悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

文字の大きさ
上 下
128 / 168

128・運命

しおりを挟む
 そして日曜日。
 俺は松陽駅に向かって歩いていた。
 空は雲一つない快晴。
 気温は低めだが、それでも平年並み。
 絶好のお出かけ日和。
 俺は浮かれる気持ちを抑えて、早足に駅へ向かっていた。
 セルニアとの純粋なデートは初めて。
 なんだか落ち着かない。
 デートだ。
 アレだろうか。
 やはり手を繋いで歩くべきか。
 それは恋人つなぎにするべきか。
 落ち着け。
 今までの勉強を思い出すんだ。
 恋愛指南書。
 デート必勝法。
 青春白書。
 こういう日に備えて勉強してきたではないか。
 それを踏まえた上でデートをすれば間違いない。
 ……今 誰かマニュアル人間って言った気がする。


 そして駅に到着すると、
「あ、セルニア」
 もうセルニアは待っていた。
「ごきげんよう」
「早いな」
「その、今朝はなんだか早く目が覚めてしまって。それで仕度とかして時間を潰したのですが、結局それもすぐに終わってしまって。それで少し早かったのですが、家を出たのですわ」
「俺も似たような感じだ」
「気が合いましたわね」
 はにかんだように笑いかけてくるセルニア。
 物凄まじく可愛い。
 しかし、そこには大人びた雰囲気を醸し出してもいた。
 俺は ぼーっと見取れていると、セルニアが恥ずかしそうにもじもじし始めた。
 しまった。
 今の俺の視線はセクハラになっていたか。
「ご、ごめん。変な眼で見てしまった。ただ、今日のセルニアはいつもより素敵だと思っただけで」
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですわ。
 あなたも、今日は普段より、その、格好いいですわ」
 そのまま二人で沈黙して見つめ合う。
 やがて、
「じゃあ 予定より早いけど行くか」
「そうですわね。行きましょう」


 そしてアミューズメントパークの入り口。
「あら、偶然ですね、吉祥院さん」
 後ろから声を掛けられ、振り返るとそこには、キャリアウーマン水原 睦月さん。
「お久しぶりです。まさか こんな所で出会えるなんて」
「え? 水原さん」
「一日パスポート利用してくれたんですね。ありがとうございます」
「こちらこそ、感謝いたしますわ」
「お気になさらず。そういったなにかとプッシュに役立ちそうな、ギフトは事務所にたくさんありますから」
 そして水原さんは俺に眼を向けて、
「そちらの男の子は、大晦日の日に吉祥院さんと一緒にいたかたですね。改めまして、水原 睦月です」
「あ、どうも」
 俺も名乗ると、セルニアが、
「それで、どうして水原さんがここにおられるのですか?」
 当然の理由だった。
 パスポートをプレゼントしてくれたというだけで、わざわざ利用したかどうかを確認しに来るはずがない。
 まさか、あれだろうか。
 仕事のできるキャリアウーマンは、ストレス発散に一人でこういった所に来て、絶叫マシンを堪能するというヤツだろうか。
「それはですね、今日はこのアミューズメントパークで開催されるイベントに、うちの事務所が参加することになりまして。その手伝いに」
 俺は納得した。
「ああ、なるほど。そのイベントの集客の一環で、セルニアにパスポートをプレゼントしたと」
「そ、そうそう。そうなんです。吉祥院さんが来るのを狙って待っていたわけではないんですよ」
「色々忙しくて大変なんですね」
「そうなんですよ。そんなわけでして、よければそのイベントに来てください」
 セルニアは、一応承諾した。
「わかりましたわ。ぜひ見に行きます」
「おお! ありがとうございます。こちらとしても嬉しい限りです」
 本当に嬉しそうな水原さん。
「では これ、イベントのチラシです。これに場所と時間が書いてありますから。お待ちしています」
 そして水原さんは去って行った。
 さて、では俺達も行くとしよう。


 こうして俺達はアミューズメントパークに入った。


 俺達がアミューズメントパークに入ってから、水原さんは独り言を言った。
「彼女はこういったことに興味はないし、家も厳格だから、じっくり時間を掛けて説得しないと。
 これほどの逸材、逃す手はないわ」


 俺達は入場し、入り口付近の案内を見る。
「まあ まあ、ジェットコースターにメリーゴーランド。お化け屋敷にコーヒーカップ。
 一通りのアトラクションが揃っていますわね」
「遊園地なんて小学生以来だ。なんか童心に返るな」
 俺達は心を躍らせていた。
「それじゃ、いつまでも見てるだけなのもアレだし、ぐるっと回っていって見るか」
「そうですわね。どれから行きましょう」
「無難に、コーヒーカップ、メリーゴーランド辺りから始めるか。
 それとも、ゴーカート、ジェットコースターの絶叫コースとか。
 もしくは、お化け屋敷のホラーハウスで真冬の恐怖体験で行くとか」
「そうですわねぇ、どれも魅力的ですわ」
「以外と普通のデートって決めるのが難しいな。
 湖瑠璃ちゃんなら、フィーリングで女を率先する物です、とか言いそうだけど」
 そこで、俺は湖瑠璃ちゃんたちのことを思い当たり、周囲を見渡した。
 見たところ、怪しい人影や着ぐるみはいない。
 カメラのレンズの反射光などもなし。
 いつもなら湖瑠璃ちゃんたちが、見学しに来るのだが……
「どうされました?」
 セルニアが怪訝に首を傾げると、


 ジャジャジャジャーン!


 俺のスマホの電話が鳴った。
「あの、ベートーベンの運命がなっていますわ」
「湖瑠璃ちゃんからだ。少し待っていてくれ」
 俺はなんとも言えない気分で出ると、
「お元気ですか、お兄さま。今日は決戦の日ですね。ちゃんとお姉さまとイチャラブデートを満喫していますか」
 俺は電話を切った。
「じゃあ、セルニア。行こうか」


 ジャジャジャジャーン!


 また電話が鳴った。
「もう少しだけ待っていてくれ」
「はい、そうします」
「お兄さま、どうして切るのですか? 将来の可愛い妹からのお電話なのに」
「いや、全身全霊 嫌な予感がしたから。それで、どこから盗撮してるの?」
「してませんよ。私たちは今 四国にいますから」
「四国? なんでまたそんな所に」
「ちょっと衝動的にお遍路巡りをしたくなりまして。なので、今回はお兄さまたちのことを見学はしませんよ。二人の冬なのに春真っ盛りな思い出を、4K画質で録画することもありませんから。安心してくださいな」
「わかった。じゃあ、湖瑠璃ちゃん、お遍路巡りのお土産楽しみにしてる」
「それで、お姉さまとのデートはどんな感じなのですか? 現在進行形でラブラブ中ですか? それとももう大人の階段を上がっているところですか? いやーん、素敵ですー」
「いや、普通。っていうか、今、入り口の案内見て、どんな感じで回ろうか話してただけ」
「えー、まだそんなことしてたんですか。これは あれですね。どうすればいいのか分からず微妙に困っていると。
 アトラクションを回る順番で迷っているようでは、お姉さまに どう接すれば良いのかも困っているのではありませんか」
「ぬう……言い返せない」
「もう、お兄さまって肝心なところで へたれますね。もっとも、それは湖瑠璃の予想通り。ですので、少し助けてあげることにしました」
「助け?」
「はい。デートをする上で、素敵なポイントをピックアップした、完璧なガイドを先ほどメールで送りました。これを見れば、お兄さまとお姉さまの距離は一気に近づくという寸法です」
 見れば、画面には受信メールの表示。
「では 頑張ってイチャラブデートを楽しんでください。
 歩いている途中で腰や肩に手を回したり、アイスクリームを食べているときにお互いに交換して間接キスしたり、夜景を眺めながら、「君の瞳の方が綺麗だよ」とか言っちゃったり。
 そして、二人はそのまま寄り添うように夜の街へと。いやぁーん、アダルティですー」
 なんか、上永先生の影響を受けちゃってるなぁ。
「では、お兄さま。とにかくそういうことで頑張ってくださいな。素敵な報告を期待していますよ。
 では、これにて失礼」
 そういって電話は切れた。


 なにやら俺の気分は消力だった。
 セルニアのデートということで、色々考えたけど、なんか湖瑠璃ちゃんのおかげで、なにも考えない方が良いと思った。
 難しいことは考えずに、いつも通りの俺で良いんだ。
 セルニアが、
「えっと、セシリアはなんと?」
「ああ、大したことじゃない。今 四国でお遍路巡りをしてるっていう話をしてただけで。だから湖瑠璃ちゃんたちのことは気にする必要はないんだ」
「そうですか」
「じゃ、もう行こう。今日は比較的 空いているみたいだし、順番なんて決めずに、面白そうな所に入っていくという、行き当たりばったりで良いと思う」
「そうですわね。考えすぎると、時間を無駄にしてしまいますわね」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

処理中です...