ブラインド レディは 笑わない

神泉灯

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20・デート

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 今回 取材したのは、エミリという女子大生からだった。
 彼女はカトリック教会の神父の娘として生まれ、彼女もまた敬虔なカトリック教徒で、清廉な人生を送っていた。
 高校卒業後、地元の大学に進学し、高校時代の仲の良い友人と一緒にアパートを借りた。
 キリスト教徒らしく貞淑な女性で、大学に入っても遊びは あまりしない方だった。 
 しかし 二十歳を向かえ、エミリは年齢に相応しいことをしたいという欲求が出てきた。
 つまり、彼氏を作ったのだ。
 告白は彼の方からだった。
 そういうことを今までしてこなかったエミリにしてみれば、突然の喜びだった。
 交際を承諾し、その初デートの日のことだった。


 アパートで、彼氏とのデートのための服を着て、ルームメイトに見せた。
「どうかな?」
 ルームメイトは表情でダメ出しした。
「ダメ?」
「当たり前じゃない。なによ その服は? もっと刺激的な服じゃないと。そういう事してみたいって 言ってたじゃない」
「そうだけど、今まで そういうのとは無縁だったから」
「わたしの服 貸してあげる」
 そして 洋服タンスから取り出したのは、露出の多い大胆な服だった。
 エミリは消極的だった。
「えっと、さすがにそれは……」
「何事も挑戦よ。新しい自分を発見しないと。ほら、頑張ってきてみて。これを着れば、彼もメロメロよ」
 エミリは少し逡巡したが、しかし意を決した。
「分かった。これ、着てみる」
「そうこなくっちゃ」
 そして 着てみると、思いのほか似合っていた。
 清楚な女性が大胆な服を着ると、そのギャップに燃える男が多いが、彼女もそう言った魅力の持ち主だった。
 ルームメイトは手放しで賞賛する。
「完璧。彼、我慢できずに襲ってきちゃうかも」
「やだぁ」
 そう言いつつも まんざらではないエミリだった。
 ルームメイトは促す。
「ほら、デートへ行ってきて。彼が待ってるわよ」
「ええ、頑張ってくる」


 そしてエミリはデートへ向かった。


 その日 エミリは、彼とのデートを楽しんだ。
 映画を観て、ウィンドショッピングをし、喫茶店でお喋りし、ストリートパフォーマンスに喜んだ。
 そして夜、彼はエミリをアパートに送るために車を走らせていたが、人気のない場所で、不意に駐車した。
「どうしたの?」
「もう少し 君と話がしたくて。君と離れたくないんだ」
「私もよ」
 二人は見つめ合い、そして静かにキスをした。
 エミリのファーストキスだった。
 彼は そのまま服の内側に手を伸ばしてきた。
 エミリは手を押さえる。
「ダメよ。こんなところじゃ」
「いいだろ」
「ねえ、お願いだから」
「いいから、身を任せて」
 彼は構わず手を伸ばしてきて、エミリは少し強めに手を払った。
 彼は拒絶されたのかと思ったが、しかし その顔は笑顔だった。
「こら、違うのよ。そうじゃなくてね。私 初めてなの。こんな所じゃ 人に観られるかもしれないし、ムードもないわ。だから 雰囲気の良いホテルとかで、ね」
 エミリはするのは構わないと言ったのだ。
 それは 初めてを捧げると言うこと。
 彼は その事に気付き、反省すると共に エミリの気持ちに喜ぶ。
「そうだね。こんなところじゃダメだよね。近くのホテルに向かうよ」
 彼は車のエンジンを急いで掛けた。
 エミリが諫める。
「慌てないで、安全運転でね。がっついて、事故でも起きたら大変だもの」
「そうだね。安全運転でね」
 そして車を走らせようとした時だった。


 パンッ!
 破裂音がして、タイヤがパンクした。
 エミリはキョトンとした。
「どうしたの?」
 彼は戸惑う。
「タイヤがパンクした。先月 新品に取り替えたばかりなのに」
 続けて残り三つのタイヤが、パンッ!パンッ!パンッ! と連続して破裂した。
 エミリと彼は さすがに そこで気付く。
 自然にパンクしたのではない。
 誰かがパンクさせた。
 姿は見えないが、誰かが車の周囲にいる。
 そして 自動車を金属で引っ掻く、嫌な音が響いた。
 エミリは彼に言う。
「ねえ、逃げましょう」
「ダメだ。タイヤがパンクしているから、車が動かせない」
「け、警察。警察よ」
 エミリはスマホを取り出して、警察に連絡しようとした。
 しかし、電波が圏外になっていた。
「そんな……街中なのに圏外だなんて」
 いくら何でもあり得ない。
 彼はエミリの席の下に手を伸ばした。
「ちょっと足を退けて」
 そして エミリの座席の下から、タイヤ交換に使うジャッキ工具一式を取り出した。
「よし、これを武器にすれば」
 彼はドアを開けた。
「待って! 闘う気なの!?」
「大丈夫だ。君は俺が必ず守る」
 そして 彼は外に出た。
 しかし、襲撃者の姿は見えなかった。
「どこだ!? 隠れてないで出てこい!!」
 彼は威勢良く叫んだ。
 エミリは 泣き出したくなるのを必死で堪えて、周囲を見渡した。
 その瞬間だった。
 少し目を離した隙に彼の姿が見えなくなった。
「え? どこ? ねえ、どこに行ったの?」
 彼からの返事はない。
 エミリは体中が震えていた。
 しばらくの静寂。
 車体の上で、ドスンと重い何かが落ちてきた。
「キャー!!」
 エミリは衝動的に車の外に出て、無我夢中で走った。
 五十メートルほど走って、車へ振り返ったとき、車に落ちてきた者が何かを理解した。
 ズタズタに引き裂かれた彼の死体だったのだ。
「ヒィッキャァアアアアア!!」


 エミリは恐怖で失神した。


 ブラインド レディは その事件の資料を聞いていた。
 犠牲者は今のところ一人だけ。
 目撃者のエミリは なぜか殺されていない。
 そして エミリは、厳密には犯人の姿を見ていない。
 恐怖で錯乱して目撃しなかっただけなのか、それとも能力によるものか。
 笑い男や能力者が関係していると断定はできないが、しかし興味を持ち、ブラインド  レディは その事件を調査することにした。
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