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164・スーパー戦隊
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放課後。
「それじゃあ、セルニア、なんか俺だけ遊びに行くってのも悪い気がするけど、研修がんばってな」
「いえ、私のことは気になさらず、貴方はカラオケを楽しんできてください」
微笑みながら手を振るセルニアに見送られ、俺は教室を出た。
微妙に気が引けるけど、セルニアも気にするなと言ったのだから、あんまり気を使いすぎるのも逆によくないだろう。
だから、その辺は気にしすぎずにカラオケへ。
オーディションが終わったら、セルニアをカラオケに連れて行こうと思いながら。
そして俺は一人でカラオケ店へ向かった。
みんな、カラオケの前に小用があるそうだ。
眞鳥さんは部活関係で、宮はピアノの楽譜の買い物。
三バカトリオはわからんが、まあなにか用があるそうだ。
とりあえず、カラオケ店の前で集合だとのことで、俺は松陽商店街へ。
腕時計を見ると、集合時間を五分ほど過ぎていた。
みんな待ちきれないタイプだから、もう始めているかもしれないな。
予約した部屋は303号室。
エレベーターで三階に上がり、通路を進み、二十歩ほど歩くと、そこが部屋。
扉の向こうでは、すでに眞鳥さんや三バカトリオの宴が繰り広げられていると思ったが、
「あれ? 宮だけか?」
「あれ? きみだけ?」
部屋の中にいたのは、フロートが浮かんだメロンソーダを突っついている、宮だけだった。
眞鳥さんや三バカトリオの姿はない。
「他のみんなは来てないのか? なんでだろ?」
「うん、みんな楽しみにしてたのに。あれ、ちょっと待って」
宮がスマホを取り出した。
「凪からメッセージが来てる。えっと、部活の用事が長引きました。ちょっとだけ遅れます、だって」
「まあ、それなら仕方がないな。あれ、俺のスマホからも」
着信音が鳴っていた。
海翔からだ。
出てみると、
「ああ、ちょっとトラブル発生。五十嵐くんが、近所の小学生のドロップキックを喰らって、その弾みでギターを川に落として、今それを追ってるところ。少し遅れるから」
「いや、待て。なんで五十嵐が近所の小学生にドロップキックをかまされるんだ?」
「高畑くんの仲間で超能力者だと思われて、ロリコン超能力者をやっつけろとかって。高畑くんは、超能力でバリヤを張ってたから平気だったんだけど」
「で、なんでお前は無事なんだ」
「可愛いから悪い超能力者に捕まったって思ったとかって。可愛いお兄さんを助けるんだーとか、スーパー戦隊もののノリで」
「……そうか。まあ、頑張ってくれ」
俺は電話を切った。
宮は、
「他の三人も遅れるの?」
「そうみたいだ」
すると宮は、なにやら腕を組みながら口元に手を当てて、なにかを考え込み始めた。
「どうしたんだ?」
「え? あ、何でもないよ。ちょっと考え事をしていただけで。
大したことじゃないから、気にしないで」
よく分からないけど、気にすることではないらしい。
「じゃあ、眞鳥さんたちは遅れるみたいだし、俺達だけで先に始めとくか。時間制限もあるんだし、せっかくカラオケに来てるんだから、歌わないともったいない」
「うん、そうだね。やっちゃおうか」
椎名もうなずいて、とりあえずふたりでカラオケを始めることにした。
適当に話をしながら、マイクの準備をしたりする。
「そういえば、きみのカラオケに来るのって初めてだよね」
「言われてみればそうだな。音楽の話とかしてたから、なんか意外な感じするけど。クラスの連中とは行くけど、宮とは初めてだ」
「ねえ、きみは普段どんな歌を歌うの?」
「デスメタ」
「……今、なんて?」
「デスメタルだ。カラオケは日頃のストレス発散の為にやってるから、思いっ切り絶叫したい」
「そうなんだ。意外なチョイスだね。じゃあ、エンジェル・プリンスとかは」
「いや、あれって優しい歌だけど、意外と難しいから。音域といい歌い方といい、素人にはマネできない」
その点、天園みらいはスゴいと思う。
俺達とは歳はそう変わらないはずなのに、あれらの曲を完璧に歌いこなせる歌唱力と技術力。
中身とか人間性については問わない方向で。
「じゃあ、あたしが歌っちゃう」
「おお、歌えるんだ」
「けっこう得意だよ」
「そうなんだ」
「うん。あ、でもただ歌うんじゃ面白くないって気もするなー。せっかくだしなにか……そうだ、どうせだったら採点勝負しない」
「勝負?」
「そ。ほら、この機種って採点機能が付いてるでしょ。それでどっちが高得点を取れるか勝負するの。五本勝負で。勝った方が負けた方に一つだけ命令できる」
「こういったカラオケじゃ定番だな。分かった、良いぞ。面白そうだ」
「でしょ でしょ。きみならそう言ってくれると思った。じゃ、決まりね」
嬉しそうにそういって、
「じゃあ、まずはあたしから歌うね。んー、どれからいこっかなー。これもいいし こっちも気になるし。よし、まずは、恋するゼリービーンズ!」
端末で曲を送信した。
流れ出すノリのいい賑やかなビート。
それに合わせて宮が軽い振り付きで歌い始める。
そんな感じで始まった歌勝負は……
「よーし、九十一点!」
「くそぉ、八十二点か」
「やった九十六点だよ!」
「七十五点」
「うん、九十三点」
「七十八点……」
結果は、
「やった! あたしの勝ち!」
「負けたー」
途中経過を見ても予想通り、一勝四敗だった。
「えへへー」
見事に惨敗。
俺も悪くない方だと思うけど、宮は遙かに上だった。
どれも聞いているこっちが感心するような声量と歌唱力で、得点にしてみても九十点以下が一つも無い。
「ふっふっふっー。さーて、敗者のきみには何をしてもらおうかな-」
そこはかとなく小悪魔な微笑。
「お手柔らかに」
「えー、どうしよっかなー」
そこはかとなく不安になる笑みで、
「よーし決めた! それじゃあねー……」
宮の目が楽しげに光った。
「それじゃあ、セルニア、なんか俺だけ遊びに行くってのも悪い気がするけど、研修がんばってな」
「いえ、私のことは気になさらず、貴方はカラオケを楽しんできてください」
微笑みながら手を振るセルニアに見送られ、俺は教室を出た。
微妙に気が引けるけど、セルニアも気にするなと言ったのだから、あんまり気を使いすぎるのも逆によくないだろう。
だから、その辺は気にしすぎずにカラオケへ。
オーディションが終わったら、セルニアをカラオケに連れて行こうと思いながら。
そして俺は一人でカラオケ店へ向かった。
みんな、カラオケの前に小用があるそうだ。
眞鳥さんは部活関係で、宮はピアノの楽譜の買い物。
三バカトリオはわからんが、まあなにか用があるそうだ。
とりあえず、カラオケ店の前で集合だとのことで、俺は松陽商店街へ。
腕時計を見ると、集合時間を五分ほど過ぎていた。
みんな待ちきれないタイプだから、もう始めているかもしれないな。
予約した部屋は303号室。
エレベーターで三階に上がり、通路を進み、二十歩ほど歩くと、そこが部屋。
扉の向こうでは、すでに眞鳥さんや三バカトリオの宴が繰り広げられていると思ったが、
「あれ? 宮だけか?」
「あれ? きみだけ?」
部屋の中にいたのは、フロートが浮かんだメロンソーダを突っついている、宮だけだった。
眞鳥さんや三バカトリオの姿はない。
「他のみんなは来てないのか? なんでだろ?」
「うん、みんな楽しみにしてたのに。あれ、ちょっと待って」
宮がスマホを取り出した。
「凪からメッセージが来てる。えっと、部活の用事が長引きました。ちょっとだけ遅れます、だって」
「まあ、それなら仕方がないな。あれ、俺のスマホからも」
着信音が鳴っていた。
海翔からだ。
出てみると、
「ああ、ちょっとトラブル発生。五十嵐くんが、近所の小学生のドロップキックを喰らって、その弾みでギターを川に落として、今それを追ってるところ。少し遅れるから」
「いや、待て。なんで五十嵐が近所の小学生にドロップキックをかまされるんだ?」
「高畑くんの仲間で超能力者だと思われて、ロリコン超能力者をやっつけろとかって。高畑くんは、超能力でバリヤを張ってたから平気だったんだけど」
「で、なんでお前は無事なんだ」
「可愛いから悪い超能力者に捕まったって思ったとかって。可愛いお兄さんを助けるんだーとか、スーパー戦隊もののノリで」
「……そうか。まあ、頑張ってくれ」
俺は電話を切った。
宮は、
「他の三人も遅れるの?」
「そうみたいだ」
すると宮は、なにやら腕を組みながら口元に手を当てて、なにかを考え込み始めた。
「どうしたんだ?」
「え? あ、何でもないよ。ちょっと考え事をしていただけで。
大したことじゃないから、気にしないで」
よく分からないけど、気にすることではないらしい。
「じゃあ、眞鳥さんたちは遅れるみたいだし、俺達だけで先に始めとくか。時間制限もあるんだし、せっかくカラオケに来てるんだから、歌わないともったいない」
「うん、そうだね。やっちゃおうか」
椎名もうなずいて、とりあえずふたりでカラオケを始めることにした。
適当に話をしながら、マイクの準備をしたりする。
「そういえば、きみのカラオケに来るのって初めてだよね」
「言われてみればそうだな。音楽の話とかしてたから、なんか意外な感じするけど。クラスの連中とは行くけど、宮とは初めてだ」
「ねえ、きみは普段どんな歌を歌うの?」
「デスメタ」
「……今、なんて?」
「デスメタルだ。カラオケは日頃のストレス発散の為にやってるから、思いっ切り絶叫したい」
「そうなんだ。意外なチョイスだね。じゃあ、エンジェル・プリンスとかは」
「いや、あれって優しい歌だけど、意外と難しいから。音域といい歌い方といい、素人にはマネできない」
その点、天園みらいはスゴいと思う。
俺達とは歳はそう変わらないはずなのに、あれらの曲を完璧に歌いこなせる歌唱力と技術力。
中身とか人間性については問わない方向で。
「じゃあ、あたしが歌っちゃう」
「おお、歌えるんだ」
「けっこう得意だよ」
「そうなんだ」
「うん。あ、でもただ歌うんじゃ面白くないって気もするなー。せっかくだしなにか……そうだ、どうせだったら採点勝負しない」
「勝負?」
「そ。ほら、この機種って採点機能が付いてるでしょ。それでどっちが高得点を取れるか勝負するの。五本勝負で。勝った方が負けた方に一つだけ命令できる」
「こういったカラオケじゃ定番だな。分かった、良いぞ。面白そうだ」
「でしょ でしょ。きみならそう言ってくれると思った。じゃ、決まりね」
嬉しそうにそういって、
「じゃあ、まずはあたしから歌うね。んー、どれからいこっかなー。これもいいし こっちも気になるし。よし、まずは、恋するゼリービーンズ!」
端末で曲を送信した。
流れ出すノリのいい賑やかなビート。
それに合わせて宮が軽い振り付きで歌い始める。
そんな感じで始まった歌勝負は……
「よーし、九十一点!」
「くそぉ、八十二点か」
「やった九十六点だよ!」
「七十五点」
「うん、九十三点」
「七十八点……」
結果は、
「やった! あたしの勝ち!」
「負けたー」
途中経過を見ても予想通り、一勝四敗だった。
「えへへー」
見事に惨敗。
俺も悪くない方だと思うけど、宮は遙かに上だった。
どれも聞いているこっちが感心するような声量と歌唱力で、得点にしてみても九十点以下が一つも無い。
「ふっふっふっー。さーて、敗者のきみには何をしてもらおうかな-」
そこはかとなく小悪魔な微笑。
「お手柔らかに」
「えー、どうしよっかなー」
そこはかとなく不安になる笑みで、
「よーし決めた! それじゃあねー……」
宮の目が楽しげに光った。
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