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15・血文字

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 葬式が終わった後、ミナミはクラスメイトと電話をしていた。
「あんた マジで、幽霊が あの子のお母さんを殺したって思ってるわけ?」
 クラスメイトは遊び人で 羽振りが良く、お金に困ったことがない。
 だから 友人の間では、援助交際でもしているのではないかと噂されていた。
 そのクラスメイトは、変死事件が幽霊と関係あると思っておらず、犠牲者の娘が幽霊に怯えている様を、笑ってさえいた。
 ミナミはクラスメイトの疑問を一応は否定した。
「ホントに幽霊だとは思ってないけど、でも なにかの関係はあると思う。
 あの記者と、目の見えない美人も、普通じゃなかった。まあ、悪い人じゃないみたいだけど」
 クラスメイトは悪ふざけを言いだした。
「ねえ、試しにやって見せようか。今から わたし、鏡に向かって呪文を唱えてみる」
「ちょっと、止めなよ。あんなことが あったばかりなのに」
「なんか そう言われると、ますます やってみたくなっちゃった」
「ホント よしなって」
「やっちゃうもーん」
 クラスメイトは鏡に向かって呪文を唱えた。
「ムラサキさん、ムラサキさん、出てきてください」
 そして 沈黙。
「ねえ、どうしたの?」
 返事はなく、沈黙だけがすぎていく。
「ちょっと、止めてよ!?」
「きゃー!」
「どうしたの!? 大丈夫なの!? ねえ?!」
「あははははは」
 次に聞こえたのは笑い声だった。
「マジでビビってるー」
「ちょっと止めてよ。そう言う悪ふざけ、笑えないよ」
「マジになんないでよ。幽霊なんているわけないじゃん。
 ほら、あたしやってみたけど、平気でしょ。大丈夫だって事」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ、お話は終り。あたし これからメイク落としして、もう寝るから……
 やだ、なに これ? 眼から血が……」
「え? どうしたの?」
「いや、嘘……そんな、ありえない……」
 クラスメイトの声は本物の恐怖に彩られていた。
「大丈夫なの? ねえ! どうしたの!?」
「いやぁあああああ!!」
 本物の悲鳴が聞こえてきた。


 彼女は電話を切ると、すぐに警察に通報した。
 そして、クラスメイトが目玉をくりぬいた遺体で発見されたと連絡された。


 我々はミナミのところへ行った。
 ミナミは恐怖で体が震えていた。
「ねえ、いったい これなんなの? ホントに幽霊なの?」
 ブラインド レディは否定する。
「いいえ、幽霊なんていない。いたとしても、幽霊に人は殺せない。これは生きている人間の仕業」
 私は提案する。
「クラスメイトの部屋は、警察の現場検証が終わったばかりで、清掃は まだ終わっていない。なら手がかりが残っている可能性がある」
 私はミナミに聞いてみる。
「クラスメイトの部屋に入ることは出来ないか? 犯人への手がかりがあるかもしれない」
「わかった。なんとかやってみる」


 次の日の朝、ミナミはクラスメイトの母親に、最後の思い出にと言って、部屋に入れてもらった。
 母親は少し買い物に出かけるとのこと。
 その隙に我々は部屋に侵入した。
 ミナミは念を押す。
「お母さんは一時間ほどで戻ってくるから、それまでがタイムリミットだからね。それまでに なんとか手がかりを見つけて」
 私は一通り肉眼で調査してみたが、手がかりらしい物はない。
 次に私は、用意しておいたビデオカメラの、暗視モードや赤外線モードなどを使って要所を確認してみた。
 肉眼では発見できない手がかりがあるかも知れない。
 ブラインド レディも白杖と鋭敏な感覚で、手がかりとなる何かを探しているが、しかし思わしくないようだ。
「血の臭いが強く残っていて、私の嗅覚が役に立たない」


 私は特に鏡を調べてみた。
 鏡にまつわる怪談で事件が起きたのだ。
 鏡に手がかりがあるかも知れない。
 すると、化粧鏡の裏側から、なにかの液体がかすかに垂れているのを発見した。
「これは、血か?」
 私は化粧鏡の裏を見てみる。
 確かに鏡と板の間から血が垂れている。
 板を外してみると、鏡の裏に血文字が書かれていた。
「誰かの名前のようだ」
 ミナミは顔が青くなった。
「うそ、やだ。これ、あの子の元彼の名前じゃん」
 元彼の名前?


 我々は調査を切り上げて、その元彼について調べてみると、一年以上前に行方不明になっていた。
 そして その前に、クラスメイトと別れ話で揉めていたという。
「もしかすると、最初の事件の、洗面所の鏡にも、名前が書かれているのではないか?」
 我々は最初の事件の家に、留守を狙って侵入し、洗面所の鏡を調べてみた。
 やはり、鏡の裏に血文字で名前が書かれていた。
 ミナミがその名前の説明をする。
「たしか あの子の義理の父親が、この名前だったと思う。でも、病気で死んだって」


 我々はホテルに戻ると、すぐに調査した。
 母親は子供を産んだ後、娘の父親とは別の男と結婚。
 しかし夫は二年後に病死した。
 夫には生命保険がかけられており、彼女は多額の保険金を手にすることが出来た。
 そして、その金を投資に回して成功し、今の裕福な暮らしを実現していたのだ。
 私は推測が付いた。
「では、保険金殺人か?」
 ミナミもクラスメイトの元彼の死について見当が付いたようだ。
「あの子の元彼も、もしかして殺したとか?」
 ブラインド レディが肯定する。
「間違いないわね。あの子の貯金を調べてみたけど、宝くじに当選して大金が手に入っている。そのお金で遊んでいたのよ。
 おそらく元彼との別れ話は、その当選金を山分けにするかどうかで揉めたから。
 それで短絡的に殺し、遺体をどこかに埋めるなりして、処分したのね」
 ブラインドレディは断定すると、まとめに入る。
「被害者の共通点は、殺人。動機は金。金のために人を殺した者を狙っている。
 そして鏡を媒体にしている。鏡を使って その者の心に秘めた罪を暴き出し、罪の意識を暴走させ、苦しみのあまり 眼をかきむしり、眼球をえぐり取って死ぬ。
 名付けるなら、鏡に映る罪シン リフレクション ミラー


 ミナミを いったん帰宅させた後、我々は再び似たような事件がないか、再捜査した。
 しかし、日本中の鏡に関係した事件を調べたが、発見することは出来なかった。
 そこで、変死事件だけではなく、鏡にかかわる怪談など、あらゆる事に広げてみた。
 鏡に関係さえしていれば良い。
 とにかく手がかりが欲しい。
「お嬢さま、気になる広告がありました」
 メイドがインターネットの広告を読んでいた。
「この街の骨董品店の広告なのですが、海外から取り寄せた骨董品のバーゲンをするそうです。
 その中に鏡があります。それが、イギリスから輸入した鏡で、調べてみると、なにかの事件の証拠品を、引取先がないために処分されようとした物を買い取ったとか」
「調べましょう」


 結果判明したのは、十年前のイギリスの未解決事件の証拠品だった。
 とある富豪夫婦が殺され、一人息子だけが助かった。
 莫大な遺産は夫婦の弟が相続し、生き残った息子には一銭も渡らなかった。
 その弟は、生き残った甥を引き取らず、児童養護施設に入れた。
 そして、問題の鏡は、事件現場に残されており、その鏡の裏には血文字で名前のイニシャルが書かれていた。
 それが遺産相続した弟の名前と一致したため、犯人の候補として上がった。
 弟は浪費癖があり、道楽者でギャンブル中毒。
 遺産目当ての殺し、つまり動機は金として、担当捜査官は捜査を進めたが、しかし物的証拠が見つからず、事件は解決しなかった。
 その後、弟は遺産で贅沢三昧していたが、子供が成人した一ヶ月後に、自分で自分の目玉をくりぬいて死亡しているのが発見された。
 こうして、弟の変死と共に、事件は迷宮入りとなった。
 生き残った子供の年齢は、今は二十歳になっているとのこと。
 そして、その事件を発端として、イギリスでは目玉をくりぬいた自殺が、十件以上起きている。


 ブラインド レディが断定する。
「この時の子供が能力者。標的は、金目的で殺人を行った者」
 私は疑問を呈する。
「だが、その人物はイギリスにいるのだろう。今まで遠隔型の能力者はいたが、無限の距離を無視できるわけではない。限界がある。イギリスから日本まで、どれだけの距離があると思う」
「この鏡を使って能力を中継している。能力者は単独では能力を発揮できず、この鏡とセットで初めて能力を使うことが出来る。
 かわりに、この鏡を中継すれば、どれだけ距離があっても、他の鏡を使って殺すことが出来る」


 その時、私の電話が鳴った。
「ミナミからだ」
 電話に出ると、彼女は悲鳴のような声で叫んだ。
「鏡に男の姿が映ってたの! でも現実には誰も居なかった! どうしよう!? あたしも殺されるの!?」
「落ち着け。すぐに向かうから、鏡を全部布で隠すんだ」
 我々はミナミの部屋へ向かった。
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