ヒットマン VS サイキッカーズ

神泉灯

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am03:09~

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   am03:09

 仲峰司がバンと連絡を取る。
「こちら№31。№42と合流した」
 奥田佳美は仲峰司がバンとの無線対応が一通り終わった後、訊いた。
「それで、なんだい? どうしたんだい?」
「なんだじゃない。無線を切るなと言っただろ」
「そうだったかい」
 空とぼけてみせる彼女に、仲峰司は言いたいことが沢山あったが、そんな状況ではないと判断し、後回しにする。
「標的は、他の二人と一緒ではないようだな?」
 宝石店から本屋までの戦いを見ることになった仲峰司は、標的が単独行動をしているのに気が付いていた。
 おそらく敵はここで追跡者を消すつもりでいるのだろう。
「ああ、どこかに隠したんだろ。あいつを始末してから探せば良いさ」
「とりあえず無線のスイッチを入れろ。実験体を奪還するにはそれしかなさそうだ」
 無線を起動させた奥田佳美は怪訝そうにする。
 仲峰司の言葉は戦闘が前提条件に含まれていれば出てこない内容だ。
「あんた、標的を殺すつもりなかったのかい?」
「俺たちの仕事は、実験体の奪回だ。無理に戦う必要はない。だが今の状況ではそうも言っていられないがな」
 言いながら仲峰司は、積み上げられた本の隙間から向こう側を窺う。
 敵の姿は見えないが、しかし向こうもこちらを窺っているということだけは、なぜだか理解できた。
 別の能力が発現したわけではないだろうが。
「ここに入る前に敵の位置は確認した。標的は三区画先の女性服売り場にいる。無暗に動くことはないだろう。俺が先に行動する。合図をしたら援護してくれ」
 №31・仲峰司は意識を集中し玩具店に転移した。
 陳列台を遮蔽物にして身を隠し、通路を挟んで二区画ほど離れた位置に標的の姿を確認。
 向うも同じように陳列台に身を隠しているが、この位置からは障害物となるものはない。
 拳銃を構え撃鉄を上げる。
 同時に標的がこちらに顔を向けた。
 驚いて一瞬引き金を絞るのが遅れた。
 発砲した時には標的は瞬時に体を捻り、柱の影に移動していた。
 直前の位置に弾痕が生じ、陳列棚の支えが折れ、流行服を着ているマネキンの胸に風穴が開く。
 どうしてわかったんだ?!
 標的は普通の人間であり、自分たちのような能力は持っていない。
 転移を感知できるはずがないにもかかわらず、攻撃直前にこちらに位置が知られた。
 だが仲峰司の疑問の答えは出ない。
 残弾数三発。
 再装填をする余裕がない。
 奥田佳美に援護を頼もうと無線越しに伝達しようとした時、男は柱から手首だけ出して、なにかを転がしてきた。
 手榴弾だ。
 識別すると同時に、仲峰司は即座に陳列台に身を隠し、奥田佳美に警告を与えようとした。
 だが予想した爆発までの時間的余裕よりも早く、それは爆発した。
 ピンを抜いてからも手にした状態を保持し、数秒経過してから投擲する高等技術。
 爆発までのタイムラグを短縮させることで、敵に対応する時間的余裕をなくす。
 焦って投げれば意味がなく、時間を取りすぎると持ち手が吹き飛ぶ。
 爆発は攻撃力のあるものではなく、だがそれを遥かに上回る耳を劈く轟音と、太陽光の如き光量が発生し、空間転移者と発火能力者の視聴覚を一時消失させた。
 スタングレネードか。
 身を丸く屈めていたので視覚は奪われなかったが、耳は当分回復しない。
 上体を起き上がらせ、標的の姿を探す。
 標的は柱影から飛び出し、突き当りの扉、建造物端に位置する階段へ走った。
 防火壁を兼ねた金属扉を開け中に飛び込むか否かの瞬間、仲峰司は、敵の背後に残りの三発を撃ち込んだが、閉まり始めた金属製の扉に阻まれ命中しなかった。
 すぐに仲峰司は追跡し、その扉を体当たりするように開けて飛び込むと、階段の手すりから駆け下りる標的を確認。
 銃口を向けたが、標的はちょうど一階扉を開け、その先に姿を消したところだった。
 即座に発砲していれば当たったかもしれないが、今リヴォルバーには弾が入っていない。
「えぃっ」
 舌打ちとも唸り声とも着かない声を忌々しく口にして、再装填すると階段を駆け下りる。
 正直彼は標的に対して、敬意に近い恐れを抱いていた。
 研究所で最大の念動力を操る鈴木鳶尾を倒し、奥田佳美の発火能力による攻撃を悉く捌き、そして自分の空間転移による死角からの狙撃をどうやって察知したのか、直前に柱で身を遮蔽した。
 彼は今までの相手とはまったくレベルの違う相手だ。
「№42、今どこだ?」
 無線経由で奥田佳美に問いかけたが、返事がよく聞こえない。
 耳の機能がまだ回復していないのだ。


   am03:11

 №42・奥田佳美は網膜にこびりつく残光のため視力が弱まっているが、閃光弾の爆発を直視していたわけではなかったため、機能は急速に回復する。
 その時にはすでに玩具店と仲峰司と、女性服売り場にいたはずの敵の姿はなかった。
「クソ!」
 悪態をついて彼女は、№31・仲峰司に連絡を取る。
「ツカサ、今どこにいる?」
 返答らしき声がヘッドホンから届くが、よく聞き取れない。
 眼は直視しなかったため機能を損なうことはなかったが、耳は音を避けることはできない。
 回復するには時間がかかる。
 奥田佳美は連絡を諦めて、場を移動した。
 通路間を走り、すぐに中央ホールに到着する。
 スプリンクラーが作動しほとんど鎮火しているが、火元であるアイスやクレープの小売店はまだ火が上がっている。
 その脇を全速力で疾走して通過した男の姿を発見した。
 火球を投げたが、ちょうどシャッターに命中してしまう。
 奥田佳美は助走をつけて落下防止の柵を飛び越え、まだ火が上がっている小売店の屋根の上に飛び降りる。
 もう一度跳躍して一階に着地。
 靴と皮製の服に少し煤が付いたようだが、体に一切火傷はない。
 これは奥田佳美の能力によるものではなく、炎の性質に熟知していたからだ。
 火というのは可燃性物質でない限り即座に燃え移るということはなく、それに一瞬ならば炎の熱は大して影響ない。
 炎の熱でフライパンのように高熱になっていた金属製の屋根で、靴の裏を少し焦がした程度だ。
 一階に下りた奥田佳美は、男の背中姿を視認した。
 方向は食料品売り場だ。
「中央ホールに到着。ツカサ、あいつ食料品店に向かってるよ」
 追跡しつつ一応連絡を入れる。
 返答は聞こえないが、こちらの声は届いているだろう。
 その隙を狙ったのかどうか、敵は拳銃を向けて背中越しに発砲してきた。
 目を向けていないのに狙いは正確で、銃口を向けられた瞬間に咄嗟に体軸をずらしたその位置に銃弾は命中した。
 右隣のレジスターが弾け、火花が飛び散る。
 奥田佳美はレジカウンターの脇に身を翻して隠れ、顔を覗かせて窺った時には、銃撃はただの牽制だったのか、男は奥の従業員フロアへ入ってしまっていた。
 再び闘志が燃え上がるのを感じた。
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