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167・スーパー・ファミリー
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二月に入ってからようやく一週間と少しが過ぎ、ちまたでは大雪で何十世帯が停電したとか、凍った路面に滑って顔面から雪だるまに突っ込んだとかで、ニュースになったりする一方、各地での雪まつりなどの賑やかな話題も少しずつ出始めていた。
まさに冬真っ盛りとも言えるウインターシーズン。
そんなある日の放課後。
俺は久し振りにセルニアと一緒に学園から帰り道を歩いていた。
「本当に、スーパー・ファミリー、シーズン2は面白いですわね」
「まったくだよな。まさかあの科白がミスリードになっていたとは」
「アパートの管理人さんが失踪して今週は終わってしまって。続きが待ち遠しいですわ」
並んで歩きながらの穏やかな会話。
それは普段なら普通の光景だけど、ここ最近に限ってみればこうしてセルニアとゆっくり話をするのは結構 久し振りだ。
前回の宮たちの誘いの時でもそうだったけど、人数合わせのオーディションに参加することを了承して以来、その研修及び事前説明とかで忙しいらしく、放課後はなんだかんだで時間が合わなかったりすぐ帰ってしまったりすることが多かった。
「でも、こうしてゆっくりするのもホント久しぶりだな。そうだ、よかったらどこかの喫茶店に入らないか。色々話したいこととかもあるし」
「あ、申し訳ありません。今日もこれから水原さんたちの所へ行かなくてはいけませんの」
「え? そうなのか」
「はい」
「そんなに忙しいのか?」
確か事前研修は全部で五回くらいだったはずだ。
一回目は初めて話し合いに行ったときに受けたから、残りの回数を考えると最大でも、三日に一回くらい行けば良いはずだ。
だけどセルニアはここのところほぼ毎日通っているような気がする。
するとセルニアは口元に指を当てて、
「それもあるのですが、他にも色々としておりますの」
「色々?」
「はい。以前に貴方がいらしたときにやったボイストレーニングやエチュードなどは続けてやっていますわ。ですが、それ以外にもスタジオとかで写真を撮影したり、歌を録音したり。
あ、それとレッスンをしているところをビデオカメラで撮影したりもしていますわね」
「撮影? 録音」
何だそれは?
「わたくしもよくは分からないのですが。
なんでも水原さんが言うには、形だけとはいっても一応オーディションに参加しますので、プレスに出す資料として、色々と写真とか映像とかはたくさん確保しておく必要があるそうですわ」
「……」
なんか、形式だけの事前研修にしては、やけに大仰だな。
ムダに本格的というか。
首をひねる俺に、
「その他にもやっていることがないわけではないのですが……」
「でも、大丈夫なのか? なんかそんなにハードスケジュールで」
元々そこまでの時間的拘束はないという話だったはずだ。
ただでさえ習い事とかで忙しいセルニアには結構厳しいんじゃないだろうか。
だけどセルニアは首を振って、
「あ、それは大丈夫ですわ。今のところお稽古とかにも影響は出ておりませんし、それにレッスンに行くのは楽しいですから」
「そうなのか?」
「はい。みなさん、いい人ですから」
まあ、セルニアがそう言うんなら俺がどうこう言うような事じゃない気がするけど、でもなんか気になる。
小魚の小骨が喉に引っ掛かってる気分というかなんというか……
笑顔のセルニアを前にしてなんと泣くスッキリしない心地でいると、
「あ、そうですわ。もしもお時間がありましたら、これから貴方も一緒にいらっしゃいませんこと」
「え?」
「レッスンにですわ。できればもう少しお話ししていたいですし、それにあなたが一緒にいてくだされば、色々と心強いですし。それにつばさ先生も貴方にとても会いたがっていましたから」
……あのオッサンか。
この上なく厳つい外見でありながら、中身は上永先生クリソツなレッスン講師の姿が頭に浮かぶ。
まあ、それはともかく、セルニアがそう言ってくれるなら一緒に行くのはやぶさかではない。
というか、単純に考えてもセルニアと一緒に居られる時間が増えるわけだし、むしろ俺としては歓迎だ。
「でも、いいのか?」
「はい。というよりも、むしろわたくしのほうからお願いしたいくらいで」
「そっか、わかった。それじゃあ、一緒に行かせて貰おうかな」
「はい」
セルニアが嬉しそうにうなずいて、二人で事務所へと向かったのだった。
まさに冬真っ盛りとも言えるウインターシーズン。
そんなある日の放課後。
俺は久し振りにセルニアと一緒に学園から帰り道を歩いていた。
「本当に、スーパー・ファミリー、シーズン2は面白いですわね」
「まったくだよな。まさかあの科白がミスリードになっていたとは」
「アパートの管理人さんが失踪して今週は終わってしまって。続きが待ち遠しいですわ」
並んで歩きながらの穏やかな会話。
それは普段なら普通の光景だけど、ここ最近に限ってみればこうしてセルニアとゆっくり話をするのは結構 久し振りだ。
前回の宮たちの誘いの時でもそうだったけど、人数合わせのオーディションに参加することを了承して以来、その研修及び事前説明とかで忙しいらしく、放課後はなんだかんだで時間が合わなかったりすぐ帰ってしまったりすることが多かった。
「でも、こうしてゆっくりするのもホント久しぶりだな。そうだ、よかったらどこかの喫茶店に入らないか。色々話したいこととかもあるし」
「あ、申し訳ありません。今日もこれから水原さんたちの所へ行かなくてはいけませんの」
「え? そうなのか」
「はい」
「そんなに忙しいのか?」
確か事前研修は全部で五回くらいだったはずだ。
一回目は初めて話し合いに行ったときに受けたから、残りの回数を考えると最大でも、三日に一回くらい行けば良いはずだ。
だけどセルニアはここのところほぼ毎日通っているような気がする。
するとセルニアは口元に指を当てて、
「それもあるのですが、他にも色々としておりますの」
「色々?」
「はい。以前に貴方がいらしたときにやったボイストレーニングやエチュードなどは続けてやっていますわ。ですが、それ以外にもスタジオとかで写真を撮影したり、歌を録音したり。
あ、それとレッスンをしているところをビデオカメラで撮影したりもしていますわね」
「撮影? 録音」
何だそれは?
「わたくしもよくは分からないのですが。
なんでも水原さんが言うには、形だけとはいっても一応オーディションに参加しますので、プレスに出す資料として、色々と写真とか映像とかはたくさん確保しておく必要があるそうですわ」
「……」
なんか、形式だけの事前研修にしては、やけに大仰だな。
ムダに本格的というか。
首をひねる俺に、
「その他にもやっていることがないわけではないのですが……」
「でも、大丈夫なのか? なんかそんなにハードスケジュールで」
元々そこまでの時間的拘束はないという話だったはずだ。
ただでさえ習い事とかで忙しいセルニアには結構厳しいんじゃないだろうか。
だけどセルニアは首を振って、
「あ、それは大丈夫ですわ。今のところお稽古とかにも影響は出ておりませんし、それにレッスンに行くのは楽しいですから」
「そうなのか?」
「はい。みなさん、いい人ですから」
まあ、セルニアがそう言うんなら俺がどうこう言うような事じゃない気がするけど、でもなんか気になる。
小魚の小骨が喉に引っ掛かってる気分というかなんというか……
笑顔のセルニアを前にしてなんと泣くスッキリしない心地でいると、
「あ、そうですわ。もしもお時間がありましたら、これから貴方も一緒にいらっしゃいませんこと」
「え?」
「レッスンにですわ。できればもう少しお話ししていたいですし、それにあなたが一緒にいてくだされば、色々と心強いですし。それにつばさ先生も貴方にとても会いたがっていましたから」
……あのオッサンか。
この上なく厳つい外見でありながら、中身は上永先生クリソツなレッスン講師の姿が頭に浮かぶ。
まあ、それはともかく、セルニアがそう言ってくれるなら一緒に行くのはやぶさかではない。
というか、単純に考えてもセルニアと一緒に居られる時間が増えるわけだし、むしろ俺としては歓迎だ。
「でも、いいのか?」
「はい。というよりも、むしろわたくしのほうからお願いしたいくらいで」
「そっか、わかった。それじゃあ、一緒に行かせて貰おうかな」
「はい」
セルニアが嬉しそうにうなずいて、二人で事務所へと向かったのだった。
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