悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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138・執事&メイド万歳

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「ぼべら!」
 路上のゴミが強風で吹っ飛んだかのようなサンダーヒルに、猪鹿蝶 晶さんは告げる。
「手加減はしやしたので、命に別状はありやせん」
 続けて伊藤 春樹さんが告げる。
「しかし、その痛みは当然の報いでやす」
 サンダーヒルはよろよろと立ち上がりながら、
「お、お前ら、いくら吉祥院家の従者だからって、このボクにこんなことをしてタダですむと思うなよ。
 み、見てろ。パパに頼んでお前ら全員人生めちゃくちゃにしてやる」
 そこに、ぼろ雑巾状態のサンダーヒルに、スマホが差し出された。
「あん? なんだ?」
 スマホを差し出したのは、パーティーの最初に司会をしていた、鹿王家のメイドさんだった。
「こちらをどうぞ、ジェイコブさま」
「は? なんだよ、ボクは別に電話をもってこいなんて言ってないだろ」
「お父さまと繋がっております」
「パ、パパに!?」
 ジェイコブの表情が一変して明るくなる。
「なんだよ、それを早く言えよ。いいところに来たじゃないか。か、貸せっ!」
 ひったくるようにスマホをふんだくって耳に当てると、
「あ、パパ、あのねあのね、こいつらね」
「ジェイコブ! この大バカ者が!!」
 物凄い大声が響き渡った。
「話は聞いたぞ! お前という奴は本当に! まさかあの由緒正しい親睦会でこんな騒ぎを起こすとは!
 なにかあった場合は、すぐに私に連絡を入れて貰うよう、念のため鹿王家の従者がたに連絡しておいて正解だったわ。
 あの吉祥院家での失態から半年、心を入れ替えたのなら、執事修行も終わりにしてやろうと思っていたが、まったくその兆候はないようだな」
「ええ!? で、でも、これは……」
「黙れ! 言い訳は後で聞いてやる!
 それより、鹿王家の従者がたと、吉祥院家の従者がた」
 受話器からの声がこちらに向けられる。
「うちのバカ息子が迷惑をおかけした。本当にすまない。正式な謝罪は、後日 私自身で改めてさせていただく。
 ジェイコブの奴はそちらで厳重に処罰していただいて構わない。サンダーヒル家の者とは思わず、どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてくれて結構。
 それではこれにて失礼させていただく」
 そう言って電話は切れた。
「パ、パパァ、しょんにゃぁ……」
 情けない声を出して、茫然自失となるジェイコブ・サンダーヒル。
 だけど、全部自業自得もいいところだ。


 ジェイコブ・サンダーヒルは抜け殻になり、取り巻きに連れられて退出。
 俺はそれを確認すると、
「沙由理さん、大丈夫ですか?」
 沙由理さんが立つのを手伝う。
「本当に災難でしたね。せっかくの景品もこんなにされてしまって」
 沙由理さんの腕の中に抱えられたモンスターフロッグXは、その形が今もベッコリとへこんだままだった。
「まったく、あいつ、ひどいことする。ましてや沙由理さんを廃棄処分だなんて。
 あ、そうだ」
 俺はふと思いついた。
「親睦会の主催も事情は知ってるんですし、新しいのに変えて貰うのはどうでしょう? 一個くらい景品の予備とかがあるかもしれません」
 そう提案したところ、沙由理さんは首を振った。
「いえ、変えていただく必要はありません」
「どうしてですか? 聞くだけ聞いてみれば……」
「これがいいんです」
「え?」
「私はこれがいいんです。若さまにいただいたこれが大切なのです。
 機械にすぎない私のことで、真剣に怒っていただいた、これを大切にしたいのです」
「そ、そうですか」
 よくわからないが、とにかく沙由理さんは交換の必要はないとのこと。


 猪鹿蝶 晶が、鋭い真剣な眼差しで居住まいを正して俺に言う。
「若、先程はありがとうございやした」
 続けて伊藤 春樹さんも、
「若には真に感謝の念に絶えやせん」
 俺は首を傾げる。
「えっと、なんの話でしょう?」
「先程の若のお言葉です。アッシらのことを、若がどう考えておられたかをお聞きすることが出来ました。若の飾らない気持ち、心に響きやした」
「本当に嬉しい気持ちで一杯でやす。若がアタシらのことを想って言って下さったそのお言葉。
 それがアタシらにとってなによりの労いでやす」
「そ、そうですか」
 俺は当然のことを言ったまでで、むしろサンダーヒルがおかしいのだと思うのだが。
 しかし、二人はおれに感謝しているのだから、わざわざ指摘する必要はないだろう。
 沙由理さんも感謝の表情で、
「若さまが、私たちをどう想われているかを、確認することが出来ました。この言葉を励みに、全身全霊で若さまにお仕えさせていただきます。
 私も若さまのことを大事に想っていますよ」


 パチパチパチパチ……
 それを見ていた周りのメイドさんと執事さんたちの誰かが小さく手を打ち鳴らし始めた。
 パチパチ……
 パチパチパチパチパチパチ……
 パチパチパチパチ……
 最初はまばらだったそれは、連動するかのように、一つ、また一つと増えていき、


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……


 最後には拍手の大合唱となった。
「いいですなぁ」
「これぞ、主と従者のあるべき姿です」
「執事&メイド万歳!」
 歓声がホール一杯に響き渡る。
「えーと?」
 予想外の大きな反応に呆然とするしかない俺。
「若さま、大人気ですね」
 そう言いながら沙由理さんは、そして晶さんと春樹さんも微笑む。
 割れんばかりの拍手を浴びながら、俺はどうすればいいのかわからずに、その場で立ち尽くしていた。
 これ、どうすればいいの?
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