ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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37・異能力の源

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 ブラインド レディたちが会場にいる頃、私は、教祖の自宅に来ていた。
 はっきり言うと不法侵入するつもりで来たのだ。
 セキュリティがあったが、ブラインド レディの手配でハッキングし、作動を落としてあった。
 ただし、鍵開けは自分でやらなくてはならない。
 そして、記者という仕事柄、鍵開けの技術を私は持っていた。
 多少手こずったが、数分で裏口のドアを開けることに成功。
 中に入ると、普通の自宅と変わらない間取り。
 しかし家具は高級品。
 棚の中には、宝石類が詰まっていた。
 お布施によって贅沢な暮らしをしていたと言うことか。
 教祖の部屋に入るが、そこは普通の高校生の部屋と変わらない。
 特別な祭壇があるとか、そういったことはなく、勉強机に椅子にパソコン。本棚にベッドなど。
 特に気になる物はなかった。
 母親の部屋も同じような物だった。
 私は二階の天井を見上げると、入り口があることに気付いた。
 天井裏にも上がれるようだ。
 私はハシゴを下ろして、天井裏に上がると、そこには埃っぽい小さな祭壇が置いてあった。
 神道のような印象を受ける。
 鏡に小さな剣など。
 そして祭壇の中に置かれている、古い書物。
 私は手に取り見てみる。
 古い言葉で書かれているが、私が学生時代に習った古語の知識で、読み取れるだけ読んでみる。
 要約すると、古代神道の呪術のようだ。
 ある修行と儀式によって、神通力に覚醒する。
 それは死を操る力だと。
 力には制限があり、儀式を執り行ったその日一日につき、一人にしか使えない。
 儀式を行うというのは、この祭壇がそうなのか。
 私はもう少し調べてみると、祭壇の剣に写真が刺されてあった。
 写真を手にすると、そこには、心霊治療はインチキだと主張していた男が写っていた。
 次の標的は彼だ。
 私は急いでブラインド レディに電話をかけた。


 ブラインド レディが電話を受け取ると、私の説明を聞いた。
「すぐに治療を止めるんだ。早くしないと、駐車場の男が死ぬことになる」
 その時、教祖ユウサクが誰を治療するのか指定した。
 それは、白血病の少女だった。
 メイドは苦渋の表情をする。
「よりによってあの子だなんて」
 メイドは悩んだが、少女に駆け寄り話しかける。
「行っちゃダメよ。あれは神通力でも、神の奇跡でもない。
 もっと邪悪な力よ」
 少女は怪訝な表情をする。
「お姉ちゃん、助けて貰ったのに、どうしてそんなこと言うの?」
 メイドはそれ以上なにも言えなくなってしまう。
 そこに父親が促す。
「さあ、早く行きなさい」
 少女は壇上へ上がった。
 ブラインド レディが立ち上がり、廊下へと向かう。
「お嬢さま、どちらへ?」
「火災警報器を鳴らす。火事だと騒げば、治療は中止になるわ」
「それでしたら、わたくしがいたします」
「貴女がする必要はないわ。あの子が死ぬのを肯定することになる」
「ならば なおさら、お嬢さまにさせるわけにはまいりません」
 メイドは廊下に出ると、非常ベルを押した。
 ジリリリリリ!!
 火災警報器が鳴り響く。
 そしてメイドは叫ぶ。
「火事です! 燃えていますよ!」
 会場は騒然とし始めた。
 教祖ユウサクは治療を中断し、信者たちに指示する。
「皆さん、落ち着いて。慌てずに避難しましょう」
 少女の父親が教祖に叫ぶ。
「待ってくれ! 治療を止めないでくれ!」
「今は皆さんの安全が優先です。治療は後日 改めて行いますので、今は避難してください」
 少女が父親の裾を引っ張る。
「ほら、お父さん。避難しよう」


 皆、外に避難した。
 しかし、会場に火の手が上がっていないのを見ると、首を傾げる。
 ただのイタズラだったのかと思う者もいた。
 ブラインド レディとメイドも外に出て、インチキだと批判していた男の所へ向かった。
 そこで彼は、地面に倒れ苦しんでいた。
「うぁあぁぁ……あがぁ……」
 メイドは疑念に青ざめる。
「終わっていない。治療を止めたはずなのに、まだ異能力が続いている。どうして?」
 ブラインド レディは聴覚に集中した。
「会場の中から、教祖の母親の声がする」
 メイドはすぐに中へと引き返した。
 そこで見たのは、リョウコが胸元のなにかを握りしめて、ブツブツと祈りに似た呪文を唱えている姿だった。
 メイドは、彼女の肩を掴んで振り向かせると、その両手の平には勾玉があった。
「あなたが能力者」
 彼女はメイドを押し退けて、非難した。
「命を助けたのにこんなことをするなんて。恩を仇で返すのね」
 彼女は呆然とするメイドを置いて去っていった。


 町のホテルに、我々は集まった。
 私から説明する。
「家の中にあった古文書はこれだけだ。
 これを分析に回せばもっと詳細がわかるだろうが、時間がない。今日の午後にでも、治療は再開される。
 だが、教祖の母親は、大勢の人間の前にいる。それではさすがに殺すわけにはいかない。目撃者が出るからな。
 我々は殺人を犯した罪で、警察に追われることになる」
 メイドは指摘する。
「でも、放置しておくことはできません。なんとかして止めさせないと。
 祭壇はどうしましたか?」
「もちろん破壊した。君たちに電話をかけた後すぐに。
 しかし、それでも異能力を止めることはできなかったのだろう?」
「その通りです。力は続いていました。異能力の源泉は祭壇ではないということですね」
 ブラインド レディがメイドに聞く。
「教祖の母親は、勾玉を握っていたと言っていたわね」
「はい。大事そうに握りしめて、呪文を唱えていました」
「ならば、その勾玉が異能力の源とみるべきでしょう。それを破壊すれば、異能力は二度と使えなくなる。
 このような、古代の秘術で覚醒した異能力は、ほとんどの場合、媒体を必要とする。
 勾玉を破壊すれば解決するわ」
 私は問題点を指摘する。
「しかし それで、彼女の罪の清算はどうなるのだ?」
 大勢を死なせておいて、なんの報いも受けないというのか。
 ブラインド レディは冷淡に告げる。
「力の不当な行使によって手に入れた栄光は、力の消失と共に失われる。
 人の死を弄ぶ者にとって、それがどれほどの苦痛かしらね」


 再び我々は二手に分かれた。
 私はもう一度、教祖の家に侵入する。
 警備はされておらず、簡単に侵入することが出来た。
 そして屋根裏の、私が壊した祭壇を確認すると、剣に写真が刺してあった。
 その写真には、メイドが写っていた。
 次の標的は、彼女だった。
 私はすぐに電話をかけた。
 ワンコールでメイドが電話に出る。
「次の標的は君だ。君に死をなすりつけるつもりだ」


 ブラインド レディの方では、会場内から教祖の声がしていた。
 治療がもうすぐ始まろうとしているのだ。
 ブラインド レディとメイドは会場に入ろうとするが、警備員が立ちはだかる。
「おまえたちは立ち入り禁止との指示だ。今すぐ出て行け」
 ブラインド レディは問答無用で警備員を気絶させた。
 メイドがトイレに入れて隠してしまい、その後、二人は会場へ。
 しかし、そこにはリョウコの姿はなかった。
「お嬢さま、あの女がいません」
「こちらの行動を読んで、姿を消したのね。でも、治療対象から遠くは離れられないはず。比較的付近にいる」
 白血病の少女の頭に、教祖が手の平を乗せた。
 途端、メイドが苦しみ始める。
「うぅぅ……あぁあぁぁ……」
 ブラインド レディは鋭敏な感覚を最大限に集中した。


「オンキ……オンキリキリバサラ……」


 外。
 駐車場だ。
 ブラインド レディは疾走すると、外へ出て、リョウコの正確な居場所を特定した。
 車の陰に隠れて呪文を唱えている。
 ブラインド レディはリョウコの肩を掴むと、勾玉を奪った。
 母親は驚愕する。
「眼が見えないはずなのに、どうやって?」
 ブラインド レディは質問には答えず、勾玉を地面に叩き付け、さらに踵で踏み砕いた。
 リョウコが悲鳴を上げる。
「力の源が!」
 続いてリョウコは苦しみ始めた。
「うぐぐぅううううう……」
 ブラインド レディは異能力のエネルギーの奔流を感じる。
 今まで死を操っていた不自然さが、彼女に逆流している。
 しばらくして、リョウコの呼吸が完全に止まった。


 会場では、メイドが起き上がる。
 苦しみはなくなっていた。
 お嬢さまが止めたのだと理解した。
 そして壇上では、儀式が中断されていた。
 教祖ユウサクが狼狽していた。
「力が使えない……神通力を失った! 奇跡の力がなくなってしまった!」
 その言葉に、信者たちがどよめき始めた。
 半狂乱の少年ユウサクが滑稽だった。


 次の日、ホテルで我々は帰宅の準備をしていると、白血病の少女がメイドに会いに来た。
「お姉ちゃん」
「どうしてここに?」
 ブラインド レディが答える。
「私が呼んだのよ。最後に別れの挨拶をしたいって」
「お嬢さま、ありがとうございます」
「私たちは席を外しているわ」


 メイドは少女に向き合う。
「あの、その、残念だったわね」
「うん。教祖さまのお母さま、脳卒中だって」
 リョウコの死はそのように片付けられた。
「そうじゃなくて、あなたの病気、治せなくて」
「仕方ないよ。奇跡はいつまでも起きるわけじゃないから。
 でも、大丈夫。短くても、せいいっぱい生きるから」
 少女の瞳は、どこまでも前向きだった。
 メイドは小学生を抱きしめた。
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