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21・透明人間

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 ブラインド レディは先ず、殺された大学生に殺される要因があるのではないかと考え、大学サークルの友人に聞き込みを行った。
「いや、あいつは恨みを買っているようなことはないよ。いじめとかしていたこともないし、大学に入るまで遊ぶこともほとんどなかったって。
 遊びをやり始めたのは大学に入ってからで、女とかにも積極的になり出した。
 それで、エミリに声を掛けたんだ。
 彼女、大学でも人気があったから、あいつと付き合うことになって、みんな驚いていた。
 でも、彼女の父親は良い顔してなかったみたいだ。
 父親はカトリック教会の神父なんだ。それで、未婚者が性的行為をするのは神の教えに反するって、反対してたって。
 でも、エミリは父親の言うことを無視して、あいつと付き合い始めたんだ。
 だから、あいつを殺害する動機があるのは、彼女の父親って事になるけど。
 でも、神父が人殺しなんてすると思う?」
 ブラインド レディは謝礼を渡すと、教会へ向かった。


 教会では葬儀が行われていた。
 この街では、仏教や神道より、カトリックの影響力が強いらしく、殺された大学生の葬儀はカトリック式で行われていた。
 神父が出席者に対し、壇上で話をしていた。
「この小さな街で、このような残酷なことが行われ、そして 未来ある若者の命が失われたことを、残念に思います。
 そして 私は、一人の父親として、彼に感謝します。彼は命をかけて娘を守ってくれた。
 エミリが私の元に返ってきてくれたのはことができたのは、彼のおかげです。
 彼の魂は必ず天に迎え入れられることでしょう」


 葬儀に参列していたエミリは、不意に後ろに何かを感じ、なんとなく後ろを振り返った。
 そこには、明らかに盲目だと分かる、美しい女性がいた。
 なぜ 無関係の盲目者が、葬儀に出席しているのか?
 エミリは疑問に思った。


 葬儀は終わり、出席者はそれぞれ故人を偲び、談話を行っていた。
 神父は、と ある若い夫婦と話をしていた。
 夫の方が神父に積極的に話をしていた。
「神父さま。こんな時代だからこそ、街の人々は神の教えを必要としています。僕たちもできる限り支援しますので、今後とも活動を続けてください」
 妻の方が言った。
「こんな事件が起こるなんて。私たちは神父さまの導きが必要です」
 神父は街の人々から頼りにされているようだ。


 エミリがブラインド レディに話しかけた。
「ねえ、良ければ、お話してもいいかしら」
「かまわないわ。私もあなたと話がしたかったの」
「あなたはこの街の人じゃないわよね。どうして葬儀に?」
「不愉快に思うだろうけど、事件に興味を持ったの。だから 事件解決の手助けになれないかと思って。それで 貴女の見たことを 教えて欲しいのだけれど」
 大切な人が殺されたのに、好奇心で首を突っ込んでくるなど、普通は怒って当然だろう。
 しかし エミリは、なぜか この人は信じられると思った。
「そうね。彼を殺した犯人を捕まえられるのなら、私も協力する。
 でも、私 なにも見ていないの。警察も呆れていたけれど、犯人の影も見えなかった。
 突然 タイヤをパンクさせられて、いつのまにか彼の姿も見えなくなったら、その時には すでに殺されていた。
 まるで 犯人は透明人間みたい」
 ブラインド レディは、その言葉で犯人の能力が分かった。
「話してくれてありがとう。手がかりになったわ」
 エミリは怪訝に思った。
 なんの力にもなれなかったことが、なぜ手がかりになるのか?
 しかし ブラインド レディは とくに説明するつもりはないようだ。
「事件を解決したとき、説明するわ」


 そこに エミリのルームメイトが話しかけてきた。
「ねえ、エミリ。この人は?」
「ああ、偶然 立ち寄った方よ」
 エミリは真実を伝えなかったため、友人は怪訝に思った。
「そうなの」
 しかし友人は気にせず、話を変えた。
「ねえ、来週、サークルのみんなで飲み会やらない」
「え? でも……」
 エミリは彼を亡くしたばかりで、そういった誘いに乗る気にはなれなかった。
 しかし ルームメイトは強引だった。
「女だけの集まりよ。みんなで飲みながら、楽しいコメディ映画を見よう。
 こんな 時だからこそ、人生を楽しまなくちゃ。
 いつまでも悲しんでると、彼も浮かばれないよ」
 エミリはどうしようか迷ったが、承諾する。
「そうね。それも 気分転換になるかもね」


 その様子を、神父が非難の眼で見ていた。


 その夜、ブラインド レディとメイドは事件現場に行った。
「血の臭いが まだ濃く残っている。雨が降っていないためね。犯人に繋がる手がかりが残っている可能性が高い」
「お嬢さま、犯人の能力は見抜かれたのですよね。どういった能力なのでしょうか?」
「単純よ。透明になること」
「透明人間ですか」
「そうよ。シンプルに、見えない者インビジブル
 メイドは少し安心した。
「なら、今回は倒すのは簡単ですね。わたくしたちに 見えない敵を倒すのは難しいですが、しかし お嬢さまには意味がありません」
 ブラインド レディは盲目だ。
 透明になったところで 意味はないということだ。
 しかし ブラインド レディは付け加える。
「問題は、犯人が誰なのか分からないこと。まずは犯人を特定しないと」
「そうでした」


 その時、懐中電灯の光と共に、大声で制された。
「動くな!」
 若い警官だった。
「おまえら殺人事件の犯人だろ!」
 若い警官はいきなり決めつけてきた。
 メイドは慌てて否定する。
「い、いえ、違います。わたくしたちは……」
「嘘吐け! 犯人は犯行現場に戻ってくるもんなんだ! マジで戻ってきやがって! とんでもないアホ共だ!」
 横暴な若い警官はブラインド レディから白杖を奪った。
 彼女は抵抗せずに渡した。
「なんだ こんな物! 見えないふりだろ! 障害者のふりなんかしやがって! ホントは見えてるんだろ!! おう! こっちこい!!」
 若い警官は乱暴に二人を交番まで連れて行った。
「犯人を逮捕したぞぉー! お手柄だぁー!!」


 この若い警官は昔 不良をしていた。
 家庭が荒れていたとか そういった理由があってのことではなく、マンガを読んでちょっと格好いいと思ったからやり始めた。
 そして 学校では弱い者苛めなどを行い、糞尿を食べさせるなどして不登校に追い込んだこともあった。
 それを この街の警察署長が目を付けた。
「君、元気が良いそうじゃないか。警察官になって犯罪者相手に暴れてみないかね」
 暴力を振るうことを評価され、警察にスカウトされたのだった。
 若者は、国家権力を笠に好きなだけ暴れられると思い、警察官になった。
 そして 本当に 無茶苦茶なことをした。
 彼は、怪しいと思えばすぐに犯人として決めつけ、真犯人かどうかなど気にせずに、横暴に振る舞った。
 自分に誰も逆らえないことに快楽を得ていただけだった。
 そして 今回の張り込みも、誰でも構わないから犯人に決めつけてしまえば良いと思っていただけだったし、いつものように誰も自分に逆らえないのだと、優越感に浸っていたのだった。


 しかし 今回は相手が悪かった。
 若い警官は警察署に連絡し、駆けつけた警察署長にこっぴどく怒られることになる。
「この方を誰だと思っているんだ!?」
「す! すいませんでした!」
 若い警官はブラインド レディの正体など知るよしもなかったが、しかし署長に怒鳴られ、意味も分からず平謝りしていた。
 そして 釈放されたブラインド レディは、嘆息すると メイドに言う。
「ホテルに帰りましょう。今日は疲れたわ」


 その頃 エミリは、父親と教会で話をしていた。
「エミリ、サークルの飲み会に行くなど止めなさい。あんなことがあったばかりなのだぞ」
「友達は私のことを心配してるのよ。ずっと悲しみ続ける人生になるんじゃないかって。
 私も そんなの嫌。彼だって、私が そんな悲惨な人生になることを望んでないわ」
「それとこれとは話が別だ。喪に服す期間は終わっていない。神の教えに従いなさい。神が伝えた道徳だ」
「父さんから神の教えなんて聞きたくない。父さんに道徳を説教する資格なんてないでしょ。私 知ってるのよ。父さんが影で何をしているのか」
 エミリは吐き捨てるように言うと、教会を出て、アパートへ戻った。
 アパートに入ると、明かりの付いていない部屋では、ルームメイトがベッドで眠っていた。
 エミリはルームメイトを起こさないよう、明かりを付けずにパジャマに着替え、ベッドに入った。


 翌朝。
 気持ちの良い朝日が窓から差し込み、雀の鳴き声でエミリは目を覚ました。
「おはよう」
 ルームメイトに朝の挨拶をしてベッドから出ようと、上体を起こす。
 すると、あることに気付いた。
 ルームメイトの姿勢が、昨晩と全く変わっていない。
 全く身動きせず、呼吸の動きもなかった。
 嫌な予感がして、エミリはルームメイトの様子を見ると、彼女は首を切り裂かれて死んでいた。
「ああ、そんな……」
 ルームメイトは、エミリが帰ってきたときには、すでに死んでいたのだ。
 そして もう一つ気付いた。
 ドアに血で文字が書かれていた。


 明かりを付けなくて良かったな。


 犯人はこの部屋にいた。


「いやぁあああああ!!」
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