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135・対極に
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ステージではビンゴ大会は終わり、現在は引き続き隠し芸大会が行われることになった。
隠し芸。
ブラック企業などでは裸踊りとかさせられたりするのだが、由緒正しいこの集まりでそんなことを強要するヤツなどいない。
各々の家のメイドさんや執事さんが代表として出場し、それぞれの得意分野や特技を披露する。
現在は舞が踊られていた。
「はい、ありがとうございました。ただいまの演目は、藤原家のメイド、舞浜さんによる物でした。
次は塔ヶ崎家執事の坂上さんによる演目です。皆様、期待してご覧になってください」
ステージ上で繰り広げられる、華やかな演目の数々。
その全てがこの上なく目を惹く物で、様々なパフォーマンスが目白押しだった。
日本舞踊に、ソロギターでブルース。
居合いで藁巻きを切断し、しかもそのまま落下しないという達人技を見せたり、素手で瓦を二十枚も割ったりする。
誰もが一流名家に仕えているだけ合って、その全てが一流だった。
これは隠し芸を超えて一種のエンターテイメントとして確立できるのでなかろうか。
「では次に、吉祥院家メイド、猪鹿蝶 晶さんによる演目です。お願いします」
あ、晶さんだ。
吉祥院家からは晶さんが出場するのか。
一体なにをやるんだろう。
木刀でだるま落としとか、そんな感じの木刀アクションを見せるのだろうか。
しかし、その予想は見事なまでに外れる。
屏風で区分けされたステージ袖から現れた晶さん。
その身にまとわれていたのは、吉祥院家のメイド服ではなく、色鮮やかな着物だった。
手には琴を持っていた。
琴の中に武器を仕込んでいたりはしなかった。
ステージ中央までやって来た晶さんは、客席に向かって一礼すると、琴を静かに床に置いた。
そして弦に演奏用の爪を付けた指を乗せ始めた。
流れ出す澄み切った音色。
どこかで聞いた覚えのある耳に懐かしい旋律だった。
春の海。
小学校の音楽の時間に一度は聞かされる定番曲。
だが今聞こえてくるその音色は、その時聞いたものとは全く異なる柔らかで温かい音質だった。
曲が終わり、晶さんは再び一礼するとステージから退く。
そして次の演目が始まった。
俺は思わず呟いた。
「驚いた。晶さん、こんな特技があったのか」
沙由理さんが説明してくれた。
「お琴は猪鹿蝶 晶さんの得意分野なのです。プロ級の腕前で、数ある特技の中でも最も得意な物と聞いております。
物心ついた頃から習っていたそうで、中学校の時には全国大会で賞を取ったこともあるそうです。神童と呼ばれていたそうですよ」
「正直、以外です」
あの夜路死苦な青春を送っていた晶さんに、お琴や着物といった和は、対極に位置する印象を持っていた。
沙由理さんはさらに説明を続ける。
「実は晶さんのお母様は、京都の旅館の女将をしております。そして晶さんを跡継ぎにするつもりのようです」
「旅館の女将の跡継ぎ?」
「京都では誰でも知っているような伝統ある老舗旅館です。もともとは、そこの女将になるための英才教育を受けてきたと言っていました。琴や着物の着付けなどもその一環であるとのことで」
「じゃあ、晶さん、いつかは京都の旅館を継ぐことになるんですか?」
「さあ、そこまでは存じません」
晶さんの意外な謎が明らかになり、そして新たな謎が出てきたのだった。
隠し芸。
ブラック企業などでは裸踊りとかさせられたりするのだが、由緒正しいこの集まりでそんなことを強要するヤツなどいない。
各々の家のメイドさんや執事さんが代表として出場し、それぞれの得意分野や特技を披露する。
現在は舞が踊られていた。
「はい、ありがとうございました。ただいまの演目は、藤原家のメイド、舞浜さんによる物でした。
次は塔ヶ崎家執事の坂上さんによる演目です。皆様、期待してご覧になってください」
ステージ上で繰り広げられる、華やかな演目の数々。
その全てがこの上なく目を惹く物で、様々なパフォーマンスが目白押しだった。
日本舞踊に、ソロギターでブルース。
居合いで藁巻きを切断し、しかもそのまま落下しないという達人技を見せたり、素手で瓦を二十枚も割ったりする。
誰もが一流名家に仕えているだけ合って、その全てが一流だった。
これは隠し芸を超えて一種のエンターテイメントとして確立できるのでなかろうか。
「では次に、吉祥院家メイド、猪鹿蝶 晶さんによる演目です。お願いします」
あ、晶さんだ。
吉祥院家からは晶さんが出場するのか。
一体なにをやるんだろう。
木刀でだるま落としとか、そんな感じの木刀アクションを見せるのだろうか。
しかし、その予想は見事なまでに外れる。
屏風で区分けされたステージ袖から現れた晶さん。
その身にまとわれていたのは、吉祥院家のメイド服ではなく、色鮮やかな着物だった。
手には琴を持っていた。
琴の中に武器を仕込んでいたりはしなかった。
ステージ中央までやって来た晶さんは、客席に向かって一礼すると、琴を静かに床に置いた。
そして弦に演奏用の爪を付けた指を乗せ始めた。
流れ出す澄み切った音色。
どこかで聞いた覚えのある耳に懐かしい旋律だった。
春の海。
小学校の音楽の時間に一度は聞かされる定番曲。
だが今聞こえてくるその音色は、その時聞いたものとは全く異なる柔らかで温かい音質だった。
曲が終わり、晶さんは再び一礼するとステージから退く。
そして次の演目が始まった。
俺は思わず呟いた。
「驚いた。晶さん、こんな特技があったのか」
沙由理さんが説明してくれた。
「お琴は猪鹿蝶 晶さんの得意分野なのです。プロ級の腕前で、数ある特技の中でも最も得意な物と聞いております。
物心ついた頃から習っていたそうで、中学校の時には全国大会で賞を取ったこともあるそうです。神童と呼ばれていたそうですよ」
「正直、以外です」
あの夜路死苦な青春を送っていた晶さんに、お琴や着物といった和は、対極に位置する印象を持っていた。
沙由理さんはさらに説明を続ける。
「実は晶さんのお母様は、京都の旅館の女将をしております。そして晶さんを跡継ぎにするつもりのようです」
「旅館の女将の跡継ぎ?」
「京都では誰でも知っているような伝統ある老舗旅館です。もともとは、そこの女将になるための英才教育を受けてきたと言っていました。琴や着物の着付けなどもその一環であるとのことで」
「じゃあ、晶さん、いつかは京都の旅館を継ぐことになるんですか?」
「さあ、そこまでは存じません」
晶さんの意外な謎が明らかになり、そして新たな謎が出てきたのだった。
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