笑い男を殺すつもりはない?
 なぜだ?
 彼女は両親の敵をとるのが目的ではなかったのか?
 イガラシは私たちに眼を向ける。
「お姉さんは殺さないけど、でも、そこの侍女と三流記者はどうかな」
 自分たちを殺すつもりかと思ったが、イガラシは不敵に笑った。
「安心しろ。おまえたちも殺さない。侍女はお嬢さまの世話をするのに必要だ。
 そして記者、おまえにも役割がある」
「役割だと」
「おまえは自分が偶然 関わっただけの、ただの一般人だと思っているようだが、そうじゃない。おまえには重要な役割がある。おまえはこの戦いから下りることは、もう できない」
「なら、我々を罠にかけたのは、何のためだ?」
「罠にかけるのはおまえたちじゃない」


 その時、廃マンションにもう一人の人物が現れた。


「お嬢さま」
 それは、行方をくらましていた執事だった。
 イガラシは執事に言う。
「やっと現れたな、執事」
「私を誘き寄せるためにお嬢さまを使うとは」
「だが、お嬢さまを助けるためには出てくるしかなかった。そして影の存在シャドウ ワンに勝つことは出来ない」
「その通りだ。影の存在シャドウ ワンに勝つことは人間には不可能。だが、行動不能にすることは出来る」
 執事は、照明弾を床に投げつけた。
 眩い閃光が廃マンションの内部を照らす。
 そして無数の影の存在シャドウ ワンが、一斉に動きを止めた。
 影は光によって消滅する。
 影の中でしか生きられない影の存在シャドウ ワンは強烈な光によって動きを封じられた
 続けて執事は奇妙な呼吸をし始めた。
「スッホ スッホ スッホ スッホ」
 あとで聞いたのだが、執事はチベットで特殊な呼吸法を学び、身体能力を一時的に向上させる技を体得したという。
 執事はイガラシを攻撃し始めた。
 しかし、イガラシもその攻撃の応酬をなんとか捌いている。
 だが執事の方が優勢だ。
 このままいけば、執事が勝つだろう。
 だが、イガラシは余裕だった。
「照明弾の効果が切れれば、影の存在シャドウ ワンも動けるようになるぞ。俺はそれまで時間稼ぎしていれば良い」
 そうはさせない。
 私は袖口に仕込んであった針金で、手錠を外した。
 そして そのまま走り、祭壇を引っ繰り返す。
 音を立てて祭壇はめちゃくちゃになった。
「なにっ!」
 イガラシの驚愕の声と同時に、照明弾の効果が切れた。
 影の存在シャドウ ワンが一斉にイガラシに襲い掛かった。
「うわぁあああああ!!」
 その体を掴むと窓の外へ引きずり出し、二 三十メートルほど上まで引き上げると、その手を放した。
 数秒後、イガラシは地面に激突する。
 私はその体を確認したが、もう脈はない。
 目を開けたまま、事切れている。
影の存在シャドウ ワンは、無理やり使われているのに怒っていたと言うことか」


 私はブラインド レディとメイドの手錠も外した。


 その後、ブラインド レディは処理班に連絡し、自分たちはホテルへ戻ることにした。
 ホテルに戻り、私は最初にブラインド レディに訊く。
「イガラシが言っていたことは本当か?
 きみは笑い男を殺すつもりはない。両親の敵をとるのが目的ではないと?」
「その通りよ」
「では、なにが目的なのだ?」
「……その質問には答えられない」
 そこにメイドが割って入る。
「お嬢さま。せめて お嬢さまと笑い男の関係について、伝えるべきではないでしょうか。
 あの男は言っていました。彼ももう無関係ではないと。
 何も知らずに戦い続けるのは危険です」
「そうね。確かにその通りね」
 ブラインド レディと笑い男の関係?
 彼女は一呼吸置いて、説明した。


「私と笑い男は、腹違いの兄妹よ」


「……」
 私は言葉を失った。
 ブラインド レディと笑い男が、血を分けた兄妹。
「では、笑い男は、実の父親と、その妻を殺したと言うことか」
「その通りよ」
「なぜ そんなことを」
「それについては、まだ話す時期ではないわ。
 それに、今は、執事から聞かなくてはならないこともある」
 そうだ。
 今は執事についてが先決かもしれない。


 執事は苦悩を滲ませた表情で語る。
「お嬢さま、もう何も言いませぬ。お嬢さまが戦い続ける決意は良く理解できました。
 しかし、あと もう少しだけ、このわたくしめにお任せ下さい。あと一歩で、笑い男の計画の全容を掴むことが出来るのです。
 お嬢さまは、このまま異能力者との戦いを続け、笑い男の眼をわたくしめから逸らして下さいませ。つまり、囮になるのです。
 その間に、わたくしめが影で諜報を行います。
 それぞれに役割を分担するのです」


 ブラインド レディは承諾した。
「わかったわ。あなたはこのまま笑い男を探ってちょうだい。私が囮になる」
 その時、メイドの電話が鳴った。
「お嬢さま、処理班から連絡です」
「出てちょうだい」
「かしこまりました」
 メイドは電話に応対する。
「はい、はい。それで……今、なんと? はい、わかりました。お嬢さまにお伝えします」
 メイドは電話を切った。
「お嬢さま、例のイガラシという男ですが」
「どうしたの?」
「死体が見つからないそうです」
 私は愕然とした。
「そんな馬鹿な。確かに死んでいるのを確認した」
「でも、処理班は、どこにも死体はないと」
 ブラインド レディは嘆息した。
「死んだふり。まんまとやられたわね」


 これが今回の事件のあらましだった。
 ブラインド レディと笑い男の関係を知ったが、しかし さらなる謎が増えることになった。
 ブラインド レディの戦いは終わらない。
 そして私の探索も また 終わらないのだ。
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