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9・水泳部

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 私とブラインド レディは、被害者 同士の関係を調べるため、地元の図書館に来ていた。
 被害者の年長者は、全員 同じ年代だったこと着目したのだ。
 つまり、小中学校も同じだったのではないか。
 地元の図書館に保管されていた、卒業アルバムを見ると、中学校の水泳部に、彼らの姿が写っていた。
 漁業組合の会長。
 漁業会社の社長の妻。
 観光会社の社長。 
 海上保安庁責任者であるハタナカ氏の中学生時代の姿も。
 みんな まだ子供同然だが、面影がある。
 そして もう一人、誰なのか分からない少年の姿。
「見つけたよ」
 私はブライド レディに報告する。
「彼らの姿だ。海上保安庁のハタナカ氏に、漁業組合の会長。漁業会社の社長に、観光会社の社長。
 水泳部の写真に写っている」
「繋がりを見つけたわね」
「だが、一人 分からない。写真に写っているのは五人だ。一人 身元が不明の人物がいる。この人物も被害に遭う可能性があるのではないか」
「住所は?」
「巻末に書いてある」
「行きましょう」


 だが その住所の家は、空き家となっていた。
「誰も住んでいないようだ。手がかりが消えてしまったか」
「問題ないわ。館に連絡して、今の住所の割り出しをお願いするから」
「そんな簡単にできるのか?」
「私にはね」
 地道に調査するしかない私としては、羨ましい限りだった。


 問題の人物が住んでいる家の住所の割り出しは、十分もかからなかった。
 私たちは その住所へ行く。
 そこは漁村から離れた山間の町だった。
 対応してくれたのは、その人物の母親だった。
「あの子は病院に入院しています。極度の水恐怖症で、日常生活が困難になり、自殺を図るようになってしまって」
「よろしければ、詳しく聞かせていただけませんか」


 彼は子供の頃から体が弱く、運動神経が悪かった。
 体育の成績は悪く、特に泳げないことをコンプレックスとしていた。
 そして彼は体を鍛え、泳げないことを克服するために、中学進学と同時に、水泳部に入った。
 そして、虐めは始まった。
 水泳部のメンバー全員が、鍛えてやると言って、壮絶なしごきをし、頭を水に押さえつけて 呼吸を出来なくさせて苦しめるといったことをしていた。
 それが 半年続き、彼は登校拒否となった。
 両親は学校に責任追及したが、学校側は虐めはないとの一点張り。
 虐めをしていた生徒の親は全員、地元の有力者だったからだ。
 貧しい家庭だった被害者の親は、裁判を起こす費用もなく、泣き寝入りとなった。
 そして 彼は極度の水恐怖症となり、泳げないどころか、風呂はもちろん、シャワーも浴びることも、洗顔も出来なくなった。
 体をぬらしたタオルで拭くくらいのことしかできず、体臭がきつくなっていった。
 そして、日常生活に支障を来す毎日が続き、彼は自殺未遂を起こした。
 彼の両親は、精神科専門の病院に入院させ、障害年金を受ける手続きをした。
 そのさい 年金事務所で言われた言葉は、
「ビョーキになって、社会のお荷物になって恥ずかしくないんですか」
 そんな 差別的な屈辱も黙って聞かなければ、彼の入院費用を受け取ることが出来なかった。
 そして 五十年近くが経ち、両親は死を意識する歳となった。
 両親は自分たちが死んだ後、息子がどうなるのか心配でならなかった。
 だが、自分たちにどうすることも出来ず、ただ不安だけが募っていく毎日だった。


 私は聞く。
「息子さんが入院している病院は?」
 母親は病院名を教えてくれた。
 話を聞いたブライド レディは感謝を述べる。
「話をしてくれてありがとう。これはささやかなお礼よ」
 彼女はかなり分厚い封筒を置いて去って行った。
 わたしも彼女の後に続く。


 病院で彼に面会する。
 彼は我々が話しかけても、沈黙したまま、俯くように絵を描き続けていた。
 黙々と絵を描いていたが、その絵は全て、水色が塗られ、そして中心に黒の渦巻きが描かれているだけ。
 まるで、彼が水泳部で受けた体験を現しているかのよう。
 いや、まさしくそうなのだろう。
「行きましょう」
 ブラインド レディは質問することなく去った。


 病院の玄関で彼女は話す。
「彼は能力者。でも、笑い男は関係なさそう」
「彼を殺すのか?」
 私の知る限り、ブライド レディは そうやって解決してきた。
「いいえ、殺さない。彼はこの事件の犯人だけど、被害者でもある」
「そうだな。彼を始末するのは間違っている」
 その時、リムジンで待機していたメイドが、駆け寄ってきた。
「お嬢さま、新しい被害者です。前回の被害者の妹ですが、溺れ死んだと」
 私は驚く。
「海には怖くて近寄らなくなったんじゃなかったのか?」
「それが、洗面台で溺れたと」
「洗面台で?」
 どういう状況になればそんなことが起こるのだ。
 ブライド レディはリムジンに乗る。
「父親のところへ行きましょう。次に狙われるのは、父親よ」


 我々は父親の自宅に到着したが、すでに誰も居なかった。
 ブライド レディは察した。
「彼は この事件の犯人が分かった。自分の罪を償うつもりよ」
「ということは、海へ行ったのか!?」
 我々はリムジンで港へ急行した。
 そして到着すれば、ちょうど父親が小さなボートで海へ出たところだった。
 彼は海へ向かって叫んでいた。
「俺を連れて行け! おまえの望み通りにしてやる! 俺を殺せー!!」
 死ぬつもりだ。
 私は彼に向かって叫ぶ。
「戻れ! 海は危険だ! 戻るんだ!!」
 だが、その瞬間、ボートが弾むように転覆し、彼の体は海に消えた。
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