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12・上級国民
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企業から当局に手を回し、ブラインド レディは墜落機の残骸が保管されている倉庫に入った。
警備員は、盲目者が なぜ墜落機の調査に来たのか疑問だったが、許可証は持っていたので、立ち入りを拒否することは出来なかった。
まあ、目が見えないのだ。
なにもできないだろう。
そう思ってのことでもある。
倉庫の中の墜落機は原形をとどめていなかった。
飛行機が比較的 低空飛行していなければ、生存者もいなかっただろう。
ブラインド レディは白杖を使いながら、非常ドアの所まで来ると、取っ手に触る。
取っ手は手形にひしゃげていた。
金属製の太い取っ手が、人間の力で変形するはずがない。
能力者であることに間違いなかった。
ブラインド レディは次に、精神病院へ向かった。
生存者の一人が、そこに入院しているのだ。
彼女は担当医から話を聞き出した。
「彼は少し まいっている。精神的に衰弱しているんだ。だが 無理もない。飛行機墜落など経験すれば当然のことだろう」
「でも、少し気になることがある。入院は本人の希望だと聞いた」
「その通り。彼は飛行機が墜落する直前、おかしな者を見たと言っているんだ。
なんでも、年配女性が非常ドアを開けたと。そのせいで墜落したとね。
しかし、彼は子供の頃 飛行機についての科学マンガを読んだことがあってね。飛行中の飛行機の非常口には、気圧の関係で二トン近くの圧力がかかっている。人間の力であけることなど不可能なんだ。
それに、その年配女性は眼がおかしかったそうだ。眼が充血して、血の涙まで流していたと言うんだ。
それで 彼は、自分の頭がおかしくなったのだと思い、自主的に 入院することにしたんだ」
「貴方の診察では、どう思う?」
「MRI検査では脳に異常は見られなかったし、他の検査や精神鑑定も問題なし。
おそらく墜落のショックで一時的な錯乱を起こして、一種の記憶障害を起こしただけだろう」
「彼は治るということ?」
「それは大丈夫だ。三ヶ月もすれば、心も落ち着いて退院できるだろう。軽度の飛行機恐怖症になる可能性はあるが、それも日常生活には問題ない。
彼はすぐに自分の人生を取り戻す」
ブラインド レディは医師に感謝を述べると、次へ向かった。
ブラインド レディは年配女性の家に向かった。
年配女性が能力者なのか?
それとも別にいるのか?
家では年配女性の夫が対応してくれた。
中堅企業の会長で、年収は億単位。
生活は贅沢で、妻が死んだばかりなのに、あまり悲しんでいる様子もなく、横柄な態度だった。
しかし、質問には答えてくれた。
「妻があの飛行機に乗ったのは、絵画コンクールに受賞して、その賞を受け取りに行くためだった。
妻は以前、キャリアウーマンで、私と結婚して子供を産んでからは、しばらく専業主婦だった。
しかし、その子供も大人になって、時間を持て余すようになってね。趣味で始めた絵画が認められ、大きなコンクールに入賞した。
しかし、あの事故が起きた。人生とは分からない。画家として第二の人生が始まると思った矢先に、こんなことになるとは」
「搭乗前、彼女に何かおかしな事はなかった?」
「ああ、胃潰瘍が見つかったと言っていたな。胃もたれに悩まされていて、病院で検査を受けたと。まあ、軽い病状だったそうで、すぐに治ると言っていた。
もっとも、治る前に死んでしまった。
本当に人生は分からない。
まあ、あの妻も古くなったし、処分にはちょうど良かったか。
今 新しく若い妻を探しているのだが、君、良ければどうだね」
自分の妻を、まるで物のように考えている男に、ブラインド レディは冷淡に答えた。
「遠慮しておくわ」
ブラインド レディは その家を後にした。
年配女性は明らかに能力者ではない。
では、いったい誰が能力者なのか?
そして どうやったのか?
ブラインド レディがリムジンに戻ると、キタムラ氏から連絡が入った。
「お嬢さま、生存者の一人が死亡しました。前回と同じ、飛行機 墜落です」
とある 初老の政治家は小型の高級飛行機に乗り込んだ。
秘書は そのことを快く思っていなかった。
「先生、あんな事故があったばかりなのに、もう動かれるなど」
「こんなことにわしは負けたりせん。わしは不死身だ。
それに底辺どもは弱みを見せるとすぐにつけあがる。誰が上なのか思い知らせてやらんとな。
それより、例の件はどうなっている?」
癒着している大手企業からのお願いの話だった。
「下請け企業が、品代未払いで訴えを起こしていた件については、圧力をかけて手を引かせました。結果、この下請け企業は倒産します。計画通り、無賃金労働に成功しました」
「ふん、下請け風情が勘違いしおって。社会に貢献させてやったというのに、金を払えとギャーギャー騒ぎおる。社会貢献したという やりがいが 報酬なのだよ。まったく底辺という者は、こういう日本の美徳がわかっとらん」
そんな会話をしながら一時間が経過すると、唐突に飛行機が揺れた。
「なんだ?」
操縦席では副機長が機長を殴打していた。
何度も何度も殴りつけ、飛行機は誰も操縦していない。
政治家は何事かと叫ぶ。
「おい!? なにをしとるんだ?!?」
副操縦士は機長を気絶するまで殴りつけると、政治家に笑顔を向けた。
それは この上ない喜びに満ちた笑みで、眼が異様に充血し、血の涙が出ていた。
「全員 堕とす」
そして 副操縦士は操縦桿を思いっ切り前に倒した。
飛行機は真っ逆さまに地面に激突した。
副操縦士が墜落させたという記録は、ブラックボックスに残されていた。
キタムラ氏は その記録をブラインド レディに聞かせる。
「お嬢さま、事件はまだ終わっていません。全員 堕とすとの言葉から察するに、事件の生存者を全員 殺すつもりです」
「生存者の搭乗予定は?」
「二人が もうすぐ乗ります。百人以上の大型旅客機の、ビジネスクラスに一人。それと、客室乗務員が仕事に復帰しています」
「離陸はいつ?」
「離陸まで もう三十分もありません。なんとかして 二人が飛行機に乗るのを止めないと」
「無駄よ。その飛行機は すでに墜落させる準備が整っている。二人を止めても、犠牲者が出るのは防げない」
「では どうするつもりで?」
「その 飛行機に私が乗るわ。直接 乗って墜落を防ぐ」
「そんな!? 危険です! 飛行機は墜落するんですよ!」
「選択の余地はないわ。すぐに搭乗券を準備して」
「……分かりました」
キタムラ氏はパソコンを操作すると、エコノミーを二席とった。
「貴方まで来る必要はないわ」
「お嬢さま 一人で行かせるわけにはいきません。こうなったら乗りかかった船です。いえ、乗りかかった飛行機でしょうか」
「ありがとう」
二人は急いで空港へ向かった。
警備員は、盲目者が なぜ墜落機の調査に来たのか疑問だったが、許可証は持っていたので、立ち入りを拒否することは出来なかった。
まあ、目が見えないのだ。
なにもできないだろう。
そう思ってのことでもある。
倉庫の中の墜落機は原形をとどめていなかった。
飛行機が比較的 低空飛行していなければ、生存者もいなかっただろう。
ブラインド レディは白杖を使いながら、非常ドアの所まで来ると、取っ手に触る。
取っ手は手形にひしゃげていた。
金属製の太い取っ手が、人間の力で変形するはずがない。
能力者であることに間違いなかった。
ブラインド レディは次に、精神病院へ向かった。
生存者の一人が、そこに入院しているのだ。
彼女は担当医から話を聞き出した。
「彼は少し まいっている。精神的に衰弱しているんだ。だが 無理もない。飛行機墜落など経験すれば当然のことだろう」
「でも、少し気になることがある。入院は本人の希望だと聞いた」
「その通り。彼は飛行機が墜落する直前、おかしな者を見たと言っているんだ。
なんでも、年配女性が非常ドアを開けたと。そのせいで墜落したとね。
しかし、彼は子供の頃 飛行機についての科学マンガを読んだことがあってね。飛行中の飛行機の非常口には、気圧の関係で二トン近くの圧力がかかっている。人間の力であけることなど不可能なんだ。
それに、その年配女性は眼がおかしかったそうだ。眼が充血して、血の涙まで流していたと言うんだ。
それで 彼は、自分の頭がおかしくなったのだと思い、自主的に 入院することにしたんだ」
「貴方の診察では、どう思う?」
「MRI検査では脳に異常は見られなかったし、他の検査や精神鑑定も問題なし。
おそらく墜落のショックで一時的な錯乱を起こして、一種の記憶障害を起こしただけだろう」
「彼は治るということ?」
「それは大丈夫だ。三ヶ月もすれば、心も落ち着いて退院できるだろう。軽度の飛行機恐怖症になる可能性はあるが、それも日常生活には問題ない。
彼はすぐに自分の人生を取り戻す」
ブラインド レディは医師に感謝を述べると、次へ向かった。
ブラインド レディは年配女性の家に向かった。
年配女性が能力者なのか?
それとも別にいるのか?
家では年配女性の夫が対応してくれた。
中堅企業の会長で、年収は億単位。
生活は贅沢で、妻が死んだばかりなのに、あまり悲しんでいる様子もなく、横柄な態度だった。
しかし、質問には答えてくれた。
「妻があの飛行機に乗ったのは、絵画コンクールに受賞して、その賞を受け取りに行くためだった。
妻は以前、キャリアウーマンで、私と結婚して子供を産んでからは、しばらく専業主婦だった。
しかし、その子供も大人になって、時間を持て余すようになってね。趣味で始めた絵画が認められ、大きなコンクールに入賞した。
しかし、あの事故が起きた。人生とは分からない。画家として第二の人生が始まると思った矢先に、こんなことになるとは」
「搭乗前、彼女に何かおかしな事はなかった?」
「ああ、胃潰瘍が見つかったと言っていたな。胃もたれに悩まされていて、病院で検査を受けたと。まあ、軽い病状だったそうで、すぐに治ると言っていた。
もっとも、治る前に死んでしまった。
本当に人生は分からない。
まあ、あの妻も古くなったし、処分にはちょうど良かったか。
今 新しく若い妻を探しているのだが、君、良ければどうだね」
自分の妻を、まるで物のように考えている男に、ブラインド レディは冷淡に答えた。
「遠慮しておくわ」
ブラインド レディは その家を後にした。
年配女性は明らかに能力者ではない。
では、いったい誰が能力者なのか?
そして どうやったのか?
ブラインド レディがリムジンに戻ると、キタムラ氏から連絡が入った。
「お嬢さま、生存者の一人が死亡しました。前回と同じ、飛行機 墜落です」
とある 初老の政治家は小型の高級飛行機に乗り込んだ。
秘書は そのことを快く思っていなかった。
「先生、あんな事故があったばかりなのに、もう動かれるなど」
「こんなことにわしは負けたりせん。わしは不死身だ。
それに底辺どもは弱みを見せるとすぐにつけあがる。誰が上なのか思い知らせてやらんとな。
それより、例の件はどうなっている?」
癒着している大手企業からのお願いの話だった。
「下請け企業が、品代未払いで訴えを起こしていた件については、圧力をかけて手を引かせました。結果、この下請け企業は倒産します。計画通り、無賃金労働に成功しました」
「ふん、下請け風情が勘違いしおって。社会に貢献させてやったというのに、金を払えとギャーギャー騒ぎおる。社会貢献したという やりがいが 報酬なのだよ。まったく底辺という者は、こういう日本の美徳がわかっとらん」
そんな会話をしながら一時間が経過すると、唐突に飛行機が揺れた。
「なんだ?」
操縦席では副機長が機長を殴打していた。
何度も何度も殴りつけ、飛行機は誰も操縦していない。
政治家は何事かと叫ぶ。
「おい!? なにをしとるんだ?!?」
副操縦士は機長を気絶するまで殴りつけると、政治家に笑顔を向けた。
それは この上ない喜びに満ちた笑みで、眼が異様に充血し、血の涙が出ていた。
「全員 堕とす」
そして 副操縦士は操縦桿を思いっ切り前に倒した。
飛行機は真っ逆さまに地面に激突した。
副操縦士が墜落させたという記録は、ブラックボックスに残されていた。
キタムラ氏は その記録をブラインド レディに聞かせる。
「お嬢さま、事件はまだ終わっていません。全員 堕とすとの言葉から察するに、事件の生存者を全員 殺すつもりです」
「生存者の搭乗予定は?」
「二人が もうすぐ乗ります。百人以上の大型旅客機の、ビジネスクラスに一人。それと、客室乗務員が仕事に復帰しています」
「離陸はいつ?」
「離陸まで もう三十分もありません。なんとかして 二人が飛行機に乗るのを止めないと」
「無駄よ。その飛行機は すでに墜落させる準備が整っている。二人を止めても、犠牲者が出るのは防げない」
「では どうするつもりで?」
「その 飛行機に私が乗るわ。直接 乗って墜落を防ぐ」
「そんな!? 危険です! 飛行機は墜落するんですよ!」
「選択の余地はないわ。すぐに搭乗券を準備して」
「……分かりました」
キタムラ氏はパソコンを操作すると、エコノミーを二席とった。
「貴方まで来る必要はないわ」
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