ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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39・辞めた理由

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 編集部に戻り、会議室を借りて、ドライブレコーダーの映像をチェックする。
「俺も何度も見たんですけど、なにも映っていないんです。映像は、確かに道路前方を映しているんですが。
 ここはトラックのような大型車がUターン出来るほどの道幅はありませんから、必ずそのまま通過するはずなんです」
 私は注意深く映像を見たが、しかしなにも映っていなかった。


 不意にヤマモトは私に質問してきた。
「先輩、どうして会社を辞めたんですか? 先輩なら勤め続ければ、編集長にも成れたのに」
「いや、たいした話じゃない。ありきたりな理由だ。
 私はとある官僚の汚職事件を追っていたのだが、上から圧力がかかってきてね。取材を止めろとのお達しだ。そして、他のどうでもいいような、ゴシップネタを調査しろと命じられた。官僚が手を回して、もみ消そうとしたわけだ。
 会社に属していると、自由に知ることも出来ない。だから思い切って辞めたんだ」
「そうだったんですか。
 それで、その事件の真相は突き止めることが出来たんですか?」
「その前に、その官僚は死んだよ。病気だ。そいつは死と共に真相を闇の中へ持ち去っていったわけだ」
「残念ですね」
「だが、自由は良い。好きな事件を好きなだけ追うことが出来る。もちろんリスクはあるが、それもまたスリルというやつさ」
「先輩らしいですね」


 その時、編集部のほうが騒がしくなってきた。
「先輩、なんでしょうか?」
 私たちが見に行ってみると、記者や編集者たちが騒然としていた。
 その内の一人が、私たちの姿を見ると、こう言った。
「大変だ、編集長が交通事故で死亡した」



 編集長は、時速三十キロの所を、百キロを超えるスピードで走った。
 その際のことが車載カメラに写っていた。
 編集長はスマホで警察に叫んでいた。
「トラックに追いかけられている!」
 そして横転し、壁に激突。
 車体の前方が完全に潰れ、編集長は即死だった。
 ドライブレコーダーにはトラックの姿は映っていなかった。
 そして警察は、被害妄想による危険運転として処理した。


 それを聞いたヤマモトは市役所に来た。
「市長! いくらなんでもこれはおかしい! この事故が日本人なら、もっと本腰を入れて捜査するはずだ。
 明らかに警察は差別している!
 なぜあなたはなにも言わない! ヘイトをそこまで庇うつもりなのか!」
 激しい怒りを見せるヤマモトに、市長も憤慨する。
「わたしはヘイトを庇ってなどいない。きみのお母さんが一番その事をよく知っている」
「どういう意味ですか?」
「本人から直接 聞けば良い。私から言うことではない」
 そして市長は去っていった。


 我々は市役所を後にし、わたしはヤマモトと一緒に編集部へ戻ることにした。
 私はミニクーパーを運転し、ヤマモトは考えている。
「市長はなにかを隠している。
 俺の母さんとなにか関係があるような言い方をしていたが……」
 その時だった。
 後ろから大型トラックが接近してきた。
「後ろからトラックが近付いてくる」
 まさか……
 嫌な予感は的中した。
 トラックは急速に接近すると、追突してきたのだ。
「あおり運転の犯人だ! 私たちを狙っているぞ!」
「先輩! 逃げて!」
「わかっている!」
 しかし ここは直進道路が続く道だ。
 そしてこの先は、急カーブ。
 ヤマモトの父が亡くなった場所。
 このままでは同じ運命を辿る。
「ヤマモト、シートベルトをしっかりつけろ」
 私はあることを思いついた。
「先輩、なにをするんですか?」
「話しかけるな。運転に集中する」
 私は運転に全ての意識を集中させた。
 トラックの猛スピードで迫ってくる。
 それに対し、私はスピードを上げなかった。
 待て。
 ギリギリまで我慢するんだ。
 落ち着いて。
 よく狙って。
 トラックが体当たりしようと、急加速してきた。
 今だ!
 私はハンドルを思いっ切り回転させ、ブレーキターンを行った。
 百八十度回転したミニクーパーは、トラックの右側を一気に通過する。
 そしてトラックの大きさでは、この道をUターンすることは出来なかった。
 しかし その時、明らかに異常なことが起きた。
 トラックの大きさが三分の一まで小さくなったのだ。
 普通車と同じくらいの大きさになったトラックは、道をUターンすることが可能となり、再び我々を追跡してきた。
「先輩! なんなんですかあれは!」
「わからん! とにかく逃げるぞ!」
 私はアクセルを踏んだ。
 しかし、今度は先程と違って、逃げきれる自信があった。
 先程は急カーブに追い詰められるしかなかったが、しかし反対側は十字路が幾つもある。
 そして大型トラックでは入り込めないほど細い路地も。
 私は逃走しながら、細い路地裏に入り込み、何度も曲がってトラックを振り切った。
 四度 道を曲がった頃には、トラックの姿は見えなくなっていた。
「先輩、今のはいったい? 先輩も見ましたよね。トラックの車体が小さくなるのを」
 ヤマモトは見たものが信じられない思いだったが、私はその現象に心当たりがあった。


「能力者だ」
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