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8・水難事故

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 私はフリーマン。
 今回の事件は、元々 ブライド レディを追っていたわけではなかった。
 と ある漁村にて、水難事故が多発し、その取材をしていただけだった。
 その海は海水浴場ではなく、地元の人間が泳ぐ程度。
 今年の春から秋にかけて、十一件の水難事故が発生し、遺体は発見されなかった。
 しかし、それ以前の水難事故は十年で六件だけ。
 明らかに今年に入ってから、急に増えていた。
 私は なんらかの事件の可能性があるのではないかと思い、ジャーナリストとして取材しに、その漁村に入った。


 漁村の人口は八千人程度。
 村としては大きいが、これといった特徴はない。
 漁業も順調で、過疎化や衰退といった悩みもなく、むしろ徐々にではあるが、栄えて行っている。
 政府が打ち出した政策、地方創生の恩恵も多少は受けているらしい。


 被害者に関する情報は、最近の事件では、漁業組合の会長家族だ。
 始めは、会長の息子が海に泳ぎに行っていたときに、溺れたのではないかと推測される。
 彼は水泳選手で、泳げる季節になれば、よく海に泳ぎに行っていた。
 しかし、海を泳いでいるときに、突然 海に沈み、それ以後、行方不明となった。
 もし、通学途中の数人の中学生が目撃していなければ、彼が溺れたと言うことさえ判明しなかっただろう。
 海上保安庁に連絡され、捜索されたが、遺体は発見されなかった。
 そして一ヶ月後、遺体なしで葬式が行われた。
 妹は恐怖で海に近づかなくなり、父親もまたショックで漁に出なくなった。


 私は地元の海上保安庁に取材に行った。
 私の対応をしてくれたのは、年配の責任者だった。
 便宜上、ハタナカとしておこう。
 ハタナカ氏は淡々と答えた。
「偶然 事故が重なっただけだ。
 私も事件性の可能性を考えたが、どう考えても事故としか思えない。この付近にはサメなどの肉食動物も生息していないし、目撃情報もない。
 足をつったりして、溺れたと考えるのが自然だ」
「遺体が発見されないことに関しては?」
「潮の流れに乗ってしまったのだろう。ここの海は海流がある。陸の方へ流されていれば、遺体は浜に上がっただろうが、沖合へ向かったのなら、間違いなく海流にさらわれてしまう」
「では、事件性はないと」
「ないな。確かに、彼の父親は漁業組合の会長で、社会的地位と責任のある立場だ。収入も大きい。
 しかし ここは田舎の漁村だ。都会のような陰謀など起こりようがない。むしろ助け合わねば、みんな共倒れだ。彼の地位などを狙った陰謀など、あるはずがない」
「では、私が深読みしすぎただけですか」
「まあ、そうだろう。大した記事にはならないだろうが、せめて 水難事故の危険性を警告する記事でも書いて、取材費を取り戻してくれ」
「そうすることにします」
 私は海上保安庁を去ろうしたところ、一組の母息子が現れた。
 母親は三十歳をすぎたくらい。
 息子は七つと言ったところだろうか。
 仲が良さそうで、見ていて微笑ましい。
 彼女は、ハタナカ氏のところへ来ると、弁当箱を渡した。
「父さん、お弁当 忘れてたわよ」
「おや、うっかりしていた」
 厳しい目をしていた責任者は、娘の顔を見ると、温和な表情に変わった。
 そして孫を抱き上げる。
「おじいちゃんにお弁当を届けに来てくれたのか。良い孫で嬉しいよ」
 子供は何も言わずに、祖父を抱きしめた。


 一家団欒を邪魔してはいけない。
 私は無言で軽く頭を下げると、その場を去った。
 そして、私はこの件は無駄足だったと思った。
 ハタナカ氏の言うとおり、これはただ偶然が重なっただけだ。
 水難事故の危険についての記事を一筆して、小銭を稼ぐことしかできないだろう。
 そう思いながら、海上保安庁の玄関を出ようとすると、私に声をかけてきた女性がいた。


「また 会ったわね」


 ブラインド レディだった。
 隣で以前 取材したことがある メイドが会釈した。


 地元で採れた魚料理を出す料理店の個室にて、ブラインド レディは説明する。
「これは能力者の仕業よ。でも、笑い男が関係しているかどうかは、まだ分からない」
「笑い男はさておき、能力者が犯人だという理由は?」
「一連の被害者の関係」
 ブラインド レディは白杖を操作し、一メートル四方の面にした。
 そこに、普通の文字や画像が並んだ。
「事件を最初から説明していくわ。
 今年 最初の事件は春先。漁業会社の社長家族が死亡した。
 父親を船長とした、息子二人と一緒に、早朝から漁に出港し、その後 船だけが沖合で漂っているのを発見された。
 三人の姿はなく、何らかの理由で海に転落し、そのまま死亡したとみられる。
 一ヶ月後、三人の葬儀が終わったあと、妻であり息子たちの母親は、海で入水自殺をした。
 でも、彼女はこの村から引っ越しの準備をしていた。近所の人には、家族を失ったこの村には、もう住むことができない言っていた。その発言が自殺の遺言として受け取られたけど、普通に引っ越すだけと考えるのが自然だと思う」
「それだけでは、能力者が関わっているとは断定できない」
「次の事件も家族全員が死亡している。
 父、母、息子夫婦。孫。合計五人。
 父親は地元の観光会社の社長をしているわ。
 夏の初め、息子夫婦と孫が、海でボート遊びをしていたとき、なんらかの理由で突然転覆。三人とも海に沈み、そのまま行方不明となった。
 浜辺で魚釣りをしていた人が、目撃している。
 これも事件性はないと判断された。
 だけど、一週間後に母親が風呂で心筋梗塞を起こして死亡。
 一ヶ月後、父親は海に入水自殺したわ」
 私はブラインド レディの説明を受けて納得し始めた。
「確かに、偶然と言うには、不自然だな。地元の有力者の家族が、立て続けに溺死している」
「そして 最近の事件。海上保安庁の責任者、ハタナカ氏の娘の夫。
 彼の娘婿も溺死している。海上保安庁の職員の一人で、巡回の最中に船から転落。そのまま沈んでいったそうよ。
 他の乗組員の目撃証言によると、まるで海の中から なにかが引きずり込んでいったかのような沈み方だったそう。
 お孫さんは、父を亡くしたショックで、言葉を失った。失語症の一種だそう」
「その子に会ったよ。一言も話さないのを不自然に思ったんだが、そんな事情があったのか」
「そして貴方が取材したばかりの、最新の事件。これは貴方が取材したとおり。
 これらの事件の関係を突き止めれば、能力者の正体が掴める。
 図書館に行きましょう。関係性については、大体の見当は付いているわ」


 こうして、私たちは図書館へ向かった。
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