ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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28・炎の戦い

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 タマイは就寝しようと、二階の寝室でメイク落としをしていた。
 そこに 突然 ベッドから炎が上がった。
「きゃぁー!」
 タマイは台所から慌てて消化器を持ってきて、すぐに火を消し止めた。
 しかし、ガタリとドアから音がした。
 嫌な予感がして、タマイはすぐにドアを開けようとしたが、しかし なにかで塞がれていて、ドアが開かない。
 出ることが出来ない。
「お母さーん! 幽霊がでたー!」
 さらに娘の悲鳴も。
 ドアを体当たりしてもビクともしない。
「こうなったら……」
 タマイは窓から降りようと決意した時、窓からちょうどブラインド レディのリムジンが到着するのが見えた。
 大声で助けを呼ぶ。
「助けて! お願い! 大変なの!」
 ブラインド レディはメイドとバトラーに命じる。
「貴方たちは子供を。私はタマイを」


 ブラインド レディは寝室に到着すると、そこには木の棒でドアが塞がれていた。
 白杖で棒を切断すると、ドアを開ける。
 タマイはブラインド レディに聞く。
「子供たちは!?」
「二人が助けに行った。あなたも早く外に出て」
 そして外に出ると、バトラーが先に、二歳の息子を抱きかかえて脱出していた。
「ああ、よかった」
 タマイは息子を抱きしめる。
 しかし次に、娘の姿が無いことに気付く。
「娘は?」
 メイドが娘を抱きかかえて、玄関から現れた。
「お母さん!」
「よかった!」
 喜んだが、しかし次の瞬間、メイドが叫んだ。
「受け止めて!」
 メイドは娘をブラインド レディに向かって投げた。
 ブラインド レディは娘をキャッチするのと、メイドが物凄い力で館に引きずり込まれるのは、同時だった。
 なにかの力がメイドを捕らえたのだ。
 娘を投げたのは咄嗟の判断だったのだろう。
 ブラインド レディは娘をタマイに渡すと、バトラーに指示を出す。
「三人を守っていて」
 そしてブラインド レディは館の中へ。


 メイドの首を絞める、炎に包まれた大男がいた。
「よくも弟を殺してくれたな」
 ブラインド レディは白杖で一撃を入れると、大男をメイドから離れさせる。
「貴女は避難して」
「はい。ご武運を」
 メイドが館の外へ向かうと、ブラインド レディは炎の男と対峙する。
「弟の敵を取らせて貰う。そして金もいただく」
「どちらもお断りよ」
 炎の男が手の平を向けると、三つの火球が放たれた。
 ブラインド レディは白杖で打ち返す。
 そして間合いをつめて、白杖を刀にして斬り合いに持ち込むが、しかし炎の男の体の周囲には、なにかの力場が形成されており、命中する寸前で弾かれる。
「俺に通常の武器は効かん。例えマシンガンで撃たれようとも、全て防ぐ。あるいはミサイルの一撃すら、俺には無意味かもしれんぞ」
 ブラインド レディは転身し、場を移動した。
「逃がさん」
 炎の男は歩み始めて、ブラインド レディを追う。
 ブラインド レディは、バスルームの前の廊下で待ち構えていた。
 白杖を鞭に変えると、無数の連撃を炎の男に浴びせる。
 しかし、それも寸前で弾かれていた。
「そんな攻撃は効かんと言っただろう」
 男は力を貯めると、極大の炎をブラインド レディに放った。
 ブラインド レディは白杖を薄い盾にすると、前面を覆う。
 炎は全て白杖の盾で塞がれた。
「ほう、その杖。ただ変形するだけではない。なにかの効果があるな?
 だが、それでは俺は倒せん。貴様のほうが不利であることには変わりはない」
 炎の男は、間合いをゆっくりと詰めて、接近戦に持ち込もうとした。
 ブラインド レディは動かなかった。
 そして炎の男は、一歩の間合いまでつめると、拳に膨大な熱量を込めた炎を詰め込み、一撃を食らわせようとした。
 ブラインド レディは顔面に迫るその攻撃を、寸前で回避すると、杖で腕を絡め取り、力任せに引っ張った。
「なにを?!」
 炎の男が疑念の声を上げた先には、湯船に溜まった大量の冷水があった。
 蛇口から今も大量の水が出ている。
 火に水。
 単純だが、果たして効果はあるのか。
 効果はあった。
 炎の男の腕が、水に浸かると、膨大な蒸気と共に炎が沈静化していった。
「グォオオオ!」
 さらにブラインド レディは、炎の男を湯船に貯めた水の中に沈めようとする。
 炎の男は抵抗しているが、しかし一度 水を浴びたことによって、力が出ないのか、その抵抗は力無い。
「ウオオオオオ!!」
 膨大な蒸気と共に、炎は消え、そして次には、静寂。


 今度こそ、事件は解決したのだ。


 全ての事後処理が終わった後、ミサガが館に来て、謝った。
「ごめんなさいね、まさか能力者が二人だとは思っていなくて」
「いいのよ。私も すぐには気付かなかったのだから」
 そして 改めて 帰路につこうとするブラインド レディに、タマイは感謝を述べる。
「助けてくれて、ありがとう。この館は大切に住むことにするわ」
 ブラインド レディは答えた。
「そうしてちょうだい。それと、アルバムは大切にするわ」


 これが 今回の事件のあらましだった。


 バトラーはインタビューを終えると言った。
「私は引き続き、独自に笑い男を調べるつもりです。
 笑い男の目的はなんなのか?
 なぜ お嬢さまを狙うのか?
 そして、旦那様と奥様を殺害した理由はなにか?
 それが、私の最後の仕事となるでしょう」


 これで今回の話は終わりに思えた。
 しかし、私はインタビューの裏を取る作業のさい、とある事実を知った。
 占い師のミサガについてだ。
 事件が終わった後、占いの店に一人の男が現れた。
 ミサガはその男に聞いた。
「これでよかったの? お金は貰ったから仕事はしたけれど」
 そこには笑い男の姿。
「これでいいんだ。お嬢さまとの鬼ごっこは まだまだ続くよ。
 楽しいな、楽しいな。
 あーはっはっはっ」 
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