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48・弥勒根之魂
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そのころ私の方では、イガラシを追跡し、そして町外れにある、とある大きな廃マンションに来た。
イガラシは廃マンションの中に入る。
私はイガラシに気付かれないように侵入すると、陰に隠れて様子をうかがう。
廃マンションのロビーに奇妙な祭壇があった。
イガラシは何かの呪文を唱えている。
それが終わると、次に電話をかけた。
数秒後、誰かが出たのか、会話が始まった。
「まずいことになりました。お嬢さまと記者、それにメイドも この街に揃っています。しかも、私がいることを知られてしまいました。
この街で これ以上の活動は危険です。指示をお願いします。
はい、はい。ええ、わかりました。では、明日の晩、ここでお待ちしています。
笑い男」
イガラシは廃マンションを出て、どこかへ去って行った。
誰もいなくなったのを 私は確認すると、祭壇に近づいて観察する。
その卓上には、丸にZの文字。
イガラシが犯人だ。
そして笑い男が、明日の晩 ここに来る。
私はホテルに戻ると、さっそくブラインド レディに報告しようとした。
「重大な話がある」
「私もよ。でも、まずはあなたからお願い」
私は廃マンションでの話を伝えた。
「明日の晩、笑い男が来るのね」
「そうだ。君が長年 追っていた男と、ついに対決できる」
「……でも、勝つのは そう容易いことではない」
「能力者か」
「それもある。でも、今回の事件の真犯人を突き止めたことも関係している」
「犯人はイガラシでは?」
「彼は命令を下しただけ。実行犯は別にいる」
ブラインド レディは白杖を操作すると、パソコンの画面に文字と画像が映った。
それは丸にZの文字。
一連の連続密室殺人事件のシンボルマークだ。
私はパソコンに身を乗り出して、文章を読み上げようとした。
しかし、古い文字で書かれていて、学のない私では読むのが難しい。
表題は、弥勒根之魂。
「これは、みろく、ねの……たましい、と読むのか?」
「いいえ、それは、ミロクネノコン。世界で最も有名な偽書、ネクロノミコンのモデルとなった書物よ」
「ネクロノミコン。アメリカの怪奇小説に登場する本か。あれは創作では無いのか?」
「フィリップス・ハワード・ラブクラフトは、この世界以外の生命体の存在を、なにかで知った。そして、その存在について 死ぬまで書き続けたのよ。
そして ネクロノミコンのモデル、弥勒根之魂のことも。
一連の殺人事件のシンボルマークは、弥勒根之魂に記されている、影の存在を操る紋章よ。
影の存在は異世界からこの世界に来訪した生命体。
そして それは 影 そのものが本体で、この世界の影に住む生命体。
影がある場所ならどこにでも存在する。
でも、それは 通常この世界に影響を及ぼさないけれど、儀式によって影響をもたらし、操ることができる。
そのためには人間から影のエネルギーを吸収する必要がある。
五人の殺害はそのためと思われるわ」
「つまり、この影の存在を倒す必要があるわけか」
「いえ、必ずしも倒す必要はないわ。影の存在は操られているだけ。操ることが出来なくなれば、無害化する。
そして、その方法は簡単で、術の核となる物を破壊すれば良い。
おそらくは祭壇。
それがダメなら、術者本人を殺せばいい」
「なるほど。それならなんとかなりそうだ」
「では、今から準備を始めましょう」
次の日の晩に備え、わたしたちは準備をした。
メイドがリボルバー拳銃を渡してきた。
「これをお使い下さい。お嬢さまが調べました。あなたは渡米したさい、拳銃の訓練を受けたことがあると」
「やはり私のことは調査済みか。いや、気にしてはいない。
だが、私は的には命中するが、戦闘力はたいしたことはないんだ」
「護身用です。もし、危険だと判断したら、これを使って逃げて下さい」
「わかった」
私は拳銃を受け取った。
そして思う。
今日、決着が付くかもしれないのだ。
笑わない女性と笑い男の物語の終着。
私はブラインド レディに訊く。
「全てが終わった後、きみは平穏な生活に戻ることが出来る。なにをするのか、考えているのか?」
「いいえ、平穏な生活には戻らない。このまま、能力者と戦い続けるわ」
「なぜだ? もう戦う理由は無くなるんだぞ」
「でも、能力者は存在し続ける。彼らが事件を起こし続ける限り、被害者も生まれる。
一度この戦いに身を投じたのなら、もう 終わりはない」
ブラインド レディは私の手をそっと握る。
「でも、あなたは違う。あなたは偶然 関わっただけ。笑い男との戦いに決着がついたのなら、身を引きなさい」
私は答えることが出来なかった。
イガラシは廃マンションの中に入る。
私はイガラシに気付かれないように侵入すると、陰に隠れて様子をうかがう。
廃マンションのロビーに奇妙な祭壇があった。
イガラシは何かの呪文を唱えている。
それが終わると、次に電話をかけた。
数秒後、誰かが出たのか、会話が始まった。
「まずいことになりました。お嬢さまと記者、それにメイドも この街に揃っています。しかも、私がいることを知られてしまいました。
この街で これ以上の活動は危険です。指示をお願いします。
はい、はい。ええ、わかりました。では、明日の晩、ここでお待ちしています。
笑い男」
イガラシは廃マンションを出て、どこかへ去って行った。
誰もいなくなったのを 私は確認すると、祭壇に近づいて観察する。
その卓上には、丸にZの文字。
イガラシが犯人だ。
そして笑い男が、明日の晩 ここに来る。
私はホテルに戻ると、さっそくブラインド レディに報告しようとした。
「重大な話がある」
「私もよ。でも、まずはあなたからお願い」
私は廃マンションでの話を伝えた。
「明日の晩、笑い男が来るのね」
「そうだ。君が長年 追っていた男と、ついに対決できる」
「……でも、勝つのは そう容易いことではない」
「能力者か」
「それもある。でも、今回の事件の真犯人を突き止めたことも関係している」
「犯人はイガラシでは?」
「彼は命令を下しただけ。実行犯は別にいる」
ブラインド レディは白杖を操作すると、パソコンの画面に文字と画像が映った。
それは丸にZの文字。
一連の連続密室殺人事件のシンボルマークだ。
私はパソコンに身を乗り出して、文章を読み上げようとした。
しかし、古い文字で書かれていて、学のない私では読むのが難しい。
表題は、弥勒根之魂。
「これは、みろく、ねの……たましい、と読むのか?」
「いいえ、それは、ミロクネノコン。世界で最も有名な偽書、ネクロノミコンのモデルとなった書物よ」
「ネクロノミコン。アメリカの怪奇小説に登場する本か。あれは創作では無いのか?」
「フィリップス・ハワード・ラブクラフトは、この世界以外の生命体の存在を、なにかで知った。そして、その存在について 死ぬまで書き続けたのよ。
そして ネクロノミコンのモデル、弥勒根之魂のことも。
一連の殺人事件のシンボルマークは、弥勒根之魂に記されている、影の存在を操る紋章よ。
影の存在は異世界からこの世界に来訪した生命体。
そして それは 影 そのものが本体で、この世界の影に住む生命体。
影がある場所ならどこにでも存在する。
でも、それは 通常この世界に影響を及ぼさないけれど、儀式によって影響をもたらし、操ることができる。
そのためには人間から影のエネルギーを吸収する必要がある。
五人の殺害はそのためと思われるわ」
「つまり、この影の存在を倒す必要があるわけか」
「いえ、必ずしも倒す必要はないわ。影の存在は操られているだけ。操ることが出来なくなれば、無害化する。
そして、その方法は簡単で、術の核となる物を破壊すれば良い。
おそらくは祭壇。
それがダメなら、術者本人を殺せばいい」
「なるほど。それならなんとかなりそうだ」
「では、今から準備を始めましょう」
次の日の晩に備え、わたしたちは準備をした。
メイドがリボルバー拳銃を渡してきた。
「これをお使い下さい。お嬢さまが調べました。あなたは渡米したさい、拳銃の訓練を受けたことがあると」
「やはり私のことは調査済みか。いや、気にしてはいない。
だが、私は的には命中するが、戦闘力はたいしたことはないんだ」
「護身用です。もし、危険だと判断したら、これを使って逃げて下さい」
「わかった」
私は拳銃を受け取った。
そして思う。
今日、決着が付くかもしれないのだ。
笑わない女性と笑い男の物語の終着。
私はブラインド レディに訊く。
「全てが終わった後、きみは平穏な生活に戻ることが出来る。なにをするのか、考えているのか?」
「いいえ、平穏な生活には戻らない。このまま、能力者と戦い続けるわ」
「なぜだ? もう戦う理由は無くなるんだぞ」
「でも、能力者は存在し続ける。彼らが事件を起こし続ける限り、被害者も生まれる。
一度この戦いに身を投じたのなら、もう 終わりはない」
ブラインド レディは私の手をそっと握る。
「でも、あなたは違う。あなたは偶然 関わっただけ。笑い男との戦いに決着がついたのなら、身を引きなさい」
私は答えることが出来なかった。
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